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お疲れ。

「星天魔法、星の砲撃(ザ・スター)


 リゼルが小さく呟いた直後、天から光の柱が降り注ぎ、魔神妃フィルドレアを飲み込んだ。彼女の手に浮かんでいた巨大な水球の水素爆弾ごと覆われたにも関わらず、光は衝撃すら残さない。

 光が存在した時間は0.00001秒にも満たない、瞬きよりも速い一瞬だった。だがその一瞬で、全ての決着は着いた。

 光が止んだ時、リゼルの前に魔神は居なかった。巨大な水素爆弾はなかった。けれど彼の後ろに魔神が作った城はあり、国も街も住人も全て無事だった。

 そう、魔神妃フィルドレアは声を発する間も無く、消滅したのだ。


 リゼル・ヴァリスは、魔神妃フィルドレアに勝利したのだ。


「はい、お疲れお疲れ」


 指を下ろし、ボヤいたリゼル。足元の海面を凝視し魔神の魔力がないこと確認すると、青年は煽りのような労いの言葉通り「疲れた」と海面に倒れ込んだ。


(魔神相手とはいえ、()を使わされたのは痛いなぁ。誰も見てなきゃいいけど......まあいいか。そん時はそん時だ)


 顔と胴のみを出し、四肢は沈めた状態で、リゼルは夜空を見上げながら考える。魔神への勝利、そのために使った技。それ以外にも色々考え、やがて、面倒くさくなる。


「............戻るか」


 リゼルは体を起こし、軽く服を乾かして空を飛んで街へと戻った。ついでに魔神の城も破壊し、ビーチを解放しておく。国王の話では元からあった訳ではなく、フィルドレアは国に来てから作ったものらしい。異物なら壊しておいてもいいだろうとリゼルは考え、躊躇なく破壊した。

 城の崩壊をきっかけに、住民達は月下に照らされながら降り立つ青年の姿に気づく。


「リゼル!」


 声を上げて真っ先にリゼルの元へ駆け寄ったのは、白髪の少女、レシアだった。リゼルとしてはその事だけで労力を払った甲斐があったと思う程度には、惚ける余裕があるらしい。


「リゼル、えっと......」


 実際に惚けてる暇はそこまでない。よく見るとレシアの体は所々怪我をしており、魔力も枯渇している。フィルドレアに操られた魔獣や魔族と戦っていたのだから当然だろう。元から魔力を使わない戦い方をしていたのもあり、体力の方は余裕があるようだが、それでも彼女の表情からは疲れが伺える。リゼルは「お疲れ」と労いながらレシアに治癒魔法をかけた。当のレシアは治癒魔法には感謝しながらも、何を言っていいか分からないという様子だった。


「魔神を、倒したんですね......」


 彼女の言葉を待っていると、奥から別の声がリゼルの耳に届く。視線を向けた先にいたのは、長男のリックだった。非戦闘員に見えた彼すらも魔獣達と戦ったらしく、所々傷を負い疲弊している。手にはハンドガンが握られている事から、非戦闘員らしく、引き気味に戦っていたのだろう。まあそこはどうでもいい。


「実力で倒したわけじゃねぇよ。そっちで魔獣や魔族が暴れてたただろ? それをやったのはあの魔神だ。ただ、あの魔神も頭が悪くてな。調子乗ってそれにリソース割き過ぎて、勝手に自滅したんだよ。それだけ。俺が勝った訳じゃない」

「......それでも倒したのはリゼルさんですよね?」

「俺じゃなくて長女辺りにしといてくれ。報酬は受け取るけど表彰される気はないんだ」


 リゼルの表情は、最初に見た面倒事を嫌がるような顔だった。魔獣や魔族が操られていたのは事実。故に筋は通っている。がリックにはリゼルが嘘をついていると、何となく察していた。その理由もまた。


「分かりました。父......国王にはそう伝えておきます」


 察した上で、彼に合わせた。リゼルの意図を汲んだのだ。


「頼む」

「いえ、こちらこそ。国を救って頂き、ありがとうございます!」


 深々と頭を下げて礼を言うリック。対してリゼルは「気にすんな」と彼を戻らせ、自分もまたレシアの手を引いて歩き出す。


「或いは、とは思っていましたが、まさか本当に魔神を倒すとは......」

 

 宿に向かう途中で入れ替わったかのように三姉妹に見つかり、驚いたように目を見開く長女の言葉からリックの時と同じような会話が始まる。


「そのやり取りさっきもしたよ。リックと」

「そうだったか。では、話は不要だな」

「ああ、リックに任せてあるからそっちで何とかしてくれ」

「承知した」


 丁寧に答える長女シラフネ。彼女もまたレシアやリックと同様に魔獣達と戦い、消耗しているはずだが、凛とした姿から疲れは見えない。外見もフィルドレアから受けた傷以外、新たな傷がないことから本当に余裕はあったのだろう。彼女1人に余裕があってもしょうがないが。

 次女のシーアと三女のメイリーは目と口を開いたまま呆然と2人を見つめていた。否、2人というよりリゼルの方だった。


「凄い......」

「流石にヤバすぎでしょ......」


 小さいながらも確かに聞こえた声にリゼルはようやく、彼女達が何を驚いているのかに気づく。

 杖を支えにして歩くのがやっとな姉妹2人に対してリゼルの姿は服にすらダメージのない完全無傷な状態だった。実際は傷も服も直してから戻ってきたのだが、姉妹はその事を知らない。故に、彼女らはリゼルが魔神を相手に無傷で勝利したと思い込んでいるのだ。


(長女の方は……あっちが察してくれるだろうから、別にいいか)


 誤解を解く面倒くささが勝り、リゼルはシラフネに相槌だけ送って姉妹の言葉は無視した。それから住民の状況や今回の件の礼金の話などを軽くした所でレシアが眠たそうに欠伸をし、それがリゼルに移った所で話は区切られる。


「そういえば、貴方達は今日出国の予定だったはず。という事は今晩は宿無しということでは?」

「そういやそうだな。今から宿借りれるか? 最悪野宿でもいいんだが......」

「なら、今回の礼も含めて王宮で泊まるのはどうだろうか? 国王も文句は言わないだろう。なんなら出国まで王宮で自由にしてもらっても構わない」

「その提案はありがたいけど、そんな簡単に決めていいのか?」

「貴方達は国を救った英雄だ。ならば丁重にもてなすのは当然の事だ。そして貴方が私にこの決定をさせるまでの経緯、それは決して簡単なものではないだろう?」

「......そこまで言うなら、遠慮なく」


 王宮に招待された際の面倒事や宿の方が楽という気持ちもリゼルにはあったが、ここまで言うシラフネの厚意を無碍にするのは流石に悪いと、リゼルは彼女の提案を受け入れた。今から宿を探す面倒くささも傾いた要因だろう。

 レシアの方は相変わらず、会話をリゼルに任せきりで最後に「いいよ」と頷いただけだった。


「では、案内しよう」


 シラフネに先導され、リゼル達は再び王宮へと招かれた。今回は面倒事を頼まれるのではなく、面倒事が終わった後だ。リゼルの気も重くない。けれど、全身にかかる疲労はそれなりに重く、王宮に着いた後は国王の話も適当に流し、風呂と軽い食事を取ってレシアと共にふかふかのベッドに身を預けたのだった。

 もちろん別々のベッドだが。

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