人質。
この女は、僕がシスコンだということを知っているのか。
僕の妹が、人質として拉致された。
携帯の向こうから、妹の泣き声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん!!!たす、けて…」
警察に知らせたら、妹の命はない。
相手は非通知で、女だ。ボイスチェンジャーを使って電話をしてくる。
「お前は…誰だ…!」
この女に問う。
しかし、まともな答えは返ってこないだろう。
相変わらず向こうからは妹のSOSが聞こえてくる。
「イモウトヲカエシテホシクバ アシタノヨルニ シテイサレタバショヘコイ」
「何が…何が目的なんだ!!」
「コナケレバ…ワカッテイルナ」
僕が聞いても、女は答えない。その代わりに、追い討ちをかけてくる。
僕は追い詰められ、ただただ妹の無事を祈るだけだった。
「おい…妹は…妹は、無事なんだろうな!!!」
女はクスクスと笑った。
「オマエニハ…タシカ、オンナガイタナ」
「!?何でしって…」
「サッキカライッテルデショ。ワタシハ、オマエノミヂカナジンブツダト」
「くっ…!誰なんだ…!!!」
僕は苦しむだけだった。妹を助けてやれない。
唯一望みがあるとしたら…
明日の夜、指定された場所に行くことだ。
指定された場所とは、この近くの公園である。
妹と、出会った場所でもあるーーー。
僕と妹は、血が繋がっていない。義理の兄妹なのだ。
初めて会ったのは…僕が小4、妹が小2の頃だ。
愛らしい笑顔が特徴の妹。かわいくて仕方がなかった。
好きとか、そういうんじゃない。第一、僕には彼女がいる。
…さっき、あの女が言った通りだ。
僕は正直、警察につきだしてやろうかと思った。けど…相手は、僕のことをなんでも知っている。…僕の動きはいともかんたんに抑えられるのかもしれない。
そうなったら、妹は…。
想像するだけで、震えた。
認めてしまうが、僕はシスコンなのだ。
…妹をなくしたくない。妹に彼氏が出来たら、とことん絞る。
根性のいい彼氏なら、仲良くなりたい。
…僕の夢だ。
しかし、妹がいなくなっては、そんな夢も元も子もないではないか。
僕は、明日の夜をまった。
「…誰もいない…。」
一日が過ぎるのは早くて、あっという間に約束の日時になった。
「…どこかにいるのか?僕を見て、笑ってるのか?必死になっている、この僕を!!」
すると、携帯が振動しだした。非通知だ。
「…もしもし!!どこなんだ!!」
「…イルワ。ケド、サガサナイデ。」
「…なんだと!?」
「マァイイワ。サッソク、シツモンニコタエテモラウ。」
「し、質問…!」
「ヒトツメ。イマイルオンナヲ アイシテイルカ?」
いきなり、恥ずかしい質問である。
「おま、なめてんのか!」
「コタエナイノ?…ワタシハドチラデモイイノダ。…イモウトノイノチナド」
「分かった!!答える、答えるから!!…あ…あ…、あい…愛してる。」
恥ずかしい。一人夜の公園で、彼女のことが好きだと、誰かも分からない相手に言っている。
「ハズカシガルナ。マァイイ。コタエガキケタカラナ。シカシ、イモウトノコトハドウナンダ?ドウオモッテイル?」
「い、妹は…妹だろ。」
「シスコンノクセニ、ナニガイモウトハイモウトダ。」
「うっ。」
女の言葉が突き刺さる。
「イモウトノコトハ、ドウオモッテイル」
答えづらい質問を再び聞いてくる。
…まてよ?
コイツ、さっきから…なんで、そんなことばっかりきくんだ?
もしかして…コイツの正体は…。
「鈴音…か?」
鈴音とは、僕の彼女の名前だ。さぁ、どうなんだ!…鈴音!!
「…オマエハ、バカカ。」
違ったようだ。かなりカッコ良く決めたのに。
しかし、僕は諦めなかった。
「意地張るなよ!!…僕が浮気してないかどうか、確認したくてこんなことしたんだろ?もう、正直に言えよ。妹解放してやったら許すから、さ。」
「…ナニヲイッテイル。ワタシハスズネデハ…」
「…ほんとか?…僕、鈴音を愛してるって言っただろ。もう、いいだろ。」
僕は、少しいらいらしはじめた。
相手も、むかついたようだ。
キレた。
「…ダカラ、チガウッツッテンデショーガ!!!ナンデワカンナイノ!?オニイチャンナンカ…」
お兄ちゃん…?
今、確かにそう聞こえた。
「…お兄ちゃん、て…お前…まさか…。」
「…何よ。自分でシスコンって言う割には、犯人分からなかったのね。」
電話はいつの間にかきれて、背中にぬくもりを感じる。
声は…妹。
「…な…んで…。」
「お兄ちゃんたら、ホントむかつく。私は、お兄ちゃんが好きなのに。なのに…彼女を、愛してる…だって。ほんと、なんなのよ…」
僕の質問には答えず、妹は静かにそう言った。
「…お兄ちゃんなんか…だいっきらい。」
「え。」
「嫌い。嫌い。…きら、い…」
妹は涙声になっていた。
「結局、私だけ。お兄ちゃんのことを、恋愛対象にしてたのは…。」
「…え?お前…意味わかんない。どゆこと?」
「ばか、鈍感。」
二つもクレームをつけられてしまった。
「お兄ちゃんが…好きだ、って言ってるの!!!」
妹が…僕のことを、好き?…ああ。そういうことか…。
「…なんだ、お前もブラコンなのか…。」
「違う、って言ってンでショっ!?」
妹は、僕の胸ぐらを掴み、僕を引っ張って…
僕のほっぺに、キスをした。
「は、恥ずかしいから…。と、とにかく!!そういうことっ!ほんと鈍感。乙女になにさせてんのよ、ばか兄貴!!」
普通ならぐさってくる言葉だけど、今のこの言葉は、僕にとってはただの妹の照れ隠しに変わりなかった。
妹の自作自演でした。はい。…てゆうか、妹の名前結局出てませんね。まぁ、めんどくさかっただけなんですけど。






