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目を逸らしたくない。

 ギルドを出て、足早に離れていくリゼル。疲れたのか手を引いている彼女の事を思ってか、少し離れた所でリゼルは速度を緩めた。その様子を見て、レシアが問う。


「作戦、参加しないの?」

「参加しても死ぬだけだよ。もう少しまともな作戦と戦力を用意してから挑むべき」


 レシアの問いに、リゼルは無駄死にするだけだとキッパリ言う。その理由を理解出来てないレシアは毎度の如く疑問を投げ、リゼルはそれに答えていく。


「戦力は、ギルドの冒険者の人達じゃ足りない?」

「足りない足りない。最低でも今の倍は欲しいかな。あと個人個人が微妙」

「個人......あの三姉妹は?」

「次女と三女はダメ。2人とレシアで比べてもレシアの方が強いよ」

「そうなんだ......」

「強いて言うなら、国王の長女......シラフネさんだっけ? あの人はこの国の中じゃ頭2つくらい抜けて強い」

「そんなに強いの?」

「強いよ。パーティーの1人で見るなら国家級はある。ちなみにレシアより強いよ」

「そうなんだ......」

「まあ、そのくらいの人が1人居ても他がダメなら意味無いし、シラフネさんでも魔神には勝てないでしょ。実際あの人が居て2回負けてるらしいからね。俺らが行っても同じ」


 死ぬとわかってる作戦には参加しない。リゼルはそう言い切る。彼の判断は正しい。けれど人間問わず全ての種族は、正しさだけで生きている訳ではない。その正しさに納得できない者もいる。例えば、()()とか。


「そう。じゃあ、ここまでだね」


 そう呟き、レシアはリゼルから足を止めた。

 握っていた手が抜けた感覚に気づいたリゼルが振り返ると、レシアが静かに青年を見つめている。今までこれほど真っ直ぐに見つめられたことがあっただろうか、と疑問に思うほど、真っ直ぐに。


「私は、戻るから」

「戻るってどこに?」

「ギルド」

「なんで?」

「魔神の討伐作戦に、参加するから」

「どうして? なんで? え?」


 先程までの聞いて聞き返しての立場が逆転している。リゼルの方がレシアの行動に対する疑問が尽きないからだ。天才リゼル・ヴァリスがレシアの行動に対して理解出来ていないから。

 リゼルはいつになく動揺し、困惑していた。


「俺の話聞いてたよね? 死ぬんだよ?」

「それは、絶対じゃないよね?」

「絶対じゃないにしても死ぬ可能性の方が高い。わざわざ死地に飛び込む必要はないよ」

「うん。でも私は行くよ」

「なんで?」

「困ってる人を助けたいから」


 困ってる人。この場合は国王や協力を求めてきた娘達とかだろう。彼らを助けたいから死ぬとわかっている場所に行く。実に愚かな話だ。合理性の欠片もない。それでも、彼女の瞳は心を貫くように真っ直ぐだった。

 リゼルは一度深呼吸をし、冷静さを取り戻す。このままでは話にならないと見たのだろう。そして落ち着いた声で問う。


「人助けをしたい気持ちはわかるし、尊重したい。でもそれは今絶対必要?」

「どういう意味?」

「ここで死んだら、この先助けたい人を誰も助けられないよ。って意味」


 リゼルは言う。普段とは同じ声色で普段とは違う、冷静に残酷に、はっきりと、現実を押し付ける。


「取捨選択というのは酷かもしれないけど、今を諦めればこの先助けられる人が増えるかもしれない。ここで死んだら、もう誰も助けられないんだよ?」

「......」

「あの依頼は義務じゃなくて要請だ。受ける必要もなければ、死んでやる必要もない。助ける義理もない。レシアはこの国の住民で国に仕えてる冒険者でもないんだから。見捨てたって誰も文句は言わない、俺が言わせない。だから!」

「......」

「拾えない命は存在する。助けられない命は必ずある。俺だってそう、どんなに頑張っても拾い損ねる命はどうしても存在する。でもそれを気負う必要はない。無理して助ける必要はない」


 そこまで言う必要があるのか、と思うほどの発言。けれどそれは、レシアに生きて欲しいと、行かないで欲しいというリゼルの気持ちの表れなのだ。

 レシアは、自らの感情表現は不得意なのに反して、他人の感情読み取るのが妙に上手い。そのため、リゼルの残酷な言葉の内側に隠れた気持ちは、レシアにも確かに届いていた。


「人を助けられるのは、助けるための自分の命がある時だけなんだよ」


 冷静に淡々と言い放つリゼル。

 その言葉と声色と、表情から伝わる彼の気持ちをレシアは正面から受止めた。そして答える。


「そうだね。リゼルの言ってることは、その通りだよ。リゼルは頭が良いから、毎回正しい事を言うね」


 肯定。

 リゼルほど賢くないレシアは彼の言葉を肯定する。きっとその発言の数々は彼が国王に言った通り、合理性から考えているものだとわかっていたから。


「リゼルは、この前のゴブリンで、1回死にかけてるもんね。森林の国でも、私のために頑張ってくれた」


 レシアはリゼルの肩や腹部に触れる。もちろん服の上からだが少しスキンシップが激しいんじゃないだろうか、そう思うところはありつつも口を出せる空気ではないのでリゼルも黙ったまま。


「でも、ごめん」


 ボディータッチを終えたレシア手を下ろし、かわらず無表情に言った。ごめん、と。

 こういう時、リゼルは自身の頭の回転の速さを後悔する。なぜなら、彼女のその先の言葉が、彼女が発するよりも早く想像できてしまうから。答え合わせをするかのように、想像し言葉と彼女の声が重なった。


「私は、行くよ」


 どこか優しそうに言うレシアの言葉は、リゼルの声を塞ぐ。


「な.....んで!」


 絞り出すように発した言葉は、疑問。何故と、合理的に考えて動くリゼルには分からない、レシアの行動原理を解くための、純粋な疑問だった。


「私は、自分の気持ちから、目を逸らしたくない」

「っっ!」


 最後にリゼルの問に答え、レシアはマントを靡かせながら踵を返した。そしてギルドの方へ小走りで向かっていく。リゼルはそれをただ見ているだけだった。言葉を失った。何も言うことが出来ず、彼女の手を掴むことが出来ない。

 目を背け続けてきたリゼルには、彼女の手を掴む資格はなかった。

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