幻の国。
この世界には『幻の国』と言われる国がいくつか存在する。どこにあるのか観測できず、招かれた者のみが入国を許される不思議な国。そのひとつとされているのが今回、リゼル達が訪れた「森林の国フォレスト」である。
「幻の国......いやまあ、旅を始めた身としては生きてるうちに一度は来てみたいと思ってたんだが、まさかこんなに早く招かれるとはな......」
珍しく感嘆の声を漏らすリゼル。彼の感想にレシアもまた声を弾ませながら応えた。
「そうだね。来れて良かった。良かったけど......」
声色からも彼女が興奮し、楽しそうにしているのがわかった。だが、その瞳はどこか残念そうにしているようにも見えた。理由は察しがつく。ついてもしょうがないものだろう。幻と謳われたその国は......。
「なんか、荒んでんな」
科学の発展した現代とは世界が違うのでは、と思うほど辺り一面が自然に覆われた、その名に相応しい森林の国。しかし国の木々は所々は、まるで水も日の光も与えられず放置された植物のように腐り、荒んでいた。
「申し訳ございません。只今、この国は、その、不景気でして......」
「幻の国に不景気とかあるのか?」
「えぇ、申し訳ございません......」
国を代表して深々と謝罪するのは、国に来たリゼル達を真っ先に出迎えた国長の息子、アレル。レシアと同じくらい身長に薄緑色の髪の少年。背中には弓を背負っている。
アレルは国長の息子として客人の案内役を頼まれているらしく、招かれた客としてリゼル達は彼の後ろを歩きながら幻の国を観光していた。
「幻の国に来れたのは良いけど、不景気といい、迷子といい、タイミングが悪かったな」
「そうだね。フランワさん、大丈夫かな?」
「大丈夫かどうかはわからないけど、あのまま森に居たり、探しに戻ったりしたら俺らも大丈夫じゃなかったと思うよ」
「......うん」
リゼル達が森林の国にやってきたのはフランワの捜索をしている途中だった。幻の国に招かれるという出来事は人生で一度あればいい程の豪運。けれどレシアはこの国に招かれた当初、その豪運を捨ててでもフランワの捜索を優先しようとし、リゼルによって止められた。
「でもやっぱり......」
「レシア、気持ちはわかるけど、それで戻ってまた迷子になったら本末転倒だよ。それなら、幻の国とはいえ、俺らが招かれたようにフランワさんが招かれる事を信じた方がいい。それに、数日この国で休んで出てから探すのも全然ありだからね。俺らだって散々森の中歩いて疲れてるわけだしさ」
「うん......わかった......」
リゼルの言い分を聞き、不満を残しながらも納得したよう頷くレシア。口にしたように彼女の気持ち自体はリゼルも理解してはいる。理解はしているが安全性などを考えた場合リゼルの判断の方が妥当だろう。
また、レシアの不安を募らせないため口にしてはいないが、あのまま森に残っていたとしても森を抜ける道そのものがわからないため、仮にフランワを見つけたとしても森を抜けられる保証はないのだ。
「......はぁ」
「リゼル、どうしたの?」
「いや、なんでもない。ちょっとめんどくさいなってだけ」
「うん? 大丈夫なの?」
「とりあえず今は大丈夫だと思う」
「そう、なら良かった」
大丈夫だとレシアを困らせないよう言葉を口にしながら、当の本人は時折軽く頭を振っては、眉をしかめため息を吐き続けた。
(少し、濃すぎるな......)
それぞれが不安と不満を抱えながら幻の国での奇妙で傍迷惑な冒険が始まるのだった。




