四十六戦目
* 咲羅視点。
普段は馬鹿兄貴なのにやる時はやる。
兄ちゃんのレベルは相変わらず低いままなのだが、装備がやばい。
見た目倒しもいいとこだ。
でも見る人が見れば分かる。
兄ちゃんが作ったであろう装備は最上級クラスに強い装備だ。伝説級と言っても過言ではないだろう。
同じく綾香ちゃんの装備もおかしな事になっている。
だいぶ反則な2人だろう。
離れたところで戦闘する2人はもう無双状態だった。
綾香ちゃんがターゲットを取り、得武兄が、精霊魔術とかいう他力本願な魔術を使う。
赤の他人はずの得武兄に代わって精霊達が魔法を放つのだから不思議な光景だった。
綾香ちゃんは硬い。昔から硬かったけど、いつからこんなに強くなったんだろう。
例を挙げれば、河童との戦闘。あれは一瞬だった。
綾香ちゃんはついこの前まで全然弱かったのに、今ではレベル100クラスを瞬殺だ。
あの魔力の込め方はやばい。
私より強いんじゃないのかと思ってしまう。
回想しながら、敵の殲滅具合を眺めていた。
そして私を監視するこの精霊2体もなかなかの強者だ。
犬の方よりも、背中に羽の生えた妖精なんだかエルフなんだか。こっちの方が反則級だろう。
多分得武兄はこの精霊達に鍛えられたのだろうと悟る。、
「ねぇ咲羅さん、こっち見たよね。」
エリシアさんに気づかれた!!
気配察知とかスキル持ってらのだろうか?
無視無視。私はただのモンスターです。
思ってたら、犬の精霊が目の前に立ち塞がる。
え?何?
「エリシア。やっぱり僕達の事見えてるよ。」
犬が喋った!!
いや、精霊か。
「アルちゃんもそう思う?やっぱりそうよね。ちゃんと意識あるよね。」
この犬の精霊といい、完全に私をロックオンだ。もう逃れられないと悟った。
私はうなづく。
「あの河童となんの話をしてたの?」
単刀直入だった。
私の従魔にならないかって話なんだが。
人に危害を加えられても困るし一応仮契約を結んでおいた。
頭で回想するけど、言葉に出来ないんじゃ伝えられないよね。
念話なんて便利な技ないし。
「全然わからない。」
エリシアさんはお手上げだった。
でしょうね。
得武兄に危険が及ぶ情報なんて渡してやるもんですか!!
思ってた矢先、伏兵がいた。
「僕元々モンスターだったから分かるよ。従魔にしたんだって。」
(こら!犬っころ。余計な事言うんじゃない!!)
「アルちゃん、でかした。通訳して。」
「うん!!」
やばい。情報を抜き取られる。
精霊2人がニヤリと笑う。
「従魔にしてどうするの?魔物の帝国でも作るつもり?」
(そんなつもりはない。得武兄に危険が及んだ場合、助ける為に仲間は必要。)
「え?もしかして、あなたは咲羅なの?」
意識だけを移してるからどうだろう。
本人だと思いたい。
その回想すらもアルちゃんは汲み取り、通訳する。
「誰にやられたの?」
(記憶奪われちゃったからよくわからない。)
通訳を通す。
「誰に記憶を奪われたの?重要なところよ思い出して!!」
(身近な存在?あれ?勇者だったけ?)
「らちが開かないわね。」
エリシアの気持ちと犬っころが私から意識を逸らした瞬間、高速で頭を回転する。
私には目的がある。得武兄達を危険な目に合わせない。
後、私をこんな姿にした勇者への復讐だ。
得武兄を危険にする情報は一切渡すつもりもないし、私の身体は自分で取り返す。
だから、意地でも強くならないといけない。
私はレベルを上げる。魔物だろうと戦力になるなら仲間にする。
綾香ちゃんだって限界突破してる。私も限界突破の方法編み出して限界突破する。
これ絶対だ。
(アルさんアルさん!!通訳して。私からも質問する!!)
私は犬っころに問い掛ける。
コクリとうなづいた。
「咲羅さん、なんですか?」
(エリシアさんは異世界旅したんですよね。河童の情報、どう見るのですか?話ぶりに幽霊が神さま的な存在に魔物化したような内容だったじゃないですか。)
「神さま的な存在かどうかは分からないけど、異世界には屍人使いっていうジョブがあったりグールパウダーっていう人を魔物にする粉があったりする。」
(日本全国で幽霊が魔物化したって事でしょう?神の仕業以外で物理的にそんな事できるの?)
「魔王を撃破するクラスの異世界人が5、6人集まれば可能よ。屍人使いのスキルで拡散だわ。」
(仮にその異世界人の仕業だとして、どうしてそんな事する意味があるの?野崎先生クラスが魔法全力でぶっ放して回れば天下統一一瞬よ。)
「そうよね。動機が見えないわね。」
(それに、もう一つ質問!!ダンジョンってなに?ダンジョン攻略するとダンジョンマスターになれるってあのシステム何?)
「あら、異世界では当たり前の事よ。ダンジョンは資源。攻略するとダンジョンマスターになり、ダンジョンの力を得る。ダンジョンマスターが多くいる国が世界を収めてたの。」
(あくまで私の意見だけど異世界人達が、地球で生きやすいように異世界化を企んだんだと思う。ダンジョンだって、不自然よ。)
「待って!!情報がないのに憶測だけでそこまで飛躍しないの。異世界人だって、モンスターが溢れたら住みにくいのに、なんでわざわざモンスターを生み出すの?異世界と同じ環境にする理由って何?動機が不十分だわ。」
(そうよね。)
「でも、咲羅さんのおかげでいろいろ頭の中が整理されたわ。」
(こちらこそありがとう。そして、お兄ちゃんを守ってくれてありがとうございます。)
「いえいえ、こちらこそ得武兄にはお世話になってます。」
(エリシアさん、お願いがあるんだけど)
「何?」
(レベル上げたい)
それを聞いて私もじっとしていられなくなった。
エリシアに監視されていて戦闘出来る雰囲気ではないんだけど。
「レベル1のスライムがどうやって?少なくともレベル1のモンスターなんて居ないわよ。」
(無理しないから見てて。)
私はスライムレベル1。
持ってるスキルなんて本当ない。
ステータスオープン出来るのなら、全ステータスが一桁の弱者だ。
そんなスライムでも出来る事がある。
隠密行動で敵に狙いを付けられないようそろりと移動しながら敵を探す。
レベル5のゴブリンを見つけた。
叡智を思い出せ。
何度も魔法を生み出し、頑張っただろう?
全魔力を振り絞り魔法を紡ぐ。
狙いを核に。アイスニードル!!
更に鋭利化のエンチャントを加え、ジェット噴射!
ゴブリンの背後からゴブリンを貫いた。
胸に大穴が開き、一撃で大破。
あれ?レベルが上がらない。格上を倒したんだからレベル上がるだろうに。
何故だろう。
「レベル5のゴブリンを一撃。さっきの魔法、本当にアイスニードル!?威力がおかしい!!」
エリシアが感心して私を見てる。
(そりゃ経験の差よ。散々倒したんだから核の場所ぐらいわかるわ。)
「今の魔法、固有スキル?魔法創造でもあるの?」
(いいえ。ないわよ。)
エリシアの指摘は鋭い。
スキルを持っていないのに、なんで叡智と同じような事が出来るのか。それはスライムになる前、叡智を使っていろんな魔法を生み出した。
その魔法を何度も繰り返し使って、身体に染み込ませたのだった。
何故そんな事をしたかと言えば、昔からの習性でもある。
剣道も、素振りを何千とやって強くなった。
体に染み込ませるのは癖になっていたのだ。
今ではスライムになる前に持っていたほとんどのスキルは体が覚えてる。
「不思議ね。」
エリシアの隣、アルちゃんがモンスターに死体に向かって吠えている。
「咲羅。早くしないと核、消えちゃうよ。早く吸収しないとレベル上げの意味なくなるよ。」
(核を吸収?待ってよくわからない。)
「モンスターはモンスターなりのレベルの上げ方があるよ。魔物の核を飲み込むんだ。消える前にだよ。砕けた核でも十分に効果あるから早くしようよ。」
アルちゃんが私の目の前で丁寧に教えてもらった。
半信半疑でバラバラになった核を飲み込んだ。
なんかレベルアップしたかな強くなったきがする。
体力増強のスキルを貰えた。
(あれ?なんでアルちゃんそんな事知ってるの?元々魔物だったみたいじゃない)
「そうだよ。生前、ゾアルってボスやってたんだ。レベル250だったんだぞ。強いんだぞ。」
(失礼のようだけど、そんな強く見えないわ。)
「死んで、精霊化して貰ってからは性格もレベルもリセットしちゃったからね。今僕、レベル70なんだ。」
(へぇ。そうなんだ。)
大きく深呼吸。
スキルないけどやればできる!!自己再生と精神統一。
もう一回MP全回にして魔法を紡ぐ。
今度は2本同時にアイスニードルを放つ。
ゴブリン2体の心臓部に穴。
核回収。また強くなる。体力増強のスキルのレベルが上がる。
核を吸収するごとにスキルを入手するのかな。
また精神統一を。
「咲羅さん!危ない!!」
エリシアが叫んだ!!
背後から斧が振り下ろされる。
私はその斧に真っ二つされた。
そのように見えただろう。
「幻影」
殺されたのは私の残像である。私は無傷。
レベル20のオークが立ちはだかる。
私はその頭の上に乗っていた。
「アクア」
私は超濃縮した水を発生させた。
オークの喉、器官を塞ぐようにする。
その水、実は、体内の酸素を奪う役割がある。
次第にオークは苦しみ、大きく暴れ始めた。
適当に振り回される斧。
一度でも当たれば命はない。
私は飛び回るように逃げ回る。
「咲羅さん、助け呼ぶから待って!!」
(エリシアさん、助けいらない。余裕だし。黙って見てて。)
さすがのレベル差苦戦している。
スピードも何もかも格上。そんな様子にエリシアはヒヤヒヤしてたのだろう。
そんな状況下でも私は冷静だった。
アルちゃんはエリシアの尻をかじりつき止める。
私の余裕を理解してくれたようだった。
「エリシア。面白いところなんだから黙って見てなって。」
器官を塞がれたオークは冷静さを失い、攻撃が単調。そんな攻撃当たる訳がない。
私の幻影に翻弄され続けてる。
「嘘。咲羅さんって一体なに?なんで、スキル持って無いのにスキル使えるの?」
またもエリシアは驚く。
理由は簡単。体に染み付いてるから。
スキルってあくまで覚えるまでの導入で、本番はそのスキルを自分なりに磨いていく事。
オークの動きが鈍くなる。
私は更に水の変化を加えた。
魔力濃度を濃くする。
この水は体の酸素を奪うだけでなく、身体に流れる魔力の方向を不規則にする。
普通の人間がこれをされても意味はない。
でも魔力が非常に高い人や、そもそも存在自体が魔力で成っているモンスターなどがこれをされると体の内側がめちゃくちゃになる。
「ぐゔぅぅぅあああ!!!」
砕けた石像のように全身から亀裂が入り、血が噴き出る。
崩れ落ちて動かぬ者となった。
レベル5程度のスライムが、レベル20に勝った理由。それは魔力耐性の低さにあった。
そもそも魔力耐性が私より高ければ体内に私の作った水なんて発生出来ない。
後はオークが戦闘ど素人だった事。
名だたる剣豪のオークだったら幻影如きに惑わされないだろう。窒息如きで冷静さを失わない。
(魔力ギリギリ。)
私はポツリとそう呟いた。
アルちゃんがそれを見て笑ってる。
「咲羅、お前って面白い奴だな。」
(どういたしまして)
核を吸収。
暴食のスキルを入手。
スキル内容は?
食べ過ぎても胃もたれしない。解毒作用。経験値、スキル経験値上昇。
なるほど強い。
「レベル10突破おめでとう。」
エリシアにポツリと祝われた。




