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七十四戦目


一晩中、マーサの対策を考えていた。

実力も強い上、咲羅の証言の元イメージトレーニングだ。

マインドコントロール、石化、スキルドレインなどのユニークスキルまで持ち合わせているのだ。徹底的に対策して対峙した時、そのスキルで足元を掬われないようにしなければならない。


次の武器、防具の進化を取り入れるなら、そのユニークスキルを対応出来るものでなければならない。

考える事が一杯で頭が痛い。

そのスキルを取得するための素材が何か分からない。

とりあえず、別府のダンジョンで手に入れた素材とか、精霊界で手に入れた素材とかで試して見る。


その数何万通りもある。

結論は分からなかった。分からなかったが、ついでとばかりにトラップの合成にハマりこんでしまった。

創作意欲が爆発する。


例えば魔力枯渇の罠、浸透剤、モンスターの魔石を成分毎に抽出し、5種類の植物と合わせた液体。


ダンジョンの魔力を枯渇させる目的がある薬品が出来た。

他にも幻覚を見せるトラップ。

突然大きくなるトラップ、蟻ぐらい小さくなるトラップ。

転移の罠はどこに飛ばすんだろ?

石化のレーザー光線とか恐怖だし、空腹の毒ガスとか地味に嫌がらせだ。


どれだけ熱中していたのだろうか。窓の外を見ると朝日が登っていた。

周囲を見ると、布団には入っているが寝ている人なんて誰も居なかった。


「得武兄、今がチャンスかも。」

「咲羅、俺もそう思う。」

「湖にアクエリア呼んでるし、大浴場からダイブするだけ。」

「さすが咲羅。完璧過ぎる。」

「当たり前よ。」


この会話が作戦決行の合図となった。

皆布団から飛び出し荷物を持っている。

綾香なんて昨晩浴衣姿で寝ていたはずなのにいつもの装備に身を纏っている。


「最短ルートで湖に出る。着いて来てくれ。」


作戦開始だ。

部屋を出る時、綾香が感謝の手紙を置いて行った。


「律儀な奴。」


レイチェルがボソリと呟いた。


そもそも俺たちの棟に泊まっている客はいない。朝早いだけあって人は一切見当たらない。小走りで進むが、木々が揺れる音や鳥のさえずりが聞こえるだけだ。


貸し切り風呂に全員で突入。

光の角度だろうか?夕暮れ時とは全く違うその風景。

朝日に照らされた水辺が波打つ様子が金の鱗のように見える。

幻想的って表現がよく似合う風景だった。


「咲羅、本当に飛び込んで大丈夫なんだろうな?」

「ええ。服のまま、荷物も一緒に飛び込んで。」


別に疑っている訳じゃないぞ。別府、由布院間のワープゲートは温泉の水を被る事なくワープした。きっとアクエリアもその類の力を持っているに違いない。

水に濡れるから寒そうだとか、荷物もぐしゃぐしゃになるとかそんな雑念一切ないし。


フェンスを乗り越え、湖に飛び込む。


寒っ!!あれ?ワープしない!!

服ごと湖に飛び込んだけど、浮き方とか泳ぎ方とかどうするの!?ちょっとこれ、泳ぎ慣れてない奴やると浮いてこないんじゃないか?


めちゃくちゃ頑張って犬かきして、ようやく水面に顔が出る。手を休めると、沈む。

下手に力むとこれもまた沈む。

めっちゃ疲れるわ!!!


「エムル大丈夫!?溺れてない?」

「溺れてない。早く飛び込んでくれ!!」


綾香、めちゃくちゃ嫌そうだ。柵を乗り越え、思い切って入水。

続いて魔族2人、最後に咲羅が飛び込んだ。そこで・・・


「いたぞ!!」


1人の一般市民が叫んだ。その声を聞きつけた兵士達が何人か集まってくる。


「お待たせしました。それでは快適な川の旅へご招待します。」


アクエリアの力により水の渦が出来て水中に誘われる。


水の泡に包まれて水中を勢いよく移動する。

泡に包まれてるから呼吸は出来るものの俺たちはただ、流されてるだけ。揺れとか岩に衝突したり・・・水位が低く、ウォータースライダー状態になったりと波瀾万丈。快適とは程遠い旅であった。



1時間ほどで大分川に到着。昔俺たちがアクエリアと初めて遭遇した場所だ。


「うわ、気分悪い。」


俺は、酔いを覚ますように大きく深呼吸。魔族2人も気分は最悪だった。


「あの乗り物半端ないぞ。もう二度と乗らない。」

「私、河童を根絶やしにする。もう決めた。」


そんなことを呟いている。逆に平気な人もいる。エリシアとアルちゃんは影響なしなのは当然の話で、咲羅と綾香はどうしてなのか、とても元気だ。遊園地のアトラクションに乗ったのかと思うようなテンションだった。何をしているか見る元気は無いが、2人の会話は聴こえてくる。


「綾香ちゃん、服乾かしてあげる。」

「えっ!?一瞬で乾燥しちゃうんだ。」

「そう。名付けてマジックドライヤー。」

「便利ね。昨日も服、一瞬で洗濯してくれたでしょう?私も使えるようになりたいな。」

「じゃあまず、水と火と風の初歩魔法を使えるようになろう。」

「えっ!?無理。」

「出来るって。魔力込めて敵切ってるでしょう?その応用。」

「応用???」


船酔い(?)のせいで反応が遅れたが俺の気配察知スキルが反応した。橋の上に人影。あれは・・・ヤンキー達!?


「あれ!?姉御と兄貴!?何やってるんすか!?」


やばい、見つかった!!こんな距離まで接近を許してしまった!!

マーサは俺の家を襲った。野崎先生とも接触している。普通に考えて、学校の生徒達と接触するのはまずい。もしマーサに何かされているのなら間違いなく洗脳されている。戦闘は避けられない。


「みんな逃げるぞ!」


そう呼びかけると咲羅が反発。


「得武兄、要は敵だった場合傷付けたく無いから逃げるんでしょう?」

「ああ。」

「なんかムカつく。」

「なんでだよ!!」

「私に任せて。」


そう言って咲羅はヤンキー達の目の前に出て行った。


「お前達、久しぶりね。」


「姉御!!喋れるようになったんですね!!」

「姉御様!!完全に人間になり切れてない感じが可愛らしいです!!」

「姉貴殿!!俺たちを旅に連れてってください。」


多様な呼ばれ方をされている。


「お前達は私の味方か?」


ヤンキー達は顔をキョトンとしながら見合わせる。


「もちろんですが・・・どうされました?」

「騙そうとする奴は大抵そう言う!!」

「俺ら、何も騙そうなんて・・・」


咲羅は剣を抜いた。ヤンキー達はビックリして腰を抜かす。


「お前ら。味方だって言うなら付いてくるな!!私からは以上だ。」


咲羅は踵を返す。ヤンキー達は戸惑っている、


「姉御!!一体何があったんですか!!」

「姉御様!!一生貴方の味方です!!」

「姉貴殿!!!俺たちは力になりたいんです!!」


咲羅は振り返らず声を掛けた。


「じゃあね。元気で頑張れ。」


追っては来なかった。俺たちは堂々と目的地に行ける訳だが・・・


「みんな、洗脳されてなかったな。」

「至って普通だったよね。」


俺も綾香も同じように感じたようだ。咲羅は大して気にしていないのか、


「どのみち一緒に敵地に乗り込むなんて無理だしいいの。」


と堂々と歩く。この一連の騒動にエリシアがボソリと結論をいう。


「得武、鑑定使えば良かったのに。洗脳されてたら名前の横にちゃんと明記してあるから。」


いや、頭痛すぎてそんな頭回らないです。



歩く道中。あまりにも倒壊した家屋が多く、由布院と比べるとその差は酷いもんだった。その様子にブルートが察する。


「ここの一帯もダンジョン化してたんだな。」


しみじみと咲羅は語る、


「ご覧のとおり、めちゃくちゃよ。私達がなんとかしたの。」

「同族じゃないが、これ同情するわ。」


道中、また見知った女の子がこちらに手を振って来たが、逃げ出した。



綾香の家に到着する。見慣れた外観、焼きたてのパンの匂い、活気ある田辺のおばちゃんの声。平常運転じゃない所を探すのが難しいぐらいの日常風景がそこにあった。

なんか少し安心する。


一旦綾香とはお別れだ。


「ごめん、ちょっと親と話してくるから、後でうみたま○で合流ね。」

「何かあるか分からないから気をつけろよ。」

「分かってるって。エムル、咲羅ちゃんも気をつけてね。」


家の前で綾香は手を振った。俺たちも手を振り返し、その場を立ち去った。


坂を登り俺達の家のあった場所に行く。

畑は壊滅、俺の家の姿はない。


「なんか、目の当たりにするとちょっと辛いな。」


同意するように咲羅は首を縦に振る。


「マーサ、許さない。」


山を少し登ると、大災害がそこにはあった。

確か、森林地帯が続いていた筈だ。灰色の大地がそこに広がっていた。焦げた炭のような香りが漂う。煙があちらこちらに立ち込める。


そこの中央にボロボロの家屋があった。落ちている破片から俺の家という事が分かる。

この家、逃げたんだ。危険を察して・・・


俺たちの思い出が詰まった空間は、もうここに無い・・・。

頑張って錬金術でどんなモンスターが襲って来ようと絶対に壊れない家を作ったのに。ばあちゃんを護る為、過剰な強化を施したというのに全てが無になった。


モンスターではなく、それが人なのだからタチが悪い。

俺は考えるのを辞めた。これ以上考え事に浸ると精神がおかしくなりそうだ。


「咲羅、行くか?」

「得武兄の事だから建て直してから行くと思った。もういいの?」

「今建て直しても住む人がいないんじゃ意味がない。」

「そうだよね。」


気がつけば、エリシアもアルちゃんもレイチェルもブルートも離れた場所から俺たちを見守っていてくれた。


「得武も咲羅も大丈夫?」


このエリシアの優しさが嬉しい。


「大丈夫だ。」

「大丈夫よ。」


アルちゃんは何か言おうとして口をパクパクしているが声に出てない。


「アルちゃん、気を使わなくていいぞ。いつも通りで。」

「得武も咲羅も、体動かしたくなったらいつでも模擬戦してやるからな。」


模擬戦って・・・。どこでするんだろう。


レイチェル、ブルートに関しては、終始無言だった。

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