お金がありません!
森林の国フォレストを出て数日が経った。色んな国や街を渡り遊んで、時には野宿をして過ごしたりと、リゼルとレシアは楽しく旅を続けていた。そんな二人に、今、重大な問題が立ちはだかっていた。
「えー、お金がありません!」
深刻な面持ちでリゼルは話し出す。そう、金である。金がないのである。旅人に限らず生きていく上で金は必須であり、普通は仕事などでお金を稼いで生活する。だがどこか一定の場所に留まることのない旅人となれば、その金を稼ぐのも難しくなる。
「アレルに用意された馬車代が痛かったな。あれで3分の1くらい持ってかれた」
文句を吐き捨てるリゼル。今更言ってもしょうがないことだとわかっているが、金欠になった今だからこそこういう文句は出てしまう。まあ、今出すべきは文句より金を稼ぐ手段で、それも、リゼルはわかっている。この話題を切り出した理由もそれなのだから。
「どうにかお金を稼がねばなりません」
「そうだね」
「という訳でレシアさん、旅人歴の長いあなたに聞きます」
「何?」
「レシアって1人でも母代わりの人が一緒に居た時でもいいけど、こういう金欠な状況ってあった? あったとしたらどう解決してた?」
以前も話したが、基本的な知識や頭脳に関してはレシアよりもリゼルの方が賢い。だがこと旅のことに関して言えば経験の差も含め、レシアの知識が豊富で役に立つ。
「......一緒にいた時は、私はまだ小さかったから働けなくてその人が稼いでた」
「バイトとか? それもありだろうけど何日やって何日分持つかな?」
「そんなに持たない。あと、それするとお金稼いで、次の国行ってまた稼いでの繰り返しで楽しくない」
「確かに」
旅人の生活には馬車代や宿泊費など、普通の生活とは異なる出費があるのも痛い。レシアの言う通り、どこかの国でバイトをして金を稼いでも、次に行くための馬車代と宿泊費で稼いだバイト代を消費し、再び稼ぐためにバイトをする事になるだろう。なんなら旅先でバイトを見つけられず時間を無駄に費やす可能性もある。旅先で遊ぶ暇がないのは確かに楽しくない。
「じゃあ他には?」
「物を売ったりとか......」
「あー、売って稼ぐのはあるけど......今は売るものないかな」
「うん、あの人に渡されたこれも売ったら高いって言われたけど、私は売りたくない」
そう言って見せてきたのは、普段からストラップのようにして腰に着けて持ち運んでいた3cm程度の小さな黒いキューブだった。
「これは......」
「魔導具でしょ? 2、3個くらい術式が組み込まれた特殊な魔導具」
「わかるの?」
「まぁね」
今まで触れることはなかったが、リゼルもレシアが持ち歩く魔導具の存在には気づいていた。それの価値にも。
「かなり良い魔導具だよね。それを売れば、2年くらいは豪遊してもお釣りが来るレベル。だけど......」
大切そうに手に収めるレシアの様子を見てその先の言葉を濁した。
「これは、大事な人に貰った物だから。売りたくない」
「だよね。そもそもレシアの所持品だし俺が何か言うことはないよ」
「うん、ありがとう......」
金銭的には厳しいが、惚れた相手に大切なものを売ることを無理強いするほどリゼルは最低ではない。なんとも言えない妙な空気も別の方法を考えるための切り替えと捉えて、リゼルは再び話し出す。
「バイトは渋い。売れるものもあんまない。って事で別の方法を考えなきゃ行けないだけど、ちょっと俺に提案あるんだけどいいかな?」
「何?」
聞き返すレシアに、一拍置いてリゼルは答えた。何故か少しドヤ顔で。
「レシア、俺と一緒に冒険者パーティ組まない?」
「いいよ」
「冒険者ならいちいち仕事探す必要も......ってえ? いいの?」
「うん」
「迷いなしの即答ですか......」
「リゼルなら大丈夫だと思うから」
「......その信頼はありがたいけど、なんて言うか、ここまで迷いなしだとこっちが怖いよ」
純粋にリゼルを信頼し提案に即答したレシア。あまりの迷いの無さにリゼルは逆に困惑していた。




