秋葉原ヲタク白書58 らいちゅカレーの罠
主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。
相棒はメイドカフェの美しきメイド長。
この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナの為のラノベ第58話です。
今回は、スマホ放送局のカレー対決番組に出演中のメイドがカレーに激辛香辛料を入れられ救急搬送されます。
犯人を対戦相手の美貌のカレー研究家、百合だった元カノ、老舗を継ぐ実の姉に絞り込んだコンビでしたが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 委員長のカレー
"ヲタクファイアー"を知ってるか?
ソイツはトンでもない辛口で、近くで息をするだけで鼻の粘膜がヒリヒリし唾液が湧く。
余りの辛さに恍惚となり、もしや、麻の実には大麻が混じっているのでは?と恐怖する。
正しく、最凶の"七味唐辛子"だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「みなさん、こんにちは!アキバのスマホ放送局"ワラッタ"がお送りする、史上最強のリアリティ料理ショー"カレーの鉄人28号"のお時間です!」
「ミユリ姉様!始まりましたよっ!早く早くっ!」
「あ、テリィ様。何でこんな時に御帰宅なさるの?さ!鉄人、一緒に見ましょ?」
ココは、僕の推し(てるメイド)ミユリさんがメイド長を務めるアキバの御屋敷。
20億年前に起きた地球環境の大転換点に準え"大酸化事変バー"とも呼ばれる。
今宵は御屋敷のメイド&御主人様は全員、画面の前に集合してスポーツバーみたいだw
セレブなカレー研究家のオバサンと御屋敷のシェフメイドがカレーの味で対決する"カレーの鉄人28号"は、アキバの超人気番組だ。
毎回"28号"にズタボロにされ大泣きして敗退するシェフメイドの"リアル"が大ウケ。
さて、今宵の生贄は…
「本日"28号"に挑戦するのは老舗の御屋敷"蒸気娘"のシェフメイド、カレンちゃん!さぁカレンちゃん。"28号"に何か逝っておくコトは?」
「"28号"のオバサン!今まで、よくも私の先輩メイド達を泣かしてくれたわね!今宵は私が相手よっ!」
「オホホ。今週も生意気なコスプレ小娘が現れたね!アンタも先輩同様、返り討ちにしてあげるわっ!永遠の"37才"の私がねっ!」
罵り合う女子2名の背後に"3分クッキング"的なオママゴトみたいな調理セットが並ぶ。
何しろ"ワラッタ"自身は弱小放送局なので予算もなく当然MCも外注で誰かと思えば…
「今宵も最初から火花バチバチの展開だっ!挑戦者のカレンは最年少で優秀シェフに選出された若き才能!対するアンチヲタク、アンチ秋葉原代表の"28号"は…」
おおっ!フリーのプロデューサーのスズキくんではナイかw
この前は、確かコスプレプロレスの司会とかやってたょね?
大方、番組制作を請け負ってから経費を浮かすために自らMCをやってるに違いない。
量販店のコスプレコーナーで売ってそうなペラペラのタキシードに蝶タイをキメてる。
似合ってる!プロデューサーなんか辞めて、芸能人に鞍替えしたら?まだ間に合うょw
「今宵最初にカレーを出品するのは…カレンちゃん!準備はOK?」
「もちろん!今宵、私の…私が…がお出しする"らいちゅカレー"は…あ、あれ?…」
「カレンちゃん!どぉしたの?大丈夫?」
突如、画面の中のカレンがメイド姿のまま崩れるように床に倒れる。
ウソかホントか迷うスズキくんのリアクションが混乱に輪をかける。
「医者を!ココにお医者様は?救急車を呼んで!カレンちゃん、しっかり!僕の指、見える?何本?」
「放送中止!出演者の救命を優先する!」
「ダメだ、カメラを止めるな!アクション!」
撮影現場は混乱しているようだ。
画面から怒号と悲鳴が聞こえる。
「いいか?このカメラか?じゃ逝くぞ…テリィたん!テリィたん!見てますか?」
ぎゃ!画面一杯にスズキくんがUPになり、あろうコトか僕を名指しで呼んでるw
一緒に番組を見ていた御屋敷の常連が、瞬時に距離を取り僕を半円状に取り巻く←
スズキくんが絶叫する。
「テリィたん!アキバが緊急事態だ!直ちに出動してくれ!」
コレって、バットシグナルかょ?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ワラッタ"はアイドル通りの雑居ビルにあり、スズキくんに続き狭い階段を駆け登る。
1段上がる度に、スズキくんのお尻が左右に揺れて、恐ろしくモチベーションが下がる。
「スズキくん!カレンちゃんが自然死だったら帰るょ?」
「死んでませんから!激しく痙攣してたけど、さっき神田ファイアが搬送しました。一命は取り留めてます!」
「じゃ何で僕を呼んだンだょ?」
「現時点で万世橋は犯罪性を認めズ、事故扱いです。でも、時間が経てば証拠も証人も消えてしまう。とりあえず、テリィたんに現場を見ておいて欲しいと思って」
「あのさー。ソレは犯罪性がなく、事故だからソーなるワケだょね?僕は探偵でも鑑識でもないンだけどな」
「カレンは、実は神田の老舗漬物屋の娘で、父親は宮内庁にも顔が効く大物です。いずれ、巻き返しがあって再捜査がかかるのは火を見るよりも明らかですが、ソレからでは既に遅い」
「あんまり政治的な圧力をアキバに持ち込むなょ」
「あ!それから、カレンは"28号"とリアルで喧嘩してました」
「やれやれ。楽しそうだな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
現場は、救急車を送り出した直後で片付けに番組スタッフが右往左往してる。
恐らく、そーした彼等に聞かせる意味もあるのか、スズキくんは大声になる。
「断言します!コレは事故です。特に、私には責任は絶対ナイ。番組を盛り上げるために仕組んだとか、とんでもない話だ!」
「そーかスズキくんの自作自演説かっ!その線で決まりだなっ!ますますヲレを呼ぶなょ」
「オレオはクリームサンドクッキーですっ!」
「紛らわしいなー。要点だけ話せょ。ソレから、お互い大声で話すのはヤメよう。無意味だwで、カレンちゃんは"28号"と喧嘩してたんだって?原因は?」
「福神漬です」
「福神漬?」
「カレンちゃんが実家で仕入れた、宮内庁御用達の福神漬が本番の数時間前に消えた。彼女は、代わりを求めたが高額なので100均の福神漬で間に合わせたら、彼女は激怒し、楽屋で私を突き飛ばし…私も身を守るため止むを得ず…」
「ソッとブン殴ったとか?」
「そして、彼女は頭を打った。事故ですよ」
「あのなぁ、ソレじゃカレンちゃんとリアルに喧嘩してたのは"28号"じゃなくて、スズキくんじゃナイか!ソレにしても、殴られたり卒倒したり、今日は彼女の厄日か?もしかして、彼女って喧嘩っ早い?江戸っ子?神田の生まれ?」
「ええ。(神田の)美土代町です。でも、彼女は委員長タイプ。どこでも委員長タイプって、ヤタラと口数多いけど、暴力は絶対に振るわない」
「えっ!委員長タイプなのっ?ホントに?は、鼻血が…好物だからっ!ところで、彼女の"らいちゅカレー"ってコレ?」
「召し上がります?温めましょうか?」
「ぎやっ!辛い!辛すぐる!しかし、この辛さには覚えがあるぞ?確か…カゲキーニョ?」
「何スか?ソレ?」
「中南米産の青唐辛子で、ハラペーニョの親戚だ。去年、極秘の宗教ルートでアキバに入り一部で流通してる。殺人的な辛さで、アレルギー体質の人が摂取すれば死に至るコトもある」
「極秘の宗教ルートって何スか?仏教伝来のルートみたいな?あ、"28号"が来ました。遭われます?テリィたん」
第2章 ツンデレ食いの女達
"カレー・ポルノの女王"の降臨だw
フンワリ下ろした茶髪にアラビアンな顔立ちと、容赦なく見せつけるグラマラスな谷間。
番組では、毎回この谷間を寄せ上げてはカレースプーンを舐めて恍惚の表情を浮かべる。
コレで、男性遍歴を交えつつカレーを語れば御屋敷のメイド連中などかなうハズがナイ。
今宵もコスプレ娘を文字通り"痙攣殺"した直後なのにイキナリ"28ショー"の開幕だ。
「カロリーの呪縛からカレーを解き放ちましょう。カレーの快楽を受け入れるのよ。"カレーの快楽"と"性の快楽"は人生の両輪だって思わない?」
「お、思いますっ!で、でも、カレーって結構カロリーが高いンdeathょね」
「恋人と、家族と、不倫相手と、大いに楽しんで食べればソレで良いと思うの。だって、美味しいンだモノ。良い気分になるモノを食べる時間こそ、人生で最高の時間だと早く気づいて!」
ややっ?"28号"ってヤタラと手強いょ?
そこいらの出戻り小姑系と油断してたがw
「クリーム、バター、砂糖、タマゴ!今まで、必死になって遠ざけて来た食材を、今こそ呼び戻すのよ。その時、食べるコトは、貴方の中でセクシーな快楽へと変わる。モチロン、ソコには空虚な冷凍食品の入り込む余地などないわ」
「あ、冷凍食品の悪口を仰いましたね?最近は、美味しいンdeathぞ。オフィスの"団欒"には欠かせません!」
「そして、気がついて欲しいの。食べるというコトは、愛の誘惑の1つである、ってコトを。ソレこそが、女性に本来備わった大事なセクシーではないかしら」
「しかし、貴女の逝う通りにして"幸せなデブ"にはなれても"スタイリッシュな美人"にはなれませんょね?」
「カロリー恐怖症のど真ん中で喘ぐ、無駄なダイエットやってる地方のコスプレイヤーや、メイドごっこにウツツを抜かすヲタク女子を救いたい。その一心よ」
「つまり、美人は無理だから、気分だけでも味わえってコト?」
「みんなをセレブにしてあげたいの」
話が混戦模様になって来たので、とりあえずココは、一時的に白旗を掲げて先を急ごう。
「もしも、カレーが愛の音楽だと逝うのなら、"28号"よ、どうぞ、お続けください」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ゴージャスな谷間だっ!さすがは"カレー・ポルノの女王"だね。スズキくん、あんな人と毎週オンエア出来るとは羨ましいなぁ」
「ノンキなコトを逝ってないで、早くカゲキーニョですか?カレンちゃんに一服盛った犯人を捕まえてくださいょ。"ワラッタ"じゃ私が犯人では?と疑われてルンですけどっ!」
「スズキくんが疑われても痛くも痒くも無いンだけど、そんなに急ぐんなら、何か思いつく"容疑者"みたいなのを教えてょ。カレンちゃんに恨みを持つ奴、例えば元カレとかさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今度は"巨石記念物SE"の登場だw
「こんにちは。技術開発会社"エッヂ"の主任SEのミズサと申します。カレンの元"カノ"です」
「えっ?元カノ?カレンちゃんって…百合だったの?ソレに"エッヂ"って…あれ?どっかで聞いた名だ」
「ハイ。その節は弊社主任プログラマーのアウルがお世話になりました。実は今回、TV局からは突然の取材依頼で、社内では、お断りする方針でしたが、アウルから是非テリィたんの力になってあげて、と頼まれたとかで」
うーん。プログラマーのアウルもかなりおかしかったけどSEのミズサも百倍怪しい。
177cmの僕より頭1つ高く腰までストレートの黒髪、濃厚メイクに生足の巨石系だw
アキバの人間交差点"マチガイダ・サンドウィッチズ"でスズキくんと接見なう。
しかし、百合だと、こーゆーのがモテるのかな?やっぱり百合ってよくワカランw
「アウルは確か…月世界移民船団の航宙プログラムを描いてたょね?君のプロジェクトは?」
「私は、新型SSTを計画するスタートアップにシステムを入れています」
「SSTって超音速旅客機?コンコルドなら、もう退役しちゃったょね?月世界移民に負けじとレトロフューチャーなンですけど」
顔色1つ変えず、説明するミズサ。
「超音速大競争時代がやって来ました!最新技術を盛り込んだ機体を計画するスタートアップが続々立ち上がっており、試作機が洋上を飛び交う未来は、もう間近です」
「ホ、ホントかょ?!」
「東京〜サンフランシスコ11時間を5時間半で結びます。経済学の"重力モデル"によれば、超音速旅客機の実現に伴って新たに生成される世界の貿易量は、GDPと併せれば数兆ドルに上るとされています」
小鼻を膨らませ力説するミズサを見てフト、カレンとミズサはドッチがドッチなんだろうと…あれ?スズキくんも同じコトを思案中?
いかんいかん!スズキくんと同レベルだw
「で、カレンちゃんとは…何で別れたの?」
「えっ?御存知じゃないのですか?私の新しい恋人のコトを?」
「えっ?恋人を乗り換えて捨てたの?ヒドいなー。で、新しい御相手は?」
顔色1つ変えず、ミズサは逝い放つw
「マノンちゃん。カレンちゃんのお姉さん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ダメじゃん!スズキくん、元カレじゃなくて元カノじゃんか!しかし、結局ミズサってドッチなんだろ?」
「今回は、元カレとか元カレーとか、ホント紛らわしいですょね。しっかし、お姉さんにボーイフレンドを寝取られるとは…」
「非情な姉妹関係だな。じゃスズキくん、取材とかインタビューとか、お得意のウソをかまして、とりあえず、そのお姉さんを呼び出してょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
最後は"神田のマノン・レスコー"のお出ましだw
「問題は、私達姉妹にあります。実は、妹とは別居中で、もう何ヶ月も話してないのです」
「別居の原因は?」
「何もかもですが…お酒の問題が大きいかもしれません」
「"カレーの鉄人28号"出演の重圧でお酒を飲んだとか?飲酒はシェフの職業病だ」
「ソレと…そもそも、姉と言うモノは、生まれついての後継ぎなのです。みんなの期待を背負い、当然のように、後継ぎとして育てられて行く」
マノンとカレンは、頬骨がそっくりだw
「でも、妹は違った、と逝うワケか。姉妹の間で軋轢があったのですね?貴女は、カレンちゃんに何を与えたのですか?全てを独り占めにしたの?金も財産も老舗の暖簾も?」
「お願い、黙って。やめて」
「ソレに加えて、酒飲みの家系だ」
「違うの。妹は、断酒の治療を受けてた。2週間も。でも、お部屋の鏡を割ったり大変だったみたい」
「鏡を割るのは自己嫌悪の証だ。でも、2週間とはがんばったな。で、他にも何か隠してるコトがアルでしょ?」
「実は、昨夜12時半に妹から電話が。すぐ切れましたが」
「カレンちゃんは何て?」
「妹は…ごめんなさい、と」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「この姉妹は…最後は何とかなりそうな気がするね。ところで、スズキくんさ。知合いが見たって逝うんだけど、2ヶ月で12回もホテル"24"に通ってルンだって?支払いも毎回現金とはリッチだねぇ。カード記録を残さないのは何か理由でもアルのかな?そんな女、面倒臭いっしょ?」
「私じゃなくて…相手が気にしてルンです。ソレに12回って、見かける範疇超えてますょね?どーせ、またアソコの支配人がタレ込んだンでしょ?面倒臭いって…うーん、その度にトロけさせりゃ良いのは?で、そんなコトより、この後どーします?」
「まぁ、とりあえず役者が揃ったからショータイムだね。みんな手練ればかりだから、アドリブでも良い芝居にナルと思うょ。で、相手は人妻?金持ち女が夫にバレないように部屋代は現金払いって奴だろ?」
第3章 悪女と毒婦の"番外編"
翌日の夜の御屋敷。
スズキくんとカメラクルーが入って"カレーの鉄人28号"の"番外編"を撮るコトに。
キャストは"カレー・ポルノの女王"の"28号"、"メンヒルSE"のミズサ、そして…
"神田のマノン・レスコー"ことマノンだ。
悪女・毒婦のスケジュール調整をしたのは…
「みなさん!プロデューサーのスズキです。今宵は、よろしくお願いします。アキバのセレブがたまたまバーで出会った、と逝う設定です。万事ナチュラルに願います(そりゃムリだw)」
「では、本番前のロケ飯がわりにどーぞ!」
「うわぁ!カレーね?頂くわー」
解説しよう。
スズキくんの前説?に続いてミユリさんがカウンター越しにカレーを振る舞う。
悪女毒婦が歓声をあげがっつく…や?お騒がせメイドのリンカが手伝ってるょ。
唐辛子?にクシャミ連発の僕も参戦だ。
「あ、このカレーは無理に食べなくても…」
「テリィ様は甘党なの。クスクス」
「え?このカレー、辛いの?」
「今、聖地アキバで大流行中のカゲキーニョ入り七味唐辛子"ヲタクファイアー"をふりかけて召し上がれ。ホンのちょっち辛くなるカモ」
「ちょっち?もう最高に辛いでしょ。やめとけば」
「肉にも果物にも合うのょ"ヲタクファイアー"は。お求めは"洪水の化学"の教団直営ショップにて。お子様にはオススメしません!トラウマになるから」←
「リンカ、御老人にもオススメするな!死んじゃうょ」
「ソレにしても"鉄人"の賞金は10万円でしょ?今回もギャラが出るの?」
「助かる!即入金すれば不渡りが防げるわ」
「しかし、美味しい臨時収入だな。ライバルの脱落を願う者も多いだろうね」
「ひどい。共にキッチンメイド同士ナンでしょ?」
「所詮、アキバじゃメイドもシェフも潰し合いなのょ。貴女、カレンちゃんのコトは?」
「嫌いだった。自己中心的で支配的。腕も大したことない」
「カレー研究家のクセして、脱ぐとタトゥーだらけの貴女よりも上よ」
「うるさいわね」
「ところで、福神漬を盗むとしたらこの人。カレンとは仲が悪かった」
「ふざけないで!私達、百合だったのょ!」
「お姉ちゃんも妹がコケて良かったわね?もし"鉄人"で"28号"を負かしたら、カレンは本が出版出来たンでしょ?」
「とにかく!盗んだんじゃないの。無駄になるのを防いだだけょ」
「なるほど」
「しかし、冷酷な企画ですね。カレンちゃんが死にかけたのに"番外編"だなんて」
「メインテーマは"生の確認"です。人は死に直面しても食欲を失わない」
「お金も必要だし」
さて、悪女毒婦の潰し合いが一巡したトコロで、いよいよ僕の名推理を披露する番だ!
「さて、悪女毒婦のみなさん。見事にひっかかったな。カレーを食べれば、人となりもわかるのさ。例えば"神田のマノン・レスコー"。君は大量のレモンをカレーに絞ってる。攻撃的な味がお好みだ。つまり、君の攻撃対象は、君の人生で重要な人物。君は、パパから老舗を継ぐアレやコレやを叩き込まれたパパっ子だから、攻撃対象はママだ。きっと継母に違いない。マノンさん、貴女は養子だね?」
「いいえ。実子です」
「そうか。では次。"メンヒルSE"のミズサさん。君がカレンちゃんと破局したのは、君の浮気が原因だ!どーだ?図星だろ」
「だから、最初からそーだと逝ってるじゃないですか。関係は5ヶ月前。カレンちゃんが姉であるマノンさんと別居してから。で、別れた。彼女の方からね」
「…いつ別れたの?」
「実は"カレーの鉄人28号"収録の前夜。彼女のアパートメントに逝ったら、カレンは酔ってた。断酒を破ったのね。もともと、ストレスに弱い子だった」
「貴女は怒った?」
「いいえ。受け入れた。未だ、愛してたの。酔ってたから、そっとしておいた」
「う、何て聡明な女性なんだ…と、とにかく!最後に残ったのは"カレー・ポルノの女王"の"28号"!お前だっ!」
「何処からでもいらっしゃい、テリィたん。うふふっ」
「君は、幼少期に受けた、恐らく母親からの"虐待"のせいで、異常なまでに人の歓心を買うコトに過度に依存するようになった。今は、視聴者の歓心を買うコトに依存し、自分を取り繕い、快楽主義者を演じようと躍起になっている!しかし、創られた自分を演じ続けるストレスが、貴女を大麻常用に走らせた」
ココで、お騒がせメイドのリンカが、カウンターの中から余計な指差しをする。
「あら。テリィたん、大麻の常用はコチラではなくてミズサさんょ。ウチの教団の中南米ルートからカゲキーニョと一緒に仕入れてるの。あ、ココからカメラは止めて!オフレコでお願いね」
「最先端システムの設計って、スンゴいストレスなの。ソレに合法化麻薬は、国際的潮流ょ。太平洋の向こう岸では、医療用マリファナの店で"今日のスペシャル"として売ってるわ。商品名は…確か"マジックブラウニー"」
「ええっ?海外ってホントにユルユルなんだな」
「麻の実が入った七味唐辛子を街のコンビニで堂々と買える日本の方がユルユルだと思うわ」
「…では、オフレコになったトコロで、ねぇねぇ。素敵な谷間の"28号"さん」
穏やかな口調で割って入るのはミユリさん。
あ。ミユリさんがこの口調の時は要注意だw
「"28号"さん。いつも"カレーの鉄人28号"を楽しみに拝見しています。しかし、貴女は変わられましたね?今も悪くはないけど、昔の方が素敵なスタイルが引き立っていた。今の貴女は…巨乳だけがウリの、ふくよかな御婦人になってしまわれたわ」
「コレ、巨乳バッシング?何が逝いたいの?単なるツルペタのやっかみ?」
「うっ!ソ、ソレも否定出来ないけど…今の貴女は、細身の服は着られない。妊娠でしょ?おめでとう。まだ初期?」
「ええっ?!だ、誰の子?」
その瞬間"28号"は、素早く損得を脳内演算し、結論を得るや躊躇いなくスッと指差す。
「ええっ?!スズキくん?!」←
「数ヶ月前の昼下がり、彼が私のオフィスに打ち合わせに来て…その時に、まぁ、そうなって…その時の子よ」
ええっ?!昼下がりの情事ってコト?
実物見るの初めて!スズキくんスゴw
今日からスズキサマとお呼びします←
「で、彼の反応は?そうか…」
「テリィたん、お察しください。男なら」
「隠してごめんなさい!でも、私も混乱してて!未だ親にも話してないのっ!」
「だから、謝ったじゃナイか。愛してる」
「馬鹿な男。私が許すワケないでしょ?また友人になれるとても?冗談じゃない。責任を取ってょ。謝るって?愛してる?それが何になるの?」
うーん。思わぬ伏兵だらけだけど、ヤッパリこの中に、カレンのカレーに"ヲタクファイアー"を仕込んだ犯人がいそうな気がする。
「"ヲタクファイアー"は、ライバルでありアレルギー体質でもあるカレンちゃんを消すには名案だ。でも紳士的、ではなくって淑女的じゃナイょね?でしょ?"メンヒルSE"さん?」
「え?私?馬鹿はヤメテ。私は何もしてないわ」
「待て…じゃ、彼女だ!」
「わ、私?妊娠してるのょ?」
「だって、メンヒルが疑われて、泣きながらもホッとしてたょね?どうだ?少しぐらいは否定したら?」
「私じゃない。何とかして。スズキくん!」
「大丈夫。テリィたんは全部わかって仰ってルンだ。ね?テリィたん?」
いや。全然わかってない。頭は真っ白だ。
ところが思いがけズ騎兵隊が駆けつける。
「ええっ?テリィたんには全てお見通しなの?私が犯人だって?」
「ええっ?君が犯人だったの…じゃなかった、犯人はお前だ!僕達は、君を万世橋に突き出すコトも出来るが。先ずは言い分を聞こう。"神田のマノン・レスコー"」
「私は、江戸時代から続く老舗を継ぐために生まれて来た。でも、料理番組に出たコトもナイし、料理本に載るようなコトもない。後継ぎとして順風満帆な日々を送ってるように見えても、実は、いつだって妹のカレンが強敵だった。だから、大事な"鉄人"前夜に妹にお酒をあげたの。そして、現場に変装して潜入し、カレンの鍋に流行りの"ヲタクファイアー"を仕込んだ。こんなヒドい姉なのに、カレンは、飲酒した自責の念にかられ真夜中に電話してきた。その時、私は翌日、現場に潜入するための変装の準備をしていたと逝うのに」
ソコまで一気に話し、マノンさんは、ワッと泣き崩れる。
「ごめんなさい」
第4章 "サイコ女"の登場と退場
さて、今回も役者とセリフもほぼ出揃って、ジグソーパズルの全体像が見えてくる。
最後のピースのいくつかが"番外編"の後で出て来て仕上がりの絵はこんな感じだ。
先ず、カレンちゃんの"らいちゅカレー"に流行りの七味唐辛子"ヲタクファイアー"を仕込んだのは、自白の通り、姉のマノンだ。
ところが、彼女には共犯と逝うか、彼女を唆し、操った真の犯人がいた事実が浮上する。
「私が愚かでした。アキバで脚光を浴びる妹を妬む余り、身内に取り返しのつかないコトをしてしまった」
そう"神田のマノン・レスコー"に懺悔させたのは実家の老舗漬物屋の上女中のミハネ。
高校を出て上京、以来住込みで働いて上女中まで登り詰めたが、惜しくもヲタクになる。
同い年のマノンとは、共に多感多情な頃を過ごして、彼女の妹への複雑な思いに気づく。
ちょうどその時、ミハネがハマってた"一刀両男"の限定フィギュアの展示が行われる。
"天叢雲剣"を見事に擬人化した"天叢雲ヲタク"は限定3体、そしてその1体が"ワラッタ"の公開スタジオに展示されてると知り…
「魔が差したのです。マノンお嬢様の妹を嫉妬する気持ちを利用し、私は、マノン様を唆して、カレンお嬢様の"らいちゅカレー"にインチキ教団の七味唐辛子を入れさせるコトに成功した。そして、マノン様と一緒に変装してスタジオ入りした私は、カレン様卒倒の混乱に乗じて、限定フィギュアを盗み出すコトにウマウマと成功したのです」
経口摂取のみでは、胃液で中和され不十分と考えたのか、ミハネは当日使用される食塩に微細なガラス繊維を混ぜている。
コレなら、口の中に出来る擦り傷から"カゲキーニョ"が直接血液の中へ取り込まれる。
念入りに細かく砕いたので多少のファイバーグラスなら食べても粉っぽく感じる程度だ。
しかし、アレルギー体質のカレンには十分で、神経障害、凝固障害、内出血、腎不全など、典型的服毒の全症状オンパレードとなる。
ホントの毒婦はカーテンコールで登場する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
結局、カレンちゃんの痙攣騒ぎは現場を混乱に陥れて限定フィギュアを盗むための芝居。
騒ぎを起こし、注意を逸らしその隙に盗む、窃盗と逝うよりもスリの次元の話のようだ。
一方、限定フィギュアをスられた"ワラッタ"の方も逝われて初めて盗難に気づく始末。
まぁファン以外には、大して値のあるモノではなく、そもそも贋作との噂もあるらしい。
一方、カレンちゃんは姉の涙の謝罪を受け入れ、姉妹の絆はいつに無く堅いモノとなる。
相性抜群"らいちゅカレー"と"宮内庁御用達福神漬"のウィンウィンな関係も後押し。
結局、誰からも被害届は出ズ、モロモロは警察沙汰になるコトもなく幕引きとなる。
まぁ、魔が差したミハネだけは"サイコ女"の汚名と共に暇を取るコトになったが…
で、コチラには後日談がある。
コンピュータ科学のプロ集団"サンクチュアリ"のリーダー達が毒を盛られたのだ。
何かと秘密の多い"サンクチュアリ"だが、要は世界的凄腕を持つハッカー集団だ。
そのリーダー数名が、アキバで市場時代からある大盛り食堂で会食中に毒を盛られる。
空港閉鎖、大停電、金融危機、核戦争も起こし得る彼等が食べたのは"お任せ定食"。
唐揚げ、煮物、玉子焼き、天ぷら、コロッケ、サラダなど13品のどれかに何かが潜む。
気の良い親父さんは、オカズの横に七味の瓶を置くとインスタ映えするとか助言するが…
ってか、そもそもココの名物の若鶏の唐揚げからしてカレー風味なんだょなw
間髪入れずスマホ放送局"ワラッタ"ほかのアキバ系マスコミに犯行声明の動画が届く。
"恥"が万物の物差となるハッカーの世界において"サンクチュアリ"は致命傷を負う。
僕達と"サンクチュアリ"の関係は微妙だがヲタクの血が流れたとなると看過出来ない。
一計を案じた僕達は、万世橋と組んで"天叢雲ヲタク"のモノホン押収の報道を仕込む。
盗品を扱う複数の闇サイトにアカウントを作って待ち受けていると、やがて、その内の1つに怪しい3人組の書き込みが見つかる。
「マッポは嘘をついてる。ニュースに出てたフィギュアは恐らくニセモノだ」
「マジか。本物は何処にある?」
「ツテがあり"天叢雲ヲタク"を入手出来る。連絡をくれ」
「頼む。マッポが押収したフィギュアがモノホンのハズがない」
で、この3人組と逝うか3つのアカウントを操っているのは1人。
で、その1人の語彙パターンがミハネのソレと見事に一致する。
その事実を"サンクチュアリ"に流して、後の始末は彼等の流儀に任せるコトにする。
今では、ミハネはネット履歴から何から個人情報は全て"晒し"になっているそうだ。
事実上、インターネットからの追放だ。
今後の人生を無事に暮らせるだろうか。
でも、コレで初めて、ミハネは心の平穏を得るコトが出来たのかもしれない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
最後は、この件で盛り上がったヲタク達の話で終わりたい。
その筆頭株は"洪水の化学"教団の女幹部であるリンカだ。
カゲキーニョは元はと逝えば彼女の不倫旅行のお土産としてアキバに持ち込まれたモノ。
その後、リンカは"中南米ルート"で貿易を始めて教団の経済的基盤の強化に貢献する。
特にカゲキーニョを"霊的に高次元化"した七味唐辛子"ヲタクファイアー"は、今回の宣伝効果と相まって爆発的売上を記録する。
不倫相手だったレミゼ司祭の失脚後、何とメジア大教祖の"愛人枠"で教団の幹部入りを果たしたリンカから、暫くは目が離せない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あ、結局スズキくんは"カレー・ポルノの女王"と結婚する。
女王に妊娠を告げられ二の足を踏んだスズキくんも納税期。
アキバのホットドッグ屋に沈殿してたヲタクはミニコミ編集者、空間プロデューサーを経て美貌のカレー研究家との結婚に踏み切る。
コレって、ちょっとした"リア充"なサクセス・ストーリーだと思わないか?
まるで令和のわらしべ長者だw"アキバドリーム"とでも呼ぶべきだろうか。
え?僕から彼への餞の言葉?
そんなの、決まってるだろ。
愛してるとは決して逝うな、さw
おしまい
今回は海外ドラマでよくモチーフになる"美食の世界"をネタに、美貌のカレー研究家、研究開発会社の百合SE、老舗の漬物屋を継ぐシスコンの姉などが登場しました。
海外ドラマで見かけるNYの都市風景を秋葉原に当てはめて展開しています。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。