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五戦目

*咲羅視点





決して自分の実力を過信していた訳じゃない。

なんでそんな行動に出たのか自分でも分からない。

自身の剣道着の乱れを整えて階段を駆け降りていった。


「新子!!」


私が倒さなきゃ誰かが死ぬ。そう思って吹奏楽部の男子の呼びかけを無視して走った。敵のいる方向へ・・・


でも現実ってそんな甘いもんじゃないという事は一階まで降りてようやくわかった。

尋常じゃないほどのオーラを感じる。強者の気配である。


そいつがやったであろう痕跡が多数・・・ボロボロの壁、破壊された靴箱。何か引っ掻いたような天井の傷。壁には飛び散った人の血・・・

地面は歩くスペースがないほどの血の池がたまる。


なのに死体がないのだ。10人分以上の血液はあるだろうに・・・。

死んだ化け物も人間も地面に取り込んで消してしまうこの現象・・・。本当に生死の実感が湧きづらくとても気持ち悪い。死んだら黒い泡になって消える。一体この世界はどうなってしまったのだろうか?

実は夢で、明日はいつもの日常が待っているのか?


そんな甘い幻想を振り払う。


ここは戦闘の跡地・・・。問題の化け物を探れ探れ探れ!!気配で感じろ!!私、得意だろ!!


なんとなくだが、強く禍々しい気配のする問題児は理科室にいるみたいだ。

私は呼吸を整える。血の匂いが鼻腔をくすぐり、酷い吐き気に見舞われるのだが、我慢だ。

格上と戦う時、絶対に自分のペースを乱したらダメだ。あくまで冷静に・・・。呼吸が乱れたら焦りが生じてミスを招く。絶対にそれだけはダメだ。


問題の理科室。深夜の理科室など誰が好んで入りたがるのか?それも連続殺人魔の化け物がいる場所に・・・。


私は理解室のドアを開け放つと・・・この中もまた血の池が出来ていた。

暗闇の中・・・理科室の奥で禍々しい存在が月夜に照らされる。逆光で分かりづらいのだが、身体2メートルのシルエット、肌は筋肉質で褐色で、青い血管が浮き出ているのを理解した。頭に2本のツノそして両手に刀を持っていた。


その化け物はゆっくり振り返り私を見た。顔はまさに鬼そのもの。阿修羅像さまさまである。


私は竹刀を構え、剣先に魔力を・・・気を集中させる。


鬼もまた刀を胸の前でクロスさせ、ゆっくりと近寄ってくる。ビーカーとか試験管とか、コードとか、引っかかっても我知らずゆっくりとこちらへ向かってくるもんだから、ガラスが割れる音が無数に響く・・・。


狭い場所じゃダメだ!咄嗟に後ろに飛び、廊下の窓を背面で突き破り中庭に出た。


鬼はニッコリと笑った。そして・・・瞬間消えた!?


「早い!早すぎる!待って!」


目に追えるスピードではなかったという事。


気配は後ろに・・・背中にくくりつけた刀の鞘で鬼の攻撃を受ける。前のめりに転がりそうになった。ぐっと踏ん張って振り返ると、鬼は横にいた・・・横腹を蹴られ地面を転がる。


受け身を取り、即座に立ち上がって鬼の斬撃をかろうじて躱す。正直言って勝てる気がしない。


私のステータスがオール50なのに対し、奴はきっと4倍以上のステータス差があるだろう。レベルが命に直結する。ステータス至上主義。

嫌だなそれ、私なんの為に剣道やって強くなったんだろう。ステータスとかスキルとか、便利なパワーアップするコンテンツで強くなって・・・努力してきた私が馬鹿みたいだ。


<スキル魔女の血が発動!魔法を使用します。AGE倍化>


スキル・・・なんて意識したらスキルを発動したようだ。

AGEという事は素早さとか動体視力とかに直結するようだ。

スキルを発動すると、鬼が急にゆっくりに見えた。


ゆっくりなんていうと語弊がある。

AGE倍化のスキルを使用してもまだ、鬼の方が早いのは間違い無い。

だが、反応出来るか出来ないかで言えば大きな差がある。

何故ならちゃんと剣の試合として成り立っているのだから。


敵のモーションは剣道に似ている。面、小手、銅・・・。上段突き、下段突き・・・。全ての攻撃を捌いて、私は体のバネを利用し回転斬りを放つ。

鬼の双剣を斬り払うと一歩後退りさせた。


私は・・・相手の気の流れを読むだけで相手が何しようか手に取って分かる。

スキルとかいう便利なものではなく、長年剣道で培った感覚である。この技術で体格差関係無しに剣道中学生部でトップに躍り出た。ようは先読みである。


その先読みすることでスピードの差を埋め、次の一手を打つ。相手に隙を作らせる。


「咲羅ちゃん!」


何故綾香ちゃんが中庭に来ているのか・・・?こんな危険な場所に!?


綾香ちゃんとは小学校が一緒で、家も近い。気がつけば兄と共によく遊び合う関係になっていた。

私は昔から期待され、剣道漬けの日常だったけど小学校のうちは剣道のクラブ活動をブッチして綾香ちゃんの家に遊びに行った記憶がある。

綾香ちゃんの部屋には漫画やオシャレ雑誌がいっぱいあった。

剣道漬けの人生だったけど、綾香ちゃんと遊ぶその瞬間だけは私は普通の女の子でいられた。ほんの息抜きである。


遊びに行くとよくおばちゃんからロスしたパンを貰った。

その日々は楽しかったし、綾香ちゃんの温厚な性格は私にとって良い癒しである。綾香ちゃんに何かあったら・・・嫌だな・・・


死んだら黒い泡となって消えるんでしょ?おばちゃんになんて言うの?

遺体はないけど目の前で死にましたって!?そんなの嫌だよ!!!


綾香ちゃんか私を呼んだその声に鬼は反応した。


ーーもしかして綾香ちゃんに危害を加えようとしてる!?


その不安は現実のものとなる。

私に背を向けたコイツに私は叫んだ!!


「そっち行くな!!私を見ろ!!」


<STR倍化しました。攻撃力が上がります。>


もう感覚の世界である・・・意図せず、魔法も使っていた。竹刀にありったけの魔力を込めて斬りつけた!!

狙い通り軌道は首へ吸い込まれる。強烈な打撃音のもと、切り落としたかのように思った。

現実はそんなに甘くない・・・目の前に広がるのは竹刀が折れている事実のみ。


その瞬間、鬼の目が私を見て光る。

ああ、鬼の斬撃が来る・・・

そう思った時にはもう遅い。さっきの攻撃で剣を思いっきり振り抜いてしまったのだ。体制が悪すぎた。


折れた竹刀に魔力を込めて鬼の一撃を正面から受け止める!

私は斬り上げられ、まるでボールのように飛んでいった。

2階の校舎の外壁に叩きつけられる。


自然落下による浮遊感。

思いっきり叩きつけてくれたおかげで目が回る。

だけど、奴から放たれる気が、私と敵の位置を明確に教えてくれる。距離にして4メートル弱というところか。


私は目を閉じて身体を捻り着地した。でも無理な体制だったため転んでしまう。


そんなのあいつにとって4メートルは一歩で埋まる。

立ち上がらないと・・・


私のHPは残り僅か。

心は戦えと叫んでる。だが、身体が動かないのだ。竹刀も折れている。


一度でも斬撃受けてないのに力負けなんて。残念すぎる。

私はまだ、戦いたい。

負けてない!


「咲羅ちゃん、死んじゃ嫌だよ!!ライトヒール!!!」


その声は綾香ちゃん?


「ってやっぱりあの化け物私を見てるよね・・・スルーしてくれないかな?無理そう・・・」


と独り言をブツブツ言っている。そんな綾香ちゃんの手が震えていた。

よく見たら教室の扉を大事に抱えてるし。盾のつもりかな?


「あ、ダメ?マジ無理!無理無理無理い!鉄壁ぃぃい!」


本気で泣いちゃった。

瞬間、「ドォォゴォォン!!!」と教室の扉にトラックが突っ込んだかってぐらいの衝撃が加わった!!

その衝撃で綾香ちゃんの足元に大きな亀裂が入ってる。

でも教室の扉は無事。


物理的にあり得なくない!?とか、どうなってるの!?とかいろいろ現実的な事を考えても仕方ないので、見たありのままの光景をそのまま受け入れる。よって・・・


教室の扉って頑丈だったんだね・・・不思議だ!!


という感じで眺めていた。


「もう嫌ぁ〜。煮るなり焼くなり好きにしてぇ〜」


ボロボロ泣いてる綾香。怪我の具合は割と無傷っぽい感じする。スキルの効果かな?


そんな事考えながら、私は怪我が治ってる事に気が付いた。

ライトヒールとか言ってだっけ。

私の為に命をかけて掛けてくれたんだ。回復魔法。狙われるのを知りながら・・・私は思わず


「綾香ちゃんサンキュー!命の恩人だ。」


と綾香ちゃんをハグした。


「咲羅ちゃん・・・助けて・・・。私もう無理・・・。」

「わかってる。私が後は引き受ける。刀返して貰うよ。」


綾香ちゃんが大事に持ってる刀を手に取る。

敵をしっかり見つめながら人生初の願い事をした。


ーーご先祖様。私を、私達を守る力を私にください。


<魔女の7つ道具を解放しました。魔女の鎌によるステータス上昇があります。スキル魔女の血による相乗効果により使える魔法の幅が広がります>


そんなアナウンスが流れる。

仏壇の奥に先祖代々祭られていた刀だから何かあると思ったけどそんな隠しアイテムだったなんて。

でも鎌?アナウンス鎌って言ったよね・・・見た目、刀なんだけど。

アナウンス目が悪いの?


「小娘が。まだステータスが上がるか。」


鬼が喋った!そして笑った!

私は臨戦体制をとった。


<強化魔法使用。全ステータスが倍になります。>


倍ってどれぐらいだろう。この感じ3倍かな。

鬼に突進した。鬼は双剣、私は刀一歩の差もあるだろうが・・・。何度斬っても双剣で防がれてしまう。なので私は作戦を変えた。投げ技である。

鬼の胸ぐら掴んで、宙を舞った!!そのまま三回転スピンを掛けて飛び・・・空中で逆さまになる。頭を地面に向けて横回転・・・トルネードスピンを掛けて地面に落とす。


ダメージは浅い・・・。私の手を振り払いーー


「ガァッ!!」


鬼は吠えると同時に刀を十字に構え、突進して来た!!

真っ向から受けると力負けをしてしまう!!

それに対して私は抜刀、一閃!

鬼の突進。その抜刀の一撃で振り払い、私は後ろに跳ぶ!!

身体を捻り足で着地。また地面を蹴る!


私の基本の構えは剣道と変わらない。なの試合形式の構えよりはだいぶ崩れている。何故なら相手の狙いが急所以外にも分散しているからだ。こうなったらもう我流と言った方が良いだろう、そんなレベルだ。


私の基本の構えから繰り出す高速の面、胴、小手とコンビネーションを叩き込む。そう簡単にダメージは与えられない。鬼は剣を器用に回転させ防がれた。めちゃくちゃな動きで全く次の手が想像付かない・・・そう思ったら・・・

一撃、二撃、三撃と来るその突撃をすり足で躱す。

私も反撃だ!!鳩尾目がけ突の一撃!

左の剣で防がれ、右の剣の猛威を身体を捻り紙一重で躱す。

頬に血。こんな事が出来るのは双剣の強みだろう。

袴が切れた。


体制が悪いのでバク転で間合いとる。

回転間際に成り行きで鬼の顎に蹴り入れといた。

着地と同時に剣を振り上げ牽制。

初期フォームへと戻る。


「剣が折れないって最高!」


<オーガに攻撃が入りました。マジックドレインの効果でMP10奪います。刀に貯蓄します。>


そんなアナウンス流れてもどんな利点があるのか分からないんですけど!!


なんて心の中でキレたら目の前にステータス画面とスキル詳細画面が現れた。


[刀に貯蓄した魔力。それを解放する事で量に応じた魔術を解放。]


よし。なんか面白いスキルきた!!


「解放!」


エアロブラスト発動。


剣先から風波が伸びた!!

トルネード状の渦を巻きながら飛んでいき。真空の刃が飛ぶ。

剣先の向こうに鬼の顔がある。頬の肉を抉り飛ばす。


<ダメージを確認MP12吸収>


あれ、これエンドレス魔法?

でも対して鬼の方は大したことない様子。

やめよ。弱い。


「小細工は終わりだ小娘!!」


鬼が吠えた!

血管が膨れ上がり筋肉が膨張。

身体が真っ赤になる。


「新子!!神卸しだ!止めろ!」


頭上から声がする。先程の吹奏楽部の男の子の声だ。

よく見たら校舎の3階2階に生徒の顔・顔・顔。生徒たちが私を応援してくれていたみたいだ。私は声を掛けてくれた男の子に質問する。


「神降ろしってなに!?」

「ステータスが倍になる!手に追えなくなるぞ!」



なんで知ってるの?そんなスキルでも持ってるのかな。


「ありがとう、でも大丈夫!」


通常手段で勝てないなら頭を使え。もっと効率よく魔力使って敵を破る!!

どうすれば敵を倒せるのか?ステータスが命のこの戦闘。常に相手を上回るステータスで立ち回らなければジリジリHPが削られて死に至る。ならどうすればよいのか?考えろ私。その答えは魔法の使い方にあるはず。


身体強化魔法を止める。この断続的に感覚で行ってきた身体能力向上の魔法をもっと効率よく発動させる。その手段とは・・・?

部分的に発動する事だ!!


<AGE倍化>


英語ばっかでよく分からなかったけどこれはスピードに関係するステータス。

他のステータスを捨て、素早さのみに魔力を集中させる。そうする事で10倍にまでステータスが伸びた。


もっと早くするには?極論足と腕だけ早ければ良いんじゃない?振り切った理論のもと構築されたチグハグな魔法である。

これが型にハマった。斬る!斬る!スピードなら完全に私が上。ガードの上から無防備な素肌に斬撃を見舞う。

反撃を返させず私の攻撃だけ一方的に通していく。


30回ほど斬っただろうか・・・MPドレインで魔力奪う。

しかし、軽い傷しか入ってない。やり方を変えなければ・・・


そう考えた瞬間、敵の双剣に私の刀が絡め取られた!!

刀が持っていかれる!!

そう思ってステップを踏み、体制を変え刀を奪い返す。

すると蹴りだった・・・カウンターの一撃を貰う。


VIT強化!その魔法を刀に流し、刀でガードする。衝撃は分散した。

私へのダメージは2%減・・・余裕。

気合いで応急処置して…HP5回復。


<スキル自己再生を取得しました>


一呼吸置き精神統一。MP5回復。


<精神統一を取得しました>


「うがぁぁぁああ!!!!」


突然、鬼は理性を失った。筋肉は更に隆起し、とにかくデカく見える。そんな奴が突進して両手の剣を振り回すもんだから、まさに狂気乱舞。

以前に増して攻撃力が高い。一つでも直撃すれば私は即天国いきだろう。

その攻撃の激しさは増しているのだが、私には当たらない。

攻撃がパターン化している。攻撃が、ステータスが上がったとしてももう私の敵じゃない。

適宜、精神統一を行い自分の消費MPを補い、強化魔法切れをカバーする。


「咲羅ちゃん!ちゃんと避けて!防いで!血が飛んでる!

HPガンガン減ってる!」


綾香ちゃんの声に気を引き締める。

紙一重の回避が5分は続いただろうか。

鬼の身体が褐色に戻る。

勢いが落ちた。

もうエンドで良いだろう。

刀にありったけの魔力を込めて。


<一定の魔力を感知しました。魔女の鎌スキル[マジックドレイン]はステージ2に移行します>

刀は紅く光る。そして刀の魔力を解放する。


「カタスエクスプロージョン!!」


これが奪ったMPで使えるスキル。ステージ2。

剣先から炎、爆炎が上がる!その爆発力でスピードが乗り、回避不可能な斬撃と化していた。3連撃。


これが止めとなった・・・

見事に輪切りにされた鬼の姿がそこにある。

死に際に鬼は笑った。見事だと言わんばかりの表情浮かべ、斬った断面から爆発が起きた!!


炎の煙で姿は見えなくなった。これはオーバーキルと言っていいだろう。


「うわっ煙くさっ!」


自分でやっておきながら私は咳き込んでいた。





こちらも覗いて頂けたら幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n2498ih/


エルフの少女に転移した俺は神子として崇められる。無自覚に無理難題を解決する内に現実世界でも無双(大暴れ)する。


・・・タイトル通りの展開です。

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