オリジナル魔法。
オリジナル魔法。
基礎魔法やそれ以外の既存の魔法ではなく、個人が自ら術式を組んで作った、文字通りオリジナルの魔法である。
オリジナル魔法はある程度の技術と、用途とそれに必要な術式を理解していれば誰でも習得可能である。そのため、魔法使いではないがオリジナル魔法を習得するために魔法を齧る者もいる。当然、リゼルも......。
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「あはははは! これならどう? 何も出来ないでしょう?」
「うーん、熱いな......」
フィルドレアが高々に笑う。
彼女は『液体を操る魔法』を使い、リゼルを海水の球体に閉じ込めた。海水と言っても凍結からの脱出を防ぐために熱湯ではあるが。
「湯加減悪いぞ! もっと調整しろ!」
「お黙り! このまま貴方を窒息させてあげるわ」
「結構です。せいっ!」
「な!?」
リゼルが大の字に伸ばすように手足を動かすと同時に、水球は破裂した。何をした、と言うまでもない簡単な解。リゼルは特別な魔法を使ったわけではなく、ただ魔力を放出して内側から暴発させただけ。それだけでフィルドレアの扱う水球から脱出したのだ。
着地と同時にリゼルは指を鳴らし、自身の両隣りから氷と雷の魔法を同時に放つ。
魔法はどちらもフィルドレアに直撃するが、フィルドレアは体が水面に映る液体のように僅かに揺れただけですり抜けしまう。
(やっぱ属性系は通らないか......防御の方も魔力任せの方が良いかもな)
(ほんとうに、魔力の底が見えないわね。今のも最大魔力の上級魔法のはず......魔力は使い回ししてる分、継戦能力は私の方が上のはずなのに、この男相手に持久戦はダメだと直感させる......)
互いに睨むように見つめながら対象を観察する。
2人は勝利の女神が微笑むのを待たない。勝利を手繰り寄せるために手を尽くす。それだけである。
「貴方の強さは認めるわ。けど私には及ばない!」
海面の水がフィルドレアを持ち上げながら、魔神の城と同程度の巨大な半身を形成していく。メカメカしいその肉体は正に!
「ガ○ダムだ! お前、男心わかってんなぁ!」
「黙りなさい! そんなんじゃないわよ!」
「俺はユニ○ーンが好きなんよ。ユ○コーンモードの1本角からデス○ロイモードのガン○ムらしい2本角になるのが好きなんよ」
「だから黙りなさい! 私のはそんなニュ○タイプの呪いなんかじゃないわ。私のはバル○トスルプスレクスよ」
「......お前魔神なんだよな? 液体を操る魔神なんだよな? それが狼の王って......いや、やめよう。好きなものにケチつけるのは厄介ファンだけだからな......」
俺は人の好きを理解できるファンだからな。などと呟きながらリゼルは目の前のバ○バトスルプスレクスの半身と向かい合う。ちゃんとメイスを持っているのが拘り深さを感じるが、よく見ると尻尾が9本ある。しかも形は水龍だ。本来のバルバ○スとは違っていた。けど文句は言わない。これはきっとミキシング機なのだろう。
9本の尻尾が一斉にリゼルへと襲いかかる。
リゼルはその場で体を浮かし、小さい動きで尻尾を回避する。避け切れない攻撃は氷の盾や風の魔法で軌道を逸らす。尻尾だけでは攻め切れないと考えたのか、フィルドレアは○ルバトスの腕を伸ばしリゼルを捕まえる。そして、巨大メイスを自身の腕を巻き込む勢いで刺すように突き出した。
バルバト○の腕は手首から消し飛び、メイスは魔神の城へ突き刺さり海が震えるほどの衝撃を放つ。
「どう? やった?」
「それはフラグだろ」
土埃の晴れた先で、リゼルはメイスを止めていた。左手で粉々になった魔神の城を支えに右手の掌から氷の盾を作っている。氷の盾はボロボロだが、リゼルの方は全くの無傷だった。
「ちっ」
追撃をしようと9本を浮かせた時、リゼルはメイスを僅かに押し返し、銃を模すように指先を構えて魔力弾を放った。強力な魔力弾はメイスを砕き、透明なコクピットに隠れるフィルドレアごと巨大なバル○バトスの左半身を消し飛ばした。しかしフィルドレアの肉体を液状化している。
体の欠けた部分を海水が覆うと、みるみる肉体を構築していく。再生が終わるより少し早く、リゼルは氷を放つ。再生の邪魔をしようと、フィルドレアは平然とそれを防ぐが、リゼルはフィルドレアが行動した一瞬で距離を詰めていた。そして雷を宿した右手を突き刺す。
「至近距離なら行けると思った?」
フィルドレアな嘲笑うような瞳を向けて言った。
手首から先が胸に突き刺さっているものの、出血も痛がる様子もない。それどころかリゼルを逃がさないため、触手のようにうねる液体がリゼルに絡みついた。
「思った思った。でも意味ないみたいだな。残念」
「甘いのよ!」
「どうかな?」
捕まり、飲み込まれそうになった瞬間リゼルは手首を回し風の魔法を放った。
螺旋状に回転しながら放たれた風の魔法はフィルドレアの胴体を弾き飛ばす。しかし、フィルドレアは首だけになりながらもリゼル煽り、水龍を放つ。リゼルは冷静に回避、防御し距離を取る。それでも執拗に追いかけてくる水龍は風の魔法で消し飛ばす。足りないところは側面から打撃を入れて破壊する。
「貴方の戦いはラグラゼールとの時に見せて貰ってるわ」
「......見てただけか? なんで共闘しなかったんだ?」
「する必要がないからよ。ラグラゼールだけで勝てればそれで良し。仮に負けても私のために情報を引き出せたなら部下として仕事したのだから。ラピリアもそう。戦いに負けても貴方に一撃入れる機会を作った。それだけで十分なのよ」
「......答えになってなくないか? まあいいや」
どうでも良さげに呟くリゼル。
人類を嫌い、そのための国を支配する。挙句の果てには情報を引き出すため、自分の利益のために仲間を平然と切り捨てる。この魔神の考えは理解し難いものだ。否、フィルドレアの方が他者への理解をシャットアウトしているのかもしれない。そういう考えに辿り着く経緯や理由はリゼルにも理解はできるが、今の彼にフィルドレアの考えを理解するつもりはなかった。
それよりも魔神の能力の方が問題である。
(あれは液体を操る魔法由来の技か? 肉体を魔力化させて魔法でいくらでも形を再生できるのか? それでも不死身じゃないはずだ恐らく核になる部分があるんだろうけど......やっぱ一撃で消し飛ばすプランしかないか)
「何を、考えるのかしらっ!」
首を傾げて悩むリゼルにフィルドレアは三度猛攻を開始する。カウンターを考慮したのか○ンダムはやめ、水龍による攻撃をしていた。
「お?」
一体の水龍がリゼルの左腕に噛み付いた。リゼルの回避や防御が甘かったわけではない、フィルドレアが一体の水龍に隠れるように水龍を操作していたのだ。
「もらっ」
「てないよ」
噛み付いたならあとは砕くまで。フィルドレアが力を込めようとした。よりも一瞬早く、リゼルが魔力を溢れ出す勢いで流し腕を振った。それにより魔力が暴発しながら流れ水龍の顔面が崩壊する。
「ちっ」
「怒るなって」
あと一歩のところで決め切れず逃げられてしまうフィルドレアは、その事に見てわかる苛立ちを見せていた。決め手に欠けるという部分ではリゼルも変わらないはずが、彼の方は不気味なほど冷静だった。
「気に食わないわね、その余裕そうな顔」
「元からだよ」
「だから、その余裕を崩してあげるわ」
「結構だ......ッ!」
言い切る前にリゼルは咄嗟に体を捩る。反応が遅れたからか、相手が早いからか僅かにリゼルの肩が削れていた。
肩の傷を治しながら視線をフィルドレアに向けると、そこには小さな露が浮かんでいた。目を凝らして見ているうちにもう1発、薄く青い光が放たれる。リゼルは氷の盾を張るが、当然のように貫きのリゼルへと被弾する。そこでリゼルは気づく。これは、最初に魔神の城から自分を貫いたレーザーだと。
(城の時は逆行と遠さから見えなかったけど、あの露から放ってたのか。しかも露は動かしながらでもレーザー撃てるのか......)
考えてる間に放たれる三度目のレーザー。リゼルは着弾地点を即座に見極め、厚さ20cm全長1cm程度の極小の氷の盾を作る。魔力と氷の密度を集中させた盾だ。
「チッ!」
だが、それすらも平然と貫かれる。リゼルの腹部に小さな穴が空く。臓器こそ避けているものの、ダメージは小さくない。それでもリゼルは冷静に治癒魔法で治していく。
4度目のレーザー。今度はリゼルは防御を張らず、相手と同じように、そして属性的にも強い雷で、レーザーを放った。
「なんで相性有利の極太レーザーが極薄レーザーに負けんだよ」
フィルドレアのよりも太い雷のレーザーは、彼女の水のレーザーに押し負け、右肩を貫かれてしまった。 追い打ちをかけるようにフィルドレアは露の数を増やし5度目のレーザーを放つ。リゼルは治癒魔法で肩を治療しながら指を立てる。そうして作ったのは岩の盾。彼の姿を完全に覆うほどの大きな盾、いや盾と言うより壁だろう。この壁も当然貫かれるのだが.......。
「あら?」
今度はリゼルには当たらなかった。やったことは実に単純だ。リゼルが作った岩の壁は防御用ではなく、自身を隠すためのもの。リゼルは壁を作ると同時に、身を屈める事でレーザーを回避したのだ。だがこれも所詮は急場凌ぎに過ぎない。
(治すことは出来る。内蔵に被弾してもギリセーフのラインか。けど貫通力は頭おかしい。こっちの防御も攻撃も紙ペラ同然に貫いて来る。頭か心臓でも貫かれたら一瞬でゲームオーバーだな......見られなきゃなんとか......とはならんか......)
フィルドレアの次の手。それは露の数を増やすことだった。10個、いや20個以上はあるだろう。大量の露を増やしリゼルを確実に仕留めようとしている。
「こりゃ無理だな」
やれやれと手首を振りながらリゼルは言った。
"魔神妃フィルドレアのレーザーは防げない"この言葉を彼の敗北宣言と捉えたのか、フィルドレアは口を開けて大笑いした。
「あはははは! 結局! 結局そうね! いくら足掻いても! 多少他より強くても! 所詮は人間! 大戦時代を生きた私に! この魔神妃フィルドレアに勝てるわけがないのよ! でも私は寛大だからね。貴方が頭を下げて謝罪をすれば手足を切り落として、治癒出来ないように私の魔力で塞いで、一生飼い慣らすだけで済ましてあげるわ」
「済んでねーじゃん」
ボヤきながら指を鳴らすリゼル。瞬間、フィルドレアの周りに浮いている露の、目の前に魔法陣が現れ、そこから魔法が放たれた。
「は?」
空中に突然展開する魔法陣から雷や氷や風の魔法が放たれ、レーザーを放つ前の露を破壊した。20数個全て。
「え、何? 何が起きてるの?!」
フィルドレアの疑問にリゼルは冷静に答える。目の前の出来事を、魔神の理解出来ない目の前の事象を当たり前のことかのように。
「レーザーそのものを防ぐのは無理。だから撃たれる前に潰す。そんだけ」
「っ、舐めないで!」
それだけの事。その一言に、煽られたと感じたフィルドレアは、更に大量の露を作り出す。50個近くはあるだろうか、だが、その全てが追うように展開したリゼルの魔法によって破壊される。
レーザーを放つ前に、破壊される。
(この魔法! これね! 最初に私の津波を止めたのは!)
フィルドレアは不思議に思っていた。最初の巨大津波を止めた凍結は、出力の高さから最大魔力の上級魔法であること自体は理解していた。加えてラグラゼールとの戦いで、リゼルが魔法を常に同時に発動し続けられる技術がある事も把握している。それでもだ。たかが、最大魔力の上級魔法を10個近く同時に発動した程度で、彼女の津波は止められるはずはないし、そもそも10個以上の魔法を同時に発動出来たとしても、発動範囲の狭さを考えればだが、国をも飲み込む程の範囲の津波を止めるのは不可能だった。
(でもこの魔法なら! 本来届かない範囲で魔法を展開できるこの魔法なら、私の津波を止められてもおかしくはない!)
『遠隔展開』
本来の使用可能範囲からより遠くに、魔法の展開を可能とした「ラウス・ヴァリス」のオリジナル魔法。 魔法と言っても、使い方としては使用する魔法に、この魔法の術式を組み合わせる、言わばオプションパーツのようなものである。
本来魔法使いは、魔法を発動できる範囲が極端に狭い。理由は、魔力操作が届く範囲でしか魔法を維持できないからだ(発射型の魔法は、組み込まれている術式に、指向性と魔法が維持される射程が決まっている)。
魔法使いが杖や詠唱などを必要としているのも、魔力を安定させるためである。リゼルのような無詠唱や杖無しはその必要性が無いと言うだけ。しかしそういうレベルの魔法使いであっても、従来通りのやり方で魔法を使用した場合、範囲は自身の周囲半径1m~2mが限度。これは賢者であっても例外ではない。
だが、この魔法はその制限を取り払ったものである。ラウスやリゼルは、この『遠隔展開』により、魔法の使用可能範囲を彼ら自身の魔力探知の範囲内まで広げている。
つまり、リゼルは、魔力探知の範囲が、彼の魔法の射程範囲なのだ。
(しかもこの男、私がこの魔法のことを把握してないだけじゃなくて、私がラグラゼールを使って情報を引き出そうとしている事までとっくに読んでいて、敢えて使わなかった! 温存してたんだ! 私を倒すために! .......舐めやがって!)
フィルドレアの額に今にも血を吹き出しそうな、血管が浮かぶ。隠しようもない苛立ちが、殺意が、魔神から溢れ出していた。
「貴方は! 貴様だけは! 絶対に殺してやる!!!」
怒り叫びながらフィルドレアは右手を掲げた。すると、レーザーの露から始まり、海水の水が魔力を持って彼女の掌に集まって行く。数秒で、フィルドレアの手には巨大な水球が完成した。
「それは?」
「水素爆弾よ!」
「ほう?」
「詳しくは知らないけど!」
「あぁ......」
彼女の言葉にリゼルは呆れるように言葉を漏らしながら、確かめるよう水球を見つめた。
リゼルの「魔力の流れを読む瞳」から入ってくる情報は水素爆弾と言うより、魔法で操作している水素を材料にした核爆弾である。恐らくフィルドレアも原理を理解してないのだろう。他人に教えられて、感覚で使っているだけなのだろう。どちらにしても、彼女がこの場面で出した切り札としての脅威度としては、レーザーや初手の巨大津波の比ではない。
「これが爆発すればこの国は間違いなく消し飛ぶわ。でも私は肉体を液状化して耐えられる。貴方はどうかしらねぇ? 貴方1人ならギリギリ耐えられるかしら? でも後ろの人間達は? 今でも悲鳴をあげて魔族と戦ってる彼らは? 耐えられないでしょう? じゃあ彼らを守る貴方は? あはははは!」
「それも結局同じだろ。撃たれる前に潰す」
下卑た高笑いにリゼルは睨むように目を細めながら指を向けると、フィルドレアはいやらしい顔のまま待ったをかけた。
「やめた方がいいわよ。これは爆弾なだけあってこれに刺激を与えたらその時点で起爆するわ。もちろん、私に対しても同じよ。まあ、貴方がこの国や住民をなんとも思ってないなら殺るといいわ!」
「......」
「どう? 何も出来ないでしょ? あんなにイキがっておいて、私が本気を出したら貴方は! 何も出来ず指を咥えて見てるしかないのよ! 後悔してももう遅いわ! 貴方は私を怒らせすぎたのよ! 弱い癖に馬鹿にしやがって! 貴方もこの国も全部消し飛ばしてあげるわ!!!」
「はぁ......面倒くさ」
フィルドレアの忠告と煽りにリゼルは髪をかきあげ、指を下ろし口にした通り面倒くさそうな態度を見せた。
どうにか他の手はないか、フィルドレアの発言がブラフじゃないか、色々考えるリゼルだが結局は選択肢はこれしかないと結論に至り深くため息を吐く。
「オリジナル魔法......」
「貴方、話聞いてた? 私に刺激を与えた時点でこの爆弾は爆発するのよ? 意味理解してる? 頭おかしくなった? 無駄よ。その行動もあなたの全ても無駄! 無駄無駄無駄なのよ!!!」
魔神の叫びを聞きながらリゼルは再び指を構えた。
フィルドレアが疑問のように煽りを並べる言葉も、苛立ちに変わり叫ぶ声も一切気にしない。リゼルはただ淡々と、魔力と狙いを定め、視線と指先を目の前の勝利へ向けるだけだった。
「星天魔法......星の砲撃」




