結果とわだかまり。
照りつく太陽! 煌めく海! そして水着の美少女! これこそ、まさに夏! 夏の国の醍醐味である!!
「夏だな......」
リゼルはパラソルの下で怠そうに呟きながら、目の前の夏らしい光景と、海ではしゃぐ美少女達を眺めていた。と言っても彼の視界に写っている主な相手は、白髪の美少女、レシアだけだが。掛けているサングラスが「彼女の眩しさに目が焼かれないように」とほざいてるようで実にキザったらしい。
「君は混ざらないのかい?」
そんなリゼルに低い男の声が掛かる。サングラスをズラし確認するように視線を向けると、そこに居たのは茶髪の腹筋の割れたおじさんだった。いや失礼。おじさんではなく、国王だった。
「怪我はもういいのか?」
「外的な怪我はほとんどないからな。治癒魔法も受けたし、完治はしてないがもう動いても問題ない。君の方こそ大丈夫か? 魔神と戦ったのだろう?」
「......ノーコメントで」
「ははは。気にしなくても、君の要望通り君達の事は公表しないさ。個人的に表彰と特別報酬は出させてもらうがね」
「そりゃどうも」
リゼルが魔神妃フィルドレアを倒してから2日が経った。国の方は復興も進んでおり(元々街の方への被害は少ないので復興という程でもないが)、冒険者や住人も自分達の活動を再開している。とはいえ、未だ怪我人もいるので聖職者や医者達は休み少なく治療を行っている。それも近い内に終わるだろう。
「で、君は彼女達に混ざらないのかい?」
「俺は見ているだけで十分なんだよ。柄じゃないし」
「柄にもなく楽しむのがこの国の良さなのだよ」
「強要すんなよ。それに、見てるだけでも充分楽しいからいいんだよ。眼福ってやつだ」
「なんだ、君も話がわかるタイプじゃないか! ははは」
「ははは、その傷口広げてやろうか?」
軽口を投げ合い2人は愉快に笑った。こういうふざけたやりとりや、レシア達の楽しそうな様子もそうだ。今の夏の国にはリゼル達が入国した時に感じ得れなかった平和が漂っている。これがこの国のあるべき姿なのだろう。
「1つ、聞いてもいいかな?」
「ダメだ」
「では聞こう」
「この国王、人の話聞かないくせに自分の質問は聞かせるのかよ。面倒くさ」
「ははは、国の王なんてそんなものさ」
「最悪だな国王」
くだらないやり取りを前置きに、国王は問う。
「実に野暮な質問なのだが、魔神に勝てる強さと術があったのなら、最初から戦ってくれても良かったんじゃないか?」
「あれは運が良かったんだよ」
「運、とは?」
「単純な話、俺目線じゃ戦ってみるまで魔神に勝てるか分からなかったし、勝ったのも結果論だ。今回は結果的に勝てる相手だったってだけで、場合によっちゃ普通に負けてた可能性もあった。だから運が良かった。そんな運で左右されるレベルの相手とわざわざ戦うリスクは背負いたくねぇよ」
「......確かにな。でも最終的には戦ってくれた」
「適当な所で引き上げるつもりだったんだがな。タイミング見失っただけだ」
「そうか」
「そうだよ」
確かにリゼルは魔神に勝利した。もっと言えば、配下6人の配下のうち3人を倒し、その後の連戦での勝利だ。文面だけの結果を見るならリゼルの圧勝にも見える。
けれど実際はそうではない。
連戦を考慮せずとも魔神はリゼルにとって勝てるか分からない相手だった。彼が口にしたように、今回の魔神との戦いは"結果的に勝てただけ"に過ぎず、他の魔神だった時、同じような結果になるとは限らない。それを最初から戦えば......等というのは少々ズレた話なのだ。もちろん、その事は国王も理解している。どちらかと言えば、この言葉は"国王として"の言葉だ。リゼルもその事を理解しているからこそ、文句を言うつもりはない。
「君に魔神の討伐を依頼しておいてあれだが、この幸せな空間に魔族達もいる事が理想的なのだろう」
「......いるじゃねぇか。ちょくちょく」
「茶化すのはやめてくれ。今センチな話をしてるんだ」
「それこそ柄にないだろ。それとも、お前の言う柄にないことってのは、隣の面倒くさがりな旅人相手に平和になった国のリゾートで暗い話をすることか?」
「口が達者だな、君は」
フィルドレアが国に来たその日から国王は悩んでいた。フィルドレアに関しては、終戦後もよく悪い噂が流れており、国王の耳にも何度か届いている。国に来てからその噂は多くなった気もするほどに。
それでも国王は、彼女達の入国を快く受け入れた。そして彼女の提案も「平和協定もの元で、共存を望んでいるなら受け入れてもいいだろう」と考えていた。
フィルドレアが部下に人攫いをさせ、労働力として地下奴隷をさせていたと知った時は流石に切れた。この魔族は所詮は魔神、ただの巨悪なんだと認識した。国を守るために、この魔神は倒さなければならないと理解した。
けれど心のどこかで、まだ彼女らを受け入れられる余地はないのかと、考える自分もいた。考えるだけ無駄だと思いながらも、考えてしまう自分が消えることなく、戦力集めの時間稼ぎだと理由をつけて会談を引き伸ばしにしていた。賢者を呼ばなかった理由もそれが1つだ。
リゼルがフィルドレアと戦うと聞いた時、思わず止めそうになった。勝てる算段はあるのかと聞くふりをしながら、本当は倒さないでくれと僅かながらに思っていた。彼の沈黙の回答に国王は不安と安堵の対極的な感情両方が混ざっていた。
フィルドレアを討伐した報告を聞いた時、国を守れたと、何もしてないながら達成感を覚えた。国や民を守るために、この結果が正しいのだと、思った。思うようにした。でなければ、彼女達を受け入れられなかった事がわだかまりになりそうだったから。
「君なら、君の力なら彼女達を倒さず受け入れられたか?」
「知るかよ。そもそもあっちは人類を奴隷か滅ぼす存在としか見てなかった。あんたや、仮に俺が受け入れる準備をしてたとしても、あっちにその気がないならどっちにしろ無理な話だ」
「それでも、国王として、考えなければならないものはあるのだよ」
「......そーかい」
会話が途切れ、二人の間に沈黙が流れる。夏の国に似合わない冷たい空気と共に。




