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別行動の彼 1

 翌日、リゼルは教科書に載っていた魔法を手本としてレシアに一通り見せた後、調べものがあると言ってソロンの家を後にした。


「さて、行くか......」


 リゼルが向かったのは、先日ソロンが呪子と呼ばれた商店街通り。例の件で顔を覚えられてか、ヒソヒソと話す住人の陰口と視線がリゼルに刺さる。当の本人はさして気にしてないが。


「そもそも目的が違うしな」


 呟きながら商店街を抜けたその先で、リゼルは紙袋を抱えた一人の少女を見つける。先日、ソロンとレシアを呪子や人以下と罵った青い髪の少女オズ。


「よう、思ったより早く見つかったな」

「っ!? だ、だれ? 誰ですの?」


 不意に声をかけられた事に驚き杖を構えながら振り返るオズ。女学生として向ける当然の警戒を気にもとめず、リゼルは話しかける。


「先日はどうも。今日はちょっと、あんたに用があってきたんだ。時間あるか?」

「あ、あなた......誰ですの?」

「は?」


 まるで知り合いかのように声をかけたリゼルだったが、オズの方は彼を覚えておらず、ただ不審な旅人が少女に声をかけるという酷い絵面になってしまった。


「先日とはいつの話ですの? 人違いじゃありません?」

「人違いじゃねぇよ。オズだっけ? お前に用があんだよ」

「私を、貴族の娘オズだとわかった上で言ってますの? も、もし最近流行りの人攫い!? でしたらこれ以上近づかないで頂けると助かりますわ!」

「......だる」

「だるとはなんですの? 何かの合図? 私に何をする気ですの!?」


 オズの想定外の対応にリゼルは溜め息をついた。ただ忘れているだけでなく、ここまで警戒心が高いものとは.....と、顎に手を当て考える。

 予定では先日の件も含めてもっとすんなり話が進むとリゼルは考えていた。しかし、オズが先日の事を忘れているうえ、そこから来る警戒心でそう上手くはいかない。ここは一度戻って出直すか、なんならこの件に関しては一切無視でもいいのではないか? とすら彼の面倒くさがりな性格が思わせる。

 どうするべきかと首を傾げて悩んでいたその時、ふとオズの持っていた紙袋が視界に入った。


「その紙袋。中身はパンか?」

「なんですの急に......えぇ、中はパンですわよ。あ、ごめんなさい。これは別で渡す相手が居ますのであなたに差し上げることはできませんわ」


 リゼルが乞食にでも見えたのか、オズは紙袋をコート内側に隠すように体の向きを変える。その行動を見て「別に要らねぇよ」と言い放つと同時に、リゼルは自分の憶測が当たっていた事を確信する。


「オズとか言ったっけ? お前ツンデレなのか知んないけど、もう少し自分の感情を正直に口にした方がいいぜ」

「なんのことですの?」

「慣れたフリしても実際は傷ついてるってのが多いからな。ソロンとかもそうだと思うぜ」

「え? なんでソロンのこと知って......あ、あなた! この前の!」


 用は済んだとでも言うように少女の横を通り過ぎながら呟くリゼル。彼の口から出る同級生の名前を聞いて、オズはようやくリゼルの事を思い出したのだった。


「あなたは、あの魔法を使えない旅人と一緒にいた口の悪い男子ですわね!」

「......まあいい。今はその認識で結構だ」


 オズの認識に少しモヤッと来る部分を感じつつも指摘するのは面倒だとリゼルは話を続ける。


「で、何か用ですの? まさか、本当に人攫いということはありませんよね?」

「いや、お前に聞きたいことがあってな」

「聞きたいこと? 攫いやすそうな同級生を教えろとかですの?」

「一旦人攫いから離れろ。ソロンの事だソロンの」

「ソロン?」


 もはやネタかと思うほど人攫いの可能性を危惧するオズに対し、リゼルは話を円滑に進めようとソロンの名前を出した。


「簡潔に聞く。ここ一ヶ月の間でソロンと、その周りで何か変わった奴はいないか?」

「変わった人?」

「例えば、ソロンが魔法が使えなくなったことで都合が良くなったやつとか、得するやつとか、調子乗り出したやつとか」

「質問の意図はよく分からないですけど......そうですわね、ソロンは優秀な魔法使いでしたわ。同学年ではいつも1番だったので、彼が魔法を使えなくなったことで得をしたり、喜ぶ人と言えば彼の才能に劣り妬んでいた他の人達くらいだと思いますわ」

「才能に嫉妬ね......どれくらいいるかとかわかるか?」

「そこまではわかりませんわ。ソロンは誰にでも優しいかったので、誰から恨まれてるかわかりませんし、逆に彼の才能にどれだけの人が嫉妬してたかも把握出来てませんわ」

「居るには、居るんだな」


 オズの回答にリゼルは溜息を吐いた。その様子をどう捉えたのか、オズは咄嗟に訂正を入れる。


「一応言っておきますけど! 私は違いますわよ! 確かにソロンは凄いと思いますわ。でも、私も彼に負けないくらい魔法に自信はありますもの!」

「俺が言うのもあれなんだけどよ、お前、もう少しプライド捨てて素直になったどうだ?」

「本当に、あなたにはだけ言われたくありませんわ。そんな、()()()鹿()()()()()()()()()()()のあなたには」

「......」

「あなた、何者ですの? その、()鹿()()()()()は!」

「別に。ただの旅人だ。隣国出身のな」


 オズの問にリゼルは目を逸らしながら答えた。その時の彼の表情は、どこか呆れたような感じのもので。リゼルの回答を聞いたオズは「隣国?」と何か思い当たりでもあるかのようになんとも呟く。その様子から長くなると感じたリゼルは、話を戻すように再び問う。


「もう一つ聞きたいことがあるんだが、良いか?」

「質問の内容によりますわ。私が答えられる内容、答えても問題ない内容の質問でしたら答えますわ」

「......お前は、割と情報一つも安く見れるんだな。貴族のくせに意外だわ」

「もちろん、私の情報が安いとは思ってはいませんわ。ですが、あなたの言動的に、あなたはソロンの魔法が使えなくなった謎とその解決のために動いてるのでしょう? なら、私的には協力として情報を売るのも十分ありだと考えただけですわ」


 それっぽい言葉を並べをているからか、自覚がないのだろう。オズの発言は、ソロンのためなら協力する。という彼のための助力であることを、告白しているようなものだった。それを聞いたリゼルは思わず喉まで出かかった()()()言葉を飲み込み「そりゃ、どうも」と軽い感謝を返した。

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