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リゼル対魔神妃フィルドレア。

 街の方で、魔神の城内で、巨大な津波が一瞬にして凍結したのを見た彼らは、開いた口が塞がらずにいた。誰もがダメだと思ったその災害が、一切の被害もなく止められたのだからそうなるだろう。少しして状況を飲み込み、喜び出したり、ほっとして膝から崩れた者もいる。だがその中で、津波を止めて張本人だけは目を細めて面倒くさそうな顔を向けていた。


(これで終わってくれるなら、楽なんだけど......)

「まあ、そうはならんよな」


 深くため息をついて呟いた時、凍結していた津波が崩壊し、零れた氷から盛れる冷水が肉体を形成するように青髪碧眼の魔族が現れた。


「今の魔法、何? 通常魔法のはずよね? あの出力は......いや、通常魔法で私の津波を止められる出力はないはず......あの人間は、何をしたの?」


 津波を止められた事が想定外だったのか「どうして?」と何度もブツブツ呟くフィルドレアを、リゼルはニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべ眺めていた。その顔に気づき、彼女は下に見られてはならないと平静を装う。


「思ったよりやるじゃない? でも残念、この程度じゃ私は倒せないわ」

「仮にも魔神だしな。期待はしてなかったよ」

「それなら、あなたの勝利も期待しない事ね!」


 フィルドレアは再び手を挙げた。すると今度は巨大な津波ではなく、海水が龍の形を模しリゼルへと飛びかかる。


(さっきみたいに広範囲の質量攻撃じゃない? 或いは凍結を警戒してるのか? 復活する間もなく完全に凍結させれば倒せるのか?)


 まだまだ情報は足らんな。と考えながらリゼルは水龍を避ける。が、その水龍はフィルドレアが操っているため、いくら避けてもリゼルを追うように動いて来る。仕方なくリゼルは足を止め、先程津波を放った時と同じように凍結させようと手をかざす。だが、今度は凍らなかった。何故かと水龍を凝視すると、水龍の胴体側の水は()()しているかのように泡立ち、僅かに湯気を立てていた。

 水龍はただの海水ではなく、高温のお湯で作られていたのだった。

 熱がある。それもリゼルの凍結を防ぐ程の。その事に気づいたリゼルは冷静に状況を飲み込み、ただの凍結ではなく、津波のような形で氷を作り、水龍を押し潰すように飲み込んだ。結果を確認する間もなくリゼルは左手をかざし、雷の魔法を放つ。

 水に対する雷や氷、炎に対する水など魔法の属性にはそれに沿った相性が当然として存在する。そしてフィルドレアは肉体を液体に変えることが出来る。海水から生えてくるように形成された肉体と相性差を考えて、リゼルは雷の魔法が有効だと判断した。


「今まで、貴方みたいな馬鹿な人間とどれだけ戦ってきたと思ってるの? 貴方みたいな馬鹿な人間がどれだけ同じ事をしてきたと思ってるの?」

「!?」


 フィルドレアが言葉を発した瞬間、被弾したはずのリゼルの雷の魔法は彼女の体を巡り、末に足から海水へと吐き出すように流れ出て行った。


「アラールから聞いた時は小煩く感じたけど、貴方みたいな馬鹿な人間には案外これが役立つのよね! あはは!」


 調子が乗ってきたのか、フィルドレアは愉快そうに嘲笑った。ハイトーンな笑い声が日の落ちた夏の国で響き渡る。リゼルは気にしないが。


(俺の魔力が、魔神の体内で中和された? いや違う。受けた俺の魔法を、あいつの体を形成してる魔法で覆った。雷を通さない液体......エタノールか? なんかで包みながら中和し、海水へと捨てた。自分の体内に魔力として保管しないのは海水の方で時間かけて中和するためか?)


 自身の魔法の行方に、フィルドレアの対応に目を見開いて驚いたリゼルだが、それは一瞬で十分。今はただ冷静に目の前の魔神の能力を観察し、考察し、次の手を考える。


(水か、もっと括りの広い液体を操る系のオリジナル魔法だとは思っていたが、ここまでとはな。エタノールが行けるとなるとマグマとかも行けるのか? あれはどちらかと言うと......それよりも本体だな。雑な魔法じゃ今みたいに受けて中和されるだけ。となると、一撃で屠る火力が必要か......"下"が完全にあっちに()られてるのが面倒くさいな。まあ、とりあえず色々やってみるか)


「何かいい方法は思いついたかしら?」

「まあ、いくつか」

「全部無駄な努力よ。どうせ私には勝てないわ」

「そうですか......っておっと!」


 言葉を返すよりも早くフィルドレアは再び水龍を放つ。リゼルはそれを避けながら少しづつ距離を詰めていく。近づかれていることに気づいたフィルドレアが水龍の数を増やし正面を覆うが、リゼルはそれを読んでいた。リゼルは腕を突き出し、炎の魔法を叩き込む。

 相性の関係上、炎の魔法は水の魔法に弱い。けれど使い方はある。例えば、液体の温度を上昇させ蒸発させたり、というか今のリゼルの使い方がそれである。

 水(熱湯)に対して、敢えて炎を当てることで強制的に相殺させる。それだけではない。リゼルの狙いはその1歩先、炎と水の魔法は互いを相殺しあったことにより、水蒸気という名の煙幕を起こしたのだ。


 フィルドレアが、一瞬リゼルを見失う。

 その一瞬の隙にリゼルは準備を済ませる。

 銃を模したように指を構え、その先に莫大な魔力を。ラグラゼールを倒したあの一撃よりも何倍も大きい、魔神の城並の大きさを誇る巨大な魔力弾を、煙幕が晴れるよりも早く、相手がこちらを認識するよりも速く、放つ。


 放たれた巨大な魔力弾は、ついでに逃げられないよう作られた氷の壁の軌道に沿い、水面を削るように進んだ。そして一瞬の間もなくフィルドレア到達し、彼女を消し炭にする......とはならなかった。


「流石に魔神か......」


 リゼルは口角を上げ、悔しそうにそれでいてどこか()()()()()声を漏らした。

 リゼルの視線の先に映っていたのは、自分の下半身を液状化させ、魔力団の側面を泳ぐように通り抜けたフィルドレアだった。その姿は、まるで人魚かと思うほど、美しさがあった。


「俺はレシア派だし、レシアの方が何倍も綺麗だけどな!」

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