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非合理な理由。

 リックの誘いを受けたリゼルは、元の予定通り適当に相槌をして食事を奢ってもらっていた......はずだった。だが、そうはならなかった。理由はシンプルだ。リックがリゼルの回答から自身の趣味に興味を持つ人間だと感じたように、リゼルもまたリックの話にしっかり興味を持って答えていたからだ。

 ちなみにかれこれ1時間くらい話している。


「あの腕輪な、機能そのものは悪くないが必要性は割と渋いと思うぞ。俺的にはあっていいけど」

「そうなんですか?」

「ああ、魔法使いとかは普通自分で魔力を制御出来るし、そもそも魔力を制限するものを外付けで欲しいとはあんま思わんよ。俺は欲しいけど」

「なるほど......」


 今しているのはリゼルが魔道具店で見つけた腕輪の話だ。王宮で製作者のリックを直接褒めた事から話が発展したのだ。


「魔法使いとか魔力を使う役職は、やっぱ魔力を制限するより増やす方が難しいからな。個人で完結しなきゃいけない事が出来ないから、それを補うため魔道具や科学道具だからな。元から出来ることに道具は使わないだろ?」

「確かに......それもそうですね......」


 正論とはいえ一度は褒めた自身の作品をダメだしされ、リックは分かりやすく落ち込む。他の魔道具は素直に褒められたから尚更か。


「勘違いするなよ。需要の高い道具はどちらかと言えばそういうのってだけで、あの腕輪も需要が無いわけじゃない。正直後もう少し性能が高ければ俺だって欲しいからな」


 リックのその様子を気にしてか、リゼルは口調は変わらず軽くフォローを入れる。彼の言葉を良い方に捉えたのか、リックはぱぁっと笑顔になり「本当ですか?」と身を乗り出した。


「具体的に、どういう改善点があればいいですか?」

「俺個人としては魔力制限の効力をもっと強くして欲しいな。お前らも観測したと思うが、俺の魔力は人の何倍もある。だから他人が気にしないレベルまで魔力を制限するのとなると結構疲れるんだよ。この国に来てから今も含めてずっとやってるしな」

「なるほど......」

「俺に限らず全体的に言うなら、スイッチかなにかの切り替え式で、魔力を制限してる機能と、魔力を増加或いは肩代わりするような機能を両方積んだら需要はあるかもな。俺は制限する魔力が人一倍多いだけで、魔力の制限が疲れるってのは俺に限った話じゃないだろうしな」

「なるほどなるほど......わかりました! 改良しておきます!」


 リゼルは魔道具や科学道具の仕組みや製作にはそこまで詳しくないが、魔法や魔力、魔法使いとしての経験としての知識は豊富なためこの手のアドバイスは得意なのである。リックは感心しながらリゼルのアドバイスをメモしていく。興奮しているからか、その字はとても読めたものではないが、本人がわかるならいいだろうと、リゼルは頷く。

 メモを書き終えたところで、リックはペンを置き少し沈黙した。そして僅かにテンションが下がったように静かに話し出す。


「......僕は、姉様達と違って冒険者じゃありません。今のみたいに国の危機にも、一緒に戦うことは出来ないんです」

「......」

「だから、科学者として、魔道具の製作者として陰ながら姉様達をサポートしたいんです。未熟かもしれませんが、少しでも姉様や冒険者さんの役に立ちたいんです!」


 力のなく戦えない自分でも、力以外で役に立ちたい。そこから出た結論が魔道具を作って冒険者をサポートすることだと、リックは言う。

 立派な事だと感心しながらリゼルは次に来るだろう疑問に思っ耳を傾けた。


「リゼルさん、あなたは多分強いですよね? シーア姉様が言ってました。凄い強い魔法使いだって!」

「......仮にそうだとして、俺に何をして欲しいんだ? 」

「お願いします。この国のために戦ってください!」


 テーブルに額を擦り付けるこの距離でリックは頭を下げた。

 わかっていた。話の流れ的にもリックが協力を頼んだくるのはリゼルにもわかっていた。だが、即答はせず、少し考えるように間を置いたから答える。彼女の時と同じ答えを。


「......はっきり言うが、嫌だ。相手が悪すぎる。死ぬとわかっている相手に挑むのは非合理的で愚かなだけだからな」


 非合理的だと、リゼルは断った。

 なんと言っても相手は魔神だ。この時代に新たに魔神が増えることはほとんどない。つまり、今世界にいる魔神は大戦時代を生き残った猛者ということになる。リゼルにずば抜けた才能があったとして、彼が魔神に勝てる保証はどこにもないのだ。と、キッパリと否定した割には、リゼルは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「それは、そうかもしれません......」


 リックもリゼルの考えを肯定する。魔神の強さや脅威を理解している。現に2度敗北した事実が存在している。合理的に考えれば、賢者もなしに魔神に挑む愚かな事だと、言うまでもない事だ。けれどリックは「それでも」と、顔を上げて反論する。


「姉様も冒険者の皆さんも、多分そんなこと理解してます。非合理だと、無法だと。それでもみんな戦っています!」


 魔神に挑むのは非合理的なのは誰もがわかる至極当然な事だ。それは、合理的に考えた場合の話である。感情はまた別の話だ。


「好きなんです! この国が。父様の不祥事で家族の仲が切り裂かれることになっても、父様の事が嫌いでも、この国の事は好きだから姉様達はこの国に戻ってきたんです! 戻ってきて戦ってるんです!」

「感動的なんだが、多分言わなくていい所あったぞ。父親の辺り」


 必死に叫ぶリックにリゼルは小さくツッコミを入れる。

 リックが言う通り、父のナンパがバレた時、彼の姉達は母の方へについて行った。娘として、女性としては当然とも言っていいだろう。だが、そんな彼女達もこの国が魔神に取り入れられそうになっていると知れば、すぐさま国に戻り、国を守る冒険者として戦う事を決めた。そこに合理性はない。ただ、国が好きだから守りたい。というそれだけの感情的な理由で行動しているのだ。


「姉様達以外の人たちもです。彼らもこの国を守りたいと、戦ってくれてるんです!」


 姉妹達以外の冒険者もそうだ。彼らの中にもリゼルのように一度は断った者もいる。中には、1度敗北した事で去った者も、報酬のためだけに協力している者もいる。()()()()協力している多くの冒険者は、パンフレットの表紙にも乗るこの国の良さに惹かれ、この国を守りたいと思い魔神に挑む事を選んだ。


「非合理的で愚かな行動なのはわかっています。でも、リゼルさんの力が必要なんです! ()()()()()()()()()()()()。この国のためなんて思わなくてもいいです! だから、お願いします! 力を貸してください! 僕達を()()()()()()()!」


 リックは席から立ち上がり、90度深々と頭を下げて懇願した。

 非合理的で感情的なリックの言葉を聞き、リゼルはレシアとの会話を思い出す。彼女がギルドに戻った理由は、困っている人を助けたいからだった。そして、自分の信条から目を逸らしたくない、からだった。

 非合理的で、感情的な理由だ。けれど、今まで目を逸らし続けて()()にいるリゼルには、重く響く言葉だった。


(馬鹿なことだって分かってる。安全策を取った方が絶対いい。それに、関係ない事で1回向き合っても、何も変わらないだろ......でも......)


 頭を抑えるように髪を掻きあげる。

 今更リゼルの脳みそで合理的な理由なんて求められない。そんなものはないのだから。けれど、()()()()()()でも良いのなら。

 人を助けたいと、その事から目を逸らしたくないと口にした彼女のように。誰かのために戦うのなら、否リゼルの戦う理由は......。


「あぁっ! どいつもこいつも! しつこいし、うるせぇな!!!」


 くしゃくしゃと髪を乱しながら勢いよく立ち上がり叫んだ。周りの客の視線も特に気にせず、ただ目の前でも頭を下げるリックだけを見てリゼルは言う。


「わかったよ。行ってやるよ。めんどくせぇけど! けど勘違いするなよ。俺は別にこの国を救いたいからとか思ってねぇし、これ以上は無理だって思ったら途中でも諦めるからな!」

「ありがとうございます!!」


 行ってやる。それはつまり、リゼルが魔神と戦うという意味だった。

 彼の言葉の意味を理解したリックは再び、深く深く頭を下げ、感謝する。

 リゼルは何も言わず、視線を下げたままのリックの前に金を置いて店の出口へ歩き出した。


「あと、今度からは息子おまえじゃなくて国王本人に頭下げさせろ。土下座な」


 去り際、そんな言葉を残してリゼルは走って行ったのだった。

人間、合理性だけじゃ生きていけませんからね。

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