ブドウの城
おなかが、グーとなった。
旅人は、おなかがへってたおれそうだった。
太陽は旅人の体を照らしてはいるが、汗すらでず、喉はカラカラに乾いていた。
「もう駄目だ」
旅人は砂の上に倒れた。
目を瞑った。
夢なのか現実なのか、たくさんの水を飲んでいる光景と、たくさんの食べ物を食べている光景が旅人の前に現れた。
「幸せだ」
旅人は満足だった。
さらに情景が変わった。旅人の食料や水が入っていたリュックをワルキツネに奪われ、旅人が途方に暮れる光景だった。
旅人は目を開き、手のひらで砂を掴んだ。悔しかったからだ。
旅人は涙を流していた。ポタポタと砂を掴んだ手のひらに涙が落ちていく。
落ちた涙の手のひらに異変が起きた。モゴモゴとなにかが動いているのだ。
旅人はゆっくりと手のひらをひらいた。砂の中に種があった。種から芽がでていたのだ。その光景に旅人は驚いて、種を砂の上に落とした。
それでも種から芽は無数に伸び続け、あっという間に一本の木になった。数時間後には、枝に緑色のブドウの実を宿した。
旅人はブドウの実を食べてみた。
甘くて、おいしかった。渇きは癒え、空腹を満たしていった。
旅人は忙しくなった。
目的ができたからだ。
この土地に憩いの場、を作ろうと意気込んだ。
ブドウの木は、一本から二本、そして三本と増えて行った。
雨が降った。
砂場は濡れ、雨上がりには雑草が生えた。
荒れた砂の光景から一ヶ月が過ぎた頃には、あたり一面が緑に覆われた。
「夢のようだ」
旅人はつぶやき、木の幹に寄りかかり、目を閉じた。
ガサガサ、という音が聞こえた。
旅人は目を開いた。
辺りを見回し、警戒した。
尻尾が見えた。
なんと、木陰に隠れていたのは、旅人のリュックを奪ったキツネだった。
旅人に怒りがわきおこってきた。
旅人は太い枝を手に取り、キツネを叩きのめてやろうと思った。
一歩、一歩、旅人はキツネに近づいていった。
しかし、キツネの様子がおかしい。逃げるでもなく、向かってくるでもない。旅人に何かをお願いするような目つきをしていた。
旅人はキツネを見た。
キツネは妊娠していたのだ。
旅人の食料を奪ったのも、全てはお腹に宿る小さな命のためだったのだ。
旅人はキツネにブドウの実を分け与えた。キツネはお腹が空いていたのか、ブドウの実をいくつもいくつもあっという間に食べた。
それから一年。
旅人の憩いの場にはたくさんの草木が生い茂った。ブドウの木は空に届きそうなぐらい何本も高くそびえた。動物たちも定住するようになり、賑やかな憩いの場ができ上がった。その噂を聞きつけた、となる国の貴族が、旅人の作った憩いの場に名前をつけた。
『ブドウの城』
その後の旅人は、荒れた地を緑にするべく旅を再開した。