どうもこんにちは面倒事です。
「はぁぁぁぁぁぁぁ......ちっ」
深く長い溜息と妙に聞き渡る舌打ちをして、リゼルは目の前の人達を睨みつける。あからさまに不機嫌で礼儀を弁えない態度に目の前のおじさんはニコニコと笑顔を向けていた。
皆様のためにこれまでの経緯を簡単に話そう。
滞在最終日のリゼル達は、夕方馬車の出発の時間まで存分に国を観光しようと歩いていた。すると、3人の女冒険者が彼らに話しかけてきたのだ。冒険者が冒険者に話しかけるのは珍しいことではない。依頼や迷宮攻略の勧誘など冒険者間ではよくある事だ。だが、今回話しかけてきた3人の女冒険者達の目的はそういう類ではなかった。それを察したのは小声で「あの人だよあの人」と女冒険者の1人の魔法使いが、リーダーらしき剣士に話しかけていたからだ。
「貴方達は冒険者だな? 頼みたい事がある。一緒にに来てもらいたい」
嫌だ。と断る間もなくレシアが了承した。恐らく彼女は依頼の協力と思っていたのだろう。或いは頼み事というワードに彼女の人助け精神の正義感が働いたのか。そのまま流れで連れてこられたのは、冒険者ギルドではなく、国の最南端にそびえ立つ王宮だったのだ。
要するに、彼らは国の王から依頼を頼まれたということだ。いわゆる面倒事である。
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「国に入った時点で、なんか見られてる気はしてたけどさ......はぁ......マジでさ」
用意されたソファに深く腰を下ろしながら零すように愚痴を吐くリゼル。その言葉に女冒険者の1人、レシアと同じくらいの少女が反応する。長い金髪と金色の瞳、白い装飾からわかるシスター職。
「やっぱり、魔力探知に気づいてたんですね......」
「だよねヤバくない?! 普通魔力探知で探知されたのってわかるもん?! 一瞬感じただけでも凄い魔力だったし、しかもイケメンだし! もしかして賢者かな? ちょーやば! 後でメアド交換してもらお?」
「流石に賢者じゃないと思いますけど......或いは賢者候補の人だったり......」
「それはあるかも! え、ほんとヤバくない?!」
呼応をするのは短い茶髪と焼けた肌が特徴的な少女。こちらはリゼルと同じか少し下くらいか、身長以上の杖と服装的に魔法使いだろう。
「シーア、メイリー静かに。国王とお客様の前だ」
小声で盛り上がる2人を注意するのは青のメッシュが入った黒髪の女性。身長はリゼルより低いが年齢的は上に見える。青い軍服から警官のようにも見えるが恐らく腰に携えた細剣と冒険者の少女2人と関わっていることから、彼女も役職:剣士の冒険者だろう。鋭い眼光を含めずとも、リゼルの中では3人の中で彼女に対する警戒の割合が大きかった。
「シーア、改めて確認しておく。お前が言っていたのは彼......失礼、彼らで間違いないか?」
「魔力を感じたのは一瞬だけど、多分あのイケメンで合ってると思うよー。シラフネお姉ちゃん」
答えるシーアと呼ばれた魔法使い。剣士の事を姉と呼んでいた辺り三人姉妹なのだろう。シラフネが長女でシーアが次女か。
答えた内容が多分やら思うやら確実性に欠けるためか、シラフネは確かめるようにもう1人の名前を呼ぶ。
「リック。本当か?」
「う、うん。今は魔力を制限してるみたいだけど、シーア姉が感じた探知したタイミングで入国したのはあの人達、だけだから......」
シラフネの問にソファの後ろから声が聞こえる。3人と違い少し低い少年の声だった。雑なシーアと違いはっきりと根拠を持って答えている
「了解した。それとリック、お前も隠れてないで出て来なさい。お客様に失礼だ」
「う、うん。ごめんなさい......」
シラフネに言われソファの後ろから出てきたのは短い茶髪の少年。歳は三女のメイリーと同じくらいか。見た目は冒険者という感じではない、白衣を着ているので研究者か何かだろう。リゼル的にはあまり興味はないが。
(そういえば......)
リックの様子を見ていると、リゼルはふと昨日の魔道具店での会話を思い出す。
(確か魔道具店の店主が、腕輪の魔道具は国王の息子が作ったとか言ってたな......こいつの事か?)
リゼルが一瞬ながらも目を惹かれた腕輪の魔道具。結局リゼルには合わず購入を見送った商品だったが、その製作者が目の前の少年で、この歳であの魔道具を作った可能性があると考えてみるとと、リゼルの中で彼に対する興味が湧いてくる。
「おい、そこの......リックだっけ?」
「は、はい! なんでしょう?」
今まで目を細めて睨みながら三女の会話を聞いていた旅人が、突然話しかけてきた事にリックはビクッと肩を跳ねさせた。そしてリゼルと目が合うとシラフネの後ろに隠れてしまう。リゼルの方は気にせず話を続ける。
「お前もしかして、魔道具作ったりしてるか?」
「え、あ、はい......なんでそれを?」
「この国の魔道具店回ってる時に、店主から腕輪の魔道具作ったのが国王の息子とか言ってたからよ。もしかしたらって思ってな」
「はい、腕輪の魔道具は僕が作りました」
「やっぱりか、あれは中々良い魔道具だったぞ」
リゼルの賞賛を聞き、リックはシラフネの後ろから出て来ては、身を乗り出しながら嬉しそうに答えた。人見知りであっても、自分の好きな会話や自分が褒められる会話には興味があるらしい。
「! もしかして購入してくれたんですか?」
「いや、俺には合わないから買ってないけど」
「あ、そうなんですね......」
買ってないという返答にリックの表情は沈んだ。恐らく才能に反して作った魔道具の売れ行きは芳しくないのだろう。或いはあの腕輪が製作商品第1号だったからか。ショックのあまり再びシラフネの後ろに隠れた。それを区切りと見たのか国王が一つ咳払いをして、話し始める。
「えー、単刀直入なんだが、君達にはこの国の魔族の討伐に協力してもらいたい」
「......」
「私はいいよ」
何も答えず静かに国王のおじさんを睨むリゼル。少し考えた後、疑問を投げた。
「おじさん、昨日露天風呂であったよな?」
「うん? あぁそうだな」
皆も薄々気づいているかもしれないが、このおじさんはリゼルが昨晩露天風呂で遭遇した謎のおじさんである。
「あんたあの時、俺に魔族との共存がどうのこうのって聞いてきたよな? あの質問は今回の依頼に対するものか?」
「半分はそうだが、半分は純粋な質問だ。国王としてのな」
「......そうか。で、その半分の理由なんだ? 今すぐOKは出せないが話くらいは聞いてやる」
露天風呂のおじさんが国王だと判明した上で、リゼルは依頼を頼んでいる相手だと、変わらず上から目線な態度で話を聞いた。国王はその態度に少し困ったように苦笑しながら話をした。
「今この国では、平和協定の元ある魔族と共同国にしようと交渉している」
「それで?」
「君達に討伐してもらいた魔族とは、その交渉相手の魔族なんだ」
穏やかではない内容にレシア少し眉を下げた。
レシアは昨日の露天風呂での話をリゼルから聞いたわけではないが、それでもこの国が平和協定を遵守して魔族を受け入れている事は理解している。その上で、共同国を申し出ている魔族を討伐して欲しいというのは反応に困る依頼だった。視線を動かし、隣の青年の方を見てみれば彼もまた難しい表情をしていた。まあ、彼の場合は話す順番を間違えた。この話を聞いてから昨日の事を聞けば良かったと、会話の順番ミスについて考えていただけだが。
レシアの視線に気づいたリゼルは彼女に軽く笑顔を返してから、国王の方に向き直り本題を聞く。
「で、その魔族ってのは? 国王自ら頼み込まなきゃ行けない程の相手なのか?」
「ああ、そうだ。そして決して逃しては行けない巨悪だ」
「巨悪て......そこまで言うか」
「当然だ。なんたって、その魔族の名は......」
ゴクリと唾をのみ、国王は真剣な面持ちでその名を口にした。
「魔神妃フィルドレア」
「諦めで」




