好きな物。
いくつかの魔道具店を回り続けていると、夏の国を照らす太陽は真上あたりに来ており、リゼル達は近くのレストランで昼食を取る事に。注文を待っている間、先程購入した魔導書を読むリゼルを見て、レシアはふと思った。
「リゼルは、魔法好きなの?」
「......どうして?」
「いっぱい魔道具店寄って、魔導書とか魔道具見てたから......」
「そっか。そりゃ、あんだけ回ってればそう思うよね。ごめんね、俺一人に時間使っちゃって」
良く考えればレシアの疑問は確かに当然だと、自分の行動に苦笑するリゼル。栞を挟み魔導書を閉じてレシアの方へ向き直り、彼女の疑問に答える。
「好きか嫌いかで言ったら、まあ好きだよ」
好き。と言った割には表情は曖昧で、「ただ」と言葉を繋げた。
「そこに義務感はないかな」
義務感。リゼルはそう言った。その言葉の意味がわからずレシアは首を傾げる。
「好きなものに義務感ってあるの?」
「ない、だろうね。適当なこと言った。ごめん、忘れて」
「.......わかった」
決して適当なことではない。というのはレシアにも察するけれど、瞳に映るリゼルの表情を見て、レシアはそれ以上踏み込むことを諦めた。何より、知らないでいた方が良いと、彼女自身がそう思っていた。
「逆にさ、レシアは何か趣味とか好きな事とかないの?」
「私?」
突然話の中心が自分に替わり、レシアは戸惑ったように首を傾げる。
「何か、あるかな......」
このような質問は過去にも何度かされたことはあったが、その度にレシアは回答に困っている。感情を表現する能力が乏しい故に、自分自身の"好きな事"を明確にするのが、彼女には難しかった。
「パンは、好きかも......」
「それは好きな食べ物として? それとも食べるのが好き?」
「......わからない」
どちらが好きかと聞かれてもどちらも好きだろう。では、その"好き"の違いはなんなのか。
パンを食べるのは好きで、色んなパンを食べたいとは思うが、それが趣味かと言われれば違う気もする。
パンに限らず食べる事も好きだ。好き嫌いも少ない。けど多分これも彼女の趣味の認識とはズレるのだろう。
結論を出せずレシアは「うーん」と唸り続けた。その様子に、リゼルは微笑みながら呟いた。
「旅とかは? こうやって旅してるのは好きだからじゃない?」
「それは......」
旅が好きなのではないか? そう聞かれレシアは言葉が止まる。困ったような表情のそれは、好きか否かの戸惑いに対するものではなく、答えそのものに対する戸惑いにも見えた。
たまにある。リゼルがレシアの旅のことに対して聞くと返事が妙に遅い事が、どう答えればいいか迷っている時が。
「答えたくない?」
笑顔のままリゼルが言葉を重ねる。そのいやらしいような笑みはまるでレシアの考えを見透かしているようだった。気持ち悪いな。
「えっと......その......」
「お待たせしましたー」
タイミングが良いのか悪いのか、レシアが答える前に注文していた料理が届いた。それを受け取ったところでリゼルは「まあいいや。冷める前に食べよう」と話を切りあげる。気を使ったのだろう。その後、この話題で話すことはなく、むしろいつも以上に静かに、2人は食事をしていた。




