乗船。
前回までのおさらい。
レシアの旅の目的地が幻の国『妖精の国フェアリーランド』だと知ったリゼルは、彼女と共に冒険者達が集まる大感謝祭に目指し、豪華客船テリープシップに乗り込んだのだった。
テリープシップ。全長415mサイズは役28万トン。乗船人数は最大1万人と言う破格の規模を誇る世界最大の豪華客船である。
「くそ......」
そんな豪華客船を前にリゼルは悪態をついた。否、船そのものにではない。乗船し、予約していた『客室』に対して愚痴を吐いたのだ。
「なんでダブルベッドなんだよ!!」
リゼルは持っていた荷物を叩きつけ叫んだ。
それもそう、リゼルとレシアが利用する部屋は、2つのベッドが1つに繋がったダブルベッドだったのだ。
「あのクソ変態バツイチ国王が......今度あったら星天1発ぶち込んでやろうか? いや、夏の国なら今からでも全然射程範囲内だ。滅ぼすか?」
物騒な事を呟くリゼルの横を通り抜け、レシアも部屋の中へと入り、荷物を整理していく。ダブルベッドの事をあまりに気にしていない様子だった。
「レシアさん、あなた少し落ち着き過ぎじゃありませんか?」
「何が?」
「いや、その......」
「これの事?」
レシアは何も分かっていないかのようにダブルベッドを指差し首を傾げる。彼女可愛らしい仕草も、今はリゼルの良心を痛ませる刃物にしかならない。
「用意された部屋がこれならしょうがないよ」
「それは、そうなんだが......」
「リゼルは旅初めたばかりだからわからないだけ。そのうち慣れる」
「......だとしても、レシアさんは慣れすぎじゃありませんかね?」
「初めてじゃないから」
「......ちょっと待って」
レシアの発言にリゼルは静かに驚き待ったをかける。その言葉は聞き捨てならないと。
「初めてじゃないの?」
「何回かあったよ」
「誰と? 男? 男なのか?」
「男の人もあったよ」
「おいマジかよ......」
まさかレシアが自分以外の男と既に寝ていると思わず、リゼルは頭を抱えた。本当に貞操観念どうなっているんだと不安が募り始めてすらいる。
(レシアが男と寝た? 俺以外の男と? 発言的には男以外と寝てる可能性もあるんだよな。正直男より女に食われる方が何倍も怖い。俺も同性だったらレシアに手出してるだろうし、そもそもこんな可愛い娘を前に手を出さん方がおかしいよな。俺は出してないけど。でもレシアの純粋さ的にビッチはないだろうし、旅の目的地告げて別れるくらいの関係性しかないんだよな
? なんならダブルベッドの使用理由すらわかってなさそうな雰囲気もあるし......まさか寝込みを襲われたのか? 普通に寝ると見せかけてって......有り得なくないのが怖い。レシアもそういうところ疏そうだし、すんなり別れた事を考えると捨てられたとも言えなくはない。最悪だな。レシアが食われたことあるってのを前提に考えるなら、今後一生俺が守らんとならん。いや、その前にレシアを食ったヤツを殺すか。ただでは殺さんぞゴミ虫共め! じわじわと嬲り殺しに......)
「リゼル、これ」
「はいなんでしょう」
「これ、魔法? 何かわかる?」
リゼルの思考が変な方向に(最初から変だが)行き始めたところでレシアが声をかけた。彼女の視線と指の先には何か文字のようなものが刻まれた壁があった。
思考を切り替え、レシアの声に反応するよう彼女の視線の先を見つめる。
「何かの術式だね。魔力の流れ方的に.....部屋全体、いや船全体に広がってるのか? 違うな。船側には別の術式が繋げられてんのか。そっちの方は術式に使用権限かかってるし。となるとこれは......」
ぶつぶつと独り言のように呟きながらリゼルは壁に手当てる。そしてゆっくり魔力を流し込んだ。その瞬間、リゼルの手の中で魔法陣が光り部屋の形が変わった。
「やっぱりな」
壁の模様が変わったり、荷物や服を入れるためのタンスが大きくなったりと家具や部屋の形が変わっていく。魔力の供給をやめると、変化は終わり最初に見た時とは全く違う部屋へと変わっていく様子をわかっていたかのように見つめるリゼル。
ベッドもダブルベッドから1人用ベッド×2へとなっている。
「これは『部屋を模様替えする魔法』の術式だね」
「『模様替えをする魔法』の術式?」
「文字通りだよ。魔力を流して部屋の中身を変えられる魔法。俺らみたいにダブルベッドを予約した訳じゃないけど用意されてた時に、こうやって自分で好きに変えてくださいねってためのものなんだろうね。結構魔力食うから扱える人は限られるだろうけど」
レシアの問に答えながら実演するように魔法を発動し続けるるリゼル。ちょくちょくダブルベッドにしているのはレシアとの夜に未練があるのだろう。最後には2つのベッドに戻し魔法を止めた。
「こういうサービス旺盛な所が世界最大の豪華客船って言われる所以なんかね。外から見た船の大きさに比べて中は薄いと思ってたけど、それは多分こっちの権限かけられてる方の術式かな。大方、客には部屋の中をいじらせて、部屋の外はスタッフがいじる感じなんだろ。となると、スタッフ内にもそこそこ魔力量ある人はいるのかな? 流石に雇った冒険者にいじらせることはないだろうし......なんにしても、面白い術式だよ」
またも独りでぶつぶつと呟き出すリゼル。しかしその表情は暗く見えない誰かに殺意を持つようなものではなく、おもちゃを前にした子供のように目を輝かせていた。
「リゼル、魔法好きなの?」
「魔法は好きだよ。魔法わね」
含みのある答え。しかしその意味をレシアには問わせない。リゼルは今まで渋っていた部屋の中に余裕を持って足を踏み入れては、そそくさに荷物を整理していく。
レシアも何となく察したのだろう。リゼルの様子を見守った。
「さてと......」
一通り荷物の整理を終えたリゼルは、ベッドの上に腰を下ろし今後の予定と日程について話していく。
「大感謝祭の開催が大体1ヶ月後。テリープシップでリロルド海港まで約5日、そこからマラヤ村まで行くのに2日掛からないくらい。んでマラヤ村からグラスフィードまで徒歩でも1週間程度。こう考えると、結構時間に余裕あるな......寄り道とか出来そうだけど、どうする?」
「それは旅しながら考える」
「りょ」
会議終了。完。
予定と日程と言っても大まかなものは決まっており、これと言って話す内容もなかった。どちらかと言えばリゼルがなんでもいいからレシアと話したかっただけだ。レシアもライブ感で旅をしているためか予定にはルーズなのも原因かもしれない。
「まあ、今後の予定より今のことだよな」
話が尽きてしまったことにリゼルは一瞬表情を歪ませるも、すぐに顔を上げ出国前に国王から貰ったテリープシップのパンフレットを取り出し会話を続ける。
「船の中、見て回らない? というか俺が見て回りたいんだけど......」
「......わかった」
妙な間を置いて頷くレシア。その事に違和感を抱きつつも、今は彼女と一緒に船の中を見て回れるだけで充分だとリゼルは納得させるように満足した。
次回、船内探索。




