さらば、夏の国。
夏の国編、最終回です。
翌日、リゼルとレシアは国王が(無理やり)用意したテリープシップの前で夏の国と国王達のお別れイベントをしていた。
「是非ともまた来てくれ。今度は盛大に歓迎しよう」
「今度来る時も魔神討伐なんてのは勘弁だぜ?」
「その時は私が倒そう。貴方達の手は煩わせない」
「......それを期待するってのもなんか変だけど、まあ、そうなった時は俺抜きで何とかしてくれること願ってるよ」
「ああ」
リゼルは国王とシラフネは、また来ると来た時の話をしていた。今度は普通に何も無く観光したいとボヤくリゼルに、国王達も呼応するように苦笑している。横でシラフネも釣られて笑いながら「今度は私が国を守ろう」と意気込んだりもして中々楽しそうな会話をしていた。
「レシアちゃん! 女はオシャレと愛嬌だからね!」
「シーア姉様、それ多分使い方違いますよ」
「メイリーは細かいなぁ......伝わればなんでもいいんだよ!」
「伝わらないから言っているんですよ」
「伝わるもんね。ね、レシアちゃん? わかるよね?」
「ごめん、わからない」
「そんな〜」
レシアの方もシーアとメイリーに囲まれ、何やらおかしな話をしている。内容は意味不明だがレシア自身は楽しそうに話しているのが確認できているのでリゼルも余計な口は出さなかった。
魔神討伐から今日までの4日間、レシアと娘達はかなり仲良くなった。特に次女のシーアは、レシアの素体が良いからとか何とか言って彼女にオシャレのイロハを教えたりと色んなところへ連れ回したらしい。メイリーもそれなりに興味があるらしく、何故かレシアと同じポジションで同行してたのは少し面白い話だ。
逆にリゼルの方はそっち方面ではなく、知識や文献、或いは魔法や武術の方面で国王達と交友を深めていた。リゼルとしても話題として広げられる持ちネタがない分そちらの方が楽だ等とほざいていたが。
「リゼル殿」
視線も意識もレシアの方へ向いていたリゼルを、引き戻すようにシラフネが声をかける。
「昨晩、母の方へ連絡を取りました」
「国王とよりを戻せって?」
「いえ、この男の事はどうでもいいです。我々も事後処理が済んだら母の元に帰りますので」
「おいシラフネ、それは酷くないか? 俺だってな母さんを愛して」
「私が送ったメールは妖精の国のことです。母は現在、故郷である極東で生活しているので、もしかしたら極東の人間が妖精の国の情報を持っているかも知れません」
シラフネは、レシアの口から旅の目的地を聞いた昨日の時点で既に極東にいる母と連絡を取っていた。何から何まで、頭が回る優秀な人女シラフネだ。ナンパ国王の側近に置いておくのはもったいないほど優秀である。
「そうか、何から何までありがとな」
「感謝される事ではない。むしろ国を助けて頂いた我々が感謝すべきことです」
「おいシラフネ、それ俺が言おうとしてたんだけど???」
「ただ、母が住んでいるのは極東の和の方なのであまり期待しないように」
「それはしゃーないさ、元々幻の国の情報なんか入らない前提で旅してるしな。知らんけど」
感謝するリゼルにシラフネは渋そうな顔で返した。彼女が言う通り、今の極東の情勢を考えれば情報が入ってくる可能性はかなり低いが0ではないだろう。幻の国に関係なく。だが無いよりはマシの情報網だ。仮になくても暇なら極東に行くことにはなるだろうし、どちらにせよというのがリゼルの見解だ。悲観する事でもない。
「さて......」
会話の区切りにリゼルは見渡すように視線を動かした。あからさまだ。
リゼルは3人のやり取りを横で見ながら、いつ会話に入ろうかとタイミングを伺い、逃し続けている少年に気づいていた。長男のリックだ。最初はレシア達に居たが、移動しリゼル達の傍に来ていたのだ。リゼルは視界の端でリックの存在にすぐに気づいていたが、敢えて無視し自ら会話に参加してくるのを待っていた。だが一向に参加する気配がなく、このまま行ってしまおうかとすら思っていた。だがそれは流石に可哀想だと、リゼルはリックの方へ視線を向ける。
「お前はいつまでそうしてるんだ」
「いや、会話に入っていいか分からなくて......」
「別に拒みはしないんだから普通に入れよ。で、何? なんか用?」
相変わらずの態度と口調で聞くリゼル。対するリックもこの4日間でからの態度には慣れたようで物怖じせずいつも通りの雰囲気で答えた。
「はい! これ、僕個人で渡すのはあれですが、役に立てばいいと思いまして」
そう言ってリックは小さい箱を渡した。受け取ったリゼルは遠慮なく包装を解き、箱を開けて中身を確認した。すると中に入っていたのは1つの腕輪だった。
「これは?」
「魔力を制限する腕輪です」
「魔力を制限?」
「はい。リゼルさんはこの国に入国した時、僕達に観測されてからずっと魔力を制限していたと聞きました。魔神の城の時も地下に行くまでと、ラグラゼールに逆探知されるまでもしてたと。なんなら魔神討伐の後もずっとしてたらしいですね」
「......それで?」
「シーア姉曰く、魔力の制限はずっとやってると疲れると聞きます。リゼルさんの魔力量なら尚更」
「まあ、そうだな」
リゼルはリックの調べ具合に少し引きながらも彼の言葉を肯定する。
実際彼が言った通り、リゼルはこの国にいる間のほとんどの時間は魔力を制限していた。寝る時も常にだ。それほどまでの時間の魔力の制限をしていた彼の疲労は、50連勤を終えたサラリーマンの疲労にも匹敵するだろう。リゼルは慣れているからそこまで気にしてはいないが、リックにとってはそれが大変な事だと思えたのだ。
何よりリゼルはリックの発明品を評価してくれた相手だ。彼としても英雄としてだけでなく、顧客として彼に何か恩を返したかったのだ。
「なので魔神討伐のお礼として僕からのプレゼントです! 是非使ってください!」
リックは嬉しそうに言った。
この日のためにかなり頑張って準備したのだろう。彼の純粋な瞳の下には僅かに隈が出来ており、リゼルはそれを確認してしまった。
「......」
リゼルは迷っていた。
受け取ったはいいものの効果がなかったらどうしようか、徹夜までして作った発明品に意味がなかったら彼の厚意を無下にしてしまうのではないか。
そもそも魔力制限は、魔力を持つ本人が行う技術である。魔道具でどうこうできる話ではないとリゼルは考えていた。
哀れで愚かな相手や嫌いな相手なら平然と馬鹿にするリゼルだが、純粋に想いを伝えてくる相手には彼も対応を困らせてしまう。
どうにか傷つけず何とか収まらないかとリゼルが悩んでいると、隣でやり取りを見守っていたシラフネと目が合う。彼女からは「大丈夫だ。問題ない」とでも言うような視線をリゼルは感じた。それは何かあってもフォローするという意味だろうか、真意は分からないがきっとそうだろうと、リゼルは若干の不安を残しながらも腕輪を填めた。
「? .....お、おぉ?」
一瞬効果を感じられずリゼルは落胆した。だが、腕輪の中で魔力が流れるのを感じ、そちらに視線を向けて目を見開いた。試すように元々かけている魔力の制限も解除してみる。
「これは、まさか......」
リゼルは小さいながらも驚愕するような声を零した。
自分だけでなく周りはどうかと、周囲を見渡しレシアやシラフネ達の反応を探ってみる。国王が「何が感じるのか?」とシーアに聞き「違和感は何も感じないよ」と答えているのが聞こえ、リゼルは確信した。
リゼルの魔力は制限されていない。彼の絶大な魔力は確かに流れ出ている。しかし、他の者は、リゼルの魔力を感じ取ってはなかった。
リゼルの魔力は、隠されていたのだ。
「これ、結界術か? 魔力の存在を隠す......いや、魔力の放出量を制限してるのか?」
「はい! 流石ですリゼルさん!」
リゼルが腕輪に込められた術式を看破しリックは流石だと彼を褒めた。同時に自分の発明が上手くいったことが証明されガッツポーズを決めて喜んだ。少年らしい年相応の反応だった。
説明しよう。リゼルが付けている腕輪に込められた術式は『一定量の魔力のみを放出する結界』である。これにより、リゼルは自ら魔力制限をしなくても、他者からは並の魔法使いと同程度の魔力しかないと認識される、彼の絶大な魔力が他者にバレることはないのだ。
「注意点としては起動中は常に魔力を消費するのと、オフにした瞬間一気に結界が消えて魔力が放出されるのでそこら辺ですかね」
「これ使ってる間は魔力は使えるのか?」
「多分ですが放出されてる量の魔力しか使えないと思います。魔力探知は多分無理です」
「そっか、でもまあいいや。これがあればいちいち魔力制限しなくて済むしな」
リックも完璧ではないし、この世に完璧な魔道具などない。欠点があるのは当然のことだ。それでもリックが作ったこの魔道具は、リゼルにとって"最高"のものだった。
「ありがとな、リック」
「はい! 役に立てて良かったです!」
珍しく本心からの感謝を述べるリゼル。気づいてるのか、それとも純粋な気持ちかリックもまた、満面の笑みで「良かった」と返した。
『まもなく、世界航海号テリープシップが出航します。ご利用のお客様は〜』
「そろそろだな」
豪華客船の出航のアナウンスがなった。それを聞き、リゼルとレシアは会話を辞め乗船の列に並び、乗船する。2人を見送りながらに国王は、最後の挨拶を述べた。
「ではまた! 君達の旅が良きものである事を願っているよ!」
「ああ、またな」
リゼルは手を挙げて返し、レシアは丁寧に頭を下げた。やがて受付がリゼル達の番になり、彼らは船の中に乗り込んでいく。
「.....シラフネ」
「なんでしょか、国王」
「我々は、彼らに救われたのだな」
「えぇ......」
国王は少し感慨にふけていた。
背中に大きなリュックを背負って歩いていく、赤髪の青年と白髪の少女の後ろ姿に。あんなにも若く、小さな背中に我々の国は守られたのだと。
「彼らは、この先も誰かを救っていくのだろうか」
「どうでしょうな。リゼル殿は面倒事と言って嫌がりそうですが、レシア殿が前に出ればリゼル殿も渋々手伝うのでしょう」
「......彼らの旅路は、これからどうなるんだろうな」
「どうなるかはわかりません。ですが、どうだったかは、また来た時に聞けばいいでしょう」
「そうだな」
シラフネとの会話が終わった頃、客の収納を終えたテリープシップは錨を上げて、ゆっくりと動き出す。船のデッキから顔を見せる彼らに2人が徐々に小さく、遠くなっていくのを、国王達は最後まで見送った。
完全に見えなくなるまで、彼らの旅路を見届けた。
これにて、夏の国編完結です。予定してたより長くなりましたがまあいいでしょう。
次の章に関して内容は決まってますが、内容的にも新しいことに挑戦してみたいので、少しお勉強するために時間開けます。他の方も作品も読みたいですし。時間があったらディフェの方書くかも知れません。多分。
ではまた、次の章かディフェかでお会いしましょう!
(なんか完結した時みたいな挨拶になりましたが、完結しませんよ。まだまだ続きますからね!)




