第5話 やっと終幕です。
私の備忘録で書き始めましたが、思ったよりも長くなりました。書いている私もビックリです。
三ツ辻を左に曲がり進んでいくと、右手にお店がちらほらある事に気付きます。おぅぅぅ。閉まってるじゃん。2件目、お汁粉と書いてあるのに中の店に入ろうにもバリケードがされており、店の奥から店員さんっぽい人が登山客(ん? 登山で良いのかな? 参拝?)を眺めています。
「なんか入りにくいね」
ですね。これはコミュニケーション能力が若干高い私でも問い掛けるのをためらうレベルです。さらに疲労困憊している状態ではベストパフォーマンスはひねり出せません。その先にまだお店がある事を期待して、寄らずに先に進みます。
そして3件目! 発見です。よく喫茶店の前に置いてあるスタンド看板に「抹茶最中アイス1個300円」と書かれており、物凄く美味しそうです。そして何より冷たい物! これは譲れません。私は奥さんの手を引くと、支払場所に並びます。前の男性はうちわと飲み物を購入しています。
そのチョイスもありだったか? うちわも伏見稲荷大社の文字が書かれており、現地っぽいです。しかし、疲れ果てた私の灰色にくすんでいる脳細胞と、ドライアイになってシバシバしていて目薬をさしたい状態では思考能力では抹茶最中アイスしか眼中にありません。
「抹茶最中アイス2個下さい! それと奥の席で休憩をしても良いですか?」
「いいですよー」
やった! やったね! ついに座る事が出来ますよ! 抹茶最中アイスを受け取って奥さんと席に座ると、一気に疲れが押し寄せてきます。奥さんもホッとした様子でタオルを取り出して拭いています。そして嬉しそうに私から手渡された抹茶最中アイスの封を開けてかじりつきます。
「固い……」
まあ、山の上で保存をしようと思うと固めに冷凍した方がいいもんなー。私はTwitterでツイートするために写真を撮っていた上に、奥さんの感想を聞いたので、すぐに食べずに放置です。
そして、ほどよく身体も回復し抹茶最中アイスの力で気力もチャージされます。15分ほど休憩し、店の人にお礼を伝えて、再び参拝に向かいます。思ったよりも身体が軽いです。やっぱり休憩偉大。たまに眼下に京都市内が広がります。
「わぁぁ。曇っててこれやから、晴れてる時に来たら物凄く綺麗やろなー」
奥さんも回復したのか、足取りも軽そうです。
-----
わぁぁ。景色が綺麗だなー。京都市内が一望できるなんて頑張った甲斐があったよ!
「お主、目的を忘れておらんよな? 妾の住処を案内すると言うたのに、無視してこんな場所まで登ってきおって」
「え? この辺りじゃないの?」
「そんなわけがあるか! 妾は妖狐の中で最年少じゃ! このような高所に住処を授けられる訳がなかろうが!」
-----
こんな感じかな? まあ、良い感じでストーリーも思いつくな。順調順調。奥さんと一緒に来たからデート感が強いかな? と思ったけど取材になっているから大丈夫!
そして四つ辻に到着です。ベンチが置いてあったり、食事処があったりします。ちょっとした広場になっているので渋滞も起りません。そして案内図を確認です。
「なあ? さっき登った分と同じくらいの距離があるんとちゃう?」
あ、やっぱり奥さんもそう思います? ちなみにこの時点で11時半です。「頂上まで30分」と書かれています。じゃあ、頂上まで疲労困憊で登って、また30分掛けて戻ってくる。そして、口から魂が抜けている状態で、今までの道を戻るの?
……。いやいや! 無理むり!
ただでさえ、もう疲労困憊なんだよ? ここで30分くらい休憩してから頂上へのアタックをするなら、まだ話は分かる。でも、ノンストップで1時間も登頂するのは無理だ。
-----
「もう終わりか? あれだけ張り切って登っておったのに、ここで帰ると?」
この妖狐はなにを言っているのかしら! 仕方ないじゃない! 頂上まで行って戻ってきたらお昼ご飯を食べる時間が過ぎてるんだよ! お昼ご飯を食べる時間に食べないなんてありえない! 分かっているのかな? この妖狐ちゃんは! お昼ご飯はお昼の時間帯に食べないとダメなのに!
「……。雨が降りそうだしね」
「どれだけ昼ご飯に執着しておるのじゃ? 分かったから戻ろうではないか。ここでの昼食は中途半端な時間になると言いたいんじゃろ?」
え? なんで心の声が漏れた?
「いや、普通に喋っておったぞ?」
-----
うん。良い感じ。これなら書いている最中に、当時の事を思い出して書ける! 良かった。この作品を書いといて良かった。記憶が薄れる前に情報を残しておけば、後で役立つからね! そして、小説の主人公よりも年寄りな私達は、疲労困憊と雨が降りそうなのを言い訳に四つ辻で撤退する事を決めた。
「今度は天気が良くて、朝一番に来よう? 人が少ない状態で、自分のペースで歩きたいわー」
疲れた表情で告げる奥さんに私も同意しながら、四つ辻を後にする。
「なんか、さっきよりも遠い気がするけど、三ツ辻ってまだやっけ?」
「うん、まだやで。結構登ってたからなー」
奥さんとそんな話しをしながら三ツ辻まで到着した私達は、少し思案に暮れる。この道を左に曲がると、行きしと同じ道になる。直進すると間違いなく人が少ない。
「まっすぐに行こうか」
「そやね。人が少ない方がいいわ」
意見が一致した私達は人の少ない道を歩く。しばらく歩いていると色々な神社が現れだした。どうやら色々な神社が祀られているようで、腰痛や膝痛の神社や、頭痛や芸事の神社。その中に徳丸大明神と書かれ、その前にご神柱が置かれています。
そこには三宝おもかる石と書かれており、説明文もありました。
「わが思う吉凶をこの三宝のお石に真心で三度ご祈念し もち上げて下さい 軽くあがれば吉です。(原文ママ)」
奥さんと二人で顔を見合わせて、私が先にチャレンジする事になります。
「これからも書籍化する事が出来ますように! これからも書籍化する事が出来ますように! これからも書籍化する事が出来ますように!」
三度、祈念して三宝おもかる石を持ち上げます。軽っ! めっちゃ軽い! これは確定ですよ! 完璧ですよ! 後は出版社からの連絡を待つばかりですよ! (全国にある出版社の方向を見ながら)
「じゃあ、私もしようかな。……。ふん! ふっ!」
奥さんがなぜか自信満々で石に向かっていき、祈念すると持ち上げます。おお、持ち上がってる。願い事は叶いそうやね。などと、私が思っていると半笑いの奥さんがフラフラしながら私の元にやって来ました。
「重いやん! 軽そうに持つから、ひょっとしたらいけるかなーと思ったやん! 滅茶苦茶重いし!」
え? 私が悪いの? 首を傾げながらも、ごめんなさいと謝って先に進みます。その後は野良猫がいて、近くの売店には野良猫の写真を1枚100円で売っていたり、竹で作られた鳥居があったり(あれ、何だったんだろう?)、蛙が祀られている場所があったり、境内を塞ぐように大木が生えている場所があったりしました。
他にも中国の神様(~老師みたいな銅像があった)が祀られていたり、カゴにお金を入れて洗うと浄財される場所や、人形が大量に祀られている場所もありました。
かなり混沌としているイメージがありましたが、小説に出てくる最年少の妖狐ちゃんの住処はこっちでいいかもですね。ちょっと不思議な空間を歩いた私達は本殿に戻ってきました。近くにあるお土産屋さんで通行手形を見付けます。
-----
「わあ、通行手形がある。買おうかな?」
「……。最近の修学旅行生でも買わんぞ?」
-----
こんなやり取りも主人公と妖狐ちゃんはしそうですね。時間は12時半です。良い感じでお昼ご飯を食べられそうです。奥さんになにが食べたいか聞きます。ただ、「なに食べたい?」などのダメな聞き方はしません。なんてったて私は出来る男です。
「お昼食べるなら和食か洋食かどっちがいい? それか他のところでもいいよ」
あれ? 「なに食べたい?」と変わらない? 私が出来る男の定義について考え込んでいると、奥さんが笑いながら回答をくれました。
「今日は取材で来たんやろ? 主人公の女の子が寄りそうなとこでいいよ」
男前か! なんなの、うちの奥さん。私をこれ以上惚れさせてどうする気? ニコニコと笑っている奥さんにメロメロになりそうになっていると、目の前でウナギを焼いています。よし、ここにしよう。超高級店でも構わない。え? 主人公の女の子が食べる昼食じゃないのか? いいんだよ! 奥さん可愛いから! (その時はここまでは考えていませんでした)
奥さんとお店に入るとバイトさんが外国の人で、意思疎通が上手くいかない安定のイベントなでもありましたが、無事にウナギ定食を食べられました。実に柔らかくて美味しかったです。
その後、丸もちの場所が台風で半壊して、別店舗を探すのに苦労したり、2店並んでいる喫茶店で、悩んで入った店では、頼もうと思ったスイーツが品切れだったり、トッピングで頼んだアイスが付いてなかったりと、相変わらず食運のなさを発揮しつつ京阪の駅に向かいます。
こうして、私と奥さんの取材を主目的とした伏見稲荷大社散策は終了しました。後は、家に帰るまでが遠足です。帰りの電車代も私が出してこそ綺麗に終幕出来るのです。なんせ出来る男です。
「ここは俺が出すよ――あれ?」
なんてこったい! 財布の中に小銭もお札も入っていない! はっはっは、まさに文無しとはこの事だね! さっきの喫茶店代で使い果たしたようです。orzな感じになりそうな私に奥さんが財布と取り出します。
「ここまで全部出してくれてるんやから、切符代くらいは払うよ?」
出来る男がここに居た! いや、女性で私の奥さんですけどね。相変わらず男前な奥さんに惚れ直しながら、私達は帰路につくのでした。
次の取材は頂上へのアタックだな。寄り道せずにストイックに行かないと。
ここまでお付き合い頂いた皆様。本当に有り難うございます! 軽い気持ちで備忘録を兼ねて書き始めましたが、色々な方が呼んで下さったようです。感謝感謝です。
この取材が作品に活かされて、皆さんに楽しんでもらえるように頑張ります。最後まで有り難うございました。