七十二戦目
深夜12時、作戦決行にはまだ2時間早い。
気配察知スキルに敵の気配を感じ取った。
多分軍人だろう。この感じだと宿の女将さんと入り口で話をしている。
「得武兄、気付いた?」
「咲羅もか。」
「この街全体にアラン少尉の網が貼られてるっぽい。」
気配察知のスキル範囲を広げる。俺たちへの敵意持つ人の人数半端ない。俺たちに懸賞金でも掛かってるのか?
「バレずに動くのは無理そうか?」
「そうだね。絶対戦闘になる。」
「警備が薄くなるまで滞在するか、遠回りになるけどダムの方面から竹田市方面から行くか?」
「それって阿蘇山に行く道よ。本当に遠回りね。牧場通って熊本行っちゃうじゃない。」
「熊本県からの北上、福岡入り。」
「徒歩で考えるとすっっっごく気が遠くなる。」
「そんなに面倒か?無理なら大分市内に戻るのも手だな。」
「それならウチの従魔にいい子いるよ。行った事ある川ならどこにでも連れてってくれる。」
「川限定?」
「だって河童だもん。」
河童ってストレートすぎやしないか?従魔のアクエリアの事だろうが、一応女の子なんだしもっと可愛らしい呼び方があるだろうに・・・。
行ったことある川といえは大分川。なるほど、学校の近くに出る訳だ。
「待て、ギリギリまで考えさせてくれ。」
「わかった。」
待っても待っても警備が弱まるどころか強くなる。
なんか、この周辺に匿われてるのバレてるんじゃないか?
眠れない。周囲の人間の動きが気になって仕方ない。
こういう時は別の事を考えよう。
強引ではあるが、自分のステータスを開いて気を紛らわせる事にした。
新子得武 16歳
精霊魔道士 レベル1
HP 1300
MP 8000
STR 35
VIT 35
INT 300
MD 150
DEX 40
AGE 40
LUK100
精霊の守護→精霊の加護レベル21
錬金術補正→錬金術補正改 レベル26
錬金時鑑定レベル11(鑑定スキルと併せる事で素材の詳細を深く知る)
魔力成長補正レベル6
物理耐性レベル5
精神耐性レベル7
精霊魔術レベル10→マナブーストレベル10
爆発的に上がったステータスはMPとINTとMD
INTは魔法攻撃力に直結、MDはマインド・・・精神的な意味合いよりは魔法防御の割合が強そう。
つまり、魔術関係が急成長している。それ以外は至って生産職特有の弱小ステータス・・・レベル1に戻ってステータス低下だ。
スキルの上位互換が3つ。
精霊の守護→精霊の加護。守護と加護ってどう違うの?
装着出来るスキルが2から4になる。
2人同時に憑依出来る・・・つまり、エリシアとアルちゃん同時に憑依出来るという事
ーーーーって身体の主導権どうなるの!?憑依中2人揉めたら俺の脳内がカオスな事に!!!
この技は危険だ!!
引き出せる能力上昇。・・・引き出せる能力?よくわからないな。保留で。
錬金術補正→錬金術補正改。
手に触れてなくても錬金術を発動出来るのは「改」になる前からなんだけど、その範囲が10倍以上。
感覚的に「自分の手の延長線状にある物を分解、合成しちゃうぞ」っていうのが今までのスキル。「改」になる事で・・・「このエリアに入ったもの全て同時に分解合成しちゃうぞ」って感覚。
錬金術の範囲が個から集団に化けたね。
自分の半径500メートルにまるで結界が張られていてその中に入ったものは全て素材として認識してしまう感じだ。
精霊魔術→マナブースト
「我に力を・・・」そんな掛け声はもう要らないです。無条件で精霊達が力を貸します。
良かった。あれ言うの恥ずかしかったんだ・・・。
威力 精霊依存→ 得武のINT依存。効果2〜108倍
集まる精霊の種類と数によって変動。
具現化MP無償化。(MPを消費する事で能力強化)
あれ??
2〜108倍!?
振れ幅広っ!!!変動しすぎ!!!
なんかビックリしすぎて疲れてきた。落ち着け。今日は確認だけ、身体を休めよう。
眠るつもりでは無いのだが、布団に横たわった。
・・・あれ天井に何かいる。1匹のコウモリ・・・それもどこがで見た事ある気がする。
そう思った時だった!!女性の姿に変身し落ちて来る。
殺気は感じなかったが咄嗟に転がり込み襲撃をかわした。敵意が無い上に気配察知にも反応しないぐらいに気配を消していた。
見事な着地をし、スカート端を持ち、礼をする。
「お久しぶりです得武様。キイチ様の使いのヒラリです。躱すなんて酷いです。アニメのシーンみたいに受け止めてくれても良かったのではないでしょうか?」
うみたま○ダンジョンにいた受付嬢だ。そんな冗談を言いながら、視線は遠くを見つめてる。今にも巨大化しそうな険しい目で俺の背後に眠る魔族を見つめているのだ。
「あんな激戦繰り広げてヒロイン面しないでくれ。」
「そう・・・あれは激しかった。私、もうびしょ濡れになって乱れに乱れ・・・放置プレイ。」
綾香と咲羅がピクリと反応する。ちょっと、これ以上の冗談は洒落にならないぞ。
「勘違いするような単語を並べるな。トラップに引っ掛かっただけだろう。」
「あーん。そんな事言わないで。引っ掛けた癖に。」
「冗談はそれぐらいにしてくれ。本題は?」
「定時連絡しに来ました。」
「キイチ、使いを寄越すって言ってたもんな。それでもなんで深夜なんだよ。」
「吸血鬼は夜行性。」
「いや、夜は19時から始まってるよ。寝静まった時間に来て、気配消して天井に張り付くとか、一体何がしたいんだよ!」
「嫌がらせ。気が付かなければあのまま・・・夜這いドッキリかホラードッキリどっちにしてたかな?悩ましい。」
「追い返す!!」
アイテムボックスのストレージを開く。
「待て、待って!!冗談よ。情報収集をしててこんな時間になっちゃったのごめんなさいね。貴方達、軍隊や街の住人にすごい囲まれてるよ。逃げ場ある?」
「今考え中。」
「うみたま○に住居移したら?キイチ様もそう言ってるし、匿ってあげるわ。来れたらだけど。」
別に連れてってくれる訳じゃないんだ。親切なのかドライなのか。
「行けたらな。それでこちらからの情報だけど・・・魔族はダンジョン発生とは無関係だ。やはり福岡のマーサ、ライラを探るしか無いな。そしてこの魔族達もしばらく俺と行動を共にする。だから殺しは無し。」
「勘違いしないで欲しいのだけど、キイチ様とネネ様の願いは一つ、2人が安心して暮らせるようになる事。魔族とか復讐とかどうでも良くって、自分を脅かす強敵の存在は徹底して潰したいだけ。」
「本当にそれだけか?」
随分と深い闇を抱えてたように見えたのだが。
「安心したいから情報に飢えてる。好き嫌い激しいから好きな人に対しては徹底的に護るし嫌いな人にはとことんまでにドSになる。嫌いな奴と言えば、福岡全体を牛耳ってるアイツら・・・マーサとライラの事、キイチ様は『腹立つ』って言ってたから攻める時は教えて欲しいわ。」
過去に何か関わりがあったのだろうか。思い出して嫌な顔する受付嬢ヒラリ。話題なんともタイムリーだ。
「その事なんだが、俺たち明日にでも福岡に行ってマーサの会社潜入しようと思う。」
聴くと目を輝かせ、手を合わせニッコリ笑う。
「素敵!!なんていう事でしょう。この小規模戦力で巨大組織に挑む!!良いわね。アンタ達好きよ。惚れちゃいそう。」
その発言に反応する人がいた。
「アンタが得武兄に惚れる権利は無い!!」
咲羅は受付嬢の背後から剣を抜刀。動いたのは咲羅だけじゃ無い。
「ちょっと、エムルに近寄らないでくれます!?」
綾香も浴衣の、胸元を抑えてながら盾を構える。俺とヒラリに割って入った。
「警戒しなくても良いわよ。今日は取って食べたりしないから。」
「今日は!?」
「今日限定!?」
「2人、息ピッタリで面白い。可愛いわ。一通りからかったし行くわ。じゃあね。」
そこに、エリシアが登場した。それも具現化による実体での登場。ソワソワしていてなんか様子が変だ。
「待って、まだ行かないで!!」
「貴方、初めて見る顔ね。どちら様ですか?」
「私は大精霊のエリシアよ。普段は霊体なので姿は見えないわ。」
「その大精霊様が私に何のよう?」
「アラン少尉の動向とか掴んでないか?大分市内に変わった状況はないか?」
「アラン語はその後、マーサという勇者と合流し、魔族達を引き渡しました。特殊なスキルですぐ奴隷になったそうです。」
マーサという単語を聞いて咲羅はピクリと反応した。
だが、黙って聞いている。代わりに赤髪の魔族が声を発した。
「ボスが・・・そんな。」
「レイチェル、大丈夫よ。私達をが解放しましょう。」
ショックだったのか俯く赤髪に、青髪は寄り添う。お前たちも起きてたのかよ。
「アラン少尉はこの由布院にいて、街の復興を手伝ってます。魔族にやられた傷を癒やし、完全なる街の解放を宣言しました。それは表向き、裏では貴方達を指名手配にしています。それと、魔族狩りを始めているそうです。」
そんなに戦力が欲しいか。
何故エリシアからそんな事言われるのだろうか?
咲羅の代弁をしている訳ではない。悲壮感に満ちている。エリシアのそんな姿を普段あまり見ないので俺も心配になるぞ。
「マーサの情報をもっと詳しく教えて!!」
「野崎先生と顔馴染みのようです。少し話して、野崎先生はキレてました。その後、テレポートでもあるのでしょう。由布院から消えました。」
「どこに行ったのか知らない?」
「別の吸血鬼情報ですが、大分市内、高崎山付近で確認されてます。大規模な魔術戦闘があったらしいです。高レベル同士の戦いだったと言います。」
受付嬢が説明に俺はビックリする。大規模な魔術戦闘!?一体誰がマーサと戦ったんだよ。
「お前らのうみたま○も近いだろう?被害はないか?」
「私達は大丈夫です。猿達も無事です。」
「そうか。良かった・・・」
視線をエリシアに移すと、エリシアの頬からポツリポツリと雫が滴れる。声が掠れながら言った。
「得武、みんな、聴いて・・・。つい先程・・・・・・。」
何のアクションも取れない。エリシアの発言にある。俺も咲羅も綾香もエリシアに釘付けだった。
「エリシア、今お前なんて言った!嘘でも言っていい事と悪い事がある!」
「大規模な魔術戦闘を大分で出来る人って他にいる?」
反応出来ない。頭がいっぱいだ。
そんな中咲羅までエリシアの味方する発言をする。
「得武兄、勇者マーサは私を石にした張本人。実力は対峙した私には分かる。底が見えない。だからもし戦闘したのがブラハム様なら・・・。」
どうして?ブラハム様はラウダに次いで最強の存在だ。それがどうして・・・
「勇者マーサが俺の家に来て、ブラハム様と大規模な魔術戦闘をした?」
「そう。ブラハム様の反応が今、途絶えたわ、幾ら問いかけても返信ないし。精霊は皆繋がってる。その繋がりが断たれたら誰でも気付く。」
「嘘だろ!?ブラハム様に限って負ける訳がない!!」
「私だってそう思いたいわよ!!じゃあなんで反応が無いの!?気配を感じないの!?説明つかないじゃない・・・。」
エリシアは顔を手で覆った。そんな事しても涙は一向に止まらないのだ。
「エリシア、怒鳴って済まない。家にばあちゃんが居たと思う。ばあちゃんは大丈夫なのか?」
「私にはなんとも分からない。」
エリシアは顔を伏せたまま返答した。聞いても分かるはずがない。代弁するようにヒラリは言った。
「今、配下に向かわました。安心して下さい。お婆さんは生きてます。」
「本当か?」
「こう言っては酷ですが、傷の跡が酷いです。回復薬でたくさん癒された跡があります。回収してうみたま○で介抱します。よろしいですね。」
俺は悔しさに食いしばった。感情を押し殺し、言う。
「ああ。頼む。」
「貸し一つ。」
「一つでも二つでも好きにしてくれ。」
「ありがとうございます。では御武運を」
コウモリになって飛んで行った。
残された俺たちはどうすべきか。
「エムル、今からでも行こう。大分に。」
行ってどうする?
罠を張られている危険だってある。
咲羅から聞いた勇者の話でいうと野崎先生が操られて俺たちの情報を喋った可能性だってある。
戻ったらやばい。
前に進むしかない。
幸いにもばあちゃんは生きている。このまま帰ってしまったらばあちゃんが心配で家から出られなくなるかもしれない。
未練を断つためにも今がいい。すぐ動いてマーサを翻弄して寝首をかく。
「大分に戻るのは危険過ぎる。絶対罠が張られてると思うし、福岡に直接行った方が良い。マーサを野放しには出来ないしな。」
俺の決意を嘲笑うかのように青髪は言った。
「軍の皆も動き出すのは深夜だと思って網を張ってる。今の時間、全勢力が集中している。レベル100のエリート達が揃ってふんだろ?あるスキル持ちによっては簡単に見つかってしまうんじゃないのか?それとも、軍隊全員皆殺しにしてでも今行動する気か?」
「無駄な戦闘は避けたい。無関係な人を巻き込みたくない。」
「焦るなよ。冷静になれ。気配察知があるんだろ?1番見張りが手薄になる瞬間がある。そこを突いていけ。後、魔族は基本、夜目が効く。私らの他にいろんなグループの魔族がこの界隈にいる。夜間行軍はそいつらの恰好の的だぞ。」
ブルートの言う通りだ。
「エムル、お願い。私の両親の事も心配だよ。一回家に帰らせて。」
「綾香。」
「危険なのは分かってる。でも・・・。」
俺は、復讐心に駆られ周りを巻き込もうとしている。焦る気持ちを抑えるように大きく深呼吸した。
「大丈夫だ。綾香がそう言うなら大分市内に一回戻ろう。気が効かなくて悪い。そうだよな、綾香も自分のご両親の事心配だよな。」
「ありがとう。わがまま言ってごめんね。」
「良いんだよ綾香、多分福岡に行ったらひと段落着くまで戻って来れない。一回家族の皆と相談して決めて欲しい。一緒に来るか、残るのか。」
「どこに行こうと私はエムルに着いて行く。」
綾香の目は決意に固まってる。
「ありがとう。咲羅、今からでもアクエリア呼べるか?」
「待って、アクエリアの魔力回復させてあげて。後、夜間に水中を移動するの視界が悪く危険って言うのもあるし、せめて日の出まで待って欲しい。」
「そうか。それまで就寝だな。」
咲羅も綾香もうなづいた。
とはいえ、気持ち的にもブラハム様の事で頭がいっぱいになって眠れない。
一体どんな経緯があって戦闘になったんだ。大分に来たマーサの目的は?
考えたらブラハム様に頼ってばっかりだった。戦闘も教えて貰った。いろんな事を教えて貰った。情報交換したりして方針を話し合うのもブラハム様だ。
俺たちの先祖を導いてくれた大先輩。安らかに眠ってくれ。仇は絶対俺がとる。




