レシア対ラピリア。
リゼル達が派手な魔法戦を繰り広げる中、街の東端でそれぞれ勝利を祈られた2人の女戦士が、刃を混じえていた。だが、戦況は傍から見てもわかるくらいには差があった。
白髪の少女レシアが鎌を振り下ろし、槍の魔族ラピリアはそれを軽く受け流しカウンターを入れる。体を捻ってそれを回避するレシアだが、その動きに反射してラピリアは動き槍先が白髪の少女を掠めた。
「ッ」
痛みに歯噛みしながら追い討ちをかけられる前に距離を取り体勢を立て直す。何度このやり取りを繰り返したか、刃先によるかすり傷はレシアの体のあちこちに出来ていた。
「あのさー、これまだ続ける? そろそろ諦めてくれない?」
ラピリアが面倒くさそうな表情で話しかけた。話しかけられた事か、それとも会話の内容がかレシアは「なんで?」と至極不思議そうに返した。
「なんでも何もさ、わかんない? このまま繰り返してもあんたに勝ち目ないよ? ラグラゼール様にはあんたを殺せって言われてるけど、この後にあの男の戦いがあるのわかってるから、わざわざあんたを殺すまでやるのは面倒臭いんだよね。諦めてくれた方が楽なの」
「ごめん、よく分からない」
「......」
ラピリアは思わず黙った。今の説明で理解出来ないものなのか、また同じ説明を繰り返さなければならないのか、それは流石に面倒くさいなと。しかし殺すまで戦闘をするのもそれはそれで面倒くさい。
(人間って面倒くさい......でも早く行かないとラグラゼール様にドヤされる。そっちの方が面倒くさいな......)
同じ面倒くささならダメ元でもう一度話す方がマシだとラピリアは少し悩んだ後、結論を出した。
「......えっと、要するに。死にたくないなら諦めてくれない?」
「それは無理」
真っ直ぐ視線を向けてレシアは即答した。
レシアは別にラピリアの提案の意味が理解していなかった訳ではない。単純に提案をされた意味がわからなかっただけだ。互いに勝つ理由があるための戦いで、相手側に諦めるように促す意味が、どうして自分が勝てないと断言出来るのか、レシアにはわからなかった。
何より、レシアはわかっていた。自分がここで負ければ、自分が魔族の提案に乗って保身に走ったら、リゼルに負担が掛かると。
彼の強さ理由や秘密は理解出来てないが、彼が強いのは理解している。周りからも『おかしい』だったり『異常』だったり言われてるのだから尚更。そしてリゼルなら、恐らくラピリアが参戦して2対1になっても彼自身が言ってた通り普通に勝つのだろうと何となく予感はしている。だが、レシアにとってそれは自分が諦める理由にはならなかった。
そもそもリゼルは、魔神とその配下とは戦いたくないと言っていた。それが面倒くさがりながらも、無謀だと言った冒険者達に協力している。彼に何があって、どういう経緯で協力する気になったかはわからないが、彼の強さに甘えて全てを任せる押し付けるのは違う。少なくとも最初に人を助けたいと動いたのは自分である以上、その責任を果たすためにもここでラピリアを倒す。負けたり諦めたりして彼の負担を増やす訳にはいかない。と、レシアの中で既に結論は出ていた。
「そう。じゃあ、面倒くさいけど......殺すね」
怠そうに呟きながらラピリアは槍を構えて突っ込んだ。レシアもまた迎え撃つように鎌を構えた。
再び繰り広げられる剣戟。
ラピリアの突きを躱し鎌を振るうレシア。その攻撃に反射するように体を翻し、ラピリアは突きを叩き込む。咄嗟に鎌の持ち手で流し致命傷を回避する。
ラピリアの使うオリジナル魔法は『反射行動』と言われ、自身にに纏わせた魔力に対象が触れた瞬間、それに反射して肉体が動くという魔法である。シンプルなカウンターの魔法だが、その反射の速度はレシアの動きを上回り、ラピリア自身の槍術と合わさってレシアを圧倒していた。また、ラピリアはこれを攻撃にも転用することで相手のカウンターを無理やり引き出し、さらにその裏をかいて自身のカウンターを決めるスタイルを取っていた。
傷だらけのレシアに対してラピリアは一切無傷である。
しかし彼女は自分が追い込まれているとは思っていなかった。これといって解決策がある訳でもない。ただ冷静に相手の動きに対応しながら、ただ一つ、とある事を思い出していた。
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『レシアって魔力強化やらないんだね』
それは、国に来る前のリゼルとのやり取り。
道中で魔物と遭遇し、それを倒したリゼルが不意に呟いた。
『何、それ?』
『そこからか......』
リゼルの発したワードを知らず聞き返した事で彼が驚いたように、少し呆れたように目を見開いていた様子が浮かぶ。当時のレシアは知らなかったが、冒険者どころか一般人でも職業によっては習得必須のところがあるくらいには重要なものらしい。
『魔力ってのはただ魔法として使うだけじゃなくて、肉体に纏う事で身体能力が強化されるんだよ』
『魔法が使えない前衛職は基本的にこれを使って前線で戦う。後衛が魔法かそれ以外の飛び道具とか何かで前をサポートする。それがパーティーの形だからね』
『強化無しの素の身体能力でそのレベルのレシアも凄いけど、魔力強化もやればもっと強くなれるよ。必要性があるかは知らないけどね』
強くなる必要性があるかと言われレシアは首を傾げた。自分はただとある場所を目指して旅をしている旅人に過ぎない。冒険者をしているがそちらがメインではないので、リゼルみたいな強い冒険者になる必要も理由もない。けれど、その魔力強化で少しでも自分が強くなれば、少しでも多くの人が助けられるのではないか? 誤差程度かもしれないが、少しでも変わるのなら学んでもいいのかもしれないと、レシアは思った。
『リゼル、その魔力強化? って言うの教えて』
『いいよ。ついでに......』
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短いやり取りの記憶に、そして現状にレシアの頬が僅かに緩んだ。
(リゼルに教えてもらってて良かった。教えて貰ってなかったら、もうとっくに負けてた)
レシアは鎌を構え、魔力を纏う。
リゼルに教わった時の記憶から、彼の言葉に従うように、魔力を纏う。
ラピリアが槍を突き出し飛び込んだ。レシアはそれを躱しながら鎌を振るう。ラピリアの『反射行動』が発動し、鎌の攻撃を体を回転させながら回避し、槍を放つ。相手のカウンターの更に裏を取ったカウンターが放たれる。槍の刃先がレシアへと届く、その瞬間、レシアもラピリア同様体を回転させながら鎌を振るいその槍を弾いた。
「っ!? ッッ!」
今までなら通っていたはずの一撃が防がれラピリアの魔力が僅かに乱れる。レシアはそれに気づいたわけではない。ただ追い詰めるように一歩踏み出し、鎌を振り上げた。刃がラピリアの左肩を掠る。
(『反射行動』を防がれた? 私が反射した動きのその裏をかいたの? いや違う。それなら私の『反射行動』ももう1回反射するはず......じゃあなんで?)
距離を取り、肩の傷を疑うように凝視しながら考える。今度はあちらから突っ込んでくるレシアを見てその答えはすぐに出た。
(少しづつ、速くなってる。もしかして、私が『反射行動』で動くよりも速く動いてるの? ッ!)
レシアの猛攻にラピリアは必死に対応した。だがそれも防戦一方。カウンター型の魔法でありながら、ラピリアは攻勢に移るどころか僅かなカウンターを入れる暇もない。
「ありえないでしょ! そんなの!」
ラピリアが『反射行動』の動きに乗せて力いっぱい槍を振るうも、レシアはそれを素早く躱し一撃を入れる。
レシアは最近になってようやく、リゼルに習う形で魔力の操作を練習し始めた。それ故に魔力操作の技術は同年代と比べても遥かに未熟だ。加えて彼女は魔力強化を必要しなくても事足りる程に身体能力が高い。そこに更に魔力を纏わせて向上させた身体は目と思考が追いつかず、動きに慣れずにいた。だが、ラピリアの『反射行動』に対応しようと速い動き求め続けた結果、ここに来てレシアは魔力強化した肉体に慣れた。
文字通り形勢逆転。今までダメージ与えるだけだったラピリアに、徐々に傷が増えていく。
(このままじゃ負ける!)
感じ取ったラピリアは無理やりレシアを引き剥がし距離を取る。そして目を瞑り考える。彼女の裏をかく方法を。
僅かな沈黙の後、ラピリアは目を開き顔を上げた。
「私は、魔神妃フィルドレアの配下、六魔水の1人ラピリア! いざ、尋常に勝負!」
「え、あ、うん。よろしく?」
先程まで面倒臭いとばかり口にしていた少女が突然名乗りをあげ、正々堂々とした勝負を所望した事にレシアは戸惑いながら言葉を返した。よろしくは普通におかしいがまあいいだろう。
相手の真剣な表情を受け取り、レシアも真っ直ぐと見つめ返す。正面からの真っ向勝負に乗る事を選ぶ。
ラピリアは前に、レシアは後ろに、互いに武器を構えてタイミングを図る。そして、2人は同時に飛び出した。
武器のリーチの差はそこまでない。だが、当人同士の速さは、レシアの方が上回っていた。一歩早くレシアが自身の間合いに到達し、鎌を下から引き上げるよう後ろの引き寄せた。
その時、ラピリアが止まる。足を止めた。それどころか一歩下がった。レシアの間合いから脱したのだった。
ラピリア『反射行動』を使っていない。解除したのだ。自分の意思による行動を取るために、レシアの裏をかくために。
間合いから外された事でレシアの一撃はラピリアに届かない。更にこの勢いから見て振りかぶった直後に隙ができるだろう。恐らく今のレシアの速度でも一撃は受けてしまうくらいの隙。ラピリアはその瞬間を狙ったのだ。
名乗りを上げ正々堂々の真っ向勝負を誘い、彼女の速さを利用して裏をつく。ラピリアの考えた確実で完璧な策だった。レシアがその裏をかく可能性を除けば。
ドンッ!
不意に響いた鈍い音。左半身に感じる重い衝撃。そして遅れてやってくる激痛。何が起きたのか、ラピリアが視線をレシアに合わせた時、そこに映ったのは、
勢いに負けるように振り上げられた左腕と、焦げたような臭いのする黒い銃だった。




