それはそれとして、観光は楽しい。
タイトル思いつかなかったんで適当に。
流石幻の国。と言うべきか、見た目こそ腐り廃れている部分が目立つこともあったが、不景気と言う割には旅人を迎え入れるだけの盛況も相応にあった。
「この国はそこまで広い国ではないのですが、代わりに目的地までの移動のほとんどがこちらを使うことになっております」
そう言って案内役のアレルが紹介したのは木製のトロッコだった。現代の電車と比べれば見劣りはするかもしれないが、森に囲われたこの国ではむしろ味があるのかもしれない。と、リゼルは口には出さず乗った。その足取りはどこか興奮気味で。
「結構いいんじゃないか?」
「そうだね。風が気持ちいい」
「レシア、あそこパン屋あるよ。あっちには装飾店だって。時間あったら行ってみないか? アレル、国のおすすめとかあるか?」
「......リゼル、もしかして楽しんでる?」
「そりゃ、まあ......幻の国だし? 知的好奇心を刺激される部分はあるよ?」
「そう。良かった」
それらしい言い訳を述べながらも、表面上より楽しんでいることを当てられたリゼルは誤魔化すように髪を掻く。とはいえリゼル自身も、自国にいたままではこの楽しさは味わえなかっただろうと自覚する部分もあり、幻の国の、彼女との旅を心から楽しみ、その感情を受け入れていた。
「すみません、この『合法やみつき緑のゼリー』4箱ください」
「流石にそんなに要らないと思う」
「やみつきになる味なんよ」
「大丈夫?」
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「おいアレル、ここはなんだ?」
廃れた樹木の多い森林の国で、確かに自然の緑を保っている場所があった。ちょうど国の中心辺りだろうか、僅かに感じるものを覚えたリゼルが何があるかと問う。
「そこから先は国主様が眠る場所です」
「国主?」
「はい。国主、フォラスタ様です」
「国主フォラスタ。国の名前は?」
「フォレストです」
「森林の国フォレスト。国主フォラスタ......ダジャレかよ」
言いながら笑うリゼルに恥ずかしそうに目を伏せるアレル。そして二人が何を言っているのかわからないレシアが首を傾げた。
「それで? 国主様は今寝てるって言ってたけど、それもやっぱ不景気だからか?」
「えぇ、まあ......はい」
アレルは歯切れの悪そうに言いながら頷き肯定する。つまり、この国の復旧には国主様を起こすだけのことをする必要があるということ。とはいえそれは旅人である自分達にどうこうできる話でもない。アレルが言いにくそうだったのも同じ理由だ。
リゼルはレシアが何か言い出す前に「大変だろうけど、頑張れよ」と手早く切り上げ、観光を続けようとした......した。しかし、リゼルの発言よりも先に好奇心か正義感か本人の感情がより早く動いたレシアが国主の眠る樹木の奥へと入ろうとしていた。門番らしき狼の威嚇で二人はレシアに気づく。
「旅人様、それ以上は......」
「レシア、ワンコと戯れてないで行くよ」
「リゼル、この狼可愛い」
「いや、知らないよ。ほら、戻っておいで」
吼えられたかと思えばいつの間にか手懐けるかのように顎の下を撫でるレシア。狼達も心地良さそうな声で鳴いているから満更でもないのか。何をしているんだ、とリゼルは呆れ気味にため息をついた。
「彼女なら......」
狼と戯れるレシアという絵になる様子に若干目を奪われるも、リゼルは冷静を装いながら彼女に戻ってくるよう促した。隣にいる、少年の奇妙な発言は確かに耳に届いて。
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パン屋や装飾店や紹介された観光名所を日が暮れるまで周り、不安や不満を忘れるほど楽しんだリゼルとレシアは、アレルに紹介された宿を利用していた。
「幻の国で外界との交流がないからか、それとも不景気だからか知らんけど、高くね?」
「国によっては宿代が高いところもあるよ」
「しょうがないって言うべきなのか? 紹介されたところだから尚更納得いかない部分もあるんだけど」
「じゃあ、今から変える?」
「それはそれで、なんだよなぁ......」
「なら、しょうがないよ」
「しょうがないかぁ......」
愚痴を漏らしながらリゼルはベットの上で寝っ転がった。他の店の商品もこの宿と同じく少々値段を張るものが多く、観光自体は楽しめていたが、二人の購入品はそこまで多くない。やや不満はあるがリゼルは、不景気の弊害がここに出たのだと納得した。
「ところでレシアさん、なんで俺の部屋に来てるんですか? まあいいですけど」
「リゼルと話したいことがあって......」
「直球だね。もう少し揺さぶってもいいと思うよ」
「? どういうこと?」
「なんでもないです。本題どうぞ」
意味が伝わらず残念がりながら、リゼルはレシアに話を進めるよう促す。
「フランワさんのことだけど......」
真剣な表情で話し始めたのは国に来る途中ではぐれた女性の事。幻の国の観光は楽しんでいたが、レシアにとってその不安要素は消えてはいなかった。
「この国出たら、またフランワさん探そう」
正義感からか優しさからか、レシアはこの広大な森の中で彼女を探そうと提案する。リゼルとしては正直無理だろうと考えているが、目の前の少女の真っ直ぐな気持ちを折ることは出来ず、渋々頷いた。
(別に何も方法が無いわけじゃないし......)
「まあ、いいか」
今後の方針の話も終えて、レシアを部屋に返した後、季節の影響を受けない幻の国で、窓から侵入した夜風と暗闇に染った森林の様子にリゼルはどこか不気味さを覚えながら眠りについた。
(何も起きなきゃいいんだけどな......)
彼の願いも虚しく、翌日事件は起きた。




