七十戦目
山林地帯から街へと降りてきた。
魔族は猿達が背負って貰っていたのだが、さすがにこの数の猿達が山から降りてくると街はパニックを起こす危険がある。強制送還する事にした。
俺と綾香が背負って降りる。
とはいえ由布院駅前まで猿達が背負って貰っていた為、何人もの人が目撃、「何事か?」というような目で俺達を見つめていた。
猿達が消えて、今まで言うのを我慢してたのかキイチは文句を言い出した。
「なんで逃げんだよ!まだアイツらの息の根止めてねぇし!!俺なら魔族を全滅させられる!!」
俺が対応する、
「キイチ、目的は殲滅じゃなくて情報収集。魔族が黒幕か分からないしな。」
「そんなの黒幕に決まってる!!」
「そもそも殺しても復讐にはなるかもしれないけど、根本的解決にならないぞ。」
「確かにそうだけど・・・」
「だけど?」
「復讐されても知らないぞ。」
頬をふくらませるキイチだった。
そんなキイチを俺も綾香も暴れ出さないか心配そうに見つめていた。
由布院は賑わっていた。
ダンジョンがあるのにも関わらず、以前の暮らしを続けている。歩きながら説明してくれるのはクレハさんだった。
「由布院は、魔族に支配されていました。山から毎朝、魔族が降りてきて市長に食糧とか鉄鉱とか木材とか要求してました。酷い時なんて若い娘を10人寄越せなんて無茶苦茶な要求があったらしいです。魔族の監視の元、この仮初の生活が営まれてました。」
そんな話を聞きながら駅前から歩きお土産通りを抜ける。
元新聞館を改装したケーキ屋さん、ジブ○の森、金○コロッケ、トラックアートの美術館等さまざまな個性豊かな店が連ねる。
こんな頑張ってる背後にまさかそんな切実な事情を背負っていたなんて・・・
「確かに昨日来た時も思ったんだけど、街のみんなの目が死んでるものね。」
と綾香は感想を述べる。
「この一帯の魔族は捕らえた事ですし、もう大丈夫でしょう。この街の事はアラン少尉達に任せて私達は私達の事だけ考えましょう。」
「そうね。」
お土産通りを抜けると川沿いを歩く事になる。そこを抜けると湖があった。名前は金鱗湖というらしい。
その周辺には老舗旅館が連ねる。
これはダンジョンが発生する前と何も変わらない街の風景だった。
俺達が住んでた街はほぼ壊滅状態にあった為、こんなにも街が残されているのを見ると嬉しくもあり、また嫉妬する想いもある。
旅館の一角。
「これは、五反様、ここに顔を見せられたという事は何かあったのですか?」
「はいそうなのです。申し訳ないのですが、この人達を匿って貰えないでしょうか?」
「五反様の言う事であれば喜んでお引き受けしましょう。で、誰から追われてるのですか?魔族です?」
「それは、アメリカの軍隊です。」
その言葉を聞いて宿の主人の顔が複雑な顔になる。
「大変な事情がお有りなのでしょう。分かりました。人目に付かないよう配慮させて頂きます。女将!6名様を従業員宿舎へ。」
労いの言葉を頂いた上、奥様にご案内して頂ける事に。その好意に嬉しくて俺は頭を下げた。
「この御恩は忘れません。絶対に返しに来ます!!」
主人も女将も優しい目で微笑み・・・
「クレハさんの知り合いとあれば幾らでも手を尽くします。」
「そうですよ。お互い助け合いましょう。」
優しい言葉まで返してくれた。どこまでもいい人達だ。
「ありがとうございます。」
木を基調とした造りの宿だった。
中庭のロッジの部屋もあるのだが、俺達の泊まる場所は従業員宿舎だ。
「クレハさん、由布院の皆に恩売ったの?」
綾香が聞いた。
「任務で私の部隊が何度も魔族とやり合ったのです。押したり押されたり、今は敵になりましたけど、ライラさんと協力して魔族を追い込んだ事もあるんですよ。由布院攻防戦の、初期の初期ですが。」
「そうなんだ。」
「結局は支配されたので意味ないですけどね。」
「いや、そんな事ないよ!!みんなに感謝されてるじゃない!!」
「みんな、感謝してるといいのですが。」
と苦笑いするのであった。
案内された先は従業員宿舎と言っても立派な別棟の一室だった。
梯子を使い、屋根裏部屋を案内される。そこでクレハさんとお別れとなる。
「私は部隊に戻ります。職業上アラン少尉と合流しなければなりません。ですが、咲羅さんには命の恩があります。嘘の情報で撹乱しますので大人しくしてて下さい。」
別れ惜しそうに涙目で綾香は見つめる。
「また、会えるよね。」
「ええ、もちろんです。」
俺は疑問を問いかけた。
「もしかして捕まりに行くのですか?」
「罰則はあるかもしれません。捕まらないよう上手くやります。」
「なんかすみません。ありがとうございます。」
「いいんですよ。気にしないで下さい。咲羅さんのお兄さん、頑張って逃げ延びて下さい。」
咲羅も発言する。
「クレハちゃん、落ち着いたら模擬戦やろう。」
「私、必殺の兵器撃ち尽くしたら平均以下ですよ。やらないです。でも、咲羅さんはどこまでも向上心があっていいですね。」
「負けん気が強いだけかも。」
「ふふ。そうですね。それが咲羅さんらしいのです。では、私はこれで。」
と一礼しあのダンジョンに戻って行くのであった。主人と女将も一礼する。
「では、ごゆっくりお過ごしください。館内マップを渡しておきます。貸し切り風呂「牡丹の間」は他のお客様が近寄らないよう配慮しますので皆様でお使いくださいませ。」
主人の心配りに感謝だ。そこで女将はずっと胸に秘めていた疑問を口にした。
「ちょっとだけ質問いいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「その縄で巻かれた2人はなんでしょうか?」
流石に角はあるし尻尾もある。女将だけじゃなくても誰でも勘付くよな。
「赤髪と青髪の女の子は魔族なんです。この街の人にとっては恨みの対象かも知れませんが、俺達に任せてもらえないでしょうか?」
「魔族ですか?尻尾や角があるので魔族ですよね。すみません・・・・・・知り合いに似てたもので見てしまいました。」
複雑そうな顔をする女将。
角や尻尾がなければ普通に女の子だもんな。似た顔の人もいるもんだ。
すると主人が女将を叱り出す。
「知り合いに似てるからと言って情でも湧いたのか?お前は魔族が俺達にやった事、覚えているだろ!?あまり引き留めるとこの方達に悪いだろう。」
「あなた、でも・・・。」
主人は俺たちに向き直し、頭を下げた。
「女将がすみません。気にしないで下さい。なんでも好きなようにしてください。では、失礼します。」
と立ち去る2人。女将は後ろ髪を引かれていた。
梯子を使い部屋に入る。
中は広がった。
屋根裏部屋は天井が低いというセオリーがあるのだが、そんな事はない。なんならさらにロフトも作れるぞってぐらいの高さがあり、一面畳張りの1ルームでありながら、バレーボールなどの球技が出来る広さがある。
トイレ、シャワーはもちろん、完備だ。
魔族の2人は雑な扱いになるのだが、咲羅が下からぶん投げ俺が上でキャッチする。
畳の上に転がして置いた。それを見た綾香にお叱りを食らう。
「エムル、捕虜と言っても雑な扱いしたら可哀想でしょう。」
と言って襖から布団を取り出し、セッティング、そこに魔族2人を寝かすのであった。
咲羅の次、最後にキイチが上がってくる。なんかニヤニヤしている。俺は気になって質問した。
「キイチ、どうした?」
「知ってたか?魔族ってこちらの世界にやってくる時どんな方法で来ると思う。」
「魔法でじゃないのか?」
「生きた人間の魂を喰らい、その器に自分を入れる。いわば異世界召喚みたいな方法だな。」
それを聞いた綾香は「えっ!?」と反応した。
「それって生け贄じゃないかよ!!」
「この女2人、もともとはこの街の住人だろうな。魂は喰われてるけど。」
「じゃあ元となった女の子は女将の知り合いだって事か!?」
「流石にそこまでは知らないよ。さてと、拷問楽しみだな!!」
「お前な!!」
「怒るな怒るな。平和的に行こうぜ。」
そんな事言ってよく平気で拷問する気になれるのか疑問で仕方ない。そもそも拷問するのに平和も何もないじゃないか!!
これで小学生なのだから闇が深くて将来が心配になる。
今の一悶着で魔族赤髪の方の意識が戻った。目を開け、状況を把握するとカッッと目を見開いた!!
「おい、離せ!これはどういう事だ。私達は魔族だぞ!こんな事してただで済むと思ってるのか!?」
その怒鳴り声に青髪は目を覚ます。眠たそうに目を擦りながら赤髪をなだめる。
「レイチェル。抗うだけ無駄よ。『クラン=アビス』は壊滅した。そこの坊や達と軍人によって。」
「嘘だ。そんな事ある?私ら異世界最強の部族よ。最近まで平和ボケしていた地球人なんかに負けてたまるか!!」
「・・・・・・・・」
この青髪の無言、このなんとも言えない反応に赤髪の表情は悲痛に歪む。
「ブリート、なんか言って。その話本当みたいじゃない!!」
「軍人達は、ボス達を配下にしていた。簡単に言う事聞くボスではないと思うけど、ユニークスキルを使われたら配下になるかも。」
「そうなのか・・・。」
一応両手の両足の自由は奪っているがいつ破って反乱を起こすかわからない。俺は警戒心をMAXに高め声を掛けた。
「話合いは終わったか?」
魔族の2人の視線が俺に注がれる。殺意を剥き出しにして睨んだと思うと、先に青髪の方が脱力した。
「降参します。好きにして下さい。」
「ちょっとブリート!!魔族のプライドは?」
「そこの1番小さい男の子、うちのボスがワンパンで胴体真っ二つ、原因は不明。一回限りのスペシャルスキルって訳でもなく無限に使える模様。どう?戦う気になる?」
「降参します」
それをみたキイチがつまらなさそうに呟いた。
「つまらないな。降参早ええって。拷問出来ねぇじゃねぇか!!漢を見せろ。」
ブルートが振り返る。
「私達は女です。」
殺されるかもしれない状況でよく挑発にも取れる発言が出来るなと逆に感心する。
魔族ってこんなに皆、肝が据わってるのか?
「屁理屈言ってんじゃねぇ!!」
「事実だし。」
「処刑決定。」
強引な手段に出るキイチ。俺と綾香は止めに入る。
「待て落ち着け。ストップ!!後は俺がやるから。」
「キイチ君、落ち着こう。」
「あーあ、もういいや。俺要る?いらないよね。妹の事心配だし俺帰るわ。」
完全に興味を失ったキイチ。凄い面倒臭そうになっている。
「キイチ、聞かなくていいのか?」
「使い魔送るからソイツに報告してくれ。また、強えのが出たら呼べよ。やばいダンジョン行く時も誘え。後、俺だけ呼ぶのもおかしいだろ、寧々も一緒に召喚しろ。じゃあな。」
帰りは一瞬・・・名刺が一枚燃え尽きた。強制送還されたと言っていい。場をかき回して一瞬で去っていった。
俺は情報収集の為に近寄った。綾香は心配そうに俺を見つめている。
「エムル、乱暴はダメよ。」
「わかってる。」
魔族への心配だった。俺も捕虜として扱うのではなく、1人の人間として人権は守ろうと思う。失礼がないよう、一応自己紹介から入ろう。
「俺は新子得武、右隣に居るスライムが妹の咲羅、左隣に居るのが田辺綾香。お前たちの名は?」
「女の子侍らせてハーレムね。」
「どうとでも呼べば。」
赤髪の魔族からは皮肉が飛ぶ。青髪からは適当にあしらわれる。俺は赤髪、青髪と順番に視線を送りながら、
「じゃあ、レイチェルとブルートと呼ばせてもらう。」
と独断。青髪が突っ込む。
「名前知ってるじゃない。」
まぁ、魔族2人の会話を聞いてれば誰でもわかるよな・・・。
「手荒な真似はするつもりないし、強制するつもりもない。平和的に話し合いをしよう。」
「なら解放して。」
赤髪からはまともに話合う気が感じられない。いわゆる舐められてるという奴だ。
「俺たちや、この街の住民に危害を加えないと約束するなら解放する。」
「約束しない。」
「じゃあ無理だ。しばらくここに居ろ。」
そのやり取りを聞いて咲羅が立ち上がる。
「得武兄にこれ以上舐めた口聞いたら斬る!!!」
「待て待て待て。俺が普通なのに咲羅がなんでそんなに切れてんだよ!キイチの二の舞じゃないか!!」
「なんかその魔族ムカつく。私小学生じゃないし・・・。」
「戦闘は流石に宿の皆に迷惑がかかる。抑えてくれ。」
「うん。我慢する。」
咲羅にボロ負けしたのもあってレイチェルとブルートの浮ついた気持ちが引き締まる。
「お前たちは異世界からこっちの世界にやって来た。これは本当か?」
「本当。」
青髪との会話の方がいい情報聞き出せそうなんだけどな。俺の気持ちとは裏腹に赤髪が答える。
「その目的ってなんなんだ?前の世界は居づらかったのか?」
「いや、それなりに楽しんでいたよ。」
「なんでこっちに来た?人間の魂を喰らってまで転移してくる必要あるのか?」
「魂を喰らって・・・そんな細かい事よく知ってるな。なんでだと思う?」
「知らない。」
「こっちの世界の方が開拓し甲斐があって楽しそうだからだ。」
「快楽の道具かよ!!」
思わず声を荒げてしまった。綾香から
「得武、落ち着いて。キイチの二の舞よ。」
と手を握られた。
俺は小学生じゃないし!!と心の中でモヤモヤするが、綾香の手の温もりを振り解いてまでキレる案件じゃない。
「悪い。少し熱くなった。」
「娯楽目的だけじゃないけどね。」
「ダンジョンいっぱい作って資源採取か?ダンジョンマスターになって戦力増強か?」
「何を言っている?ダンジョンいっぱい作ってるのは人間だろ。魔族がダンジョンマスターになってなんの徳があるの?勘違いにも程があるって。責任擦りつけるな。」
赤髪が淡々と告げるその事実。嘘を言っているようには見えないので余計俺は混乱する。
「普通の人間がどうやってダンジョンを作るんだ?科学の力?細菌兵器?」
「いやいや、発想が面白いな。科学では無理だよ。人間とは言っても異世界の勇者達な。なんでもパーティが始まるんだろ?私達も楽しみにしてるんだ。」
「パーティ?比喩が多くてよくわからない。具体的に言ってくれ。」
「ダンジョンを制するのは世界を制するのと同じ。異世界ではたくさんのダンジョンを制し、保有した国が世界を牛耳っていた。もうわかるだろう?」
これはブラハム様が言った通りだな。
「ダンジョンを制し、この世界を征服する?」
「半分正解。何この世界で満足してるんだよ。元の世界に持ち帰って下剋上だよ。魔族同士でも派閥があってな、大変なんだよ。世界のパワーバランスを塗り替える。戦争の道具だよ。私達の目的はそこにある。」
ダンジョンが出来て、たくさんの人が死んだ。それを悪びれも無く利用しようなんてどういう神経してるんだよ。
ダンジョンを世に放ったのは人間だ。コイツらはそれに集まって来ただけの話。
発生させた人間ってのを探さないとダメだ。やはり、ライラさんに直接聞くしかない。
「パーティって一体なんなんだ?」
「そりゃ戦争だよ。勇者同士の。勇者って特定の使命を持ってやって来るんだろ?私らは知らない。」
「ありがとう、皆で話合いするからまた後で質問するよ。」
「どうぞ、ご勝手に。」
俺は魔族達に背を向け、綾香、咲羅と向き直る。
決して魔族に対して油断している訳ではない。敵意を感知すれば自然とアイテムボックス内の罠が発動するようにしている。地味に嫌なやつ・・・。
「綾香はどう思う?嘘だと思うか?」
「私は嘘とは思わないわ。だって得武から聞いたブラハム様の話と凄い似てるし。魔族がダンジョンを発生させた訳じゃないって事にはビックリしたけど。」
「咲羅は?」
「私は、あの勇者とかライラがダンジョンを発生させた張本人とは思えない。スキルが戦闘職一色だったし。ダンジョンを発生させるアイテムがあれば別なんだけど。」
咲羅の呟きにエリシアは反応した。
「そのアイテムある!!私達の世界にはあったわ。ただ、数量に限りがあって世界規模で展開出来るような代物では無いけど。」
エリシアの発言に頭を悩ませる綾香。
「うーん。分からないね。」
意見が出ないまま話し合いが進まない。
それを打ち破るように咲羅が挙手する。
「やっぱり、私、ライラの所行ってみる。アイツいい噂聞かないけど。」
「それなら俺も同行する。」
「勝手にすればいい・・・。」
この兄妹のやりとりに頷く綾香。
「もちろん私も行く。でも、どうやって行くの?軍隊に喧嘩売っちゃったし。どこに行くにしても自衛隊とか軍隊とどこかで繋がってるでしょう?関所とか検問とか。」
「確かに。ここでクレハさんを待つか?」
俺の発言に嘲笑うのは魔族の青髪。
「モタモタしてると取り返しが付かなくなるかもよ。」




