初心者狩り。
国を出て20分程度。パンフレットに書かれていた時間とほぼ変わらぬ時間で目的地についたリゼル達。歩みを続け、陽の光が当たりにくい場所まで進んだ所で髭男が呟く。
「ここら辺で良いだろう」
声に反応し振り向くと、短剣やら銃やら杖やらベテラン冒険者達は武器を構えていた。ゴブリンの姿は見えない。つまり、ゴブリン相手に向けている敵意ではないというのはその先の発言で明らかだろう。
「武器を下ろして手を挙げな。なーに殺しはしねぇからよ。こっちの要求を呑めばな」
「あんた達もだよ。こっちに協力するなら痛いようにはしないから誤った判断しないようにね」
「......っ!」
「だって。どうするの?」
「どうしようっか」
矛先はリゼル達だけでなくヒイロ達にも向いている。彼ら的にはヒイロ達存在は例外なのだろう。だからその例外を警戒し、都合のいいように動くようリゼル達と一緒にまとめて脅している。
「お前らこの状況がどういうのかは理解しているか?」
「初心者狩りでしょ?」
「わかってるじゃねぇか。じゃあ話を進めるぜ。こっちの要求は3つ。1俺らに絶対服従、2どの依頼でも受けた報酬の8割を献上、3このことは誰にも言わず国も出ない、だ」
「当然だけど、あんた達に利益なんかないよ。これは交渉じゃなくて脅迫だからね!」
「代わりに身の安全は保証してやるよ!逆らわない限りはな! ギャハハハ」」
「リゼルの言ってた通りだね」
「言ってた通りにならないのが1番だったんだけどね」
髭男達の要求が事前に予想していたものとほとんど同じだったことにリゼルとレシアは小声で話しながら苦笑した。リゼルも口にした通り予想通りにならないのが1番だったが、逆に捻りがなく予想通りなのも面白味がない。
(さて、どうしたものか。初心者ぽく弱々しく反応するか、それとも真面目に推理して返すか......)
「おい、何をしてやがる! さっさと武器を捨てて手を挙げろ!」
「それとも1発撃たれないとわからないかい?」
何もせずただ棒立ちしている2人に髭男と仲間の女が銃口を向けながら急かした。言われた二人はお互いに顔を見合せて考える。レシアの方は割と真面目な心配だが、リゼルに関してはどうリアクションを取ろうかと別の方向で悩んでいた。
「も、もうこういうこと、やめましょう......よ......」
リゼル達が悩んでいると、一人の青年が弱々しくも声を張った。ヒイロだった。手も声も震え、傍から見てもビビっているのが丸分かりだが、それでも彼は勇気を持って声を上げた。
「もう、やめましょうよ!」
「あ?」
「自分達より弱い冒険者を脅して、お金を巻き上げて...... こんなこと続けて、何になるんですか!」
ヒイロは必死に叫んだ。恐らく彼らも脅され、金を巻き上げられた事があったのだろう。或いは今でもやられているのか、その声から悲痛さが伝わった。
「そんなもん、楽しいからに決まってんだろ」
ヒイロの叫びを髭男はバッサリと切り捨てた。
「いいか? この世界は弱肉強食なんだよ」
「いつの時代だよ」
「強い奴が弱い奴から奪うのは自然の摂理なんだよ。それにな、俺らだって生きるのに必死なんだよ。ただ稼ぐだけじゃ生きていけないから、奪う。当然の事だ。それを奪われただけの奴らが嘆くなよ。奪われる弱い奴らが悪いのは当たり前だろ?」
なんとも身勝手な言い分だ。100%発言全てが間違ってるかと言われればそうでもないのが絶妙に腹立たしい。
「そんなことしてたら、今度は奪われた人達が、他の人から奪うことになります! 実際ギルドでも......」
「俺らに搾取された奴らが他の奴らから搾取してるんだろ? それも同じだ。奪われる奴らが悪い。というか、お前らも同じ事してるだろ?」
「僕らはしてません! そんなことしても負の連鎖が続くだけです!」
「お前らがしなくてもしてる奴らがいりゃ続くんだよ。ついでに言うなら文句があっても止められないなら、それは止められないお前らが悪いんだよ。弱いお前らが悪いんだよ」
ヒイロ達の叫びは髭男達には届かない。髭男達はあくまで搾取する加害者側、愉悦を得ている加害者に被害者の気持ちなどわかるはずもない。そうでなくても他人の感情など理解し難いのだから。
「冒険者なら協力し合えば良いじゃないですか! 奪うんじゃなくて分け与える! なんでそれが出来ないんですか!」
「それになんの意味がある? 俺らの取り分減らしてまで雑魚に何を与えろって? 逆に雑魚共は俺らに何を寄越してくれるんだ? 綺麗事ばっか並べて生きていけるんなら苦労しねぇんだよ!!」
「それはそう」
髭男の一言に思わずリゼルが同意する。突然挟まれた声を気にして視線が集まり、リゼルは慌てて口を塞いだ。レシアからも少し軽蔑したような目を向けられる。
「リゼル......」
「ごめんつい......あ、俺らの事は構わず続けてどうぞ」
「どうぞじゃねぇよ! お前らはさっさと手を挙げろ!」
気にせず続きをするよう促すリゼルに、髭男はイラついた表情で銃口を向けた。その様子に耐え切れなくなったのか、ヒイロは震える手で腰の剣に触れる。
「なんのつもりだヒイロ。やる気か?」
「文句があっても止められないのは、止められ方が悪いと言ったのはあなたでしょう? だから止めます」
「本気で言ってんのか? またボコられてぇのか?」
「前と同じようには、行きません!」
過去にも反抗して返り討ちにあったような言い草のヒイロ。トラウマになっているのか、剣を持つ手は震えていて危なっかしい。それが見えているのかいないのか、髭男は仲間達に銃を向けたまま警戒するよう指示し、ヒイロの方へ短剣を持って向き直る。
「覚悟良いんだな?」
「当然です」
今にも2人の決闘が始まりそうな雰囲気の中、完全に蚊帳の外だったリゼルが突然、目を見開きながら振り向いた。その瞬間、リゼルの胴体を何かが貫いた。
「ッッ!!」
血を吐きながら倒れるリゼル。隣で僅かに返り血を浴びながら彼を見ていたレシアが少し遅れて反応する。
「リゼル......? リゼル! リゼル!!」
名を呼びながら駆け寄り、その体を揺するレシア。2人の様子を見て、何が起きたのかと困惑しているともう一発。何かが飛んできて、髭男の仲間の女性の胸に穴を開けた。
「な、なんだ!」
髭男が叫び、全員の視線が何かが飛んできた森の奥へ向けられる。するとそこには、銃を手に持ったゴブリン達が居た。
ゴブリン達も銃社会みたいですね。




