『大好きなお兄ちゃんを助けるために異世界に行くことになったので、どうせならお兄ちゃんと恋愛が出来るようにと神様に転生をお願いしたら、男にされてしまったのだが』という話を考えながらプロローグを書いてみた
……ボクはお兄ちゃんのことが大好きだった……
たとえお兄ちゃんに好きな人がいたとしても……
今はお兄ちゃんのことを覚えている人は誰もいない……
そう考えると、本当にボクにはお兄ちゃんがいたのかすら怪しく思えてくる。
もしかすると、全てはボクの妄想だったのかもしれない。
でも、たとえ妄想だったとしても、ボクはその記憶を消したくないと強く思っている。
徐々に薄れていくお兄ちゃんに関する記憶。
……ボクはいつまでお兄ちゃんのことを覚えていられるのだろうか……
「……もう朝か……」
ベッドに仰向けの状態で天井を眺めながら、お兄ちゃんとの大切な思い出を反芻する。
「よし、まだ忘れてない!」
ボクは小さくガッツポーズをした。
「……それはそれとして、いい加減、起きないとね……」
ガバッ!
勢いよく布団をどかして、ベッドから飛び降りる。
そして、パジャマから制服へと着替えた。
ガチャ!
「お母さん、おはよう」
リビングのドアを開けて、台所で食事の準備をしていたお母さんに挨拶をする。
「おはよう、燈真里。昨日はよく眠れた?」
「んー、あんまり……」
「よく少ない睡眠時間で身体がもつわね」
「……うん……」
そう返事はしたものの、正直、寝不足である。
……だけど、お兄ちゃんとのこと忘れてしまうよりはよっぽどいい……
寝不足も辛いけど、お兄ちゃんのことを忘れてしまうことの方がもっと辛い。
「昔は早寝遅起きだったのにね。いつから睡眠が不足するようになったのかしら?」
「……いつからだろうね……」
ボクは苦笑する。
お兄ちゃんのことを妄想かもしれないと思った一番の理由。
それは両親ですら、お兄ちゃんのことを忘れてしまっていたから……
それでも、最初の頃は、お兄ちゃんのことを覚えているような素振りはあったが、今では完全に覚えていない様子である。
お兄ちゃんのことを、誰?
と言わせたくなくて確認は出来ていないけど……
ボクもいつかそうなってしまうのか。
ただただ、それが怖かった。
でも。
……いっそ忘れてしまった方が楽なのかもしれない……
◇
パン!パン!
ボクは通学路の途中にある神社で、いつもお参りをしている。
お兄ちゃんのことを忘れないように祈っている。
……今日もお兄ちゃんのことを忘れずに一日過ごせますように……
「毎日、熱心だね」
「神主さん」
お参りを終えると、神主さんが声をかけてくれた。
「いつも真剣にお祈りを捧げているから、よっほど大切なお願い事をしているんだね」
「はい、ボクの大切な人のために祈っています」
「そうかい、それじゃあ、その人が幸せになれるといいね」
神主さんが微笑みながら、そう言ってくれた。
「はい、本当にそう思います」
ボクはそう言った後、神主さんに一礼して学校に向かった。
「……ここでお兄ちゃんと別れたんだよね……」
通学路の途中にある商店街の通路。
ここで、ボクとお兄ちゃんは生き別れた。
生き別れたと表現したのはボクの願望。
お兄ちゃんが生きているという保証はどこにもない。
今からちょうど二年前、ボクはここで血だらけになって倒れていた。
血だらけになったボクを見て、通行人の一人が急いで救急車を呼んでくれたんだけど、その時にはもうボクしかいなかったらしい。
そして、更に奇妙な事に、刺し傷の痕は残っていたが、診療した時には傷が完全に塞がっていたので、
「治りが早すぎる」
と、お医者さんが不思議そうに言っていたという話を、後で両親から聞いた。
その不思議な現象と、お兄ちゃんがいなくなったことには何か関係性があるのではないか。
ボクはそう思っている。
通る度に悲しい気持ちになるので、本当は通りたくない道なのだが、お兄ちゃんのことを忘れたくない一心で、登下校時には必ず通るようにしていた。
「先生、おはようございます」
「おはよう、燈真里ちゃん」
教育実習に来ている先生。
昔、お兄ちゃんが好きだった先輩。
先生は高校在学時に生徒会長をしていて、その時、お兄ちゃんは副会長をしていた。
大学もお兄ちゃんと一緒の大学に通っている。
ボクとお兄ちゃんは中高一貫校に通っていた。
当時、ボクが中学一年生の時、お兄ちゃんは高校二年生だった。
教育実習生として、一時的にクラスの先生になってくれているので、ボクは恐る恐るお兄ちゃんのことを聞いてみたんだけど……
……先輩もお兄ちゃんのことは覚えていなかった……
お兄ちゃんのことばかり考えているから、学校で友達と談笑している時も、心からは笑えない。
お兄ちゃんがいなくなってからの学校生活はそんな毎日だった。
身体は成長しても、心は二年前のあの時のまま止まっている。
……お兄ちゃん……逢いたいよ……
◇
二年前の事件があった日は、ボクは半ば強引に、お兄ちゃんをデートに誘った日だった。
断られると思っていたのに、お兄ちゃんは可愛い妹の頼みなら仕方ないなぁと言って、ショッピングに付き合ってくれた。
ボクが似合いそうな服を選んでもらったり、お兄ちゃんに着て欲しい服を選んだり、ゲームセンターのUFOキャッチャーで好きなぬいぐるみを取ってもらったり、一緒にクレープを食べたりした。
……あの時は楽しかったな……
今日は何故かいつもよりお兄ちゃんとの想い出が鮮明に蘇ってくる。
それでデートの終わりには……
ボクは、首にかかっているペンダントトップを、親指と人差し指で持って見つめた。
『……もうすぐ誕生日だから……』
お兄ちゃんは、そう言ってボクにペンダントをプレゼントしてくれた。
……あまりに嬉しくて、その場でお兄ちゃんにペンダントを首につけてもらったんだよね……
あの後………
ズキッ!
……また、いつもの頭痛だ……
プレゼントを貰った後のことを思い出そうとすると、何故か頭に激痛が走る。
思い出さないといけないのに……
お兄ちゃんを探すヒントがそこにあるかもしれないのに、どうしても思い出せない。
それに。
………絶対に忘れてはいけない大切なことが、その時にあったはずなんだ………
ボクの魂がそうボクに訴えかけていた。
◇
パン!パン!
一回だけのお参りだけだと不安なので、ボクは学校帰りにもお参りをすることにしている。
……明日もお兄ちゃんのことを忘れずに過ごせますように……
『その願い、私なら叶えられますよ』
「…………え?」
突然、どこからともなく声が聞こえてきた。
辺りを見回すが、周囲には誰もいない。
「……誰ですか? それに、どこにいるんですか?」
『私は異世界の神です。姿は見えませんが、私は燈真里のお兄さんを知っています』
「異世界の神様? お兄ちゃんを知っている? ついでに何故か私の名前も知っている?」
『信じられないですよね。でも……』
「信じます」
『え?』
ボクが言ったことに、逆に異世界の神様が驚いている。
……この二年間、探して探して探し続けて、何の手がかりも得ることはできなかった……
異世界だろうと、神様だろうと、お兄ちゃんを知っているのであれば、私は迷いなくそこに飛び込む。
『……そうですか、そんなに簡単に信じてもらえるとは思いませんでしたが……。きっと、燈真里にとってお兄さんは、それほど特別な存在なのですね……』
「うっ……」
心の内ではずっとそう想ってきたけど……
改めて誰かに優しくそう言われると、涙腺が緩みそうになる。
……それに、お兄ちゃんのことを誰かと話せたのは、いつぶりだろうか……
誰も知らないはずのお兄ちゃんのことを知っている。
それだけで、ボクにとっては十分信じるに足る話だ。
「異世界の神様がお兄ちゃんを知っているということは、もしかしてお兄ちゃんは異世界にいるということですか?」
『はい、燈真里のお兄さんは、今、異世界にいます』
異世界にいたのなら、お兄ちゃんに関する情報を何も得られなかったことにも頷ける。
『本来であれば、簡単にこの世界の人間と接触することはできないのですが、二年間、燈真里がお兄さんのことを祈り続けたことにより、私の世界とこの世界を繋
(つな)ぐことができる条件が成立しました』
……ボクの二年間のお祈りも無駄じゃなかったんだ……
「じゃあ、ボクも異世界に行けばお兄ちゃんに逢えるの?」
『はい、と言いたいところなのですが……』
「……お兄ちゃんに何かあったんですか?」
何か嫌な予感がする。
『実は、燈真里のお兄さんは、現在、魔族に捕えられてしまっているのです』
「……お兄ちゃんが魔族に捕えられている……」
突拍子もない話の連続だが、この際、そんなことはどうでもいい。
「お兄ちゃんは無事なんですか?」
ボクにとってはお兄ちゃんが無事でいることの方が重要だ。
『……行方不明な状況で無事と言っていいのかは分かりませんが、命を失っていないことだけは確かです……』
「……そうですか……」
……こうなったら、ボクも異世界に行くしかない……
元々、お兄ちゃんに逢えるのなら異世界に行くことに躊躇はなかった。
その上、お兄ちゃんの命が危機に瀕しているというのであればなおさら行かないわけにはいかない。
「……お兄ちゃんに逢いに行くにはどうしたらいいんですか?」
『異世界に行く手段は、異世界召喚か異世界転生の二つがあります』
……異世界召喚はボクの姿そのままで行くってことだよね……
「……異世界転生というのは?」
『異世界転生には様々(さまざま)なパターンがありますが、今回はお兄さんを探すことが目的だと思いますので、赤ん坊等に転生するよりは病気や大怪我等で亡くなる直前の人に転生する方がよいと思います。因みに、病気や怪我は、転生時に治療することができますので、その点はご安心ください』
「……なるほど……」
一瞬、個人的な願望が脳裏を過ぎる。
……転生することで、もしかしたら、お兄ちゃんと恋愛ができるかもしれない……
もちろん、お兄ちゃんを助けに行くことが第一目的だし、不謹慎だとは思うけど……
今のままだと、お兄ちゃんとは一生恋愛することができない。
転生をしたからといって、お兄ちゃんと恋愛ができるとは限らない。
でも、これがお兄ちゃんの恋人になれる最後のチャンスだと思うから………
「それでしたら、異世界召喚ではなくて、異世界転生でお願いします」
少しでも可能性があるのなら、そこに賭けたい。
「……ボク……、お兄ちゃんの恋人になりたいんです……」
『……転生をしたからといって、それで恋人になれるとは限りませんが……。それでも転生を望みますか?』
「はい、それでも、今より悪い条件になるとは思いませんので……」
「……分かりました……。最後に補足ですが、稀に燈真里が転生する前の人物の意識が戻ることがありますので、燈真里の身体は私の世界とこの世界の狭間の空間に、私が保管しておこうかと思いますが、それで大丈夫でしょうか?」
「それは、その方がありがたいです」
異世界で何が起こるか分からない以上、戻って来た時のことも考えておいた方がいい。
『では、異世界への扉が閉じてしまう前に、そろそろ移動を開始したいと思いますが……』
「あ、すみません、少しだけ時間を……、両親が心配するので、せめて置き手紙だけでも……」
『分かりました。それくらいの時間は大丈夫です』
大騒ぎになるのは間違いないが、簡単なメッセージだけでも最低限残しておきたい。
ボクは、持っていた便箋に急いでメッセージを書いた。
「書き終えました」
『早かったですね。手紙は燈真里の机の上に移動させておきますね』
……手紙が消えた……
言葉通りボクの机の上に移動させてくれたのだろう。
「ありがとうございます」
『それでは改めて、準備はいいですか?』
「はい」
もう、決意は固まっている。
『異世界転生!』
異世界の神様がそう言うと、ボクの身体が光に包まれ、その場から姿を消した。
◇
目を覚ますと、ボクはベッドの上で仰向けに横たわっていた。
眼前にある天井には、中世時代の写真でよく見たことがあるような装飾が施されている。
『……転生を終えました……』
異世界の神様の声が聞こえてきた。
どうやら転生を終えたらしい。
スタッ!
どんな人物に転生したのかを知りたくて、ベッドを降りた後、ボクは鏡の前に立った。
「うわぁ、可愛い……」
ボクは思わず声を上げた。
銀髪のストレートヘアーに、エメラルドグリーンの瞳。
そして、美少年のような整った顔立ち。
ん?
美少年?
……ボーイッシュな感じの子なのかな?
「まあいいや」
そのまま目線を下げる。
……あれ?
胸が……、小さ過ぎない?
その下は……
……?!……
「………って、これ、男性の身体ですよね!! どういうことですか!?」
『……すみません、本当は女性の身体にしたかったのですが……。ちょうど、タイミングよく転生できる人がいなかったんです……。せめてもと思い、容姿が女性に近い美少年に転生させてもらったのですが……」
「……それなら仕方がないですね……。とは、なりませんよ!!」
『……ですよね……。ただ、もう転生先を変えることはできませんので……』
「確かに、コロコロと転生なんてできるはずないけど……」
お兄ちゃんを助けることに大きな支障があるわけではないのかもしれないけど……
しれないけど……
……妹でいることより悪い条件になることなんてないと思っていたのに……
「どうしてこうなっちゃったのーーーーーーーーーー!!」
気がつくと、ボクは館全体に響き渡る大きな声で叫んでいた。
こうして、ボクの前途多難なお兄ちゃんを探す異世界生活の幕が開けた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
時々、連載小説とは別に新しいストーリーが頭を過ぎることがあるので、どうせならそのプロローグを短編として投稿して行こうかと思いました。
ブックマークや評価が多い作品は連載するかもしれませんので、続きを書いて欲しいと思った方は、ブックマークや評価もよろしくお願いします。
感想も気軽に書いていただければと思います。