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ラベンダーの花言葉は

作者: ちば ゆり

リリアは、困惑した。

「あら、ないわ……。」


 お気に入りだったハンカチを落としてしまったらしい。


 普通のハンカチを持って行けばよかった、とリリアは肩を落とした。

オレンジ色の明るい色の花をモチーフに、リリアが刺繍の練習をして上手く出来たハンカチだった。

また、ほんの少しだけラベンダーの香りをハンカチにつけ、人見知りしがちで緊張しやすいリリアが少しでもリラックス出来るようにと習慣にして持ち歩いていた物だった。


 手をすすぎ、少し乾いたところでリリアは化粧室をでた。


 リリアは、今夜の夜会の為のお守りが無くなって急に心細くなったが、エスコートしてくれている兄のもとへ戻る事にした……が、たぶんいないだろう。


 兄のフィヨルドは、美男子と令嬢の間から評判で調子のいい男だ。今夜の夜会でも可愛い女の子を見つけて、声をかけている姿が目に浮かぶ。ただ、跡取りという責任感はあるようで、会話をしてダンスだけ踊ってリリアのもとへ戻ってくる。そんな真面目な一面と女性を誑かして遊ぶようなマネをしない兄は、以外と令嬢からの評価は高い。


 案の定、兄はいなかった。


ーもう。お兄様ったら……手もちぶさだわ。ハンカチでも探しに行こう。


 リリアがバルコニーへ行くと、後ろから歩いてきた男性とすれ違った時、ふとラベンダーの香りがしたように感じて立ち止まった。


「あの、……すみません。ハンカチを見ませんでしたか?花柄の刺繍が入っているハンカチなのですが……。」


 男性が振り向くとリリアは、ギョッとした。

よく、令嬢達の社交界で必ず話題に名前が上がる彼だ。ヴィアイン・ローランド伯爵。

彼女達は、明るくて爽やか、社交的で、優しくて、紳士でイケメンで……と、うっとりと頬を染めてつらつら口から出るわ出るわ、好評価のオンパレード。

人見知りの私には別世界の人だ、とリリアは「そうですわねぇ。ホホホ……」相づちを打ちながら思ったものだ。


ーみんな、よく観察出来るわ。

イケメンオーラで圧倒されて笑顔で対応するので精一杯よ。


「ああ、先ほど拾って届けたよ。使用人が近くにいたので渡しておいた。聞いてみるといい。」


「ありがとうございます。」


 リリアは、踵を返して近くにいたメイドに声をかけた。幸い届いていたハンカチはリリアの物で間違いがなく、ほとんど汚れもなかった。

刺繍は、母から教えてもらったのたが、ラベンダーのアドバイスは亡き祖母から教えてもらった。だから、ラベンダーの香りのハンカチは大切な思い出がある特別なもなのだ。


ー彼に感謝ね。夜会という苦手な場所でも、お祖母ちゃんが一緒にいるようで不思議と気分が軽いわ。


 リリアは、一応お礼を言おうとバルコニーに向かう事にした。イケメンだし、バルコニーにいたのだから、女性と待ち合わせしていても可笑しくない。ましてや、いい雰囲気になっている頃かも……と思ったが彼は一人だった。


 「先程は、ハンカチを届けて下さってありがとうございました。助かりました。」


「やっぱり、君のだったんだね。」


ーえ、嘘!?少しだけしかつけてないけどラベンダーの匂いが臭かった!?


「いや、違う違う。ごめん。そうじゃなくて。」


リリアは、本日2回目にギョッとした。それが顔に出てしまったらしく、彼が笑いながら「違う違う」と訂正した。


「10才の頃に会ったの覚えてない?

君がお祖母ちゃんを亡くした後に、男爵が仕事で僕の家に来た時に君も一緒について来てたんだ。」


「そう言えば、祖母が亡くなって元気が無くなった私を見た家族が元気付けようと色々としたり、連れまわされた記憶が……。その頃は、ぼんやりとしてあまり思い出せなくて。ごめんなさい。」


「いいんだ。僕は、あの時にラベンダーについて君に教えてもらったんだ。君がお祖母ちゃんに教えてもらった、と言ってラベンダーオイルのハンドマッサージを僕にもしてくれたんだ。あの時、僕は跡取りというプレッシャーで潰れかけていたんだ。手が温かくなって心地よかった。久しぶりに息がつけた気分だった。


父が亡くなった後、不眠になりかけたけどラベンダーっていいもんだね。落ち着く。」


「何となく、思い出しましたわ。お役に立てた様で嬉しいです。ただ、私は弱虫でラベンダーに頼って勇気をもらってばかりで……。」


ローランド伯爵の話を聞いているうちに、リリアは小さな白い手を思い出した。


ーまさか、ローランド伯爵の手でしたのね…。


「すごく優しい女の子だな、と思ったんだ。」


「あ、ありがとうございます。」


ーしまった。ボケーっとしてて考え無しにハンドマッサージまでしていたのね。


「君が嫌でなかったら、一緒にラベンダーティーでもどうかな。父の亡き後、父の仕事の引き継ぎで精一杯だったが、今やっと落ち着いたんだ。」


「ラベンダーティーですか!是非。茶会を開かれるのですか?」


ーあ…あれ?ローランドさま……近づいてきてる。


「それもいいんだけどね。君と2人で、て言ったら迷惑かな?」


「え?」


「本当は、もっと早く君に会いに行くつもりだった。

初めて会った日から好きだった。

今度は、僕が君を幸せにしたい。」


「……ローランド様。」


きれいな二重まぶたの奥にローランドのブルーサファイヤのような瞳が、切なそうにリリアを見つめている。


ー彼の横に立つ女性は、美しく聡明で気品ある人が相応しいと思い、そう言う人を彼は選ぶんだろうなぁと疑わなかった。

自分は決して選ばれる事は無いと分かっていたけど、彼がいると目で追っていた。

……あぁ、そうか。本当は、好きだったんだ。


 リリアは、泣きそうになり堪えると喉の奥がきゅっと苦しくなった。

彼に思いを伝えようと震えそうになる唇を開いた。


「私もあなたが好きでした。」と。


ラベンダーの花言葉は「あなたを待っています」「繊細」「清潔」「優美」「許しあう愛」「期待、幸せが来る」「沈黙」だそうです。



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