森林王フォラスタ。
「客人だ。招かれざるな」
フォラスタが視線を向けた先では、他者の侵入を遮るよう張り巡らされた樹木の壁に、ヒビが入っていた。
「どうも、招かれざる客人でーす」
視線を追うようにレシアがそちらを見た瞬間、その壁は砕け散り、馬鹿らしい台詞と発言に似合わない鋭い瞳で睨みながら旅人の青年と、案内役の少年が現れた。
「何の用だ?」
「それ、聞かなきゃなわかんないのか? 巫女が居なくなって腐ったのは国だけじゃなくて、王様の脳みそもなのか?」
派手に現れた旅人に動ずることなく睨み返すフォラスタ。リゼルもまた、相手の異形的な姿を一切気にせず、答えを返す。それ以上の問答はなく、ただお互いに睨み合ったまま、静かに火花を散らしていた。
「はぁ......ふぅ......」
深く息を吐き、深く息を吸う。心と体を整え再び目の前の異形を睨みながらリゼルは静かに言い放つ。
「レシアを返せ」
静かに、端的に、要件を伝えるリゼル。聞くまでもなくわかっていた彼の怒りを耳に通しつつ、フォラスタは案内役の方へ視線を向けた。
「......アレル、何故この男をここに通した」
「フォラスタ様、確かにこの国の現状は芳しくありません。ですが、国へ来た旅人を連れ去り、巫女にするのはフォラスタ様の意向であれど納得できません。いえ、我々が納得したとしても、納得できないものが出てきます。少なくとも、旅人達は納得しないでしょう」
「......現に俺は納得してないからな」
「ですので、他の方法を考えましょう!」
アレルの真っ直ぐな意思を聞いたフォラスタは、僅かにため息を吐いた。そして、アレルに定めるように蕾のような巨大な植物を作り出す。その植物は、ゆっくりと芽を開き、光を生み出す。
「アレル、貴様は我のやり方が納得できないと言ったな」
「はい」
「我も同じだ。我も貴様の言い分を納得はできない」
言い終えると同時に、その光は放たれた。
「ちっ!」
「リゼル!」
反応が遅れたアレルを押し退けるように入ったリゼルに光が直撃する。光は弾のように丸く、彼らを易々と呑み込むほどの大きさがあった。焼けるような音と焦げたような匂いが、その様子を見ていたレシアと、庇われたアレルに嫌な予感をさせる。だが、その予感は、杞憂だったらしい。
「意見が違えたら即攻撃とか......治安悪いなぁ。教えはどうなってんだよ。教えは。ったく.....あと煙い」
煙幕の中から愚痴るような声が聞こえた。と同時に渦巻くような風が煙幕を晴らし、光に呑まれたはずの青年が咳き込みながら現れる。
「リゼル!」
「リゼルさん!」
無事だった安堵に声を上げた二人の横で、フォラスタが「貴様何者だ?」睨みながらに呟いた。国王の攻撃をほぼ無傷で防いだ謎も不愉快だが、それ以上に、青年から感じるそれが、フォラスタの不愉快さを募らせていく。
「貴様の、その魔力量はなんだ? 貴様は一体、何者だ!」
「お前も言っただろ? 招かれざる客だよ。自称でいいならただの旅人な」
煽るように答えるリゼル。その返答が、やはり納得いかないようで、フォラスタは低い声で「そうか」と呟いた後、触手のようにうねりながら先端が槍のように尖った植物を向ける。
「賢いなぁ......」
「リゼルさん!」
「わかってるよ。ある程度はな」
フォラスタの敵意に合わせて構えるリゼルに、アレルが声をかける。
国の事情や相手が国の王と言うだけあって話が穏やかに進まないのは二人も想定していた。そのため、フォラスタが攻撃をしてきても、やり返さない。と事前に決めていた。リゼルとしてもレシアを無事に返してもらうために事を荒らげたくはないと考えている。また、幻の国の王の力が未知数と言う不安要素もあったのも確かだ。
「舐められたものだ」
二人の考えが想像できたらしいフォラスタは、その植物をリゼルへ放つ。リゼルは素早い動きで植物の攻撃を避ける。その動きは、並の人間が出せるような速さではなかった。だが、決して目で追えない速さではない。むしろ、どこか曖昧さを残すようなぎこちない動きで、フォラスタはすぐに動きを見切った。
「痛っ! 〜〜〜っ!」
植物の刃がリゼルの腕に突き刺さる。と同時に青年の体を樹木へと叩きつける。痛みに悶えることも気にせず、フォラスタは植物を増やしてリゼルへと放った。
「くそっ」
咄嗟に氷の壁を作り出すリゼルだが、鋭く尖った植物の刃はその防御を容易に砕きリゼルの体を貫く。
「かはっ!」
「リゼル!!」
植物から伝わる青年の血と熱が人体を刺したことを実感させる。加えて吐血し、力なく項垂れる様子からフォラスタはリゼルを倒したと確信し、ゴミを捨てるかのように青年の体を投げ捨てた。
「リゼルさん!」
「安心しろ。我とて叛逆意志を持っていたとはいえ旅人を殺す気はない。急いで治療をすれば助かる」
倒れたリゼルに駆け寄り、持っていた布で必死に傷口を抑えるアレルに、フォラスタは殺してないことを伝える。フォラスタの言う通り、リゼルの体は貫かれてこそいるものの臓器は避けており、すぐにでも治療すれば助かる傷だった。だが医療に詳しくないアレルはその言葉が真実かは分からない。
「おい小娘、何を暴れている」
「......ここから出るため」
「悪いが、貴様をここから出すわけには行かない」
「どうして? 私を巫女にするのに、なんでリゼルを傷つけたの?」
「我に刃向かったからだ。貴様も暴れ続けるのならば少しばかり寝てもらうことになるぞ」
薄緑色の球体を内から叩いて暴れるレシアに、視線はアレルと倒れたリゼルに向けたまま、これも国のためだと、フォラスタは淡々と脅すように答えた。
「アレル、貴様がその旅人に何を期待していたかは知らないが、現実はこれだ。その旅人は貴様の期待応えられる程の男ではなかったのだ」
「フォラスタ様......」
「その旅人と同じようになりたくなければ、我には歯向かわない事だ」
国を守る森林王はその決定に抗うのであれば国の住人だろうと容赦はしないと、青年の血が滴る植物の刃を向けながらフォラスタは脅す。
フォラスタの意志とそれに相応しいほどの見せしめを突きつけられたアレルは絶望した。短い人生と森林の国でしか得てない浅い知識ながらその脳に、決して刃向かっては行けない相手の存在とそれに対する恐怖が刻まれた。
話の通じない王様ってめんどくさいよね。その癖強い。




