少年の不遇。
遅くなりました!お待たせしてすみません!
「さっきは流れでああ言ったが、元々魔法の使えたお前に改めて教えるのははっきり言って意味がない。だから正確には『魔法を使えるようにする』だ」
会計を済ませ、ファミレスを後にしたリゼル達は商店街を歩きながらソロンの魔法について話し合っていた。
「それはありがたいんですけど、さっきも言った通り僕は無一文なので何もお礼できませんよ?」
「お礼なんていらない。私たちが好きでやってる事だから」
「レシアさん......っ!」
「何感動覚えてんだおい。レシアも善意だけで話をしないで。俺を挟んで。好きでやってる言っても俺は渋々だからね?」
勝手に話を進める二人にツッコミを入れるとリゼルはソロンの方を向き、ため息を吐いて話し出す。
「いくらお前が無一文でも無償という訳にはいかない。俺らだって自由に街を観光したいところをお前に時間を使うことになるんだからな」
「リゼル、旅人の時間は自由」
不満そうに、確認するように呟くレシアの口許に人差し指を当て「わかってるよ」と軽く相槌をうち「だから」と言葉を重ねる。
「それを踏まえて、お前には前払いをしてもらう」
「「前払い?」」
首を傾げながら声をハモらせる二人にリゼルはパンフレットを見せながら言った。
「ソロン、お前にはガイドをやってもらいたい」
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ガイドと言っても特別何かすることはなく、パンフレットの評判は実際どうなのかやおすすめのパン屋を紹介してもらうくらいだった。めっちゃガイドしていた。しかし当のソロンと言えば、この程度の軽い条件で前払いを済ませていいのか疑問と不安抱いていた。
「あの、本当にこれでいいんですか?」
「何がだ?」
「前払い。あなた達が僕にしてもらうことと割にあっていないような気がするんですが......裏ありませんよね? 後で死ぬまで労働させるとか言わないですよね?」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ? 悪魔か?」
ソロンの抱く疑問と不安にリゼルは呆れるようにため息を吐き、手に持っていたパンを半分ちぎってはソロンに渡して答えた。
「確かに、お前の疑問もわからないことはないが、俺的にはレシアが満足してくれてればそれでいいなんていう条件緩い自己満足があるからな。正直のとこお前の前払い云々はどうでもいいと思ってる」
二人の少し前で紙袋いっぱいにパンを入れて歩くレシアの笑顔を見て「あの笑顔を作っただけお前の仕事は十分過ぎる」などと馬鹿なことをほざいている。
「それは、そうかもですけど......」
ここまで言っても納得のいかない様子のソロンにリゼルが文句を言おうとした時、ソロンが妙なことを口にした。
「本当に僕と一緒に居て大丈夫ですか?」
どういう意味だ? とリゼルが聞くよりも先にその意味を理解することになる。
「あら、あなた達がソロンと一緒に街を回ってる噂の旅人さん?」
リゼル達の少し前を歩いていたレシアが誰かと話しているのが見えた。歳はレシアと同じくらいだろうか、青く長い髪に宝石のような青い瞳の少女が妙なことを口にしている。
「旅人だから知らないのかもだけどね、あなた、ソロンと一緒に歩くのやめた方がいいわよ」
突然話しかけてきた少女のよく分からない発言にレシアは「どうして?」と不思議そうに首を傾げる。少女は奥にいるソロンを睨むように見ながらコソコソ話をするようにその理由を話す。
「あの子はね、魔法を使えなくなった呪子って言われてるのよ」
「呪子......」
「そうよ。そんな子と一緒にいたらあなた達まで後ろ指さされるわよ。悪いことは言わないわ。あの子と一緒に歩くのはやめなさい」
レシアの事を真っ直ぐ見つめ少女は忠告する。それと同時に聞き耳を立てていたのか、路上のあちこちから「また来たわ、呪い子」「早く国出てけよ」と耳に余る陰口が聞こえる。中にはソロンを呪子と馬鹿にする子供まで。極めつけには「旅人さんが可哀想だわ」「折角観光に来たのに、嫌な思い出ができちまうな」などと同情される始末。あまりの惨状にリゼルがため息を吐くと、何を勘違いしたのか、隣にいたソロンが「すみません」と頭を下げる。ソロンが気にしてたことがこれだということに今ようやく気づき、またため息を吐く。
「お前、あの子のこと知ってるのか?」
「はい。彼女ははオズといって僕が通う魔法学校の同級生です」
「はぁ......なるほど、呆れるな」
「ッ! すみません。僕のせいで、あなた達にまで......」
「お前じゃない。この国がだ」
「それはどう言う......」
ソロンが聞くよりも早く、綺麗で透き通った声がソロンの耳に届いた。
「私も魔法が使えない」
それは、倒れていた自分に手を伸ばしてくれた救世主の、静かな告白だった。
「魔法を教えて貰ったことがないから、多分使えない。だから私はソロンと同じ」
極端。と言うべきだろうか。魔法が使えないからと、ただそれだけの理由で、呪子と忌み嫌われるソロンと自分が同じだとレシアは言った。境遇も生い立ちも、同じなんて所はほとんどないだろう。さらにいえばレシア自身がソロンと自分を同じと言った言葉に特に意味を持っていない。もちろん、同情でもないが。
言ってしまえば、ただの思いつきだ。それでも、自分に手を差し伸べてくれた救世主が、呪子と呼ばれる自分と同じだと言ってくれたことがソロンにとっては堪らなく嬉しかった。
その様子を横目で捉えていたリゼルが「呆れる」と笑みを零す。しかしこれはレシアの言葉の意味をソロンが都合良く捉えたに過ぎない。他の者達にとって、レシアの言葉などそのままで意味で捉えるしかない。
「今時、魔法を使えないのはどうなのかしらねぇ......」
レシアが魔法を使えないとわかるとオズと呼ばれた少女はあからさまに態度を変え、見下すように話し出した。
「今の時代の魔法なんて出来て当然なんじゃない? それを教わったことがないって、あなた大丈夫?」
「何が?」
「あなた達旅人なんでしょう? 魔法も使えないのにどうやって旅して行くのかしら?」
「魔法がなくても、旅は出来る」
「魔法は世界の中心。時代の在り方そのものなのよ。魔法を使えない人間が世界を歩いてるってのがどうかしてるんじゃないかしら?」
「だったら、何?」
皮肉をぶつけるオズにレシアは淡々とした様子で首を傾げる。もしかしたらレシアにとってはオズの言ってることすら興味の対象でしかないのかもしれない。
そんなレシアの反応が予想外なのかオズは若干引き気味に表情を強ばらせるが、少ししてオズは軽く咳払いをし、続きを話し出した。
「魔法を使えない人なんて、この世界じゃ人以下なのよ。あなた、魔法を教わらなかったと言っていたわね。それはきっとあなたと親も魔法が使えないのよ。あなたもあなたの親も揃ってみんな、ソロンと同じ人以下なのよ! ソロンも......」
「それは......」
「それは言い過ぎだ。お前が何者であれ、赤の他人がレシアの家族を馬鹿にする事は出来ない」
行き過ぎた侮辱をするオズを黙らせるようにリゼルは少女を睨み、話に割って入る。
「お前らにとって至上の存在である魔法も他の国の人間にとってはそうではない。その人はその国の文化を生きてきてる。それを侮辱する奴はそれこそ人以下だと思うぞ」
「な、何よあなた。いきなり入ってきて、なんなのよ!」
「俺がなんなのかなんてレシアに話しかけてる時点で察してるだろ」
「ぐぅ......」
見事な正論にオズが奥歯を噛んで悔しがる。追い打ちをかけるかのようにリゼルは話を続ける。
「それに、魔法なんてあってもなくても変わらないものだ。レシアの言う通り、魔法がなくても旅は出来る。そこは世界に捕らわれない旅人の良さだろ? お前にどうこう言われる筋合いはない」
キッパリと言い切ったリゼルは後ろで縮こまるソロンに「行くぞ」と声を掛け、レシアの手を引いて歩き出す。悔しそうに睨むオズや街の住人の軽蔑するような視線を背中で受けながらリゼルは小さくと呟いた。
「呆れるな」
年明け前には終わらせるつもりでここまで延びました。すみません。