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旅の目的地。

「旅の目的地はどこなんだい?」


 国王が聞いたその言葉に、リゼルは思わず隣の少女、レシアの方へ視線が行った。

 リゼルは、レシアに一目惚れし、一緒に旅をしているが旅の目的地は知らない。旅の目的地を知らずに旅をしているのだ。そんな彼に目的地がどこかと聞かれれば知らないとしか答えられないし、答えを知っている者の方に目が行くのは自然だろう。

 リゼルの視線の先で、レシアもまたリゼルの方を見ていた。何か言いたそうな瞳を向けていた。


「ごめん。その前に、リゼルと話がある」

「そうか、そうだな。隣の部屋が空いている。そっちを使うといい」

「ありがとう。行こう、リゼル」

「......うん」


 流石のリゼルもここではふざけることなく、彼女の後を追って部屋を出た。執事に案内され隣の部屋に移動したリゼル達。念の為か、部屋の隅の方まで移動した。


「レシア、さん?」

「......」


 移動したはいいものの、レシアは背を向けたまま振り返らず何も言わない。不安に感じたリゼルが声をかけても小さく頷くだけで、彼の方は向かなかった。


「......」

「......」


 何秒そうしていただろう、何分沈黙が続いただろう。心音や呼吸音すら聞こえないくらいに、二人の間にはなんの音も流れなかった。まるで静寂が世界を支配したかのようだった。

 レシアもそうだが、リゼルから話をすることもなかった。疑問を投げなかった。彼女が話があるとリゼルを連れて行った時点で、話をする意思があるのは理解していた。最初こそ不安は出たが、一瞬もすれば余裕は出る。リゼル・ヴァリスとはそんな男だ。だから彼は待つ事を選んだのだ。前と変わらず、彼女から話をしてくれる事を待っていたのだ。


「リゼル、ごめん」


 やがて、零れるように声が発せられた。謝罪の言葉だ。何に対する謝罪か聞くほどリゼルは野暮ではない。彼は静かに続きの言葉を待つ。


「私、リゼルと旅を続けたくなかった。だから、あの日、突き放した」

「ちょっと待って、それは普通にショックなんだけど? というかなんのこと?」


 待てなかった。流石に待てなかった。突然の告白とその内容に、リゼルは急いで待ったをかけた。


「突き放したってのは、多分あの魔神の城行く前のことだよね?」

「うん」

「一緒に旅をしたくなかったって何? 俺なんか悪いことした? 言ってくれれば改善したけど......いや、心当たり多いし正面から言われると立ち直れないかもしれないな。今でも結構キツいし......え、でも、いや......」


 突き放された時と同等かそれ以上にリゼルは動揺していた。ボソボソと小声で独り言をぼやきながら不安を顕にしていた。まあ、好きだった子に一緒に居たくないと言われればショックを受けるのは当然だろう。会話もままならないレベルで戸惑っているリゼルにレシアが振り返り、少し強めに手を握る。


「リゼル」

「あ、はい。なんでしょう」

「聞いて」


 今から話をするからと、真っ直ぐな瞳を向けられリゼルの独り言は止まった。不安とショックは消えないが彼女の言葉を聞ける程度には落ち着いた。


「私がリゼルと一緒に旅をしたくなかったのは、私と一緒に旅をして、そのせいでリゼルの時間を奪うのが嫌だったから」

「俺の時間を奪う......それは、君の旅の目的地が問題?」

「うん」


 リゼルの問いにレシアは小さく頷いた。

 そして、一拍置き、彼女は自分の旅の目的地を話し出した。


「私の旅の目的地、それは......」

「それは?」

「幻の国、妖精の国フェアリーランド」


-------------------------


 レシアの旅の目的地、それは幻の国の1つである妖精の国だと告げられた。対するリゼルの反応は、一瞬僅かに目を見開き、そして「なるほどね」と冷静さを取り戻していた。


「えっと、リゼル?」


 予想していたよりも薄い反応に、逆にレシアが戸惑ってしまう。何か変なことを言ったかと可愛らしく首を傾げる。いや、幻の国が目的地なのは普通に変なことではあるが。

 以前も話したが幻の国とは、国の位置が観測できず、招かれた者しか入国を許されない不思議な国である。リゼル達は一度その一国に訪れているが、それすら奇跡とも言える事である。2度目などもってのほかだ。


「リゼル、その......」

「レシアが俺の国に来てたのって、幻の国の情報聞いたから?」

「え、あ、うん。噂で聞いて......」

「やっぱそういう感じか、だからフォレスト着いた時、残念そうな顔してたんだね」

「うん......」

「まあ前置きはここまでにしといて、とりあえず、レシアがなんで俺を突き放したのか、一緒に旅をしたくなかったのかがわかったよ」


 短い問答で謎が解けてた事に、スッキリした。とでも言うような腹立たしい表情でレシアを見ながらリゼルは話を続ける。


「レシアの目的地が幻の国だから、いつまで旅を続けることになるかわからない。俺みたいにノリと勢いで旅に着いてきた奴の時間を、どれだけ使うことになるかわからない。だから一緒に旅をしたくなった。そうだろ?」

「......うん」


  リゼルの問いにレシアは消え入りそうな声で頷き、言った。


「リゼルには、リゼルの時間があるから」

「......」

「私と会って、それで一緒に旅をしたいって言ったけど、リゼルは、リゼルの国の学生だから......」

「......」

「勉強は大事だし、学生でいられる時間はそんな長くないって聞いた。私は学校行ったことないけど、学校での時間は、将来かけがえのないものになるって言ってた」

「それは、前にレシアが言ってた親代わりの人?」

「うん。旅人の時間は自由だけど、学生には学生の時間がある。だから自由な旅人がそれを奪うのは、ダメだと思う」


 レシアは、誰かと旅をする度に後悔をしていた。その人が望んだことだとしても、一緒に旅をするという事は、その人が本来使うべきだった時間を自分の都合で奪っていることになる。ましてや旅の行先が幻の国ともなれば、消費される時間は計り知れない。だからレシアは、何ヶ所が一緒に旅をしたところで、自分の目的地を明かし、彼らの時間を返すつもりだった。過ぎた時間が戻ることはないが、それでも全てを奪わず、残りの時間を自分のために使って欲しいという気持ちを込めて、共に旅した者達と別れてきた。

 レシアにとって、リゼルも他と変わらない。彼女のために時間を消費するのは、ここまでだと、別れを告げようとしていた。


「リゼルは、学生として、自分の時間を大事にした方がいいと思う。だから......」


 「私との旅はここで終わり」喉まで出かけた言葉を、リゼルによって塞がれた。口を手で覆われ、その先を言わせなかった。そして、いつになく真剣な表情で、感情の籠った低い声で言った。


「俺は、レシアと一緒に旅を続けるよ。たとえそれが、終わりの見えない旅だったとしてもね」


 リゼルは言った。旅を続けると。

 リゼルは選んだ。レシアと共に旅をする事を。


「え、なんで?」

「元々火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中、あのコのスカートの中だろうと、一緒に行くつもりだったからね」

「スカートの中は行かないけど、でも幻の国なんだよ?」

「聞いたよ。でも俺には目的地がどこでも関係ないよ」

「いつ辿り着くか分からないんだよ?」

「旅ってそういうもんでしょ? 俺初心者だから知らんけど」

「でも、リゼルは学生じゃ......」

「もう学校やめたし、学校つまらないって思ってた時期だったし無問題(モーマンタイ)よ」

「でも、だってリゼルは、リゼルの時間が......」

「俺は、レシアと一緒に居ることに、自分の時間を使いたいんだよ」


 レシアは絞り出すようにあれやこれやと理由をつけるが、リゼルは関係ないと、イケメンフェイスの優しい笑顔で彼女の手を握り返した。

 今までならば、目的地を伝えた時点で多くの人が諦めていた。仮にその時は諦めなくても、終わりの見えない旅から途中で離脱する人もそれなりに居た。リゼルもそうだと思ったし、これからそうなる可能性もある。けれどリゼルの、レシアを見つめる真っ直ぐな瞳からは、彼の揺るがない覚悟があるように見えた。リゼルは、今までの誰とも違うと、レシアに確信させた。


「いつまで続くか分からないんだよ?」

「さっきやったね、それ」

「この国を出たら、見つかるかもしれないよ?」

「......可能性としては全然あるね」

「リゼルは、もし、旅が終わったらどうするの? 私のために時間を使いたいって、言ったけど、もしその時間がすぐに終わったら?」


 柔らかい笑みを浮かべたままリゼルは止まった。

 レシアの疑問は、昨晩シラフネに聞かれた事と同じものだ。旅が終わったらどうするのか、使いたいと思っていたレシアの時間に、終わりがやってきたらどうするのか。


「それは......」


 その答えは、まだ出ていなかった。それでも、彼は答える。出てない答えを。


「知らない。終わったなら終わったらでその時考えるよ。今は、少しでも長くレシアと一緒に居たい。そのために旅をしてるし、これからも続ける。それだけだよ」


 リゼルは常にリスクを考慮し、何手先も見据える男だ。自分の危険、周りの人間の危険。全て考慮し、出来る限り被害とリスクを減らすよう彼は常に、合理的に考えている。そんなリゼルが自らの未来すら考えていない。彼らしくもない思考だった。

 それでも、今の彼にはそれ以上に、彼を動かすだけの理由(モチベーション)があった。ならば、それ以上は言う事はないだろう。


「わかった。じゃあ、いいよ」


 諦めた。というよりは信じるように、レシアはリゼルの意思を受け入れた。もしかしたら途中でリゼルが旅を辞めてしまうかもしれない。たとえそうなったとしても、今は、その瞬間までは彼を信じてみようと、レシアは思った。


「リゼル、これからもよろしく」

「あぁ、よろしく。レシア」

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