カイオウ村の子供
ここは、東の大陸に位置する小さな国《スナイ皇国》。
山脈と大海原に囲まれ、不思議な力が国中に満ち溢れたこの国は、今は《幸せの国》とも称され、どの国のどんな人も、この国を参考に政治を行う。差別も争いもない、平和で優しい国。
しかし、この国は昔からこうだった訳では無い。
これから語る物語は、この国が《幸せの国》になるまでの動乱の時代を生きた、龍に愛された者たちの物語。
まずは、大海原を駆け、人々に害なす海獣達を狩る事を生業とする海獣狩人達の物語。海獣狩人を志す少女の、奮闘記。
「痛ただただ!!!ちょっとセンセー!もっと優しくしてー!」
「大人しくしてレミちゃん、ブレたらもっと痛いよ?」
スナイ皇国王都から遠く離れた沿岸部の村、《カイオウ村》。その商店通りにある診療所の前で女医に腕を掴まれ、痛みに叫んでるのは、レミール・アーリー。
先日13歳の誕生日を迎えたばかりだ。今は13歳を迎えた証の入れ墨を女医先生に掘って貰っているところだ。
「痛ててて、レミ!痛いからって爪たて過ぎ!絶対やばいこれ」
レミールの入れ墨掘りに付き添って、今その腕を物理的に貸しているのは、レミールの幼なじみのキル。
村で1つの魚屋の次男で、村で唯一のレミールと同い年。
「キルくーんごめんね後ちょっとだからそのまま耐えて〜」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
「そんな無限に言われてもどうしようも無いわよ諦めなさい。」
「鬼!悪魔!いじわる!」
「何とでもお言い!」
言い合いながらも、入れ墨を掘るその手は止まらない。レミールの手首には、黒い墨で描かれた花がある。
「………はい完成!」
「やったぁ終わり!!!」
しばらくは掻きむしっちゃダメよ、と言った注意をほとんど聞き流しながら、レミールは痛みからの解放を喜び、手首に描かれた花を見つめる。
「そういえばセンセー、この花なんて花ですか?」
「ああ、プルメリアって言ってね、こっちではあまり咲いて無いから関わりは無いけど、南の大陸の海岸の方にたくさん咲いてる、海の花なの。」
「へぇ〜、女子のはそんな感じなんだ。オレのは何でしたっけ?アイ?」
「キル君惜しい、アイじゃなくてエイね。船で海に出たらたまに見かけるんじゃ無いかな?」
へぇ〜、と感嘆の声を上げ、自分の手首にあるエイを見つめるキル。夕陽に手をかざしながらずっと手首に描かれたプルメリアを見て口角をあげるレミール。
「…あ、もうすぐ父さん仕事終わるんじゃないかな?」
レミールの父、ジェイド・アーリーは、海獣狩人として、村で1番大きな建物である海獣院で働いている。
「あ、ホントだ。もうすぐ日が沈むからそろそろだな。行くか」
「うん!センセーありがとうございました〜!」
「はいよぉー」
「ほんと、レミちゃんとキル君がここまで無事に生きてこれてよかったわね。」
「…えぇ、13歳になれば、病気でぽっくり死んでしまう事も少ないですし、とりあえず一安心ですかね。」
レミールとキルの2人が一緒に海獣院の方へ駆け出して見えなくなってから、通りを歩いてた村の大人達は女医先生と一緒に話した。診療所の中の、少ない薬品や清潔とは言い難い白衣。
この国では、差別主義な人間が歴代の国王を務めていて、庶民、特に女性に対する権利がほとんど認められていなかった。というより、同じ人間としての扱いでは無い。そんな国王の長年の圧政に嫌気がさした一部の国民は、王政が及ばない沿岸部や山間部に逃げ、生活を営み始めた。
王都の人達からスラム扱いをされている村の1つであるカイオウ村に、十分な医療設備も、教育も無い。
小さな子供達が、軽い怪我や病気でぽっくり死んでしまうなんて事は珍しくもない。今大人達の間をすり抜けて走り回っている子供達だって、明日には死んでいるかもしれない。
レミールとキル以外にも、2人と同じ年に生まれた子供はいたが、2人以外は病気や怪我で死んでしまった。レミールの姉も、体調が悪くフラフラしている時に海に落ちてしまった。
そんな環境下で、13歳まで健康に生きてきた事はとてもめでたい事で、入れ墨はその証。
(願わくば、子供達がいつ死んでしまうか、と言う心配を、親がしなくて済むようになって欲しい)
それは、この村で生まれ、育ち、家族を持った大人達の共通の願いだった。
初投稿の小説は、昔から手描きで書いていたこちらの小説です。気に入って頂けたら嬉しいです。学生なので決まった日にあげるなどは難しいので気まぐれ投稿になってしまいますが、それでもいいよ、と言う方はぜひとも待っていてください!