win-win-winの関係。
有無を言わせずギルドを出たリゼルは、少しした所で当たりを軽く見渡してから「ここなら大丈夫か」とさりげなく歩く速度を緩めた。
「リゼル、どうしたの?」
リゼルの様子に違和感を感じたレシアが聞く。対してリゼルは少し悩んで後、彼の口から出てきた言葉は適当なものだった。
「......そういえばさ、レシアって16歳なんだね。さっきパーティー記入の用紙書いてる時、見て思った」
「うん、それがどうしたの?」
「歳近いとは思ってたけど、1個下とは思わなくて。長命種もいるし」
「そうなの?」
「......今度さ、先輩って呼んでみてくれない?」
「先輩?」
「っっっ! ありがとうレシア!」
感極まったように胸を抑えるリゼル。気持ち悪い。時折こういう気持ち悪さを見せることがあるリゼルに、レシアは慣れ始めていたが、それでも今のリゼルは何か別のことを考えてるようだと思っていた。故に改めて問う。
「リゼル、どうしたの?」
妙なところでのレシアの勘の良さはリゼルは短い付き合いながら理解していた。こういう時、大概隠し切れない事も。
「後で話すよ」
リゼルは短く呟き、歩みを進めた。
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宿に着いた二人はそれぞれ荷物を整理した後、リゼルの部屋で彼の話を聞いた。
「この国、っていうか冒険者? ちょっとヤバそうなんだよね」
「ヤバそうってどういう事?」
「ハーブとかそういうのじゃなくて、カモ的な」
リゼルの言葉にレシアはクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。短いワードで伝われば良いと思っていたが上手く伝わらなかったらしい。しょうがないと、リゼルは順を追って話し始めた。
「色々不確定要素はあるんだけど、まず不自然だったのはあの依頼なんだよね」
「ゴブリン退治の依頼?」
「ゴブリン討伐。ね」
「何か違うの?」
リゼルが言葉の違いを指摘すると、レシアはどう違うのかと聞き返す。
「明確に違いはないし、普段使いなら別に問題ないんだけどね。依頼に書かれてた内容的には結構違ってくるんよ」
「? どういう事?」
「距離の問題だね。国の近くにいるゴブリンを『退治」しに行くんじゃなくて、少し離れた所にいるゴブリンを『討伐』しに行くんだよね」
書かれてた内容だと。と付け足しながらリゼルは言う。つまり、近場にいるモンスターを追い返すのではなく、遠くにいるモンスターを狩りに行く。その違いからリゼルは言葉のニュアンスの差を指摘したのだった。
「それっておかしいの? 冒険者なら依頼のために少し遠くに出るのは普通だと思う」
「普通の冒険者ならね。あの依頼は冒険者なりたての初心者にオススメする依頼だったはず。初心者にいきなり遠く行かせるのはオススメじゃないよ」
リゼルの説明にレシアは「そうかも?」と納得したようなしてないような曖昧な感じで首を傾げた。
ちなみに依頼場所に関しては、城門の職員に貰った地図に書かれており、ギルドに入る前には既に暗記していた。距離としては徒歩で20分くらいかかる森の中で、彼の言う通り初心者へのおすすめとは言い難い。
「でも、その安全のためにあの人達がついて行くって言ったよ」
「それも引っかかるんだよね」
「なんで?」
「俺らは、というか俺1人で勝手に話進めて、あいつらの提案を承諾したけど、もし受け入れない冒険者がいたらどうすると思う? 初心者が自分達だけで行くって行ったらどうすると思う?」
「ついて行かない?」
「ついて行かずその初心者冒険者が帰って来なかったら、あいつらが言う、冒険者の楽しみを知ってもらいたい。ってのが理解出来ないだろ?」
「うん、でもそれは自己責任なんじゃないの?」
「初心者側はね。でもあいつら側はそれじゃ良くないんだと思うよ」
徐々に根幹に近づくリゼルの話にレシアはまだ首を傾げている。そもそもなんの話しをしているのかすら理解してるか怪しいと言った様子だ。
「確かに冒険者の言動や決断は自己責任だ。誰かのものじゃない。けど、自己責任からなる結果は、そうとは限らない。結果による影響を受ける奴らが居るんだよ」
「誰?」
「ギルドさ」
「ギルド? どうして?」
突然第三者、正確には組織か。第三の組織の名前が上がりレシアの頭にクエスチョンマークが増えた。ややこしい話をしてる自覚はあるが、これだと逆に警戒心がなさすぎじゃないか? とリゼルは思いつつ、レシアの疑問に答える。
「自己責任とはいえ、初心者にオススメです! で出した依頼で初心者が帰ってきませんでした。となれば、オススメしたギルド側の印象が悪いでしょ? 見方によっては、ギルドが冒険者を殺した。とも言えなくはないからね」
「それは......暴論? ってのじゃない?」
「そうだね。でも、その暴論は言ったもん勝ちみたいな所があるからね。相手がギルドとかの客に何らかの利益を提供する側の組織だとすれば尚更」
社会の悪い所だよ。とリゼルは呆れ気味に呟く。その表情は、まるで今口にしたそれを、どこかで光景として見た事があるかのような言い草だった。空気が重くなったのを感じ取ったリゼルが論点を戻す。
「まあ、要するに、自己責任の決断であっても、初心者にオススメした依頼で初心者に死なれたらギルドは困るんよ。だからギルドはある事をした」
「ある事?」
「1つの冒険者をギルドで1番強いパーティーだと宣伝した。それが嘘でも本当でも、ギルド公認で後押しがあれば、あいつらが一緒について行く理由としては十分過ぎるんだよ」
「確かに......あれ? それって何か悪いことなの? 別に悪いことしてないと思う。何がヤバいの?」
納得しかけたレシアがふと思う。リゼルの発言ではこの国の冒険者はヤバそうという話だが、彼の説明を聞く限りでは、ただ初心者冒険者にオススメの依頼をベテラン冒険者が紹介した上で、手伝うと言い、ギルドが後押しさせているだけ。無事に依頼が完了すればギルドやベテランの目的通り、初心者は冒険の楽しさを理解できる。それは関係者全員に都合のいいwin-win-winの結末だった。
「本当にそれだけならね」
「リゼルは、何かあるって思うの?」
「うん、ただ不確定要素が多くて、断定出来ないから憶測の域は出ないんだけどね」
『憶測』と保険をかけながらリゼルは言った。
「多分、ギルドもグルであいつらのやろうとしてる事は、初心者狩りだよ。多分ね」




