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あってもなくても、困らない。

「あの、リゼルさん、さっきのってどういう意味ですか?」


 ある程度観光を終えたリゼル達は近くにあった公園のベンチに腰を下ろし、購入したパンを食べていた。そんな中ソロンが不安そうな表情を浮かべて問う。


「さっきの?」

「魔法はあってもなくてもどっちでもいいってやつです。どういう意味ですか?」


 先程のオズとの言い合いの中でリゼルが口にした発言にソロンは疑問、または不安を抱いていたようだ。リゼルは手に持っていたパンを飲み込み話し出す。


「母さんがさ、俺に魔法を教える時毎回言ってたんだ『魔法は便利だけど、なくて世界が困ることはない』って」

「なんでですか?」

「魔法は所詮、技術の発展途上。人の技術でできることを魔法は効率よく、楽に行えてるだけだ。魔法は便利であって必須じゃない。まあ、状況によっては必須になるかもしれないが基本はそれはない」


 リゼルが紙袋から新たにパンを取りだし、それを指していう。


「例えばこのパン。このパンだって魔法を使えば簡単に作れる。けど職人からすればパンを作ること自体に魔法は必要ない。それは食う側の俺らも同じだ。パンを食べるのに魔法は使わないだろ?」


 そう言ってリゼルはパンを口の中へ放る。見ているこちら側にもその美味しさが伝わるほど美味しく食べている。というか普通に「美味しい」と感想を漏らしている。


「これも、母さんの言葉なんだが」


 空になった紙袋を潰しゴミ箱へ投げ捨ててリゼルは話を続ける。


「魔法がなくても、人は歩くことができる」

「魔法がなくても、人は歩ける......」

「まあ例外だとか不自由な人はいるだろうし、そういう人たちが歩くための魔法って言われたらその通りだけどな」


 締めの悪さからかリゼルは情けなく苦笑する。だがそれでもソロンにはその言葉の意味は届いたらしい。


「確かにリゼルさんの言う通りだと思います。それでも僕は、魔法使いを目指します!」


 届いた上でソロンは、ソロンなりの答えを出した。


「いいと思うぞ。結局、俺の言葉は正論じゃなくて意見に過ぎないからな。お前のやることにとやかく言う筋はない。それに、何かに対して努力しようとする奴を馬鹿には出来ないからな」


 そう言うリゼルの表情が少し羨ましそうにしてるように見えたのは気のせいだろうか。


--------------------


 食事を終えたリゼル達は公園を離れ、ソロンの家へとやってきていた。街での扱いから家の方も嫌がらせか何か受けているかと思っていたがそんなことはなく、むしろ裕福そうな家にリゼルは首を傾げた。


「ソロン、ここがお前の家か?」

「そうですけど?」

「生意気だな」

「なんでですか?!」


 中は思ったより整理されており、とても食事が取れず、道端で倒れてる少年が一人で暮らしているとは思える家ではなかった。がその謎を裏付けるかのように理由になるものがポストの中に入っていた。


「あ、また届いてる......」


 いつの間にか隣でポストの中を覗いていたソロンがそんなことを呟く。


「これは?」

「たまに、というかほぼ毎日届いてるんです。誰がなんのために届けてるかわからないですけど」


 手提げサイズの紙袋。中にはパンなどの食材ばかりが入っていた。


「貯金が尽きた後ぐらいからですかね、毎日三回、僕が知らないうちに届いているんです」

「これで飢えを凌いでいたと」

「はい。でもここ十日間くらいそれがぷっつりとなくなって......」

「これ頼りだったお前は、これが来なくなったことで空腹に耐えきれずぶっ倒れたと」

「......はい」


 恥ずかしそうに、申し訳なさそうソロンは頭を下げる。ソロンを責めてるわけではないリゼルは別のことに疑問を抱いていた。


「ソロンは今でも学校通ってるの?」

「え? あ、はい。一応、授業費とかは振り込まれているので学校には通ってます」

「そう......」


 聞いた割にはあまり興味の無さそうなレシア。彼女の興味は机の上に置かれた本にあった。


「教科書......魔法学のやつか、表紙とかちょくちょく違うことはあるけど書いてあることはだいたい俺の通ってた学校と同じだな。それがどうかしたのか?」

「付箋が、いっぱい」


 レシアと同じようにリゼルは教科書を覗き込み、彼女が指す付箋へと目を向けると、確かに何十枚以上もの付箋が貼ってある。中には一ページに何枚も付箋が貼ってあるページもある。


「先日テストがあったんですよ。魔法が使えないとはいえ、通ってる限り学生なのは変わりませんから」


 首を傾げるリゼル達にソロンが答える。「そうなんだ」と言いながら面白そうにページをめくるレシアと難しそうに考えるリゼル。二人の光景にソロンは思わず苦笑する。


「ソロン、テストがあったということはその一週間くらい前からテスト期間とかいうのあったか?」

「え、はい、ありました。ありましたけど......それが何か?」

「いや......なんとなく、聞いたけだ。それよりも今後の話をするか」


 微妙に歯切れの悪いリゼルが誤魔化すように話題を変える。教科書に興味津々なレシアを余所にリゼルとソロンはテーブルを挟んで向かい合う。


「とりあえず、ソロンは魔法が使えるようになるまで反復だな。魔力自体は循環してるからふとした瞬間に使えるようになるかもしれない」

「魔力が循環してるって魔力の流れ読めるんですか?」

「あ? そうだけど、今はどうでもいいだろ」

「魔法使い目指してる身としてはどうでもよくないんですが......そうですね、今は今後の話ですね」


 リゼルのさり気ない発言に驚きつつも、ソロンは冷静に話を進めるよう促す。


「レシアも魔法を覚えたいって言ってるし、俺が手本見せて、それを目標にソロンがやり方を教える。さっき言った反復も同時にできるから効率がいい」

「わかりました。えっと、リゼルさんはその間どうするんですか?」

「ちょっと調べものしてくる」

「調べもの、何を調べるんですか?」

「個人的に気になったこと」


 曖昧に答えるリゼルにソロンは首を傾げる。しかしリゼルはそれ以上は語らず、いい時間だからとレシアを連れて宿へと帰って行った。

 去り際に意味深な言葉を残して。


「なに、時間はかけないよ」

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