決着と次の戦い。
「やるじゃん」
パチパチと手を叩き褒めながらリゼルはやってきた。
「見てたの?」
「見てたよ。最後の方だけど」
「......そう」
リゼルは見ていた。彼女達の決着を。
2人が同時に走り出し、レシアが一歩早く自身の間合いに入った瞬間、ラピリアが『反射行動』を解除し足を止めた。それとほぼ同時、レシアの背に隠れた鎌が砲身の長いショットガンのような銃に、変形し鎌と同じように振り上げながらレシアは引き金を引いていた。
放たれた弾丸はただの銃弾ではなく魔力弾、至近距離での射撃は『反射行動』を解除したラピリアが認識する間もなく彼女の左半身を消し飛ばしたのだった。
「あそこでよく銃に変形して魔力弾を撃つって出来たね。侮ってた訳じゃないけど、正直驚いてる」
「これが私の思ったように形を変える魔道具だって、リゼルが言ってたのを、思い出したから」
レシアの持つ魔道具にはいくつかの術式が組み込まれており、そのうちの一つが『使用者の意思に応えて変形する』術式である。今までレシアは鎌としてしか使ってこなかったが、リゼルがこの術式を見抜いたことでレシアの考えもまた変わったのだろう。
「それに、リゼルに魔力の操作を教わってなかったら私は多分負けてた」
「そう?」
「うん。だから、リゼルのおかげで勝てたようなもの」
そう言いながらレシアはリゼルの方を見上げるように真っ直ぐ見つめて呟いた。
「助けに来てくれて、私を助けてくて、ありがとう」
城内や脱出時、今回のことだけではない。今までもレシアは何度もリゼルに助けられた。当然その度に感謝は伝えていたが、レシアは「ありがとう」はその今までを全て含めてのものだった。
まるで、これが最後かとでも言うように。
「う、うん......まあ、ね」
リゼルは見つめられ、素直に感謝を伝えられた事に照れながら言葉を返した。こういう時に限って察しが悪いなこの男。
照れくささを隠すためかリゼルはレシアから視線を外し、彼女の後ろにいる左半身が消し飛ばされた魔族へを見た。
「さて、と」
痛みからか、或いは見下していた人間の少女に負けた絶望からかラピリアは膝つき倒れ込み唸っていた。そこにリゼルはゆっくりと近づく。
「おい」
「......な、に」
「お前の上司、魔神の情報を俺らに話すんだったらその傷治して見逃してやる」
見下ろしながらリゼルは告げる。助けて欲しければ情報を売れと。脅迫に近い交渉を魔族へと持ちかける。
治すと言ってはいるが、自分ならまだしも他人の半身を治すのは流石のリゼルも無理がある。それをわかっていながらもリゼルは残酷に、次に戦うだろう魔神の情報を得るために、死にかけの魔族へと話しかけたのだ。
「YESかNOかさっさと決めてくれ、時間ねぇだろ?」
「......人間、のく、せに......」
途切れ途切れの言葉と弱々しい瞳で憎たらしそうにリゼルを睨むラピリア。その会話すら時間の無駄だろうと、リゼルは溜め息を吐きながらゆっくりと近づく。
トドメか治癒か、答えを聞くまでもなくリゼルがラピリアに手を伸ばそうとした時、リゼルは勢いよく振り返りレシアを押し退けた。
次の瞬間、一筋の光がリゼルの肝臓を貫いた。
「ッッ!!」
血を吐きながら穴の空いた自身の腹部を見て目を見開くリゼル。だが視線を上げすぐに状況を把握した彼は、押し退けたレシアの手を取って引き寄せ、自分達の前に巨大な岩の壁を作り出す。そして身をかがめて貫かれた腹部へ治癒魔法をかけながら、更にいくつかの岩の壁を周囲に作る。
「チッ、やられた......」
舌打ちをして呟くリゼル。視線の先にはリゼルと同じように胸を貫かれ「どうして......」と戸惑いの言葉を漏らしながら息絶えるラピリアが倒れていた。
「リゼル......お腹、大丈夫?」
「魔神が城の方から撃ってきた。恐らくあの槍魔族の処分だろう。情報を与えないための。射線上にいた俺らもついでに狙ったんだろうな。とりあえず俺は大丈夫だから落ち着いて」
何が起きたか分からず混乱するレシアの手を握り、リゼルは状況を伝えて冷静になるよう促す。だが場所が場所だからか、妙に治りの遅い治癒を見てしまいそれは叶わない。レシアの視線に気づいたリゼルは、もう一度「大丈夫」と告げる。
「傷が遅いのは敢えてだから」
「あえて?」
「多分魔神は槍魔族の魔力と俺の魔力を感知して、そこを狙って撃ったんだと思う。だから俺は受けた傷に乗って魔力を抑えながら治癒をかけてる。代わりにここら辺の岩の壁は俺を隠せるだけの魔力を込めて作った。2発目を撃ってこないのはどこに俺がいるか分からないからだよ」
「そうなの?」
「多分ね。だから大丈夫」
血を吐きながらもしっかりとした視線で「大丈夫」と言い切るリゼルを見て、レシアも落ち着きを取り戻す。
彼の予想は当たっていた。魔神妃フィルドレアは初撃こそ命中したが、直接の視認をしていない魔力頼りの観測はデコイとして作られた岩の壁によってリゼルの魔力を見失ってい、攻撃の手を止めざるを得なかった。そしてフィルドレアが攻めあぐねている間にリゼルの治癒が終わり、魔力を抑えたままレシアの治癒も開始する。
住民の避難を終えたのかメイリー達がリゼルらの元へ何があったのかと叫びながら近づいてくるが、リゼルは「大丈夫だ」と叫びこちらに来ないよう促す。
「さてと、行くか」
「どこに?」
「国王と長女助けに。レシアはここで待ってメイリー達に状況伝えて。あとついでに国出る準」
「私も行く」
「え」
食い気味に言葉を遮られリゼルは間の抜けた声を上げた。どこへ行く? 国の脱出を一緒に? それならリゼルにとっては大いに結構だが、話の流れとしてそれはないだろう。彼女の真っ直ぐな瞳が言わんとしている事を伝えてくる。
「......こういう時のレシアって、何言っても聞かないよね。少し慣れてきた」
「? ありがとう?」
「ありがとうはちょっと違うけど......はぁ......」
キョトンと首を傾げるレシアの様子は可愛いが、リゼルの口から出たのは深くため息だった。
一度覚悟を決めたらレシアは是が非でもそれを曲げない。人助けとかは特に。短い付き合いながらもその事を理解していたリゼルは、上手いことやろうと考え方を変える。
「じゃあレシアには長女と国王の救出を頼みたい」
「うん! 何をすればい?」
「近い近い。照れちゃうから、少し離れて」
頼られた事が嬉しいのか、顔近づけ聞くレシアにリゼルは至近距離はダメだと引き剥がす。自分から行く割には来られるのは苦手らしい。レシアのビジュアルと彼女への好感も含めれば尚更か。
とりあえずまともに会話のできる距離を取り、リゼルはもう一度深くため息を吐いてレシアに指示を出していく。国王とシラフネ救出の作戦を。




