日陰の美青年
書きたいから書いた!本筋との関係はあんまない!
1人でもプールを楽しめるレシアを横目で眺めながら本を読み進めるリゼル。借りてきた10冊以上の小説も僅か1時間で既に半分まで読み終えている。それも流し読みなんかではなく、しっかり内容が入っているのだ。
この男のハイスペックはさておき、腹立たしいものながら、水際の日陰で本を読む赤い髪の青年というのは実に絵になるもので、レシア同様その姿には目を惹かれてしまうものがある。
「お兄さん、今1人ですか?」
「私達と遊びません?」
トーンの高い2つの声がリゼルに掛けられる。チラリと視線をあげると、そこには薄い茶髪と長い黒髪の2人の女性がいた。どちらもスタイルが良く、布面積の少ないド派手な水着を着ている。リゼルがベンチに座っているのもあるが、胸を強調するように屈んでいるのは恐らくわざとだろう。お気づきだろう。そう、これは言わゆる逆ナンと言うやつだ。
口と態度の悪さで忘れられがちだが、この男は顔が整ったかなりのイケメンである。学校に通っていた頃も彼に声を掛ける女子は多く、中には告白し玉砕する者もいた。たまに行く旅行でもそれは例外ではなく、今回のような逆ナンも彼にとって初めての事ではない。
「すみません、連れがいるので」
本を閉じて置き、真っ直ぐな赤い瞳を向けてリゼルは丁寧に答えた。軽く微笑みイケメンフェイスを晒しているのが少しウザい。逆ナンを断っているはずがその表情を見た女性2人は惚けるように頬を染めてしまう。
「あの、えっと、お連れさんって男の人ですか? でしたらその人も一緒に......」
茶髪の女性が僅かに声を上擦らせながら言う。普段ならイケメンフェイスを見せた辺りで撤退してくれる事がほとんどだが、今回は逆ナンはしつこいタイプだった。彼女らの口振りに少し違和感を抱きつつ、リゼルは笑顔を向けたまま言葉を返そうとした時、別の方向からもう1つの声が掛かった。
「リゼル」
聞き慣れた、透き通るような綺麗な声。聞こえた瞬間、リゼルは声の主を確かめる勢いよく振り返りながら立ち上がった。その姿はもはや忠犬にすら見えるが、この場にいる誰の目にもそう映ることはないだろう。
「レシア、もういいのかい?」
「? うん、ちょっと喉乾いたから......」
突然現れた白髪の美少女と、それに対して親しげに話す目の前の美青年。彼らを見て2人の女性は察した。淡く温い感情が崩れるのをリゼルは感じ取った。
「では、そういう事なので」
女性達の心情を察するかのようにリゼルは追い打ちをかける。美青年は美少女の手を取り引き寄せる。そして女性達により柔らかい笑みを向け、彼女らの横を通り抜けその場を後にする。
「あれは勝てんわ」
「うん、あの彼氏にあの彼女は無理。相手が悪かった」
去っていくリゼル達を眺めながらいっそ清々しいほど潔く、あのレベルの美男美女の間には割って入れないと女性達はナンパを諦めた。
「良かったの?」
女性2人から離れ、宣言通りジュースを購入したところでレシアが聞いた。リゼルは一瞬なんのことかと考えるが、すぐに先のナンパの事だと察する。
「別に。俺の知り合いじゃないし、俺の眼中にはレシアしか居ないからね」
「そうなんだ」
「聞いた割には興味無さそうだね」
「興味ないって言うか......リゼルの知り合いだったら悪いなって思っただけ。リゼルが気にしてないなら私も気にしない」
レシアの言葉にリゼルは僅かに目を見開いた。レシアの発言をそのまま受け取るなら彼女は、リゼルに気を使った事になる。無論、今までもレシアはリゼルに気にかけて考えてはいたが、それはリゼルの行動や感情を気にしてだ。リゼルの交友関係や他人とのやり取りに対してレシアが意識をしたのは今回が初めて。故にレシアの発言はリゼルにとっては意外だったのだ。
(レシアが俺を意識してくれてる? って訳じゃなさそうだなぁ......試しに踏み込んでみるか)
「もし、知り合いだったらどうしてたの? あの人達が俺の友人とかだったら、レシアはどうしてたの?」
リゼルの性格の悪い部分がいやらしい笑みと質問を浮かべながら露になる。この男に性格の良い部分があるのかと言われれば難しいが。
「それなら......タイミング悪かったと思う。だから、多分1人で飲み物買いに来てたと思う」
「いやまぁそうだろうけど、知りたいのはどう行動しただろうじゃなくて、どう思ったのかなんだよね」
「どう思った?」
「そう、俺に逆ナンしてた女性2人が実は俺の知り合いだった時、レシアはどう思ったのかなぁって。まあ、ifの話だから考えにくいと思うけど......」
リゼルの疑問にレシアは「うーん」と首を傾げ悩んだ。そこまで悩むことなのかと、思いながらリゼルが返答を待っていると答えるより先にレシアはジュースを飲み終えてる。
「レ、レシアさん?」
そのままプールサイドへ戻ろうとするレシアをリゼルは思わず引き止めた。何も答えずに行かれるとそれはそれでもやもやすると面倒臭い男だ。
リゼルの声にレシアは思い出したかのように振り返っては、再び首を傾げ悩みながら答えた。
「もしもの事は、私には分からない。だから、別に......」
顔を背けながらレシアは言う。リゼルにはその仕草すらも意味ありげに写ってしまい、トタトタと足早にプールの方へ戻って行く彼女を青年は口を開けたまま見届けるのだった。
レシアがいるから許されてますが、リゼルは割と逆ナン食らいます。




