魔神の城、突入。
『ダイナント、奴らが来たわ』
魔神の城の屋根の上で、携帯を片手に1人の茶髪の魔族が愉快そうに話す。
彼女の名はアッケナ。魔神妃フィルドレアの配下にして、六魔水の1人。探知系の魔法を得意としており、この城での監視役を命じられている。
「また来たのかい? 性懲りも無く暇な奴らだね」
『今回は50人くらいよ。ラグラゼール様達には伝える?』
「長女が居ないなら僕一人で十分だよ。むしろ終わった後の報告を出来るだけ盛って欲しいかな」
『はいはい。わかったわ』
「あと、魔獣達にも攻撃させなくていいよ。僕の所に来る前に全滅したらつまらないからね」
『了解。そっちにも伝えておくわ』
アッケナは冒険者達の集団を見つけては、地下にいる仲間の魔族へ伝える。そこまで戦闘能力の高くない彼女はここでの監視と状況の報告をするだけ。戦闘は得意な魔族に任せて、彼女は悠雅に夜空を眺めながら地下担当の仲間が愚かな冒険者達を返り討ちにするのを待つだけ。後はその事をフィルドレアなどの上の魔族に報告して彼女の仕事は終わり。
「はいはい、お疲れお疲れ」
アッケナの声とはまた違う青年の声が、彼女の耳に届くよりも早く、突如飛んできた氷柱によって頭を潰される。その直後氷柱から炎が湧き上がり、アッケナの肉体を焼き尽くした。灰すら残らず元からそこには誰もいなかったように。
実に呆気ない退場だ。アッケナだけに。
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魔神妃フィルドレアの城は『夏の国シーロード』の観光名所の一つであるビーチの、その向かいに建造されている。海のど真ん中に城が建っているのだ。
また、海の中には彼女が飼っている魔獣が何体も泳いでいる。そのため、この城に接近するには船や上空からなど水場を回避して渡る手段が必要とされる。
「氷の道」
「防護結界」
長々と詠唱を唱えた次女シーアが直径5m程度の氷の道を海の中へ伸ばすように作り出す。地下に囚われている奴隷達を助けるため、地下から城へ侵入するための道だ。
シーアの魔法に合わせて同じように詠唱をしていた三女メイリーと他何人かの魔法使いや聖職者が、氷で作られた道の内側に結界を貼る。こちらは海にいる魔獣に氷の道を壊されないための結界だ。もっとも、魔獣が彼女達を見つけてもアッケナの遺言により攻撃することはないが。
「魔獣からの攻撃はありません。突入部隊の方は私について来てください。待機部隊の方はここで待機をお願いします」
メイリーはそう言い、連れて来た50人の冒険者のうち半分と共に氷の道を歩いていく。その中にはレシアの姿もあった。
数分程歩き、冒険者達は石製の壁に到達する。言うまでもない魔神の城の壁だ。ここを突破すれば城の中へ侵入出来る。
「シーア」
「わかってるよ。筋力強化」
「では、前衛職の皆さん、よろしくお願いします」
前衛職の冒険者数人に、メイリーが頭を下げながら壁が壁の破壊を頼み、自らは壁の当落や不測の事態に備えて防護魔法の詠唱を行う。一応事前にシーアの魔力探知で壁の厚さや周囲に人影が居ないのは把握しているため、危険は無いが念の為は必要だ。
シーアの強化魔法を受けた前衛職達は各々の武器を勢いよく振り下ろす。土木工事の岩砕きのように何度か繰り返し、やがて壁の破壊に成功する。
「......進みましょう」
素早く城の中へ足を踏み入れ周囲を見渡す冒険者達する。誰も居ないことを確認するとメイリーは城の内部を進んだ。
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城内の構造を把握している事もあるが、あまりの進みの良さにメイリーを初めとする何人かが違和感を抱き始めた。おかしいと。だが、誰一人としてその違和感を口に出すことはなかった。上手く進んでいると思いたかったからだ。
少しして、メイリー達は奴隷の捕まっている部屋に辿り着いた。シーアの魔力探知と視認出来る限りで敵魔族は確認出来ない。
「敵はいませんが、慎重に進みましょう。奴隷の方々の元へ辿り着いたら、予定通り錠を破壊して来た道を戻ります」
不気味な程の静けさに罠の可能性を考えつつ、メイリーは冷静に指示を出して奴隷の解放に進む。
「あ!」
1人の奴隷の男性がシーア達に気づいて声をあげる。彼は1度目の討伐作戦に参加してくれた冒険者だ。シーアが久々に会った友達感覚で手を振り返そうとするのを止めて、メイリーは「しーっ」と人差し指を立てた。ここで声を出して敵に見つかったらここまで何事もなく来れた意味がなくなってしまう。
あちらも冒険者だからかメイリーの意図を察したように口を噤み、他の奴隷達にも声を出さないよう伝える。メイリー達も音を立てないよう注意を払いながら進み、ようやく奴隷達の元へ辿り着く。
「助けに来ました。錠を破壊して脱出しま......」
「そんなコソコソしなくてもバレてるよ」
メイリーの言葉を遮るように一つの声が地下で響いた。全員がその声の方へと振り返ると、そこには赤茶色の髪をした魔族が1人立っていた。
「初めましての方は初めまして。知ってる方はこんばんは。僕は魔神妃フィルドレア直属の配下、六魔水の1人、ダイナント。お見知りおきを」
貴族の礼儀作法のように丁寧に自己紹介をするダイナント。しかし彼の瞳は獲物を見つけた捕食者のように鋭い、その視線に気づいた冒険者達は指示されるまでもなく臨戦態勢へと行動を移した。
「やっぱそうなるよね〜」
「そう簡単には行きませんよね......」
メイリーとシーアが同時にぼやきながら他の冒険者達と同じように杖を構えた。
魔神の城での戦闘が始まる。




