キスしないと出られない部屋に、出会って一週間の美少女と閉じ込められた俺はこれからどうすれば良いのだろう?
目が覚めると最近知り合った少女、安心院音夢と同じベットにいた。
何が起きているかまったく分からない。さっきまで俺は音夢とご飯を食べていた筈だ……これは夢か?
辺りを見渡してもあるのは、このベットと看板一つだけ。
それ以外は何もない。正確にいうと白い壁はあるが、それはまぁいいだろう。
ドアや窓もなく、白い壁の真ん中にポツンとベットと看板一つだけが置いてある。
俺こと永井快斗は、ベットからおり看板の文字を見る。
『ここはカップル限定のキスしないと出られない部屋だよ!
ランダムに選ばれたカップルが連れてこられて、キスをするまで監禁されるんだ!
え? 何故こんなことをするのかって? やだなぁ、その質問は野暮ってもんだよ!
君たちはただキスをすれば良いんだ! そんなことを気にする必要はない!
あ、キスをすると用済みで殺されるとか思ってる? ありがちだもんね、そういう展開。
でも大丈夫だよ! 僕たちが運営するこの部屋は、ちゃんと家に返してあげるから!
もちろんキスをしなくても良いよ? 僕たちは殺しなんてしないから!
でもぉ、食料はないから餓死しちゃうかもぉ⁉︎ どうするかは君たち次第!
じゃあ、がんばれ! 僕たちは、君たちのご武運をお祈りしています!』
ふむ、とりあえずこれを書いた奴をぶん殴りたい。
それに俺たちはカップルじゃない。知り合ってまだ一週間ほどだ。
俺は壁に近づき、軽く蹴ってみる。
カツンと小さく音がなり、少しの痛みが足に走る。
まあ当たり前だが、蹴りで壁を壊せるわけがない。
だが生憎、俺はパニクっているので今度は本気で蹴ってみる。
ガンッとさっきより大きな音がなる。
だが、やはり壁が壊れる気配など全くなく、ただただ足が痛い。
その痛みで少し冷静さを取り戻した俺は、もう一度辺りを見渡す。
あんな変な看板があったんだ、監視カメラの一つや二つぐらいはあるだろう。
だがそんな物は見つからない。ベットの下を見てもない。看板の裏にもない。
イライラしてきた俺は、看板をそこそこの力で蹴り上げる。
そこそこ薄く細い、木製だと思っていた看板だがピクリともしない。
バンッと音はなるのに、傷ひとつ付かない。
「……今の音なに? それに、今どういう状況? てか、ここどこ?」
背後から声をかけられる。
声の主は、一緒に寝ていた少女。安心院音夢だ。
「はぁ、俺にもわかんないよ。とりあえずこの看板読んでみたら?」
思わずため息が出る。
音夢が悪いわけじゃないのは分かってるが、この状況でどうしてもイライラしてしまう。
悪いのはどう考えてもこれを仕組んだ奴らだ。
そもそも何故俺たちが選ばれたんだ? カップル限定はどこ行ったんだよ。
いや、今そんなことを考えても意味ないか。
音夢はベットからおり、トコトコとこっちに向かってくる。
そして、看板の前に立ちそれの文字をジッと見つめる。
そのまま最後まで読み……
「私たちってカップルだったの?」
そう言ってきた。
「いや、違うな。俺たちは友達の筈だ。それもなりたての」
天然発言には一週間で慣れていた。俺は普通に流す。
「だよね。だったらなにこれ? バカじゃないの?」
「あぁ、俺もそう思ったよ。でもさ、この部屋ドアも窓もないんだよね。それに多分記憶も飛んでる、音夢とご飯を食べてたってこと以外、どこで何を食べていたかも思い出せない。間違いなく超常的なことは起きてると思うよ」
俺がそう言うと、手を顎に当て目を瞑りなにかを考え始める。
そのまま三十秒ほど経ち、目を開けると同時に口を開いた。
「なるほど、確かに超常的なことでも起きてないと説明できないね。でも嫌だよ? キスとかしたくないし」
理解してくれたらしい。天然なのに俺よりずっと冷静だな。
そしてまぁそうだろうな。
付き合ってもないやつといきなりキスをしろと言われて、はいそうですか分かりました、とはならないだろう。
俺もいきなりキスをしろって言われて、というか書かれて戸惑っている。
でも他に方法がない。藁にもすがる思いなのだ、ここの壁は人間の力で壊せるものじゃない。
「でもしないと餓死するらしいぜ?」
「なに? 快斗は私とキスしたいの?」
音夢にそう言われ、思わずドキッとする。
「……あぁ、そうだな。だって、しないと出られないんだぜ? するしかないだろ」
「でもここに書いてあることが本当に正しいか分からなくない? しても無駄かもしれないんだよ?」
それを言われると弱い。あの看板には信じれる要素が薄すぎる。胡散臭すぎるのだ。
「じゃあ壁とか調べてみなよ。他に方法がないってわかるから」
俺がそういうと音夢は壁まで歩く。
コンコンと叩いたり、ボタンでも探すようかのに指を這わせたりしながら壁を回る。
やがて最初の場所に戻ってきた音夢は、落胆したような表情を浮かべ、ベットに近づいてから俺の方を向く。
「見事に何にもないね。これじゃキスに縋りたくなるのも分かるよ、でもさ? カップル限定って書いてあるんだよ? ここ。私たちそんなんじゃないのに。そんな間違いするような看板を信じられないよ」
あぁ、俺もだ。こんな看板信じちゃいない、でも可能性は感じている。
というかそれにしか可能性を感じられないのだ。
それにしても、これだけ否定されると心にくるものがあるな。
「なぁ、音夢。俺とキスするの、そんなに嫌か?」
「うん、嫌」
即答されると流石に傷つく。
ちょっとくらい悩んでくれても良いんだよ?
「でも、唇同士って書いてないし、手とかだったら良いよ?」
音夢は指を口に当てながらそう呟く。
思わず心臓が跳ねる。
「良いんだな?」
「良いよ」
あっけらかんと音夢は答えた。
俺は音夢に近づき片膝をつく。
そのまま音夢の手を取り、唇へと運ぶ。
唇を当て、待つこと1秒,2秒,3秒…10秒…20秒…30秒……1分………。
「諦めない?」
流石に音夢にストップをかけられた。
俺は手を離し、這いつくばる。
「クッソぉぉぉぉーーーー!!!!!」
叫んでも何も変わらないとは分かってるが、叫ばずにはいられない。
叫び疲れると涙が出てきた。
あぁ、なんでこんなことになってるんだろう……。
「あれじゃない? 私からキスしてないからとか?」
音夢がそんなことを言い出した。
確かにそれはあるかも知れない。一方的じゃないキス、そこが重要なのかも……というか重要であって欲しい。それだったら唇同士じゃなくて良くなるわけだし。
「だからおいで?」
音夢はそういうとベットの上に座り、俺を手招きする。
俺が近づくと____
____勢いよく引っ張られ、音夢の上に座らされる。
いきなりの事に戸惑い、前を向くと、そこには音夢の顔があった。
音夢の紫の長髪が顔にかかる。俺はその髪を撫で、顔を近づけると、至近距離でみても整った顔立ちをしている音夢に思わずドキりとする。
そのまま硬直していると、手のひらが顔に迫ってきた。
「うぁっ」
いきなりのことに情けない声が出る。
いや、声だけじゃない。顔を近づけても何も出来なかった。音夢の顔に驚き、そこから何も出来なかった。情けないなんてもんじゃない……。
「唇じゃないでしょ。肩だして」
肩?
良くわからないが、服をずらし肩を出す。
すると、音夢は俺の首と肩の付け根に口づけた。
「ほあ、ほほにすうにあほうひたひへいおほうあいいでひょ?」
ふむ……。
『ほら、ここにするにはこうしたしせいのほうがいいでしょ?』かな?
なるほど、お互いの肩にキスするには、この体勢が一番都合がいいのか。
俺もそれに倣い、音夢の肩に口づけをする。なぜ肩なんだろう? 手じゃダメだったのか?
なんだか吸血鬼の様だな、と思いながら続けること10秒、何も起こらない。
この体勢のままは、男として少々くるものがある。
抱き合うように、というか抱き合いながら肩にキスすること1分。
最後まで何も起こらなかった。
俺は落胆し、無駄にデカいベットに突っ伏す。
「うぅん、これでもダメだったね」
唸るような声を音夢が上げる。
さすがの音夢も万策尽きたようだ。
………こんな事はしたくない……。……でも……。
俺は立ち上がり、音夢の肩を掴む。
唇に狙いを合わせ、顔を近づける。
そこで見えた音夢の顔は、頰がリンゴのように真っ赤に染まっていた。
俺は思わず肩を離す。
あれは、とても嫌がっているようには見えない。
むしろ、もっと別の……
「な、何をするの!?」
初めて音夢が取り乱すのを見た。
そこそこの頭脳と、天然さを併せ持った音夢は取り乱すことなどないと思っていた。
だけど、今俺が見ている音夢の姿は普通の十六歳の、俺と同い年の少女のようで……。
俺は思わず……
「音夢、好きだ。付き合ってくれ」
……告白していた。
「えっ……。……わ、私も好きだよ? ……喜んで」
リンゴのように頬を染めた少女は、嬉しそうに微笑んだ。
俺はもう一度、今度は丁寧に肩を掴み、唇に狙いを合わせ、顔を近づけ。
「音夢、大好きだ」
キスをした。
*****
……少し、寝ていた気がする。そんなわけないのに。
何故か俯いていた自分の顔を上げると、見慣れたファミレスの店内が広がっていた。
……いや、どうして俺はここにいる。
俺は白い部屋で、音夢と一緒にいた筈だ。
そうか、キスをしたんだ。最後、俺は音夢に告白しキスをした。
あれは夢だったのか……?
告白の返事も、全て。
俺は正面を向く。悔やんではいられない。夢だったのなら現実でも告白すれば良いじゃないか。
そう決意する。
だが。
____前には頬を染めた音夢がいた。
そうだ、俺は白い部屋に行く前、音夢とご飯を食べていた。
だったら音夢がいて当たり前じゃないか。
告白は今できる。
いや、どうして音夢は頬を染めている?
こっちの世界で音夢が頬を染めているところなど見たことがない。
……夢じゃ、なかった?
「音夢、好きだ。付き合ってくれ」
俺は、あの部屋でのセリフを一言一句間違えずに音夢に伝える。
すると、音夢は少し笑ってから。
「……私も好きだよ。喜んで」
★つけてくれたら嬉しいです。




