良くない状況。
シラフネとアリアストの戦いが始まる少し前、地上階2階の廊下にて。
「リゼルさん」
「ん?」
冒険者の集団を連れて城内を進んでいたリゼル達。彼らを待っていたかのように金髪白眼の長身の魔族が立ちはだかっていた。
「あいつは六魔水のリーダー、ラグラゼールです!」
その魔族を指差し、シーアが全員に届くような声で言う。小声で「ちょっとイケメンです」と呟いたのは確かにリゼルに届いていたが無視する。どうでもいい。
リゼルはじっくり魔族を観察しながらある確信を得る。この男が、逆探した魔族だと。理解したと同時にリゼルから溜め息が漏れ、それをどう捉えたのかラグラゼールがシーアの紹介から繋がるように語り始める。
「ご紹介に預かりました。六魔水のラグラゼールです。偉大なる我らが主、魔神妃フィルドレアに仕える一番の魔族です。以後お見知りおきを」
「それ言って1時間経たずに死んだ魔族の話するか?」
後ろ髪を掻きながらリゼルはいつものように煽りで返した。隣のレシアに大丈夫だよと声をかけながらシーアの前に立つ。背後の冒険者達を守るように。
「貴方は?」
「自己紹介いるか? 要らんだろ」
「......初対面の相手に名を名乗るのは人族の礼儀では?」
「国の乗っ取り考えてる魔族が人族の礼儀とかなんの冗談だ?」
「全く、この時代の人族は、魔族への畏怖も忘れて......図に乗る輩が多い!」
言い終えるより早く、フィルドレアが魔法を放つ。炎の中級魔法。城内で堂々と炎の魔法を使うのはどうかと思うが、この魔族達はそこまで気にしないのだろう。
相殺しようと魔法使い達が前に出るが到底間に合う速さではない。故にリゼルが彼らよりも先に氷の盾を作り出し、防御する。
「速っ」
魔法の速度に驚きながらリゼルは氷が溶かされた事で生まれる煙幕の、その先に目を凝らす。そして煙幕に隠れて前へ出ようとした冒険者に「邪魔」と言い退かしながら今度は土の壁を作り出す。刹那、煙の奥から雷が迸った。リゼルが退かし、壁を作り出していなければ飛び出そうとしていた冒険者は確実に殺られていただろう火力の雷。
今度はこちらから反撃に出ようかと思った時、リゼルは咄嗟に氷の壁を作る。その先には岩の砲弾がいくつも飛んできており、氷の壁にと突き刺さった。かと思えば、そのうちのいくつかが、何かに運ばれるように氷の壁を避けてリゼル達へと向かう。
リゼルは自身の前に岩の砲弾を相殺する程度の氷の壁を作り、同時に身を翻し回避した。だが後ろは別だ。
「ぐあッ!」
「あ」
背後から聞こえる呻き声にリゼルが思い出したかのように「やべ......」と漏らす。"リゼルは"岩の砲弾を回避したものの、リゼルの後ろにいた冒険者達はそれを回避し切れなかった。鋭く尖った岩が何人かの冒険者に突き刺さる。
(面倒臭いな......)
リゼルは睨むように目を細めながら考える。
(手数はあった方がいいし、どっちにしろ捕まってるだろう国王と長女を助けるために人力が必要だと思って連れてきた冒険者達が、今じゃ逆に邪魔だ。しかもラグラゼールは俺がこいつらを守ることを理解して俺ごと潰す火力だったり、後ろにも被害を伸ばせるような攻撃ばっかしてくる......俺一人ならどうにでもなるけど、このままは流石にきちぃな......)
どうすべきかと悩みながらリゼルはラグラゼールの魔法を相殺し続ける。だが、彼が悩んでいる通り、ラグラゼールはリゼルの後ろで上手く動けずにいる冒険者達にも届くよう攻撃を繰り出している。実に戦い方が上手い。また、冒険者達が動けずにいるのはこの廊下の広さに原因があった。
この城の廊下は地下を除きそこまでの広さを持たない。大人3人が並んで歩くのがギリギリという程度。そこに20人以上の冒険者がいては大所帯になるのは当然だ。そこを狙われるのもまた。
「お前ら、自己防衛くらいはしろよ」
手の届く範囲は可能な限り防御を伸ばしていたリゼルだが、限度があると割り切り、防げない部分は自分達で防御させ、怪我をしたら治癒させる方向へシフトする。
リゼルの指示を聞いた冒険者たちは無言で頷き、それぞれ詠唱を唱え出した。防御魔法と、治癒魔法。戦士達は盾や面積の広い武器を構えて、魔法使い達の肉壁となる。
「ほう......」
冒険者達の変化により、被害が抑えられ始める。その様子を確認したラグラゼールは「ならば......」と戦い方を変えようとした時、彼の後ろから1人の魔族が飛び出してきた。
「リゼル!」
キンッ!!
金属のぶつかり合う甲高い音が響く。
そこには、リゼルに向かって槍を突き出す緑髪の女の魔族と、それを鎌で止めに入った白髪の少女がいた。一応その間に氷の盾も挟まれているが誤差だろう。
「面倒くさいな〜。邪魔しないでよ」
「.......ッ」
「無視? それもそれで面倒くさ......うわっ、危ない!」
一撃を止めたレシア呑気に話しかける女の魔族をリゼルは横目で確認しながら軽く氷柱の砲弾を飛ばす。それに気づいた魔族は驚きながらも氷柱を全て叩き落としながらラグラゼールの所まで後退する。
「お待たせしましたー。ラグラゼール様」
「ラピリア、お前がこっちに来たということは上の方は?」
「アリアスト様が殺られました。それでフィルドレア様が直接手を下すと」
「なるほど。それは良い」
報告を聞き、ラグラゼールは一瞬微妙な顔をしたもののフィルドレアの動きを聞いた途端に不敵に笑った。
2人の会話の内容はリゼル達にも届いていた。シラフネが『六魔水の1人を倒した』という朗報を喜ぶ間もなく『フィルドレアと戦った』という話の方にシーアを初めとする冒険者達が顔を歪ませる。何人かは「嘘だ!」などと叫んでいるが、報告役の魔族がこちらに来ている時点でそれは真実だと、リゼルは気づいていた。
悪い話はさらに続く。
プルルルル......
突然、誰かの携帯が着信音を鳴らした。それが誰のものか、多くの者の視線の先に居たのは国王の娘、次女のシーアだった。
「リック? こんな時に何?」
戦闘中の電話など迷惑この上ない。それでも癖なのだろうか、苛立ち気味にもすぐに電話に出て、声色からでもわかる通りの苛立ち電話越しに伝えるシーア。しかし、その苛立ちは一瞬にして不安と焦りの混ざった、青ざめた表情へと変わった。
「何があった」
横目で僅かに視線を向けてリゼルが問う。簡潔に話せ、と言うまでもなくシーアは震えた声で話した。
「街が、魔物に襲われたって......」




