帰る(早退)
俺は今、保健室のベッドの上で考え事をしていた。あの女、この世界に来て初めてできたコンプレックスをあんなズカズカと土足で入り込むように言ってくるとは思わなかった。
いや、薄々気がついていた。筋肉がないことも身長も足らないことも。前世なら180に筋肉もあり完璧だった。うん、完璧だった。素晴しいの一言。
だがこっちにやって来て155あるかないかで筋肉なんて皆無。前世で言うところのアイドルみたいな体型になってやがった。この世界の女が求める理想の体型なんだろうが前世を知ってる俺からするとものすごい辛いことだ。運動のできない男など男じゃない!!
そんなことを延々考えていると...
シャーっとベッドの周りを覆っていたカーテンが開けられた。
「あら、一条くん起きていたのね。」
「え、あ、はい。いまさっき起きました。」
「急に運ばれてきたからびっくりしちゃったわ
一応御家族に連絡入れたのだけれど、すぐに向かうって言われて電話切られちゃったわ」
「あ、そうですか、分かりました...」
「う〜ん、本当に可愛いわね」
「え?」
「いや、なんでもないのよ?」
俺の周りの女ってのはこうもストレートに言うやつが多くないか?いや、言わないで何を考えているか分からないやつよりはマシだが...なんともむず痒い。
「あの、多分早退になると思うので帰る準備したいので教室戻ってもいいですか?」
「いいわよ、一緒に教室行きましょ」
保健室の先生と一緒に教室に向かう。
やけに距離、というか腕を掴まれていることについては言わない方が吉だと思うので突っ込まないようにした。
「さぁ、着いたわよ、準備してきてらっしゃい」
「はい」
教室の扉に手をかけて、ガラッと開ける。
予想通りみんながこっちを見る。
「「「「「「一条くん、大丈夫?」」」」」」
リハーサルでもしていたのか?と言いたくなるくらい息ぴったりでちょっと引いてしまったが、大丈夫だよと答える。
「ちょっと今日は大事を見て帰るよ...考えないといけないこともあるし...」
教室内がザワザワし始める。春はそれを気にしないで帰る準備を終える。と言っても教科書や筆箱等は置いていくのでカバンだけ持つだけなのだ。
脳の出来が完璧で助かると言ったところだ。
「じゃあ、みんな今日はありがとう。月曜日登校すると思うからその時みんな事知れたらなって!ばいばい!」
軽く笑いながら手を振る。
「「「「「「「天使だ...」」」」」」」
クラスメイトが萌えていた。先生は流石の大人。黙って居られた。まぁ、目はギンギンになってはいたが、教室の扉を閉めて保健室の先生とまた保健室に戻る。
「一条くんは珍しいわね」
「何がですか?」
「いやね、男性なのにすごく優しいじゃない?この学園にいる男子なんてみんな悪口から暴力まで振るうわよ?それが全世界共通の当たり前みたいなんだけどね」
「俺はやりたいことをやってるだけです。暴力も悪口もやりたくないのでやっていません。ただそれだけです。」
「本当に珍しいわね...一条くんを知ったら他の男なんて眼中に入らなくなるわ...ある意味危ない存在ね」
「じゃあ俺だけを見ればいいんですよ。クラスメイトも先生方もみーんな俺を見ればいいんですよ!理想の塊がここにいるんですからね」
ニコニコと笑いながら先生を見る
「ほわぁ...本当に好きになっちゃうわよ...もう...」
とそんなことを言っていると、
「はるくーーーん!!!!」
おっと、迎えが来たようだ。
「先生、どうやら来たみたいです」
「え、ええ、そうね。きたみたいね...」
どこか悲しそうな先生。
「では俺はこれで帰ります、さようなら」
「ええ、さようなら」
先生に背を向けて母の方に歩む。
まさか編入初日から早退するとは思わなかったが、コンプレックスを言われて失神なんて早く帰りたいに決まっている。ゆっくりと家で引きこもりたい最悪な気分だ。
今日はお母さんには甘えてうまいものを食べさせてもらおう...とそう強く決意する春だった。




