魔神の配下。
奴隷×爆弾魔は最高に最悪の相性だと思います。
魔神の配下を名乗る魔族を前に、武器を構える冒険者達。対してダイナントは武器の一つも持たずただ平然と佇んでいた。それどころか不気味な笑みを浮かべながら精査するように冒険者達をじっくりと観察する。その中で、何人がかの冒険者がダイナントの視線を気にしつつ、奴隷解放のために錠を外せないか試みていた。
それを見つけると、ダイナントは愉快そうに話し始めた。
「僕はね、炎属性、特に爆発系の魔法が得意なんだ。そう、触れたものを爆弾に変えるとか」
「......?」
「察しが悪いね。僕はこの魔法があるから、ここの管理を任せられてるんだよ?」
メイリーがその言葉の意味を理解するのに数秒掛かった。そして気づいた時には遅かった。
「! やめ......っ」
「ボンッ!」
彼女の静止が届くよりも早く、ダイナントの魔法が起動する。1人の奴隷が赤黒く光り、爆発した。
奴隷は爆散、錠を外そうとしていた冒険者も爆発に巻き込まれ重傷を負う。すぐ様メイリーが駆けつけ、詠唱を唱え治癒魔法をかける。その様子を間近で見ていた奴隷達は、自分にも爆弾が仕掛けられてるんじゃないのか? と恐怖と絶望に阿鼻叫喚する。
冒険者達も、どうやって奴隷を助ければいいのか、負けたら自分達も同じようになるのか等、メイリーが必死に治癒をかけている事で指揮系統が崩れたように焦り取り乱し始める。
そんな彼らのダイナントは嘲笑った。
「あははは! いいね! いいね! それだよそれ! やっぱり人類はそういう無様でみっともない姿が最高に、面白いよ!」
ゲスの極み。とでも言うべきか、その言われに相応しいくらいのゲスな笑みを浮かべ爆笑するダイナント。数人の冒険者が、ダイナントに向かって走り出す。倒せば爆弾は起動されないと考えたのだろう、或いは単純に彼の態度に怒りを覚えたのか、一人の男が他よりも早く接近し剣を振るう。
「うぉぉぉ!」
「あの人に続け!!」
叫び通り大男に続くように武器を振るい、魔法を放つ冒険者達。そんな彼らの攻撃をダイナントは難なく交わしながら、落ちていた小石を拾い大男に投げつける。何のつもりかと大男は当然のように小石を受け止めるが、その瞬間、ダイナントが指を鳴らし小石が爆発した。ダイナントは拾った小石を爆弾に変えていたのだ。
「う、ぐぁぁぁ.....!」
小石を受け止め爆発した男の左手は、親指と薬指と小指が爆散し、手のひらは肉が焼け剥がれ血を吹き出していた。
男は協力した冒険者の中では1番強く、国王の娘達と同じように国にやってきた冒険者に進んで声をかけていた。彼に声をかけられて討伐作戦に参加したものも少なくない。彼が最初に動いたからこそ、他の冒険者達も動いたし、奴隷の人間が爆弾に変えられ、爆散した姿を見て未だ恐怖していた者達も、その恐怖を振り払って立ち上がろうとしていた。
「あぁ......」
「あの人がやられちゃ、もう......」
「ここからどうすんだよ......」
だが、その心も折れてしまった。1番強く勇敢な男があっさりとやられてしまったのだ。ここからメイリーが何か言っても冒険者達の士気が上がることはないだろう。その事を誰よりも実感し、愉悦に浸っていたのはダイナントだった。絶望した冒険者達の表情が最高に美味だと、ダイナントは笑った。
ボロボロになった左手を抑え蹲る男にダイナントは追い打ちをかけるように、小石をいくつか拾った。彼が死んだら、今回の戦いも敗北に塗られるだろう。その事がわかっていながらも誰も彼を守るために動くことは出来なかった足がすくんでしまったのだ。
痛みに苦しむ男に避ける余裕はない。ゆっくり、静かに冒険者達の絶望を味わいながらダイナントは小石を投げた。その時、男の前に1人の影が立ちはだかり、その小石を切り落とした。
長い白髪と黒いマントを靡かせるその少女は、我らがレシア・フォーノだった! この状況でも、彼女は絶望することなく、漆黒の鎌を構え言い放った。
「これ以上は、やらせない」
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「なかなか面白そうなのがいるじゃない、っか!」
ダイナントは試すように言い終えると同時に爆弾化された小石をレシアへ向けて投げた。レシアはそれを素早く切り落としながら飛び込むように走る。その速さはダイナントの反応が僅かに遅れるほど速い。一瞬にして彼の元へ辿り着き、レシアは鎌を振り下ろした。ギリギリの所で避けたものの、ダイナントと肩に浅い切り傷が着く。
「少しはやるじゃないか」
ボヤくダイナントを無視して追い打ちをかけるべく、レシアは鎌を下から振り抜く。咄嗟に右に飛んで回避するダイナント。彼を追うようにレシアは横薙ぎに鎌を振るう。鎌のリーチと鋭さを厄介と捉えたダイナントは鎌の棒の部分を受け止めるように掴んだ。
「捕まえた。まずはこの鬱陶しい武器から壊そうか」
そう言ってダイナントは不敵な笑みを浮かべながら触れている鎌を爆破した。
彼の得意とする魔法は『触れたものを爆弾に変える魔法』。その魔法はただ変えるだけでなく、手に触れたものをそのまま爆破することも出来る。
(武器が無くなれば、ただの小娘だろ)
爆破の手応えを確かめる間もなく、レシア本人に直接触れようと煙幕の中へ一歩踏み込んだその時、
一閃。鎌の刃が彼の鼻を掠った。
「なっ! その鎌は今壊したはずじゃ......ッ!」
「壊れてないよ」
壊したはずの武器が壊れていない。爆破の影響を諸共していない。その不可解さにダイナントが戸惑う間にレシアの鎌が一撃、二撃振り抜かれる。ダイナントに切り傷が増える。あと一歩の所でダイナントはレシアの間に爆発を挟むことで距離を取った。
ダイナントは血を拭いながらレシア、彼女の持つ武器を見て「なんで.....」と疑問を抱いた。
レシアの魔道具にはいくつかの特殊な術式が組み込まれている。その一つに『あらゆるものを断つ術式』がある。もちろん、そのあらゆるものはレシアの技量にもよるが、術式そのものは武器全体に組み込まれているため、棒の部分ですらダイナントの爆発を受けることはなかった。その事をダイナントが知る由もないが。
ちなみにレシアも知らない。知っているのは魔力の流れから術式を見抜いたリゼルと、以前の持ち主と......この話はまた今度。
レシアの武器の特性はわからないまま。ダイナントは次の手を考える。
再びいくつかの小石を拾い、レシアへと投げつけた。レシアは当然それを切り落とし進もうとするが、1つの小石がレシアを越えた。
レシアに当たらない、レシアの後ろへ投げ込まれた小石。その小石の先には錠に囚われた奴隷と彼らを助けんとする冒険者達がいた。そこに到達すると同時に爆弾が起動する。
「ッッ!」
咄嗟にレシアが彼らを守るように飛び込み、鎌で爆発を防ぐ。だが、中途半端な防御だったゆえに衝撃と威力までは防ぎ切れない。レシアは尻餅を着いて倒れる。
「君1人なら良かったのにね。でも君は1人じゃない、守ろうとする相手がいて、それを守り切れる力がなーい! あははは! 残念だったねぇ!」
ダイナントはレシアが他の人を守る事を読み、そちらを攻撃し始めた。彼の言う通り、レシアに守り切る程の力はない。それでもレシアは他の人を守ってしまうのだった。
ダイナントがレシアと周りの奴隷達を狙って更に小石を投げた。体制を崩したレシアでは捌き切れない物量だった。せめて後ろの人たちだけでも守ろうとレシアは鎌を構えたその時、デジャブ。
一つの影がレシアと奴隷達の前に現れ、爆発を受け止めた。
「うーん、この二番煎じ感。いや、遅れてきたのは俺だししゃーないか」
聞き慣れた塞げた口調に、赤茶色の髪。「大丈夫?」と聞きながら振り返る横顔すら無駄にイケメンなその男は......。
「リゼル......」
「や、レシア。久しぶり」
天才、リゼル・ヴァリスだった。
二番煎じ......




