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魔法の練習。

 リゼルがトリオ達と遭遇する少し前、ソロンの家の前でパンの紙袋を持って彷徨く不審な少女が一人いた。


(大丈夫大丈夫。いつも通りやればいいだけですわ......あれ? いつも通りって普通に置いて帰るだけじゃありませんでしたっけ? あれ? じゃあ別にインターホン押す必要ないですわよね? でも、ソロンに正直に言った方がいいって......いやなんで、この私があの男の意見を聞く必要がありますの? いやでも......)

「何してるの?」

「ひゃい!」


 不意に声をかけられオズは上擦った声を出しながら飛び上がる。恐る恐る振り返った先には長い白髪の少女がいた。事前にリゼルと会っていたこともあり、彼女が出会った旅人なのは思い出すまでもなかった。


「あなた、この前の旅人......」

「あなた、ソロンの友達?」

「友達!? いえ友達では......」

「違うの?」

「え? いやその、友達でもいいのかしら?」

「それ、パンが入ってるの?」

「これ? そうですわよ。でもあなたのでは......」

「ソロン、友達がパン届けに来たって」

「ちょっ、ちょっと待ちなさい!」


 掴みどころなく、会話も二転三転して振り回されるオズを他所に、レシアはソロンを呼びに庭の方へ走って行った。どうぞ入ってくださいとでも言うように玄関を開けて。


「お邪魔します」


 申し訳程度の小声で言ってオズはソロンの家に入り、レシアの後を追った。庭に着くと、同級生の少年が優しく微笑んだ。


「オズさん! こんにちは!」

「あ、あらソロン、偶然ね」

「ここソロンの家だよ」

「......」


 沈黙。レシアの鋭い指摘にオズは失敗したと黙ってしまった。誤魔化すように咳払いをし「何をしてますの?」と二人に問う。


「魔法の練習です。レシアさんに魔法を教えて欲しいと言われまして」

「そう、確かあなた魔法が使えない旅人だったわね」

「うん。だからソロンに魔法を教えてもらってる」

「今聞いたわ」


 数メートル先に立てられた瓶に杖を向け詠唱を唱えるその光景としては魔法の指導にも見えなくはない。だが、ソロンもレシアも杖の先から魔法が出ることはないため、魔法の指導とは言い難いものだった。


(これ、私はどうすればいいんですの?)


 二人の光景を見ながらオズは思った。届けに来たパンは渡したのでもう用事はない。がこのまま帰るのは何か違うと思った


「うーん、やり方はあってるはずなんだけどなぁ......何がダメなんだろう......」

「魔法って難しいね」


 何度やっても魔法は出ない。何故だろうと首を傾げる同級生の姿は何度も見てきた。いつもなら、周りに同調して彼を馬鹿にしていただろう。僅かに見えた不安そうな表情が、隣の少女の心配そうな表情がそう思うことを許さなかった。


『慣れたフリしても実際は傷ついてるってのが多いからな』

『もう少し自分の感情を正直に口にした方がいいぜ』


 オズはリゼルの言葉を思い出す。何故今その言葉を思い出したかなど、考えるまでもない。だからこそ詰まる。どう言えばいいのか、酷い態度を取った相手にどう接すればいいのか。オズにはわからなかった。


「ねぇ」


 白髪の少女が目の前に迫り、オズの顔を覗き込んだ。


「な、なんですの?」


 突然声をかけられたオズはたじたじになりながら、なんなのかと聞き返す。


「あなたも魔法使いなんだよね?」

「え、えぇ......そうですわよ」

「じゃあ、あなたも魔法教えて。私に。()()()()()()()


 本当になんなのだろう。目の前の少女は何を思ってそんなことを頼んだのだろう。オズにはレシアの考えが分からなかった。


「別に私が教えなくても......」


 そうじゃない。

 オズは途中まで出かけた言葉を飲み込む。レシアの目的が何かは分からない。けれどここで彼女の提案を無視してはそれこそ終わりだ。これはきっかけ。今までと何かを変えるきっかけだ。オズはそう思い口を開いた。


「わかったわ。私が魔法について教えてあげるわ!」


 オズは彼らに魔法を教えることを了承した。偉そうな態度は変わらないが、それは彼女の魅力だろう。


------------------------


 オズも加わえて魔法の練習をしているが、一向に上手くいく気配はない。何が原因で魔法ができないのか全く分からない。時間だけが一方的に過ぎていく状況にオズは心が折れそうになっていた。


「もう一回やってみるよ」


 そう言ってソロンは杖を構え呪文を唱え始めた。教科書に書かれた手本通りの手順で魔法を発動しようとする。諦めず何度も挑戦しようとするソロンの姿を眩しく思うと同時に、オズは今回もまた失敗に終わるのだろうと思ってしまった。今でこそ一般化された技術である魔法だが、出来ない原因がわからないまま出来るようになるほど簡単ではない。そのことをオズはよくわかっていた。だが今回だけは違った。


 呪文を唱えて杖を振った時、杖先から魔力が溢れ小さな火の玉が飛び出した。


「あ」

「わ」

「え、ええっ!?」


 発動したソロン本人もそれを見ていたレシアとオズも、三者全員が驚き声を上げた。何故急に魔法が出るようになったのかわからない。確かめるようにソロンがもう一度呪文を唱え杖を振るうと今度も確かに、水の球体が放たれた。


「えぇ!?」

「な、なんでですの?!」

「良かったねソロン」


 素直に喜ぶ一人を除いてソロンとオズは理解できないと再び声を上げた。今まで出来なかったはずの魔法が突然出来るようになった。良かったと言えば良かったが、それはそれで問題である。原因がわからないままではいつまた魔法が使えなくなるかわからないからだ。

 どうにか魔法が使えなかった理由がわからないかとソロン達が考えていると、空から一つの影が降りてきた。


「一件落着だな。ちゃんちゃん」

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