リゼル・ヴァリス。
フォラスタが放つ植物の刃をリゼルは避け続けた。先程のようなぎこちない動きではなく、素早く的確な動きで。
「アレル〜、俺が適当にあしらってる内にさっさとこの森林王サマ説得してやってくれ」
「貴様は......どこまで我を腹立たせるのだ!」
「そっちの気が済むまでかな」
気の小さいフォラスタは植物の数を増やし、リゼルを襲う。四方八方から追い込むように放つ植物も、死角である背後から植物を生やし放つ攻撃も、その全てがリゼルに掠りもしなかった。
(何故だ? 先程までならばこれらの攻撃はあの男に届いていたはず......何故だ、何故当たらない......)
リゼルの動きは隠していた実力とそれ以上の何かがあると感じ取っている。苛立ちと焦りを募らせつつも、フォラスタは冷静にリゼルの動きを観察した。
「おーい森林王サマ。俺に攻撃が当たらないことでいっぱいいっぱいになるなよ〜。お前が耳を傾けるべきは俺じゃなくてアレルの声だからな」
フォラスタの思考を読み当てては、そちらへの思考ではなくアレルの話を聞いてやれとリゼルは言う。するとフォラスタは僅かに視線をアレルの方へ向けた。
「聞いてやると言っている」
「言ってないが?」
「言っているだろう? この男が倒れるまではな」
そう言って視線をリゼルの方に戻した。本当に話を聞く気があるのだろうか? リゼルは疑いと呆れの目を向ける。が、フォラスタはアレルの言葉に反応し、言葉を返した。
「フォラスタ様! 巫女は僕が必ず見つけます! 国のみんなで見つけます! だから彼女を返してあげてください! 旅人を巫女にするのはやめてください!」
「貴様一人で探すというのか? 国を出た巫女を」
「僕一人じゃありません。国のみんなもきっと協力してくれます! だから!」
「国の者全員で探したとして巫女が見つかる保証はどこにある。我はいつまで見つかるか分からない巫女を待てばいい。その前に国が滅んだらどうする?」
「それは......」
至極当然の疑問ながら嫌なところを突いてくるな。と会話に耳を傾けながらリゼルは思った。だがフォラスタの疑念は正しい。確実性のない希望論にそう簡単に国の運命は委ねられない。委ねた結果国が滅んでしまっては意味が無いからだ。
(とはいえ、頭ごなしに否定するのもどうかと思うが......いやまあ、正直俺も反論するんだったら森林王と同じこと言うだろうけど)
リゼルはあくまでレシアが関わっているからアレルの協力をしているだけであり、レシアが居なければ国の事情は無視していたという自覚がある。故にリゼルはどちらの言い分に対しても首は動かさなかった。
(というか俺は俺だな。これ何とかしないとな......)
自身を襲う植物達。リゼルの意識はこれらに対する対処の方が優先だった。森林王の苛立ちも不快感も見てわかるほど表情に出てはいるが、アレルの話を聞くのも、リゼルへの対処も冷静である。
植物の刃はただリゼルを狙うのではなく、彼がレシアのいる方へ行けないよう動きを制限していた。フォラスタの巫女発言があるとはいえ、リゼルからすれば囚われているレシアは人質そのものである。彼女がフォラスタに捕まっている限り、リゼルはアレルとの決まりを抜きにしてもフォラスタ相手に反撃に出ることは出来なかった。
(でも、このままじゃジリ貧だしな......よし、無理やり行くか!)
リゼルが全速力で走り出す。降り注がれる植物の刃を最小限の動きと最大限の防御で捌きながら走る。負った傷を即時治癒しながら強引にレシアのいる方へ走り抜けたリゼルは、勢いをそのままにレシアの囚われている球体へ向かって飛び上がり、フォラスタの顔先へと飛び込む。
「あまり図に乗るなよ」
「お前もな」
「ッ! なんだと!?」
リゼルがレシアへ近づいた事でフォラスタが更に植物を増やし、放つ。が、リゼルへ到達するよりも更に早く、フォラスタの胴体に氷塊が突き刺さる。
(この氷塊、どこから......!?)
目の前の青年は自身に対し背を向けている、フォラスタを見てもいない、放たれた氷塊の魔法も既にリゼルの居ない場所をから発動している。起きている全てが理解不能の事象にフォラスタの思考が僅かに乱れる。
動揺から生まれた一瞬の隙。リゼルはその瞬間を見逃さない。
「全く、濃すぎるんだよ。ここは!」
リゼルは風に吹かれたような勢いで振り返る。そして、掌から灼熱の炎を放つ。
「後、レシアは返してもらうわ」
呟くと同時にリゼルは再び視線を向けず、背後のレシアが囚われた球体へ炎の魔法を放つ。レシアへの被害を考慮し、球体そのものは破壊せず釣り上げる根のみを破壊した。落下時も風の魔法を落下地点で発動させ、衝撃を受け止めた。
「とりあえず、よし」
拳を握り軽くガッツポーズを決める。状況を見て駆け寄ってきたアレルにも大丈夫と伝える。ついでに攻撃したと言う決まりを破ったことへの申し訳程度の謝罪と言い訳。
「悪いなアレル、普通にやったわ。でもあっちが穏便に済ませる気ないからしゃーないだろ? 俺だってずっと殴られてやるほど余裕ないし」
「い、いえ、そこは大丈夫ですが......」
「お前が大丈夫言うならいいか」
責任転嫁気味に言うリゼルにアレルは「あはは......」と苦笑しながら答えていると、突然何かに気づいたように、勢いよく振り向いた。その視線の先はリゼル達が壊してきた樹木の壁の穴。何があるのかとリゼルも視線を追うが、理解するよりも先にアレルは走り出した。
「すみませんリゼルさん! 僕行きます! フォラスタ様のことお願いします!」
「いやだが? っておーい」
リゼルの声が届くよりも早くアレルは森の奥へ消えてしまった。まあリゼルの当初の目的であるレシアの救出は上手く行ったので、国の事は彼に任せていいだろう。と納得し頷く。後は彼女を閉じ込めるこの球体を破壊し助け出せば、こちらは全て解決。だが、リゼルはすぐには行動に移さなかった。この球体がフォラスタの作ったものため簡単に破壊できるのか、レシアへの被害はないのかと言う考慮をしていたのもそうだが、それ以上に、そんな余裕が与えられなかった。
「そう簡単には行かんよな」
リゼルは視線を上げて呟く。
リゼルの放った炎はフォラスタの全身を覆うほどの範囲と威力を持った上級魔法だ。操作が鈍り到達が遅れた植物達もまとめて燃やすその火力は、リゼルがレシアを助け出した後の数秒間も燃え続けていた。しかし、フォラスタを倒したと言う手応えは全くない。それどころか、炎は光を放ち始め、やがて、光に飲み込まれるように炎は完全に消え、その中から焦げた後が全くない無傷の肌白の男が現れた。
「我に刃向かう旅人よ、我は決めた」
静かに呟きながらフォラスタは手をかざす。その表情はどこか吹っ切れたようで。
「巫女の事は、貴様を屠ってから考えると」
「元からそうだったろっ!」
言い終えると同時にフォラスタは再び植物の刃を飛ばす。リゼルもまた相殺するように炎の上級魔法を放つ。植物ならば炎に弱いだろうと安直ながら妥当な判断、それ自体は間違っていない。しかし、相手が森林の国の王相手にそれは二度通じることはない。リゼルの魔法が当たると、植物の刃は光を放ち、その炎を飲み込んだ。
(魔力が、吸収された?)
目の前で起きた現象に疑問を持ちながらも、リゼルは冷静に向き直る。目を凝らして植物の刃に対処しようと構えた。その時、地面から植物が生え、リゼルの脚を貫いた。
「ちっ!」
「リゼル!」
(この国全体があいつの支配圏内なら地面からの来るのもあるのか! 甘かった......)
そのまま拘束され押し倒される。そして逃げる間もなく、気休め程度に張った氷の盾も容易に砕いてリゼルへと突き刺さる。だけならまだいい。
(くそっ! フォラスタの操る植物、魔法だけじゃなくて俺からも直接魔力を吸収できんのか!)
刺された傷口から、拘束される服の上から魔力が奪われていく。幸いというべきか、リゼルの魔力量は膨大であるため数日程度なら吸収されてもそこを尽きる事はない。だが問題はそこではなかった。
「マジかぁ......」
呆れたように呟いたリゼルの視線の先では、一番最初に放った光を準備していた。その光はどう見ても初撃より巨大で強力だった。リゼルは咄嗟に魔力で自身の体を覆うが、それすらも植物によって吸収されてしまう。防御用の魔法は貼ると同時に破壊され壁にならない。そもそもこの程度の防御で防げる気もしないが。
「くそかよ......」
吐き捨てるように呟いたリゼルは諦めたかのように目を瞑る。それが降伏の意なのかはフォラスタにはわからない。わかる必要もない。
「終わりだ。勇敢で愚かな旅人よ」
準備を終えたフォラスタは植物から巨大な光線を放った。斜線にある植物を一瞬にして焼き尽くし灰と化すその光線は瞬く間にリゼルへと到達した。
「リゼル!!!」




