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転生したら女神だった~意味が分からない~

作者: kame

「ん……ここはどこだ……?」


 起き上がると、そこは何もない空間だった。……どういうことだ?

 周りを見渡すと、ちょうど地平線まで地面も含めた空間全部白い。さながら宇宙から白以外の色が消されたようだ。

 何も無い空間に1人、自分だけが浮いているようだった。


 ここはいったいどこなんだろか? ……もしかして死後の世界なのか?そう言えば、朧けながらだが店にトラックが突っ込んできた記憶がある。あれで俺は死んでしまったのだろうか。



「やっほー! やほやほー。起きた? 女神だよー」


 俺が色々と考えていたとき、何も無い地面に穴があき、やけに神々しい女性が飛び出てきた。まるでシルクのようにサラサラとした髪、モデルがブサイクに見えてくるほど整った顔。まるで物語に出てくる本当の女神のようだ。

 女神? ……もしかして、これは俗に言う異世界転生だろうか? そして第一声が「やっほー」のこの女神はどことなく残念な雰囲気が漂っている。よくあるテンプレの駄女神なのだろうか?



「元気にしてるぅー!?」


「……えっ?」


 まだこの状況も理解出来ていないのにさらに理解の出来ないことが重なって頭がフリーズ状態になってしまった。元気にしてる? 俺、こんな女神に会ったことあったっけ? 夢の中とかであったのか?


「ほーら、私だよ私!」


「え……もしかして、ミカねぇ?」


 いや、1人だけ心当たりがあった。生前1人だけ俺に対してこんな口調だった人がいた。それが俺の2つ年上で従兄弟であったミカねぇだ。


「せいかーい! ミカねぇだよ! 久しぶりだね!」


 それもそうだ。ミカねぇは2年前に俺と同じように交通事故で亡くなったんだから。


「えっ? ミカねぇはここで何をしてるの?? てか、ここってなんなの?」


「はいはーい、順番に説明するね! まず、ここは簡単に説明すると神の世界っていうんだ! 私は前世で徳を積んでたから輪廻転生じゃなくて女神になる事が出来たの」


「は、はぁ」


「でね! がっくんがここにいるのは、私と同じ女神になる条件を達成してたからなの!」


 生前、ミカねぇは俺のことをがっくんと呼んでいた。懐かしいな。

 えっと、突っ込みたいことがいっぱいある。徳を積んで女神になれるって話だが、全く俺は徳を積んだ覚えはない。ってかそもそも徳ってなんだよ。それに今の話を聞いていると、どうやら俺も女神になれるのか? 女神って女だから女神なんだよな?俺……男やぞ。


「今ね、女神の数が足りなくて人手不足なのよ! お願い! 女神になってくれない?」


 ???

 頭の中がパニックである。1回会社の宴会で劇をするって決まった時よりパニックである。急に女神になってとか言われてもな。まあ……少し、ほんの少し面白そうではあるけどな。


「面白そう? ならいいよね? ね? よし、決まり!」


 まさか、考えていることも分かるのだろうか?いや、ちょっとまずい。


「え、おい、ちょっとミカねぇ!」


「それじゃー頑張って! バイバーイ! また後でねー!」


 俺の足元にまるでアニメのワンシーンのように煌びやかな魔法陣が展開され、沼にハマるように飲み込まれていく。俺は必死に抜け出そうともがくがビクともしない。


「え、ちょっと、ふんっ! ……はぁはぁ、抜けない。ちょっと……ミカねぇ?」


 顔を上げてミカねぇの姿を探すが、周りはまた一面、白の世界のみである。生前も結構強引なところあったけど、更に増してやがった!


「うわぁぁぁ」


 そのまま俺は魔法陣に飲み込まれてしまった。



 ◆ ◆ ◆ 


 ──ボスッ


「痛ててて……ん? ここは……」


 空間にあいた穴から転げ落ち尻もちをつく。


 ──雑踏の中、美しい、透き通るような声が飛び交う


「急いで! エルラウンドのほうにも2名よ! 」


「分かったわ!」



 目の前には、まるでパルテノン神殿のような建物が見える。その建物の中心には俺が通ってきたような魔法陣があり、その周りにはおそらく女神であろう女性が何やら指示を出している。

 周りを見渡すと右手にはまるでサクラダファミリアのように荘厳で大きい教会のような建物が目に入る。これはどういう施設なんだろうか……?左手を見渡すと果てしなく続く雲海のような景色が広がっている。



「あ、新人が来たわよ!  おーい、教育係は誰かしらー!?」


「私よ! 今行くわ!」


 そう言うと、1人の女性が走って……いや、なんか飛んでるな。飛んでるっていうか地面をスライドしてきているっていう表現が正しいだろうか……? すんげぇ気持ち悪い。


「ようこそ女神の世界へ」


「は、はぁ、えっと……俺男なんですけど……」


 まず、これは言わないといけないと思う。我男なり。


「まあまあ、細かいことは気にしない! 人手不足で困ってるから猫の手でも借りたいのよ」


 どうやらこの人も話を聞いてくれなさそうだ。もういっそ開き直って仕事するか……。


「えっと、俺は何をすればいいんですか……?」


「飲み込みが早いのね君!」


 飲み込みが早いんじゃなくて、逆に飲み込めなくて何も考えずに喋ってるんだよ。


「えっとね、まず女神の仕事は3つ! 世界の維持! 死者の輪廻転生! そして1番多いのが異世界転生者と転移者の説明及び、能力譲渡ね」


「はぁ」


「それじゃ頑張ってらっしゃい!」


「え!? それだけですか?」


「ええ、習うより慣れろってね!」


 ちょ、ちょっと女神さん!? 全体的に適当過ぎませんかね? ブラック企業と同じにおいがするんですけど……。


「ああ、これ渡しておくわね!」


 そう言って渡されたのは【女神マニュアル】と書かれた薄い冊子。ページを捲ってみるが見開き3ページほどしかない。


「それじゃ、頑張ってね! あ、最初のお仕事として転生者の説明と能力譲渡宜しくね!」


「え、ちょ!?」


 そう女神の野郎がいうとまた地面が光ってどこかに飛ばされた。



 ✳ ✳ ✳ ✳



 俺は斎藤具久留(ググる)18歳だ。どうやらバイクに乗っていたら交通事故で死んでしまったらしい。そして、俺の目の前には今、女神様がいる。

 これは!? もしや、俗に聞く異世界転生というやつでは?


「えっと……なんて言えばいいんだっけ……えーっと」


 目の前の女神様は何やら紙のようなものを見ながらブツブツ喋っている。


「ごほんっ! 俺……じゃない、私は女神よ。貴方には世界を救って欲しいの!」


 きたきたきたぁぁ! この展開はラノベで予習済みだぜ!


「はい! わかりました!」


「え?……随分の見込みが早いんだ……早いのね」


 若干女神様が驚いてるな。まあこの展開は何度も妄想していたから受け答えはバッチリだ! 就職試験の面接より受け答えを考えたことだしな。


「えっと……異世界に向かうに当たって、特殊能力を授けたいと思います。貴方に授ける能力は……ん? なんだこれ」


 俺の特殊能力はなんだろうか?


「ぐ……ぐる? ググる……ん? なんだこれ」


「ググる! それが俺の能力ですか!?」


「え、ええそうよ。どうやら、頭の中にデバイスと同じ機能が働いて、インターネットにアクセス出来るようね」


 確かに地味ではあるが、これはなかなかにいい能力だろう。なぜなら何千何億の人が紡いできた、知識の結晶を使うことが出来るんだから! この能力を使えば現代チートも出来るだろう。


「よっしゃぁ! やったるぞ!」


「え、ええそうね……頑張ってね」


「じゃあ、行ってきます!」


 そう言って女神様に別れを告げて、異世界へと俺は転生した。


 ◆ ◆ ◆


「はぁ……疲れた。てかなんだよ特殊能力ググるって。明らかに名前がネタじゃねーか! もっとまともな名前にしろよな」


 俺は慣れない女神様という役をやって疲労困憊だった。

 今更気づいたんだが、どうやら俺の身体は他の女神と同じように神々しい女性の身体になっているらしい。


「にしても、休憩が全然ないじゃないか!」


 そう、俺はあの後4件の転生者や転移者の説明と能力を讓渡するという作業を行った。

 作家さんは真面目そうな人だったが、学生とニートのおじさんは一方的にテンションアゲアゲで喋りかけてきたから鬱陶しいことこの上なかった。

 こっちはもう今日3件目で疲れてんだよ!

 淡々と業務をこなしたいのに、まるで子供のようにはしゃいでるやつばっかで相手をしているだけで疲れる。

 そして、思ったことがもう1つ。特殊能力が色々と酷すぎる。

 まず、1人目が【ググる】。誰もがこれが1番マシだったとは思わないだろう。

 2人目が文章を高速で書くことが出来る能力。転生してきた人はどうやら作家さんだったようで、本人は凄い喜んでいたが、恐らく異世界ではなかなか難しいだろう。

 万が一、本を出版できるようになればいいが、そもそも大抵の異世界には現代の紙のようなものがない。いや、あるにはあるが結構高価で、そもそも本自体が少ない。基本、手紙などは木簡などでおこなわれているので小説を書くのに適しているとは言い難いだろう。よって、異世界にいっても能力を発揮するのが難しいのである。どうやら、特殊能力は自分が望んでいた能力が手に入るようだったので、その作家さんは締切に追われていたのだろう。


 3人目の能力は食肉目イヌ科イヌ属でスピッツが祖先とされているシベリアンハスキーと喋れることができる能力だった。

 確かに凄い、凄いんだが余りにも限定的で残念過ぎる。これが犬全般と喋れたならテイマーとして犬の魔物などをテイム出来たのだが。

 本人はシベリアンハスキーを愛しているようで大喜びしていたが、異世界にシベリアンハスキーがいるとは到底思えないので、なんだか可哀想だったし、罪悪感が凄かった。なんたってその能力授けたの俺だしね。


「ソフィアさん、次の転生者来ましたよ〜」


「くっそぉぉぉ!」


 休憩時間僅か5分。なかなか精神的に疲れる仕事である。ちなみに俺の名前はソフィアに勝手に改名された。


「転生者、転移者ブームおわれよぉぉぉ!」


 そう心から叫んだ。そうすれば、この地獄からも解放されるかもしれない。

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