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相当な手練。

 魔力探知。自身の魔力を伸ばしてその他の魔力を探知する技。魔法使いなら基礎として習得する魔力操作の応用技術。

 リゼルは結界の外へ出て魔力探知を発動した。魔力探知の範囲は使用者の魔力量によって伸びる。絶大な魔力量を持つリゼルならば魔神の城一帯だけでなく、国ごと丸々範囲内に収めても足りないほどの探知範囲を有する。今回はそこまで伸ばす必要は無い。


「三女シスター」

「メイリーです」

「あ?」

「私の名前は、メイリーです」

「......メイリー、この後の予定は?」


 リゼルは自身を中心に地下から地上階に上がるようにゆっくり範囲を伸ばしながら、メイリーにこの後の動きについて聞く。彼女は未だ僅かに涙を浮かべながらも芯の通った視線でリゼルの背中を見て答えた。


「予定では、奴隷とされてた皆さんを解放した後は全員で彼らを街に送り届けた後、再び侵入して地上4階にいるはずのシラフネ姉様と合流する予定でした」

「全員で1回戻るのは非効率だな......」


 言いつつ、リゼルは視線を後ろの冒険者や奴隷として捕まってた住民達へ向ける。シスター達の治癒魔法と、リゼルの持続的な治癒結界により怪我のほとんどは完治しているが、奴隷達は扱いが悪かったのか痩せ細っている者が多い。最初にダイナントに爆破された大男の左手も欠損したままだ。冒険者の一部には()()が見える者もいた。


「次女、お前は......」

「あたしはシーアだよ! 魔法使いのシーア。彼氏居ないから募集中だよリゼルさん!」

「聞いてねぇよ」

「17歳だよ! 胸はそこまで大きくないけど、でもシーアよりは大きいよ!」

「何言ってるんですかシーア姉様!」

「ほんとに何言ってんだよ......」


 次女のシーアにも聞こうと声をかけると、彼女も三女同様リゼルに自分の名前を呼ばせるよう名乗った。余計な情報もあるが。

 チラリとレシアの方へ見るも、彼女はキョトンとした様子で2人のやり取りを見ているのでまだリゼルに脈は無いらしい。悲しいものだ。

 軽く咳払いをしてリゼルは改めて問う。


「シーア。お前はこの城の内部構造やら魔族の数と配置はわかるか?」

「構造はわかるよ。魔族の数とか配置はわかんないけど、六魔水なら見ればわかるよ」

「おけ。ならメイリーと聖職者も含めた冒険者の半数は奴隷を護衛しながら街に戻れ。俺と残りのメンバーで予定通り合流す......!?」


 指示を言い切る直前、リゼルは勢いよく振り返り天井の、その奥にある地上階の方を見つめた。と同時に「あ、やべ......」と何かやらかしたらしい声を漏らす。


「リゼル......」

「あ、あの......何かあったのですか?」

「しょーじき、リゼルさんがヤバい言うのあたし達的にはめっちゃ怖いんですけど?」


 見開かれた瞳と動かず立ち尽くすリゼルを見て、レシアと姉妹の2人が心配そうに声をかける。罰が悪そうに後ろ髪を掻きながらもリゼルは「まあいいか」と適当な態度を取って途中で止まった指示を繰り返した。


「メイリーを先導に冒険者と聖職者の半分は奴隷連れて街戻ってくれ。シーアの案内で俺と残りのメンバーが上行くってことで」

「あの、本当に何があったのですか? リゼル様を疑うつもりはありませんが、何があったのかわからないと、私達も不安で......」

「言う方が不安になるだろ」

「ですが......」


 そう言ってメイリーは冒険者や住民達の方へ向くよう促す。彼らの表情は確かに不安そうだった。ダイナントを撃破し、窮地を救ってくれた救世主としてリゼルの事を信用しているだろう。彼の指示を聞く気も当然ある。何か問題が起こっても彼の実力なら解決できるのかもしれない。だがそれはそれとして、問題が起こった事そのものには不安を感じてしまう。

 彼らの不安を感じ取り、加えてレシアから、上目遣いで「リゼル......」と名を呼ばれては彼も諦めざるを得ない。リゼルは大人しく何が起きたかを伝えた。


「魔力探知を逆探された。それに驚いて俺が魔力探知を引っ込めて、多分あっちはその事にも気づいてる。相当な手練だ。ワンチャン、例の魔神かもな」


 要約、リゼル達の事が相手にバレた。


-------------------------


 同時刻、魔神の城の地上4階応接の間にて。


(今のは魔力探知? 中心は地下からだった。という事はアッケナのものではない。それどころか、私が魔力探知に気づいた事に気づいて魔力探知を引っ込めた。ダイナントやアッケナ共連絡が取れない......まさか......)


 リゼルの魔力探知に気づいたのは、魔神ではなく、その側近。紫色の髪に赤い瞳の魔族。六魔水の1人にして魔神妃フィルドレアの側近、ラグラゼールだった。


 現在この応接の間では長いテーブルを挟んで国王とフィルドレアの平和協定に基づいた魔神受け入れの会談が行われていた。と言っても数話前に話した通り、国王が答えを渋り進展はしていない。そんな会談の日の夕方に、地下からの魔力探知とダイナント達の不通。ラグラゼールは冷静に状況を判断し動いた。


「フィルドレア様、何者かが地下に侵入したようです。ダイナントとアッケナと連絡が取れないので恐らくやられたのでしょう。しかも相手は私が魔力探知に気づいたことに気づいて、魔力探知を引っこめました。相当な手練だと思われます。いかが致しましょう」


 大して進んでない話し合いに割って入り、今起きたことをフィルドレアの耳元で小声で説明する。

 ラグラゼールはフィルドレアの側近で六魔水の中でも最も強い。加えて常に冷静で状況判断も良く、六魔水の実質的なリーダーで部下達をまとめている。最初の討伐作戦では、この魔族に有志の冒険者の大半がやられてしまったことが原因で敗北している。2度目の討伐作戦で冒険者や住人達を奴隷として人質にしたのも彼だ。つまり、この男を倒さない限り魔神妃フィルドレアには辿り着けない。そういうレベルの魔族である。

 会話の内容こそ聞こえないが、()()()()()()()のラグラゼールが唯一の上司であるフィルドレアに何か小言で相談している。夕飯の相談とかではあるまい。現在地下で行われているはずの事を把握している国王とその護衛で来ていた長女シラフネは、地下の方が成功したのだと確信した。


「何やら大変そうですな、フィルドレア殿。()()()で何かありましたか?」

「やはり貴方たちの仕業か。性懲りも無く......」

「その性懲りの無さが、あなた達にとって都合の悪い何かをもたらしたのでしょう? 成功するまで諦めないのが私の質でね」

「舐めるなよ。人間風情が」


 煽るように聞く国王に答えたのはラグラゼールだ。側近故に部下の失態と上司への煽り、そして隠す気のない国王の発言に敏感に反応したらしい。睨みながらラグラゼールは国王に手を向けた。


「待ちなさい。ラグラゼール」


 苛立つラグラゼールに、水のように透き通った声で静止が掛けられる。彼に声をかけたのは、じっくりと、国王を見つめていた魔神妃フィルドレアだった。

 フィルドレアはじっくりと国王に視線を向けたまま今の話について問う。


「夏の国の国王様? 今の話、(わたくし)の聞き間違えでなければ、地下で私の部下がやられたのは貴方の指示という事になります。本当でしょうか?」

「どう捉えて貰っても構いませんよ。ただ、我々はあんたらがこの国の住民と冒険者を地下で奴隷のように労働させていたのは知っている。証拠もある。それなら国王として正しく動いたまで。そっちも気になるなら証拠見つけるために地下に行って探してきたらどうですかな?」

「十分です。貴方の発言でよくわかりました」


 国王の言葉にフィルドレアは納得したように頷き、不気味に微笑ながら、僅かにラグラゼールと向けて静かに伝える。


「ラグラゼール、地下の方は貴方に任せます。必要であれば()()()()()()構いません」

「仰せのままに」


 フィルドレアの命令を受けてラグラゼールは足早に応接の間から出て行った。彼の後ろ姿を見送った後、国王は呆れたように溜息をつきながらフィルドレアを見つめ返す。


「物騒な命令をするんですな。いつもそうやって?」

「必要であればですよ。必要かどうかは彼の判断に任せますし、貴方達としては必要ない状況が好ましいでしょう? ただ残念です」

「何が......なんて聞くのは野暮かな?」

「えぇ、それはもう。こちらは()()()()()()()ので」


 国王とフィルドレアの会談は煽り合いへと変わっていき、やがて亀裂へとなった。交渉決裂。フィルドレアが言い切ると同時に国王の首に二本の刃が降り掛かる。が、それに一瞬で割り込み弾く刃がまた一つ。


「お、今確実に切ったと思ったんだがな。やんな姉ちゃん!」

「今の防ぐの? 長女強いじゃん。めんどくさー」


 国王に向けて刃を放ったのはフィルドレアやラグラゼールの会話中すら動かず待機していた金髪白眼男の魔族と、短い緑髪に琥珀色の瞳の女の魔族。そしてその2人の攻撃を防いだのが国王の娘、長女のシラフネである。

 男の魔族は初撃を防いだシラフネを評価しながらテーブルを蹴り飛ばし、フィルドレアの前に立つ。女の魔族もまた面倒くさそうにしつつ、彼の隣に立った。


「国王、邪魔になるので部屋の隅で縮こまっていてください」


 シラフネもまた国王を無理やり退かして魔族達と同じように抜刀の構えを取る。

 互いに睨みを効かせながらタイミングを計る3人。緊張の空気が漂う中、男の魔族が口を開いた。


「お前、カイビーを倒した女だろ? 相当な手練だな。だがな、あいつは俺ら六魔水の中でも最弱だ。あんま調子乗んなよ?」

「......」


 四天王的なのによくあるような台詞で煽る男の魔族に対し、シラフネは一切反応せず、ただタイミングだけを見計らっていた。冷静、と言うよりは煽りの内容そのものがどうでもいいのだろう。


「六魔水、アリアスト」


 男の魔族が魔族の方もそれを察してか、煽るのをやめて真剣な表情で武器を構え直し、名乗りをあげる。先程までの口調ではなく、真剣な戦士としての口調で。それに続くように女の魔族も面倒くさそうに名乗る。


「六魔水、ラピリア」


 この世界に『戦士同士は戦う前に名乗りをあげる』という決まりみたいなものが特にある訳では無い。どこかの転生者が持ち込んだ暗黙のルールみたいなのはあるが、別に絶対ではない。相手が名乗っても名乗りを返さない者もいる。だが、それでも、この暗黙のルールは戦士達の中での礼節としていつの間にか人類や魔族問わず戦士達の中で浸透して行った。あとかっこいい。


「国王の盾、シラフネ」


 シラフネもまた戦士として正々堂々と戦う意志を持って、彼は同様名乗りを上げた。国を守る盾と。

 まあ、2対1の時点で正々堂々なのかは怪しいが。

タイトルにしたから何度も使ったけどしつこかったような気が......まあいいか。

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