七十五戦目
俺たちはうみたま○に行く。敷地に入ると、受付嬢がお出迎え。
「私に逢いに来てくれたのかしら?」
相変わらず状態がキツい。咲羅が冗談について行けずに無言で剣を抜こうとしているではないか!!
「違う。ばあちゃんに会いにきた。咲羅は待て!!」
「あら、冗談に乗ってくれてもいいじゃない。こっちへどうぞ。」
従業員入り口に案内され、最短ルートでボス部屋へ。
その奥、医療用の個室がある。医療機器しか無い、白い部屋だった。
白い部屋には受付嬢は入らない。
「面会は少人数で。なので私は一緒しないわ。そこの魔族2人もご遠慮願います。」
「分かってるって。」
「野暮な事しないよ。」
俺は受付嬢にお礼を言う。
「案内ありがとう。」
「礼を言われる程じゃないわ。」
部屋の奥、いろんな管に繋がれたばあちゃんがいる。なんの表情もなく、ただ眠ったままだった。
「病状は過労です。」
ゾンビドクターと言ったら聞こえは悪いが、見た目は普通の看護師さんがばあちゃんに付き添っている。
俺はばあちゃんの隣に行く。アイテムボックスから回復薬を召喚、振りかけた。薬品が飛び散る。本来ならすぐ顔色が良くなるはずなのだが・・・
ゾンビドクターは3歩下がる。
・・・おかしい、まるで変化が見えないのだ。この回復薬には疲労回復の成分も含まれてる筈なのだ、本当ならすぐ目を覚ますのに・・・
「そ、そ、その!その薬品、こっちに掛けないで下さいね。溢すのも禁止、多分私死ぬ。」
ゾンビドクターの震える声。
いや、そんなにビビらなくてもいいだろうに。そう思っていたら「多分じゃない。掠っただけで確殺よ。」とエリシアは断言する。俺の手が少し震えたのは言うまでもない。
万能薬を試す。それでもダメだからマナポーションを試す。
見かねた咲羅からストップがかかる。
「得武兄、多分傷とか体力とか・・・そんな所のダメージじゃないと思う。もう辞めてあげて。」
・・・辞めてってなんだ?ばあちゃんの復活を諦めろと?
ゾンビドクターが俺の表情から何かを察し、ばあちゃん服をめくる。傷跡を見せながら説明してくれた。
「得武さん見てください。この傷跡から見ても、何度も死ぬほどのダメージを負い、回復した可能性があります。その為精神的なダメージも大きく。目を覚ましません。」
「ばあちゃん。」
ばあちゃんの手を握る。
すると、光に包まれた!!
『得武よ、この映像を残すことしかワシには出来なかった。対策を立てろ。』
「ブラハム様?」
突然脳裏に激しい情報の波が押し寄せる。蘇るのは昨晩のブラハム様が体験した出来事。
マーサがどれほどの実力なのか、スキルドレインが、石化が、マインドコントロールがどれほどのスキルかを垣間見る。超再生はMPを消費しない反則スキルだ。
まるで自分が戦闘した気分になったが、一撃一撃が魂を砕く攻撃なのだ。それが積み重なりブラハム様は崩壊を迎えた。なんでもない攻撃だが、あれが決定打となっていた。
魂に対しても防御法を取らなくては・・・俺たちは即死だ。
そう思った矢先、エリシアと目が合った。決意を固めたように涙を流している。俺は悟る。
ーーそうか、エリシアも今の映像を見たんだな。
「得武兄?エリシアも泣かないでよ。まだばあちゃん死んでないし。」
事情を知らない咲羅には何故泣いてるのか、本当の意味を理解出来ていないだろう。訂正をしようとして声を出そうとするが、
・・・あれ?上手く言葉が出ない。
胸の奥から込み上げてくるもの、頬を伝う暖かな雫が邪魔をする。俺は今、咲羅に言われて初めて自分の本当の感情を知ったのかもしれない。
・・・悔しい。絶対に許さない!!
本当は声を大きく張り上げて、子どものように泣きたかった。考えるのを辞めた深い心の傷が膿んで痛む。
泣くのは戦いに勝ってから。俺は強い意志を持って涙を飲み込んだ。
ブラハム様から情報を受け取った。その情報が俺とマーサとの戦力差をありありと見せつける。
ーー俺たちが本当に勝てる相手なのか?
否。じゃ逃げるのか?
無理だ。奴は俺たちを意識している。咲羅を魔族の生け贄に捧げようとしている。戦闘は避けられないのだ。俺は倒さなければならない。
作戦を練ろう!今勝てないなら勝てるまで装備を整えれば良い!!戦争の勝ち負けは前準備にある!!
「咲羅、絶対に勝つぞ。絶対に勝って、お前の身体を取り戻す。」
「ありがとう。力強く言われるとなんか嬉しいな。」
咲羅は照れながら笑った。
ばあちゃんの目は見れなかった。復讐の為にマーサと闘う。きっとばあちゃんは良いとは思わないだろう。
面会終了の時間はすぐ訪れた。ばあちゃんは死んだように眠り続ける。身動き取れないばあちゃんは最後に少し笑った気がした。
その表情はまるで「自分が正しいと思う事をやりなさい。」と言うかのように俺の肩を押すのであった。
・・・・・・・
部屋を出て、エレベーターに乗り、最上階のボスの間へ。
椅子を取り出して来て座り作戦会議だ。
「福岡まで移動するとして、由布院ルートは使えない。そのまま日出、宇佐経由で西に向かうか。」
「ちょっと待って、得武兄、何で行くつもり?自転車?車?」
「チャリって考えは無かったな。走るつもりでいた。ステータス上がった今ならフルマラソンぐらい余裕でしょう。」
「余裕言うな。フルマラソンどころか直線距離で約120キロあるんですけど。得武兄、自転車人数分用意して。モンスターに襲われても大丈夫な奴。」
その咲羅の発言に魔族2人はビックリする。
「待て待て、私らその自転車ってのを知らないのだが。」
「乗れる前提で話すな!!」
と反論。咲羅が不思議そうに見る。
「え?貴方達来るの?」
いやいや、野放しにすると危険だから福岡まで連れて行くって言わなかったっけ?
そう考えてると・・・
「ボスの事もあるし、出来れば連れてって欲しい。」
ブルートの方からお願いして来た。これには俺もビックリだ。
「自転車乗れないのに?」
「咲羅、自転車で移動する案は無しにしよう。」
「えー!?ダメ!?ツーリング楽しそうだったのに。」
「他に代案を考えないとな。ワープゾーンを利用出来たら手っ取り早いんだよな・・・」
「ワープゾーン・・・?」と頭を悩ませる咲羅。思い出したように目を見開いた。
「そうだ!!そういえば得武兄、大分港の塔知ってるよね。」
「咲羅、お前、ダンジョン攻略をする気か?」
「あのダンジョン、ライラさんの持ち物なんだ。ワープゾーンで福岡、名古屋、千葉に繋がってる。なんで今まで思い出さなかったんだろ?」
「さらっと重大な事実。ワープし放題じゃないか!!あの塔に関しては確かに存在を忘れていた。確かにそんなダンジョンあったなって。これってもしかして。」
「認知阻害の魔術の類かも。」
「やっぱり魔術だよな。」
その会話を鬱陶しそうに見ているキイチ。そして隣に寄り添う無表情の妹、寧々
「今まで黙ってたんだけどさ、なんで俺の椅子取るんだよ!!別にここで話さなくてもいいだろ!!」
とキイチは睨んでいるが!反論するのは咲羅だ。
「この椅子が一番気持ちいい。」
「お前はジャイア○か!!」
「いいじゃない。」
強気な咲羅。ブルートはキイチが近寄ると不安そうに距離を取る。そんな彼女は咲羅に質問した。
「なんでお前はこのチートスキル持ちに対して強気で居られるんだよ。」
「あれ?魔族なのに怖がってるの?」
「怖いというか。敵わないというか。」
「敵わない?キイチのスキルなんて当たらなければ関係ないし。防御力弱いんだしボッコボコよ。」
「当たらなければ?冗談キツいわ。どこから発生するか分からない空間の歪みをどうやって回避するのかしら?」
「分からないの?発生する時『ミョン』ってなるでしょう?」
「ミョン!?」
「そう。嫌な感じがするってやつ。」
「感覚的過ぎていまいち分からない。」
「分からないの?嘘だ。」
俺を含む全員がよく分かって無い。だけど、咲羅が危機を探知する感性が、ずば抜けて高いのは分かる。
「見本見せる。キイチ、撃って来てよ。」
「は?なんでだよ。」
「いいでしょう?痛い事しないから。」
「痛いから嫌だって訳じゃなくてな。俺のスキルは巻き込まれたら問答無用で死ぬぞ。」
「巻き込まれないし、巻き込まれても得武兄のオートポーションあるから死ねないし。」
あれ、咲羅。俺の回復薬の秘密をサラッと言ってしまったな。まぁ、味方だからいいんだけどさ。
「オート・・・ポーション!?」
キイチ、ネネ、レイチェル、ブルートの声がハモる。堂々と説明してくれる咲羅。
「ダメージ受けた瞬間勝手に癒してくれる、得武兄特製のチートアイテム。」
キイチがキリッと俺を見た。
「得武、お前汚いぞ!!俺はお前の事、俺のスキルが効かない初めての強敵だと思ってたんだ!!なんだよ!!アイテム頼りなんて卑怯だぞ!!認めた俺が馬鹿だった。」
恨むキイチ、そこに咲羅は追撃する。
「非難されても文句ないけど、身内の能力も私の能力の一つよ。得武兄はそれを無限に作れるんだからアイテムも実力の内。」
「なるほど。ジャイアニズムが極まるとそういう考え方もあるのか。」
キイチは納得した。
「キイチ、模擬戦。」
「そうだったな。やるぞ。」
咲羅は物を壊す天才だ。革命児と言ってもいい。対するキイチのスキルも相当にやばい。本当で戦ったらこのダンジョン一帯どうなる事やら・・・
嫌な妄想、最悪の結果を脳内によぎらせ俺は震えた。
・・・大惨事・・・そんな言葉が生優しい。
渦中の問題児・・・それもやる気満々の2人に俺は声をかける。
「キイチ、咲羅、ほどほどにな。」
2人は軽く頷いてこの広間の端と端に分かれた。
完全に軽く見られたな・・・撤退の準備でもしようか。そう考えてたら「僕の出番か?」とアルちゃんが逃走経路の確保に動いてくれた。
仕掛けるのは咲羅が先か?咲羅は駆け出した!!
不規則に咲羅はジャンプする。その咲羅がいた所に蜃気楼が歪んでいる。
「いや、本当なんで分かるんだよ!!」
「だから、みょーんって鳴るって言ってるでしょう!!」
その咲羅の発言に魔族2人は話し合う。
「ブルーノ、わかった?」
「私は分からん。レイチェルは?」
「全く分からない。」
分からないのは俺だけでは無いようだ。
咲羅は魔法を使わない。
使えば楽に倒せるのだろうが、あくまでも剣で倒したいらしい。少し動いては時空切断の遠距離スキルが邪魔をしてなかなかに前進出来ない咲羅であった。
でも一歩一歩、ノーダメージで確実に距離を詰める咲羅。キイチの顔は険しくなる。
咲羅が距離を半分まで詰めた時、スキル数にして十二回目だ。キイチが本気で仕掛けた!!
地面をほぼ埋め尽くす・・・超広範囲に空間がよじれた!!咲羅は空高く舞い上がる。
「馬鹿め!!空中だと身動き取れないだろ!!」
着地地点目掛けてキイチは再びスキルを放った!!が・・・
咲羅は当たらない。背中からロケットエンジンがついたかのように火を噴いだのだ!!これは、咲羅の快進撃か!?
咲羅が超加速し、スキルを回避!!そのままキイチに襲い掛かる。剣を振りかぶり超大技の・・・・・・?
「はいタッチ!!キイチの負け!!」
背後から咲羅はキイチを持ち上げた。
えっ!?咲羅がタッチして終わり?誰がこんな結末を想像したんだ!!ここはスキルとスキルのぶつかり合いで天変地異が起こるところでは!?
結果は緊急事態になる余地すらなく、俺が想像の範疇を何十倍も上回るほど平和に終わった。なんのための最悪な想定だったのだろうか?なんのためにアルちゃんを配置したのだろうか。俺のハラハラを返せ。
「得武兄、なんか不満そう。」
「いや、とんでもない。」
平和が一番なのだから。
「とんでもない?絶対変な妄想してるよね。」
咲羅は俺に対して疑惑の念を送ると、キイチの放心状態が回復、暴れ出した。
「嘘だろ!!人間離れが加速してるじゃねぇか!!もう一回やるぞ!!」
「何度やっても同じよ。」
「絶対攻略してやる。」
再び2人は両サイドへ分かれた。その時だったーーーー
ーー監視カメラのモニターに変化あり。入り口に綾香が現れた。ヒラリが立ち上がる。
「私が迎えに行ってきます。」
2023年8月13日改稿させて頂きました。
二重投稿により七十五戦目の後半が七十六戦目と内容一緒という事で・・・
七十六戦目を無しにすると展開的に話を差し込めるタイミングでもなくバランスが悪くなるので、七十五戦目の後半を削らせて頂きました。
読者の皆様には不便をお掛けしました。
引き続き今作品をお楽しみください。




