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五十三戦目

馬鹿げた放送を聞く。


核が無いから戦闘が終わらない?そんな事より気になるのはモンスターでは無かったと言う事実。

人が、何かしらの理由で死なない身体を手に入れたという事。恐ろしい。


人間だって言う事は俺は人殺しをしていたという意味になる。モンスター相手と人間相手とは戦う理由が変わってくる。

俺の感覚ではモンスターは侵略者、人間は被害者。

でも俺は人間相手にダンジョンを攻略するという目的を持って侵略している事になる。

悪いのはどちらだ?


アナウンスを間に受ける訳では無いが確証はある。目の前にいる敵は確かにゾンビだ。

誰もこんな醜い姿になりたいとは思わないだろうし、何がどうなったらこんな姿になるんだ。

・・・・きっと、こんな姿にした奴がいる。


意識すると突然湧いて来る罪悪感。それをまだ見ぬ仮想の敵を作り正当化する、


「馬鹿!!攻撃の手を止めるな!!」


アルちゃんに怒鳴られる。

そうだ。俺が殺さなければ確実に綾香は死ぬ。

人だろうと敵は敵だ、殺るか殺られるかの世界で同情してる場合じゃない!!


「弱いって!!なんで人間ってわかった瞬間攻撃の手が弱まるんだよ!!貸せ!!俺がやる!!」


どうやら俺の攻撃の手が弱まっていたようだ。それを見たアルちゃんは戦いたくてくすぶっていた。

俺に憑依する。無断で。

一瞬ムカッときたが、確かに剣術ではアルちゃんの方が上だ。任せるとしよう。


粒子になってまとわりつく。

エリシアの時なら力が湧いて来るのだが。突然何か分からないが不協和音を感じる。


錆びた車輪を動かすような筋肉が軋む音。

だが、その不調を気にするほど敵は待ってはくれなかった。


アルちゃんが動くまま片手に愛用の剣を待つ。もう片方の手には・・・・なんと魔力で作った剣を生み出していた。


それを持ち、地面を駆ける!!

それはまさに舞踊のように優雅だった。

この二刀流の剣技に覚えがある。ゾアルだ。奴の攻撃によく似ている。


身体に回転をかけ、敵の集団を思いっきり真っ二つに切り裂き、体制を変えまた次の敵へ。エンドレスに動いて行くが。


息が苦しい。

合間に大きな深呼吸を挟む。

その隙を突かれ、殴り飛ばされた。俺らは大きく地面を転がる。


なんだろう。体が重い。

身体が思うように動かない。ゆっくり起き上がる。

4体ぐらいのゾンビに捕まれそうになり、後ろへ転がり避ける。


「シンクロ率が悪すぎる。」


ボソリと呟くアルちゃん。その言葉の意味を考える。


なんだって?シンクロ率?エリシアとアルちゃんの違い。この不協和音。

なんだよ。ようは相性最悪って事じゃねぇか。


被弾も多くなってきた。綾香のHPが半分を下回る。


(やばい。もう引こう!!)


主導権はアルちゃんにまだあるため、心に呼びかける。

眉間に皺を寄せた。、


「どこに逃げるんだよ!前のステージは着地したら即水責めの罠だぞ。」

(そっちの方が、まだ生還率があるかも。)

「ねぇよ!!死ぬぞ!!そんな事考えてないで少しは俺の動きに足並み揃えろ!!」


足並みを揃える!?憑依された時、基本的には俺に行動権がない。追い出すか、委ねるかだ。


一緒に動く!?

動いて同じ技を出す?どんな荒技?

それで生還するのならやってやる!!


よく思い出せ。ゾアルの動きを。

何度も受け続けたあの鬼の高速剣技を。


筋肉が滑らかに動くようになってきた。

意識すれば、自分のステータスの限界を超えて、もっと斬れる。もっと上手く戦える。


剣舞のスピードが上がってきた。

掴まれる回数、殴られる回数が減り、一撃で両断出来る回数が増えていった。


でも気を抜けばすぐ背後を取られる。

呼吸の続く限り斬り、後ろへ下がり呼吸を整える事を繰り返した。

でもだいぶ前に進んでる。


綾香の方を見た。

先程のモードは破られ、壁に背を向けて息を切らしながらゾンビを押し返していた。


もう少しで合流出来る!!本当、あと少し・・・


「得武!!秘奥義を使う!!」

(なんだって!?)

「行くぞ!神降ろしーーー」

「待て!!許可して・・・・」


・・・・無いのだが。止めるのが間に合わなかった。

全身に稲妻が走ったようだった。

身体中熱を帯び、節々が痛む。頭痛がする。


だが、身体中、魔力が血液のように駆け巡るのを感じる。

ーー力が溢れる!!

先程の錆びた車輪の動きはなんだったのか。俺成されるままに剣を振った。


無音の出来事だ。その一振りでゾンビが10体吹っ飛んだのだ!!

なんて馬鹿力。

いや、纏ってるオーラが違うのだ。


移動をする。

これはもう瞬間移動だった!!


無駄のない剣舞で敵を薙ぎ倒していく。

まるで豆腐を斬っているような感覚。


神々しすぎる!!本当に俺がやってるのか!?

感動のあまり込み上げてくるものがある。


そう胃から。酸っぱいものが。

あれ、ちょっと待って。吐く!!吐くって!!ストップ!!!

これ拒否反応出てないか?


無茶した甲斐もあって綾香の目の前の敵を切り伏せた。

周囲には真っ二つに分かれた敵の残骸だらけ。

元気な敵は遠くにいる。


「綾香、大丈夫か!?」

「エムル!!?それはこっちのセリフ。顔色悪いけど大丈夫?まさかゾンビ化!?」

「違う、違う。吐きそうなぐらい動き回っただけ。元気だって。綾香、本当に大丈夫か?」

「実を言うとね。倒しても倒しても甦ってくる。もう無理って思ってる。」

「そりゃそうだ。わかった俺に任せろ。必ず道を作る!!」


俺の声だが、中身はアルちゃんだ。

そのはっきりとした物言いに綾香の目はキョトンとする。「どうやって?」と言いたげだ。


剣を一振り!!

大津波が起きた!!

いや、正体は衝撃波なんだが、海を真っ二つに割くようにゾンビが吹っ飛んだ。


同時に俺の手が使い物にならなくなった。

憑依も解除される。


「もう、同じ攻撃は無理だ。綾香、走るぞ。」

「アルちゃんが憑依してたのか。だから強かったんだね。」

「解析は後で!」


俺たちは走った。敵がいない場所まで走り抜けた。

行き着いた先はトイレだった。何故かトイレに窓はない。

俺たちに逃げ場はない。完全に袋小路だった。


だから俺は入り口を錬金術で壁を作って塞いだ。



<交渉しましょう。私達の仲間になるか、ここで死ぬか。>


嫌なアナウンスだった。


「綾香、絶対に大丈夫だ。ひとまずHP回復に努めよう。」

「エムルごめん。魔法が使えたら。ホーリージャッジメントで一掃できるのに。」


ステージの特性一つでここまで苦戦させられるなんて。

いや、マイナスな事は考えるのはやめよう。


<私の問いに答えないって事は死にたいみたいね。ゾンビ召喚するわ>


俺は錬金術で壁を作った手前、この部屋全体に俺の魔力を流し込んでいる。

つまり、この空間にはよほどの事がない限り敵の魔法は干渉出来ない仕組みになってる。


綾香は盾を握りしめる。


「綾香、召喚は失敗する。大丈夫だ。」


俺が言った側からーー


<出来ない!?なんで?>


随分と慌ただしいアナウンスだった。

なにやら。ドンドンドンと物音がする。ごたついているのだろう。


<はぁ、はぁ、ま、いいでしょう。空腹て死ぬといいわ!!>


プッツンとアナウンスが流れる。

なんか緊張の糸が途切れたというか・・・・俺は大きく息を吐いた。

綾香はまだ緊張の最中にいる。落ち着かせる為にも後ろから声をかけた。


「出られないなんて考えないで今は出来る事を考えよう。必ず出る方法はある。」


振り返る綾香。その目には涙を浮かべていた。


「エムル。怖かった。みんな死んじゃうかと思ったよ。」


思わず肩を抱き寄せた。肌から感じる体温。綾香は震えていた。悔しそうに俺の服を強く握りしめる。

俺の懐で、綾香の息遣いを感じる。


「悪い。上手く立ち回れれずに怖い思いをさせてしまったな。済まなかった。綾香がいなければ俺たちは全滅してた。本当にありがとう。」


背中をささる。「うん、うん」と言いながらしばらく涙を流していた。



本当に今回はあのHP肩代わりするスキルに助けられたのだが、綾香は死にかけた。

俺は本当に肝が冷える。

俺たちは精霊界に行って強くなった気がしてたけど、本当にまだまだ弱い。

いや、俺が弱い。


しばらくすると気持ちが落ち着いたのか、綾香は俺の胸から離れた。


「ごめん。もう大丈夫。ありがとう。」


と涙を拭いながら。


「綾香、お願いがある。」

「何?」

「あのHP肩代わりするスキル、もう使わないでくれ。」

「使わないとエムル死んでたじゃない!!」

「おまえも死にかけただろ!!」


ピクリと、綾香は俺の声に驚いた。

綾香の口調に釣られて俺も熱くなってたようだ。


「・・・・悪い。怒鳴るつもりはなかった。」

「いいの、私もごめん。でも盾使いって皆の壁になる事が役目でしょう!!」

「俺は、綾香にそうなって欲しくない。安全な所にいて欲しいんだ。」

「私いないとエムル、無茶するじゃない!!」

「俺はいいんだよ!!綾香が無茶する意味わからないし!!」

「エムルの馬鹿!!」


結局喧嘩になっていた。

綾香はそう言って個室に引きこもってしまった。


俺はなんか言い返そうとして、頭が回らない。どっと疲れが押し寄せた。

先程の戦闘からずっと頭痛しっぱなしで、頭がぼーっとする。言葉がでない。


しゃがみ込んで、壁に背もたれた。

眠る訳ではないが、そのまま体力回復しよう。




しばらく座っていた。

気配がして、薄目を開けた。そこには耳の垂れた子犬がいた。ああ、アルちゃんか。


「さっきは強引な事してごめんなさい。」


あれ?頭を下げてる。アルちゃんってなんか悪い事したっけ?

窮地を脱した功労者ではあるけど謝られる事なんて身に覚えがない。


「なんの話?」

「得武の身体の事考えずに神下ろし使った。」


まあ、確かに手が痺れて感覚は無いが・・・・。それについてとやかく言うつもりはない。


「謝る事ないだろ。あれなかったら俺たち死んでたかも知れないし。」

「得武、おまえ、しばらく戦闘無理だろ?」

「そうだな。数時間は手足の感覚無いかもなぁ」


そう言って手をプラプラと振ってみる。

感覚なさすぎて自分の手じゃないみたいだ。


「悪かった。」

「いいって。気にするなよ。」

「気にするだろ。」

「休めば治る。」

「そうか。」


しばらく無言が続いた。


「綾香の事は大丈夫なのか?声掛けなくて。」

「・・・・・・・・。」

「お前が怒るって珍しいのな。」

「別に怒ってるわけじゃない。」

「そうか。」


会話が途切れた。静寂に包まれる。

何時間このままだろうか。それだけ長い時間だった。

半分うとうとしていただろうか。


「咲羅ちゃん!?」


しばらくしてその綾香の声に意識が覚醒した。

個室から緑色の光が溢れる。


ステータス画面上、綾香のHPがMAXになった。

え?待ってどういう事?

眠っていた咲羅の目が覚めてそして・・・・


「ありがとう!元気になった。」


元気にしたと。何が行われてたのだろうか。謎だ。

咲羅に回復スキルってあったっけ?


考えてると不意にドアが開く。飛び出してくる咲羅スライム。何気に早い!!


「痛い!!いだだだだ!!」


首筋に激痛が!!

と思ったら咲羅が俺に噛み付いている。俺、何した?

咲羅は不機嫌だ。何故?綾香を怒らせたから。

さては代わりにキレてるな!!


「咲羅、ストップ、痛い痛いって。わかった。俺が悪かったから。」


噛みつきが止まる。

だが頭の上でマウントポジションを取っている。恐ろしや。


「綾香。」

「・・・・。」


返信はない。やはりまだ怒ってる。


「放置して悪かった。そして、言いすぎた。」

「・・・・遅いよ。」

「済まない。」

「エムル。私もごめん。でも皆を守る為、あのスキルは辞めないからね。」

「使いたければ使えよ。ただ俺が、そのスキルが必要無いぐらい強くなってやる。」

「期待してる。」

「作戦立てようぜ。」


ゾンビ、首を斬っても、首を脇に抱えて襲ってくる。

吸血鬼。致死ダメージ入ると、何十匹かの蝙蝠になり羽ばたき、また数分後には体力全快で襲ってくる。

キリがない。

そして50体以上いる上に、それ全部モンスターではない。


「エムル。」

「なに?なんか思い付いたか?」

「もし、ここからもう出られなかったらさ。」

「出られなかったら?」

「最後にき・・・・」


俺も咲羅もアルちゃんも固唾を飲んで綾香の言葉を待っている。

その様子に気付き、顔を真っ赤にした。

なんだろう。この状況何?


「最後に?」

「な、なんでもない!!忘れて!!」


引っ張っておいてそれはない!気になる。めっちゃ気になる!!


「待て、忘れられるか!!」

「なんでも無いから。本当に。ああもう。」


真っ赤になって何を言おうとしたんだ?


「本当に?」

「本当に!!!」


これ以上突っ込んだら睨まれそうだ。


「話戻すぞ。作戦なんだが・・・・」

「そう。作戦なんだけど、咲羅ちゃん、憑依して闘って貰うのってどうかな?」

「綾香、言っておくが、咲羅は精霊になったわけじゃ無いぞ。憑依って無理だろう。」


綾香はチラリと咲羅を見た。その視線に咲羅は震える。


「いや、出来るんだよ。ねぇ咲羅ちゃん。」


ピクリと反応する咲羅。

プルプル震えて、何を伝えたいのかわからない。だが俺には訴えてるのはわかるぞ。


「無茶振りするなよ。難しいって言ってるだろ。」

「えっ!!通訳間違えてるってエムル。出来るよって言ってるんだよ!!」

「待て、兄弟で付き合い長い俺が言うんだから間違いないだろ。」

「女心分からないくせに?」

「綾香、ちょっとまて。さてはさっきの根に持ってるな。」


その会話に笑いながらアルちゃんが割って入る。


「得武、さっきの戦闘で痛めた手の感覚は戻ったの?」

「それがまだなんだ。」

「じゃ、しばらく戦闘無理だね。じっとしておこうよ。」


その会話を聞いて綾香は目を細めた。


「エムル。負傷したの?」

「身体の限界を超えて動かし過ぎたみたいだ。」

「それって大丈夫なの?後遺症残るの?」

「それは心配しすぎ。だいぶ回復してるし大丈夫だって。作戦練るぞ。」

「作戦なんだけど私はーー」



俺たちはしばらく作戦を話合いながら時間を過ごした。

手の痺れが抜けるまで結構時間がかかった。

何回か寝ては起きてを繰り返した。


腹減りは頂点を達し、引っ込むを3回ぐらい繰り返した。



そして作戦実行の時を迎える・・・・

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