旅人が去った後で- エディオ・オーレル。
リゼルが旅に出た後の、リゼルの国のお話。
「おはようございまーす!」
無駄に元気な挨拶がそこそこ豪勢な家の前で響く。
「あら、エディオ君。おはよう。風邪は大丈夫なの?」
「えぇ! もうバッチリです!」
耳を塞ぎながら玄関を開けたラウスは、挨拶を返しながら声の主を心配する。エディオと呼ばれた紫色の髪と瞳の青年は、大丈夫だと親指を立てて答えた。
彼の名前はエディオ・オーレル。自称リゼルの親友である。リゼルと比べて顔が良い訳でもなく、頭も良くない。才能もない。ただリゼルと最も交友が深く、仲の良いただの魔法使いである。
「リゼル居ますか?」
「居ないわよ」
「もう行ったんですか? あいつが?」
「いいえ、旅に出たのよ」
「え?」
「旅に出たのよ」
「......え?」
無駄に間抜けな声が、一つのそこそこ豪勢な家の前で零れた。
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学校が終わり放課後、エディオは改めてリゼルの家を訪れ、親友が旅に出た事に関して詳しい事情を聞いていた。と言っても何分もかからない簡潔な話だったが。
「たまたま出会った女の子に一目惚れして、その子が旅人だったから学校辞めて一緒に旅に出た? 俺が風邪で寝込んでる1日で? マジですか?」
「マジよ」
「マジかぁ〜」
頭を抱えてながら驚愕に声を漏らすエディオは、朝一で聞いた時以上の衝撃を感じていた。
「確かに、動くと決めた時のあいつの行動力は凄いですけど、いやまさかだな......もしかしてアオネさんにも言ってない感じっすか?」
「アオネも今実家に帰ってるからね。あの子が連絡入れてなかったら知らないと思うわ。帰ってきたら教えようかしら」
「そこは、事前に伝えておいてあげてくださいよ」
能天気なのかラウスの発言に思わずツッコミを入れる。
リゼル家の中を見渡し、いつもいるところに居ない親友の影を見て再び「マジかぁ......」とエディオ声を漏らす。確かに驚きはあったが、その内は思ったよりも冷静だった。
「ラウスさんは、リゼルが知らない子と旅に出て不安とかないんですか?」
「ないと言ったら嘘になるけど、私の息子だから大丈夫だと信じてるわ。あの子強いし、いざとなった時に逃げる判断は出来るからね」
確かに。とエディオは頷く。中学時代から4年弱の付き合いではあるが、最初の出会いが助けられた事だったのもあり、リゼルの強さはエディオ自身もよく理解していた。卒業したら一緒に冒険者やろうと誘おうともした。
「学校辞めて学費が〜とかはないんですか?」
「お金には困ってないから大丈夫よ。まあ、そういうの関係なしにお父さんには働いて欲しいけどね」
「流石、国家級魔法使い」
「お父さんはいつ返ってくるのかしらね」
リゼルの話のはずが、自分の一言で父のエジルに飛び火し、ラウスの表情には僅かな怒りが含まれていた。エディオは申し訳ないと思いつつ視線を逸らす。
「エディオ君、怒ってるとかないの? 俺を置いて行きやがってーとか」
「え、いやまあ何も言わずに出て行ったのはちょっとモヤモヤしますし、未だに連絡してこないのもよくわかんないんすけど......」
出された湯呑みを見つめながらエディオは言葉を重ねる。それは親友と一緒にいた時よりも静かに、淡々と。
「賢者としてか冒険者としてか何にしろ、あいつはそのうち国を出るだろうなぁ、とはなんとなく思ってたんで。自分でも思ったより落ち着いてると言うか、納得してます」
「......それはどうして?」
「クラス別だから全部見てる訳じゃないですけど」
お茶を飲み、一拍置いてからエディオは言った。
「最近のあいつ、学校つまらなそうにしてたんで」
「そう......それなら、仕方ないわね」
エディオの言葉を聞いてラウスは微笑んだ。その表情が何を含んでいるかは分からない。寂しさや悲しさか、どうしてと理由を問わない辺り、エディオの発言すら彼女の想定通りなのか、それ故の納得か。なんとも言えない、曖昧にも感じる表情でラウスは微笑んだ。
「あ、でもアオネさんに何も言わずに出ていったのはちょっと許せないですね。あと一目惚れした女の子紹介しろ」
「それは私もちょっと思うわ。異性にそこまで興味持ってなかったあの子が、全部投げ出して一緒に行きたいって言い出すくらいの相手は私も知りたいわ」
それから2人は最近の学校の事やリゼルの事、少しアオネの事で日が落ちる頃まで話し込んだ。時計の針が18時を指していることに気づき、エディオはようやく帰ろうと席を立つ。
「ご馳走様でした。お邪魔しました」
「気をつけてね」
「......」
何やら思い詰めた表情で黙り込むエディオ。何かとラウスが問う前に、エディオは切り出すように声を張った。
「あの! また来てもいいですか? リゼル居ないですけど」
「良いけど、一応理由聞いておこうかしら」
「えっと、アオネさんに会いたいなぁって思って.....あとは、その......」
「えぇ、もちろんよ。アオネがいる時に是非いらっしゃい」
「ありがとうございます! じゃ、また!」
「ええ、またね」
エディオの提案をラウスは快く承諾した。その瞳は青年の濁した本音をも見透かしたように。エディオ自身も気づかれた事にはなんとなく察していたが、何も言わない。そっに方が都合がいいので。
帰路を歩きながらエディオは少し考えた。親友の去ったこの国で自分はどうして行くか、何をしたらいいのか。もし、自分があの時一緒に居たら、どうしただろうか、なんて意味の無いことも考える。
(俺は一緒に行くなんて言えなさそうだなぁ。そもそも親を説得できる気がしないし......そういう意味だと、あいつの行動力は凄いよな。尊敬しないけど。基本動かないし)
家に着くまでにはっきりとした答えは出てこなかった。なんなら途中から「どうでもいいか」と思考を放棄し出した部分もある。
そう、どうでもいのだ。リゼルの事はリゼルが決めた事で、今更時間は戻らないし、エディオの意思はそこまで関係ない。また自分の事は、これから適当に考えていけばいい。それが残った側の結論でしかないのだ。
「文句とか色々言いたい事はあっけど、それは次会った時に言えばいいからな!」
リゼルの旅も決して今生の別れというわけではないだろう。気まぐれでリゼルが帰ってくる可能性もあるし、エディオが冒険者として国を出ればどっかで会う事もあるだろう。言いたいことはその時言えばいい。それだけの事だと、エディオ・オーレルはわかっていた。
「あぁ〜、彼女欲しい!!」
ラウスをおばさんって呼ぶと殴られます。




