七十六戦目
案内されて部屋に入ってきた綾香は焦っていた。急いで来たのか息切れしている。何故かといえば・・・
「エムル、咲羅ちゃん、黒装束の恰好の人がこのうみたまごを包囲しているよ!!」
「嘘だろ?気配察知スキルに反応してなかった。」
その俺の疑問に咲羅は解答を持っていた。
「多分福岡の隠密部隊よ。気配遮断スキルを持ってる。罠探知、暗殺に特化した部隊。」
なるほど。だから反応しなかった訳だ。一波乱ありそうな予感。
「お前ら随分と楽しそうな事してるな。裏口から出て行くか?」
キイチはワクワクしているようだ。
「ありがとう。でもお前達大事か?攻め込まれたらやばいんじゃ・・・」
「俺たちの戦力を舐めるな。自分の心配してろ。」
寧々も真顔で呟いた。
「表の冒険者、頭隠して尻隠さず、間抜けすぎ。我が眷属からたくさんのクレームが届いてるわ。縄張り侵入してくるなって。アイツらは私達が掃除しておくから貴方達は先に行きなさい。」
寧々の声、初めて聞いたかも。か細い声だ。
「ありがとう。」
「福岡行くんでしょう?私の眷属は大分市内までしか飛ばせない。やばくなったら猿達を呼びなさい。ボディガードに」
「わかった。」
エレベーターに乗り、そのまま最下層へ。下水道のような地下通路を歩き進めると、数分で外へと繋がった。
鉄格子を手動で上げるとそこは海水浴場だった。
「負けんじゃねぇぞ。」
キイチはそう言った。
「お前もな。」
「何言ってんだよ。潜み切れてない隠密退治とか、こんなの作業ゲーより簡単だぞ。」
「そうだな。本当にありがとう。ばあちゃんを頼む。」
「早く行け!!」
海水浴場を出て、大通りに続く道路を歩く。
大分港まで続く道。
やはり網が張られていた。ゲームとかファンタジー小説にしか現れないような兜とか鉄の鎧とか槍とか持った冒険者達が山やら海やら隠れている。
上手く隠れているようだが気配察知スキルにガンガン引っかかってるし、スキルを持たない咲羅ですら看破していた。
その数総勢20人を超えた。鑑定眼で映るのは皆レベル200オーバーの強敵揃いだ。
咲羅は「うわっ嫌いな上司がいっぱい」と軽く引いていた。
そのままアイテム使って気配を消して通り抜けても良いが、そしたらどうなる?
きっとうみたま○を襲う。キイチ達の負担になるだろう。ならここで数を減らしておくのが筋だろう。
目線でエリシアとアルちゃんにアイコンタクトを取る。2人を同時に憑依した。
3人だけ顔を出して来た。後は伏兵のつもりか?
「お前らは何者だ?」
と俺は警戒して威嚇した。
「そこのスライムを渡して貰おう。」
「何故?」
「まだ退職届けを貰ってないものでな。」
「こんな姿にしておいてコンプライアンスもなにも無いんだな。」
「コンプライアンス?何を言ってる?モンスターによって崩壊した社会でまだそんな事言ってるの?人生そんな甘くねぇ。勝手にその姿になって姿を眩ませたんだろ?筋通せや。詫び入れろ。」
そう言って悪い笑顔を浮かべてる。これは絶対優位に思っている奴の顔だ。
咲羅も綾香も前に出ようとしている。俺は綾香の腕を軽く引っ張り止め、咲羅には「ここは任せろ」と軽く耳打ちした。
「勝手にって・・・何が悲しくてスライムになりたがる女子がいるんだよ!お前らのせいだろ。」
「おいおい。被害者面か?損害被ってるのは会社側なんだけどな。それに、社外秘持ち去ったこいつの捜査にどれだけの人件費掛かってると思ってる?纏めてこいつに付けとくって社長が言ってたぞ。」
「酷いな。」
「抵抗するな。降参しろ。お前らに勝ち目なんてないのだからな。」
敵は剣を抜いた。それが合図となる。
アイテムボックスで山火事を。山に潜んでいた伏兵が一瞬にして火だるまに。
更にエリシアの精霊魔法で津波を起こす。これで海に潜んでいた伏兵が荒波に揉まれる。その津波の水位は高く、数秒後には俺たちどころか、山火事を包み込んでしまうほどの勢いだ。
それを一瞬でこなし、敵の斬撃を即席の錬金術で作った土の剣で受ける。
(身体能力強化行くわ)
エリシアの号令のもと、接近戦も準備万端。
二撃目にアルちゃんのスキル、ツインエッジを見舞った。
防がれたのだが、衝撃波ごと津波に向かってぶっ飛んでいく。そのまま津波に巻き込まれて反応はない。
「はぁ!?」
「はい!?」
残りの2人の敵も唖然としていた。
一瞬の出来事で伏兵全て消されて、今この瞬間に津波に呑まれそうになっているのだから。
ちなみにこの津波、エリシアの思いのままに操れる。
俺たちを中心に渦潮でも発生させるか。名付けるならアクアトルネードか?
「む、無理!!」
「お助けを!!」
敵は降参するのが遅かった。アクアトルネードの脅威に飲み込まれた。山火事を消化し、海へと帰っていく。
敵の気配は完全に消え失せた。
「エムルカッコいい。惚れ直しちゃうよ。」
腕にしがみついてくる綾香。あの、柔らかいものが当たってるのですが・・・
「今の得武兄の力!?この短期間に何があったの?『剣技、操り人形!』はどこ行った?そもそも魔法強すぎじゃない!?」
『剣技、操り人形』ってなんだよ!!模倣剣術を馬鹿にしすぎだろ。そう内心思いながら、力を貸してくれた存在の事も忘れない。
「エリシアとアルちゃんのおかげだよ。」
「にしてもだよ!!」
咲羅が俺の強さに嫉妬している。
「エムル、本当にどうしたの?別府で修行したの?」
綾香の吐息が耳に触れる。
「レベルが短期間でかなり上がってな、由布院でクラスチェンジした。」
「なるほど、どおりで。」
納得する綾香に対し、
「初級職から一つジョブが上がった程度でなんでこんなに強くなってるのよ。私、このスライムクラスチェンジ・・・じゃなかった進化してると思ってるのよ・・・。努力が悲しくなる。」
不満げな咲羅。
「まぁエムルだからいいんじゃない?」
「得武兄だからいいか。強い方が安心だし。」
綾香、ちょっとその纏め方は無理矢理じゃないか?
津波を起こしたからと言って、レベル200越えの奴らをそう簡単に倒せるとは思っていない。海に流されててはいるが、生きている。相当弱ってると思うが。
万が一追って来られた時に備えながら俺たちは競歩で進む。
案の定動きがある。俺たちを追って来ている。
大分港までの道のりは比較的にスムーズだった。
塔の前・・・というより大分港に不思議な光景を見た。
冬月先生、野崎先生、リノさん、五反さん・・・学校の皆が勢揃いだ。
「新子得武君、咲羅さん、本当に申し訳ございませんでした。私は迂闊にも勇者マーサに記憶を除かれてしまいました。私は職員として住所を、プライバシーを拝見する場面がありました、その記憶を抜き取られました。この失態はどう拭えば良いか分かりません。」
「先生は悪くないです。元々俺と咲羅とマーサ達の会社との関係ですし、こちらこそ巻き込んでしまいすみません。」
償いというのはおかしいですが、元々は貴方達も守る対象です。加勢します。」
「野崎先生、かつての仲間じゃないんですか?」
「仲間の記憶を勝手に覗く人を許す気にはなれません。マーサの言いなりなんかなりません!!私は私の信念を貫く!!上層部は欲に塗れてる。それを塗り替えたい。その気持ちは生徒達も同じです。」
そして、学校の生徒らに囲まれた。
「得武さん、綾香さん、私は2人の味方よ。大分川で会ったでしょう。その時なんで逃げるのよ。」
「リノちゃん、ごめんなさい。だって私達指名手配中でしょう?」
「馬鹿、捕まえるために追いかけた訳じゃ無いわよ!悲しくなっちゃった。」
「ごめんね。」
俺は冬月先生に声をかけられた。
「私達が責任を持ってあなた達を逃すわ。大分港に船がある。それに乗って、大阪に逃げるの。ご両親は今大阪でしょう?」
ここに来て、何故皆が勢揃いなのか意図がわかった。でもそれはありがたいけど今の俺たちには不要な事で・・・
「冬月先生、俺たちにはやる事があります。マーサと戦う!!福岡に行かせてください。」
「福岡ってまさか、ライラさんところ?」
「話合いをつけて来ます。」
「やめなさい。勝てないわよ。」
「俺、もう我慢出来ません。俺からどれだけの大切な人を奪うんですか?どうなるかわかりません。でも逃げても意味ない事は分かります。」
冬月先生は深く考える。そして頷いて。
「そう。わかったわ。進路を変更して・・・」
「船はありがたいのですが、大分港に塔があるでしょう?あれが奴らの福岡へのワープゾーンになってます。」
俺の言葉を険しい顔で見つめる。信用しない冬月先生だった。それを見て咲羅は補足する。
「そうなんです。私、福岡から逃げ帰ってくる時あの塔のワープ機能を使って帰って来ました。」
「それは所属していた時の話。ダンジョンマスターはライラさんであり勇者マーサでしょう。仲間に使わせてあげるワープゾーンであるけれど、敵に使わせてあげるとは思えないわ。」
「確かに。でも・・・」
俺にはその封印を解く術を知っている。そう言いかけて言葉は遮られた。
「ダンジョンマスターは好きにダンジョンをカスタマイズ出来るって聞いてるわ。私の鑑定眼にはあの塔の攻略難易度はダブルSランク。最高レベル500や600のボスが平気で出る難易度よ。どう?敵の本拠地の一つに少人数で突っ込む?」
言葉を失った・・・あまりにも圧倒的すぎる。今の装備じゃ無理だし流石に対策がいる。
それにダンジョンの中に入るという事は、俺たちの存在を知らせている事でもある。
今はダメだ。本能が告げている。
「冬月先生。ご配慮ありがとうございます。」
「まだ未成年なんだから、もっと大人を頼りなさい。」
「ところで、なんで俺たちがここに来るってわかったのですか?」
「マーサが野崎先生の記憶を盗んだ。マーサが咲羅さんを探している。大分川で貴方達を見た人がいる。ここまでピースが揃えば身内を心配して帰って来たのかなって想像がつくわ。なら網を張る場所は数か所に狭まるわ。家族と会ってその後どうするか。大分駅か大分港か。私はてっきりご両親のところに行くと思ったんだけどね。」
「それで船で大阪へと思ったんですね。チャリとか、走って福岡行くって想像はなかったのですか?」
「いや、何キロあると思ってるのよ。モンスターもうろついてるのに正気じゃないでしょ。」
俺の考えは正気じゃないらしい。
「半分本気だったんですけどね。」
「冗談言ってないで、せっかくの好意に甘えなさい。誰の所有物かと言われたら私達の物ではないのだけど。」
「えっ?盗品ですか?」
「いいえ。緑色の髪の毛の建築業の子らいるでしょう?」
「誰ですか?」
「チンピラ6人組の1人よ。」
「ああ。」
「案内するわ。」
そういい、冬月先生と共に歩き始めた。
船着場に到着すると、もうすでにチンピラ達が船に乗り込んでいた。
中型船と言っていいだろうか。人が50人ぐらい入れる広い空間かがある。
「兄貴!!姉御!!ご無沙汰で何よりです!!」
看板からヤンキー達が来た。腰に付けた武器、相当手入れして使ってくれてるのが見てとれる。
「お前ら、元気してたの?見ないうちに強そうな顔しちゃって。」
咲羅が嬉しそうに声をかける。
「姉御!姉御が喋った!!嘘だろ!!本当にスライムは姉御だったんだ!!」
「驚きすぎだ馬鹿!!」
「俺たち、レベルMAXになったんです!!装備のレベルもMAXで、もう誰にも負けません!!」
「それは頼もしいね。」
咲羅は半信半疑で笑うのであった。




