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国王と長女の救出作戦。

 作戦の内容、自分のやる事を聞いたレシアはリゼルの指示に従い即座に動き始める。彼女の後ろ姿を見送りながらリゼルは自分の行動を取る。

 リゼルは岩の壁を盾に渡りながら前へと進む。ただ進むだけではない。壁の後ろから城へ向かってちまちまと魔法を放つ。


「お、来た来た。分かりやすすぎてバレてる気もするけど、それはそれでいいか」


 魔法を放てば、そこにリゼルがいるということが魔神側にも把握される。城への攻撃はさして気にせず、フィルドレアはリゼルのいる場所へ彼を貫いた一撃を放つ。


「怖すぎ」


 フィルドレアの放つ一撃はレーザーのような薄く凝縮された鋭く素早い攻撃だった。1度その身に受けただけはあり、当たり所によっては即死の可能性もリゼルは察していた。なので常に自分の認識はさせない。

 リゼルは自身の絶対な魔力で存在こそアピールはしつつ、壁に隠れることで詳細な位置は割らせない。そうして上手いことフィルドレアの攻撃を躱しながら徐々に距離を詰めていく。


「そろそろか......」


 小さく呟いたリゼルは、岩の壁から顔を出し、地面に手を着いた。瞬間、城へ向かって伸びるように氷が生成された。城の壁を破壊するほどの勢いを持つそれはあくまでデコイ。本命は、既に魔神の近くに迫っていた。


-------------------------


 レシアが受けた指示は『リゼルが気を引いている間に近づいて、国王達を助け出して即脱出』という至ってシンプルな内容だった。

 もちろん正面から近づいてもリゼルが気を引く意味が無いので、冒険者達が地下奴隷救出時に使った『氷の道(フリージング・ロード)』を使い、城へ侵入。魔神の居場所はリゼルとの撃ち合いで既に把握しており、リゼルから『国王と長女も魔神の近くにいると思う』と聞いている。レシアはその可能性を信じて走り続けた。

 まあ、居なかったら城内をくまなく探せばいいだけだが。

 そしてリゼルの作り出した巨大な氷が城へと衝突した瞬間、レシアは姿を現す。リゼルの予想通り国王とシラフネもそこに居た。2人は縄で拘束されている。加えてどちらも苦しそうに悶え倒れていた。その様子を見て、レシアは鎌を握り飛び出した。作戦には無い魔神への攻撃。だが、レシアの感情が思考よりも先に体を動かした。


「やっぱり、来てたのね」


 フィルドレアは呟いた。まるでレシアの存在がわかっていたかのように。いや、人質を捕らえていればこういう状況になるのは事前に読んでいたのだろう。

 フィルドレアはゆっくりと振り返りながら手を向け、太く長い水のロープを放つ。レシアはロープで鎌を振るって切り落とし、距離を詰めようとするが、フィルドレアもまた手を止めず何度も水のロープを放った。レシアはその全てを切り落とした。


「そういうことね......」

(今!)


 ロープを切り落としながら徐々に距離を詰めるレシアは、タイミングを読み動く。

 次に放たれたロープをレシアは切り落とさず回避した。と同時に一気に距離を詰め、鎌を振り上げ飛びかかった。だが直前でフィルドレアは肉体を液体に変えその場から移動する。

 レシアの鎌は空を切り、フィルドレアは肉体を形成し直し彼女の背後を取った。そしてゆっくりと手を向ける。


「ッ!」


 その瞬間、レシアは膝を着き苦しみ始めた。体の内側から、血管を締め付けられるような痛みが全身を走った。


(なに、これ......長女さんも、これで......)


 呼吸すら難しくなる謎の感覚に戸惑いながら、レシアはシラフネが自分と同じ理由でやられたのだと理解する。どうにかならないかと、痛みに苦しみながら鎌を握りしめた時、小さく声が届いた。

 レシアは無理やりながら鎌を振るう。だがそれはフィルドレアには届かない。否、元からフィルドレアを狙った訳では無い。レシアの鎌はある者のロープを切り落としたのだった。


「蒼流・白波の解......!」


 弱々しく、吐き出すように呟きながら彼女は、シラフネは残っている力で刀を抜き、青い魔力を放出した。その魔力は自身達とレシアを包み込んだ。


「へぇ、やるじゃない」


 シラフネは待っていた。1度負けて捕まっても決して諦めず、妹か誰かがきっと助けに来るのを待った。そして助けられたその時、フィルドレアに対抗するため、少しでもその者達守ろうと、力を残していたのだ。

 シラフネの水の魔力がフィルドレアの魔法を僅かに緩和し、苦しさが和らいだ。

 痛みこそ残るもののシラフネの頑張りを無駄にはしないと、レシアは立ち上がる。

 全身は震え、鎌を支えにするのがやっとな状態で。


「それで? これからどうするの? その状態で私と戦うの? 勝てると思って......」


 見下すように嘲笑いながら言っていたフィルドレアの言葉が止まった。引き攣るような、険しい表情へと変貌し()()()へと振り向いた。巨大な氷が突き刺さるそちらへ、絶大な魔力で存在感を主張するその青年の方へ。


「せいっ!」


 青年はフィルドレアは触れる。掌から生まれる竜巻のような暴風を押し付け、フィルドレアを向かいの壁を破壊して城の外へと追いやった。


-------------------------


 追撃はしない。逆に反撃もない。その事に不気味に思いながらもリゼルは国王のロープを解き、3人に治癒魔法をかける。


「とりあえず動ける程度には治したから、レシアは2人を連れて逃げてな」

「リゼルは?」

「お呼びがかかってる」

「ふざけないで」

「ふざけては......ないよ?」


 こんな時でも余裕な様子でふさげた態度を取るリゼル。彼的にはレシア達の緊張を和らげているつもりかもしれないが、相手が相手だけに緊張感がないだけにも捉えられる。


「私も行く」

「ダメだけど?」


 リゼルの緊張感の無さから、という訳では無いがレシアもまた変わらず無謀にも自身の正義感に任せて声を上げた。当然リゼルには却下されるが。


「レシアさん、もうほとんど魔力残ってないでしょ。後は慣れない魔力操作で疲労も溜まってきてるんじゃない?」

「疲れなんか関係ないよ。それに、私は魔力がなくても戦える」

「じゃあ魔力無しでさっきの槍魔族に勝てた?」

「勝て......勝てるよ」

「嘘おっしゃい。自分で俺に魔力操作教わったから勝てたって言ってたじゃん」

「でも......」


 嘘をついては見抜かれ、正論を言われレシアは何も言えなくなる。実際、魔神が相手でなくとも今のレシアに戦える余裕は残っていないのは事実だ。それは、横で静かにリゼルを見つめているシラフネも同じだった。彼女もまた、国の盾として共に戦う心意気だがレシア同様まともに戦えないだろう。

 自分も一緒に戦いたい、自分は戦わなくちゃいけない。そう思っていても現実はただの足でまといでしかない。いざと言う時に役に立てない己の不甲斐なさに、シラフネは唇を噛み刀を強く握り締めた。


「んじゃ、巻き込まれないように極力離れててね。メイリー達にはレシア達のこと伝えてあるからそこの氷を滑り台にしておりて治癒してもらって」

「待った」


 いってきまーす。とひらひら手を振りながら呑気に城を出てフィルドレアを追いかけようとするリゼル。そこに今まで黙っていただけの国王が「待った」をかけた。


「何? 俺忙しいんだけど?」

「聞かせてくれ。君は、あの魔神に勝てると思うのか? 勝機はあるのか?」

「......」

「君が国のために戦ってくれるのは嬉しい事だ。だが、正直君1人では魔神には勝てるとは思えない。この国では尚更」

「......」

「君は私と娘達を助けてくれた命の恩人だ。その恩人が1人で魔神に挑み死ぬ姿を私は見たくない。行かせること自体が国としての恥であり、大人として、うら若き青年の未来を奪う事を私は許せない。もし君が死んだら私は一生自分を恨み続けるだろう」

「そこは知らん」

「だから、頼む! 私に後悔をさせないでくれ!」


 魔神相手にすら怖気付く事のなかった国王が、地面に額に擦り付け「魔神と戦わないでくれ」と懇願した。何も出来ない無力な自分を呪うように声を吐きながら必死に懇願した。


(面倒くせぇ......これで「勝てるんで大丈夫ッス」とか言ったら自意識過剰みたいで嫌だし、逆に言わなきゃこれだろ? もうほっといていくか。というか、後悔どうこうは嫁に逃げられた時にしとけよ)


 リゼルは国王の言葉を右から左へ流し、壊れた壁に足をかける。そして振り返り、気軽な様子で言った。


「じゃあ、行ってくるわ」

「ちょっ!」

「リゼル!」


 手を伸ばすレシア達を置いてリゼルは飛び降りた。

 暴風に吹き飛ばされたはずのフィルドレアは、埃のひとつもなく、ただ海面の上に佇み、待ちくたびれたように降りてくるリゼルを見つめていた。

 リゼルもまた、海面へと着地し、目の前の魔神と向き合う。


「お別れは済んだの?」

「ただいま言ってもらうためのお別れならしてきたよ」

「帰れると思ってるの?」

「お前の部下と一緒にすんなよ。倒したの俺だし」


 煽りと睨みを聞かせ火花を散らすリゼルとフィルドレア。短いやり取りの後、沈黙が流れる。それぞれの表情と態度からは読み取れない2人だけの緊張感が海面を漂っている。

 まさに今、夏の国での最終決(ラスボス)戦が今始まろうとしていた。

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