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国の事情。

 そこは国の中心部。廃れかけた森林の国で唯一、最盛期と同じ緑を放つ空間。そう、森林の王の居る場所である。そこに、一人の旅人が眠っていた。


「......ん」


 目を覚ましたレシアは、重たい眉を擦りながら辺りを見渡す。眠りにつく前に見た宿の部屋とは違った明るい緑一帯の景色が目に映る。同時に自身が薄緑色の球体に閉じ込められていることにも気づく。


「......ここ、どこ?」

「目を覚ましたか、巫女の旅人よ」


 謎の男性の声がレシアの耳に届き、寝ぼけていた意識が一瞬に覚醒する。静かに体を起こしながらその声の方へ振り返るレシア。するとそこには、白色の男がいた。白人のような白ではなく、まるで絵の具で塗られたかのような全身が真っ白な男。何より驚くべきは、その下半身が大樹のように根を張っていた事だった。謎の男に声をかけられたことや、知らぬ間に知らぬ場所に連れ去られた今の状況にすら動揺の一つも見せなかったレシアがその見た目に僅かに目を見開いた。


「あなたは?」

「我の名はフォラスタ。森林の国の王である」

「あなたが......アレルの言ってた王様......」

「如何にも」


 得体の知れない存在と思ったより話が通じることにレシアは驚くことなく、普通に、いつものように話し掛ける。


「ここはどこ? 今は何時? 私宿で寝てたよね? 荷物は? あ、あとリゼルは? リゼルは今どうしてるの? それになんであなたは体が埋まってるの? 大丈夫?」

「えぇい! 一気に喋るな! というかもう少し焦ろ! 何を当たり前のように会話をしている!」

「え?」


 レシアの質問攻めにフォラスタはやかましいと、怒鳴った。国の王らしからず、本来目の前の少女が見せるべき動揺を見せていた。当のレシアは何を怒っているのか、何に怒られたのかわからず間の抜けた声を漏らして首を傾げる。その様子にフォラスタは軽く咳払いをして冷静にやり直す。


「我の名はフォラスタ。森林の国の王である」

「うん、聞いたよ」

「やかましい! 話が進められないだろう! 少し黙っておれ」


 一々口を挟むレシアを黙らせフォラスタはようやく続きを話し始めた。始められた。


「この国では代々、我を奉仕する巫女がいる」

「......」

「だが、数年前今代の巫女候補が国を出てしまって以降、その巫女候補は帰ってきていない」

「......」


 喋るなと叱責された事も含め、レシアはフォラスタの話を静かに聞いていた。まるで話に聞き入るように。


「この国の現状は見ただろう? 我は巫女の奉仕によってこの国を維持しているが、その巫女がいなくなった事で国は衰退してしまったのだ」

「......」

「そこでだ。帰ってくるか分からない巫女候補を待つのではなく、小娘、貴様を我の巫女にすることに決めた」

「......」

「何か感想はないのか?」

「......もうしゃべっていいの?」

「もう好きにしろ」


 レシアの一言にフォラスタは呆れたように溜め息を漏らして言った。何を疲れているのかわからないまま、発言を解禁されたレシアは自身が思うがままに話した。


「この国の事はわかった。できれば助けになってあげたい」

「話が早いな、ならば......」

「でも、ごめんなさい王様。私はこの国にずっといる巫女にはなれない」


 フォラスタの言葉を遮り、その期待を裏切り、レシアは言う。驚いたような見開いた瞳でも、間の抜けた声でもなく、芯の通った真っ直ぐな瞳と声を向けて言う。


「私は旅人だから。旅を続けなきゃいけない」


 レシア・フォーノは旅人である。多くの国や街を周り思い出として歩き続ける旅人である。旅人である彼女に、どこかの国に留まり続けることは出来ない。


「小娘、貴様の言い分はわかった。だが、それは関係ない」


 国を守る王に一旅人の事情など聞き入れることはない。否、聞き入れるほどの余裕が既になくなっていた。森林の国の緑と同じように。


「勘違いするな小娘。我が貴様にこの国の事を話したのは協力してもらうためではない。貴様に国の現状と自身の価値を理解させるためだ。拒否権など元より存在しない。というか拒否権があるなら貴様を宿から攫い出してない」


 レシアの意見を、感情を、国の未来とその決定には関係ないとフォラスタは否定した。


「そもそも貴様が国を助けたいと言ったのだろう? 巫女になる以外に貴様が国を救う術などあるのか? 貴様のような無力な小娘如きに!」


 フォラスタは断言する。レシアにはこの国は救えないと。巫女になる以外に方法はないと。ある種の思考停止にも見えるその決断は国を維持する者としての余裕の無さの現れなのかもしれない。

 それでも、レシアは諦めず、自らに出来ることを主張し続ける。


「探す。この国の巫女を」

「無理だ。貴様は巫女になる以外道はない」

「巫女の話、聞いたことある。少し前に聞いた。だから......」

「悪いが貴様の意見は聞いている暇はない」


 フォラスタはまたもやレシアの話を遮り否定する。だが、それは今までのような勝手な決め付けではない。

 フォラスタは鬱陶しそうに顔を歪ませ森の中心(この場)に向かってきている者たちへ視線を向けた。


「客人だ。招かれざるな」


-------------------------


「痛い!」


 少し前、レシアと同じようにアレルから国の事情を聞いたリゼルは、話をした少年を叩いた。ハリセンで。


「とりあえず、お前に対してはこれで勘弁してやる」


話をしてもらった側のリゼルが偉そうに言う。対するアレルも叩かれた痛みこそ口に出したものの、文句を言わず、むしろ申し訳なさそうに頭を下げた。そもそも、これは話をする前に二人が決めていた事なのでアレルが文句を言うことは出来ないが。


「俺はあくまで旅人で、あくまでも部外者だ。俺がお前に乗ってたのもレシアを助けるためで、この国がどうなろうと知ったこっちゃないんだ」

「はい......」


 当然のこととはいえ、残酷にもリゼルははっきりと物申す。

 リゼルはレシアとあくまで森林の国の問題に巻き込まれた側の人間。気まぐれな旅人とはいえ、迷惑被る理由などないと、だから事情を話した後は巻き込んだ分で一回叩いたし、根本的な解決まで付き合うつもりもなかった。


「この国のことなんか知らない」


 けれどそれは、ただ突き放すだけの台詞ではない。


「知らない。だから、この国のことはお前がどうにかしろ。お前が、何とかしろ」


 彼とこの国への期待と信頼を込めた面倒くさがり(エール)だった。


「はい! 必ず!」


 リゼルの言葉の意味を正しく受け取ったアレルは強く頷き、旅人を連れ、森の奥へと走って行った。

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